医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

慢性被ばくでガンの発症が減る(その2)

2011年07月30日 | 
皆さんこんにちは。被ばくにより発ガン率が減少すること「放射線ホルミシス」を耳にした方は多いと思いますが、そのデータがどの医学雑誌の何ページに記載されているか知っている方は多くないと思いますので、お伝えするシリーズです。

Cancer risk and low-level radiation in U.S. shipyard workers.
J Radiat Res 2008;49:83.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

アメリカの原子力潜水艦の造船所では職員が被ばくを受けています。被ばく量はそれぞれの個人が携帯しているフィルムバッジで正確に測定されます。日本の医療従事者も放射線管理区域で仕事をするときは携帯を義務づけられているフィルムバッジです。その携帯を忘れることはあっても携帯しているときの被ばく線量は必ずフィルムに残りますので、その数字が実際よりも少ないことはあっても、多いことはないわけです。

さてこの研究では、アメリカの原子力潜水艦の造船所の職員で被ばくを受ける仕事に就いている者24,130人、被ばくを受けない仕事に就いている者33,353人、造船所の職員ではなく被ばくしていない人125,925人が平均13年間調査されました。

上の図左では、被ばく者は5ミリシーベルト未満の被ばくと5ミリシーベルト以上の被ばくに分けて、造船所の職員でなく被ばくしていない人と比較されました。もちろん年齢などは調整して比較してあります。

その結果、被ばくしている職員はいずれの群でも、造船所の職員でなく被ばくしていない人よりガンの発症率の低下が影響して死亡率は減少しました(0.76倍と0.81倍)。0.76倍って、かなりの減少率です。

上の図右では、5~9.9ミリシーベルトの被ばく者の死亡率を1とした場合、10~49.9ミリシーベルトの群、50ミリシーベルト以上の群でも死亡率は同じでしたが、5ミリシーベルト未満しか被ばくしていない造船所の職員の群では1.13倍、造船所の職員でなく被ばくしていない人では1.39倍、有意に死亡率が上昇していました。

やはり、適度な慢性全身被ばく(台湾の調査からは生涯合計400~500ミリシーベルトまでぐらい)はガンの発症率を減少させます。

一方、白血病の発症率は全ての群で同じでした。甲状腺ガンの発症率は調べられていませんでした。

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慢性被ばくでガンの発症が減る(その1)

2011年07月20日 | 
被ばくにより発ガン率が減少すること(放射線ホルミシス)を耳にした方は多いと思いますが、そのデータがどの医学雑誌の何ページに記載されているか知っている方は多くないと思いますので、今後お伝えしたいと思います。

その前に、誤解のないように被ばくについて簡単に整理してみます。
急性被ばく・・・一回、あるいは数回で被ばくすること
慢性被ばく・・・少量の放射線を少しずつ浴び続けること

局所被ばく・・・CT検査などで頭部だけ被ばくするなど、局所だけ被ばくすること
全身被ばく・・・その名のごとく全身が被ばくすること

Effect of cobalt-60 exposure on health of Taiwan residents suggest new approach needed in radiation protection
Dose Response. 2006;5:63.
(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

↑この論文は台湾人が書いた平易な英語で書かれてありますので、原文が読みやすいです。

1982年から1984年の間、台湾でリサイクルされた鉄鋼にコバルト60(半減期:5.3年)の放射能の汚染があるのを知らずに、その鉄鋼を使い1,700戸あまりの住宅やアパートメントが建設されました。住民は9~22年間それらの住居で生活し、その結果、約10,000人が被ばくしました。

この調査は実際に線量計で住宅やアパートメントの放射能を測定し、住民はリビングルームに8時間、ベッドルームに8時間、屋外に8時間いたと仮定して、合計の被ばく量が計算されました。

実際の被ばく量は、左図にあるように高度被ばくで合計4,000ミリシーベルト、中等度被ばくで420ミリシーベルト、軽等度被ばくで120ミリシーベルトでした。それぞれの人数は左側に記載されています。年間被ばく量は平均で72ミリシーベルトで、調査期間総計では平均600ミリシーベルトでした。

結果は、20年間の追跡調査で右の図にあるように、被ばくしていない一般の国民のガンによる10万人あたりの死亡率は、生活習慣の悪化やその他の因子によって増加したのに対して、被ばくした住民の死亡率は徐々に減少していきました。

日本人の場合、男性の2人に1人、女性の3人に1人はガンに罹患します。それは以前お伝えしたように、喫煙、肉食、運動不足、飲酒、野菜果物低摂取などが原因となっています。

医学研究で、1回のCT検査約10ミリシーベルトの「急性被ばく」かつ「局所被ばく」で被ばくした局所のガンの罹患率が約0.1%上昇すると報告されているので、1回CT検査をした場合、日本人男性の発ガン率は0.1%上昇して50.1%になるという考え方が正当だと思われます。

発ガン率を上昇させている因子の関連は「慢性全身」被ばくよりも、喫煙、肉食、運動不足、飲酒、野菜果物低摂取などの方が百倍以上高いということがわかります。

慢性全身被ばくで騒ぐ前に、生活習慣が乱れている人はまずそれを改善する方が重要とも言えます。

そして、喫煙はガンの非常に大きなリスク因子であり、慢性全身被ばくはむしろガンを抑制するのですから、喫煙している人が慢性全身被ばくにおびえるのは、全くの見当違いと言えます。それならまず禁煙して下さいということです。

