医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

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睡眠薬マイスリーの使用は認知症を誘発するか

2022年12月04日 | 神経
前回、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬はアルツハイマー型認知症を誘発するかということをお伝えしました。今回は、非ベンゾジアゼピン系である「マイスリー」に関してです。

前回お伝えしたように、
睡眠薬の使用と認知症の発症の関連を証明できない理由は以下の2つです。
(1) 不眠症は認知症の前駆症状の1つである。
(2)「不眠症の有無」は「睡眠薬の使用の有無」と強い相関がある。


まず、(1)についてですが、下の論文で証明されています。
Sleep, Cognitive impairment, and Alzheimer's disease: A Systematic Review and Meta-Analysis
Sleep 2017 Jan 1;40 (1).


つまり、認知症になる運命であった人が、その前に不眠症になり、それに対して「睡眠薬」が処方されていたので、あたかも「睡眠薬を飲んでいると認知症になりやすい結果がでてしまう」ということです。

少しわかりやすく例えると、肺癌の患者はそれが判明する前に咳が出たとします。それに対して「咳止め」が処方された場合、「咳止め」を飲んでいると肺癌になりやすいという結果が生まれるということです。

(2)に関しては、皆さん、想像して下さい。よく眠れなくて医療機関を受診し、「睡眠薬」は処方されずに「午前中に明るい光を浴びて下さい。夕方以降カフェインを含んだ飲物を飲まないで下さい。就寝の食前には熱い風呂には入らないで下さい」という助