福島の原発事故でどれくらい将来の発ガン率や死亡率が高まるのか、もちろんそのようなデータはありませんので、政府や学者が安全だ危険だと言ったところで、結局それを判断するのは過去の情報を集めたそれぞれの個人に委ねられています。

チェルノブイリ原発事故後のガンの発症

この台湾の調査はコバルトの被ばくですので、ヨウ素やセシウムに関しては不明だという限界はありますが、私個人は、今回の福島の原発事故で警戒すべきは小児の甲状腺ガンと白血病で、その他の人々は慢性の全身被ばくにより発ガン率は低下するのではないかと考えています。

ただし、プルトニウムから放出されるα線や核分裂反応で放出される中性子線が放出されているのに、政府がそれを隠しているとすれば話は別です。

誤解を避けるために申し添えますが、原発事故の収束のために作業している人々は別です。彼らは「急性」の全身被ばくをしているので、慢性の全身被ばくとは分けて考えないといけないです。

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相対的貧困率

2011年07月17日 | 雑感
学会で講演するために北海道に来ています。北海道は涼しくていいですね。

先日、以下のような報道がありました。
「全国民の中で、所得の低い人がどのくらいの割合でいるかを示す「相対的貧困率」が2010年調査で16・0%と、前回(07年調査)より0・3ポイント悪化し、過去最高となったことが、厚生労働省が12日公表した「国民生活基礎調査」でわかった。同省は、所得の低い非正規労働者や、高齢者の増加が要因とみている。今回の調査で「貧困」とされたのは、09年の年間所得が112万円未満の人たち。国民の6~7人に1人が貧困状態であることを示している。1986年調査の貧困率は12・0%で、年々悪化傾向にある。経済協力開発機構(OECD)の00年代半ばの調査では、加盟30か国の平均は10・6%だった。」
(読売新聞より引用)

相対的貧困率ってどうやって算出するのだろうと疑問になり調べてみました。ある国の国民の年間所得が全人口の中央値(平均値ではありません)の半分(今年は112万円)に満たない人の割合だそうです。

日頃から論文の執筆や他人の論文の審査をしていると、適切な統計解析が行われているかとか、結論がその研究の結果のみから導き出されているのかとかが気になって仕方がないのですが、貧困率の算出方法がわかると、またもやこういう指数でものを言っている人たちは「アホなのではないのだろうか」と思うのです。

相対的貧困率はその国が貧困かどうか「なんとなくぼんやり」とはわかるけれど、貧困を知るための指標になど全くならないことがわかります。この算出方法だと、日本国民の収入の中央値の人以上の収入が上昇すれば貧困率が上昇するという現象も起こりえます。他人の収入が上昇すればそれ以下のある分布帯の人々の収入が変わらないのに貧困率は上昇することもありえるのです。

例えば、政府が零細企業の従業員を保護するような政策を施行したとか、たまたま中国でネジを作っている会社が粗悪な鉄鉱石でそれを作ってしまって製造中止になり日本への輸入量が減少し、日本はそのネジを零細企業が作って従業員の給料が上がったとか、例はいくらでも考えられます。

本来、科学論文で繰り広げられる論理では、「Xだから、結果A」の場合、「Yの場合も結果A」であると、結果Aは常に原因Xの指標になり得るとはかぎりません。原因Yも影響している可能性を否定出来ないからです。それに、評価するものの指標を、同じ母集団の同じパラメーターを基準にして計算するなんて、アホすぎます。医学論文でいうなら、「Validation set」と「Testing set」は異なる母集団でなければなりません。

例えば、熊谷、京都、多治見などは最高気温の常連ですが、そこで「暑い指数」を算定するのに、暑い都市を上から順に並べて、下から4分の1に入る都市の気温を基準に熊谷、京都、多治見の気温が何倍か、などと算出しているようなものです。その年の夏が暑ければ、日本でそれほど暑くない都市でも例年よりは暑いでしょう。

これはあえていえば、分布の尖度を表しているにすぎません。貧困率というより、格差指数と呼ぶべき指標です。日本は貧困率5.3%のデンマークより貧困ですか?

「相対的」というのは本来、例えば、(米10キロの値段+じゃがいも10kgの値段+小学校の1か月の給食費+ガソリン100Lの値段+・・・・)X12で計算される値段以下の収入の人の割合とか、評価するものの指標の基準とするのは違う母集団のパラメーターでないと意味はありません。

相対的貧困率なんて、「相対的」と名付けるのも恥ずかしいような指標です。そして、もうお気づきかと思いますが、こんな算出方法の指標を使って国同士を比較できるはずもありません。この「相対的貧困率」は理系の者ではなく、やはり文系の者が考え出した指標なのだろうなと、こんな人たちがこんな指標で国を動かしていていいのだろうかと、かなり心配になった次第です。

IPアドレスからみて、このブログは各省庁の方々もご覧になっていると思いますが、もう少し頭の良い指標を考え出して下さい。お願いします。


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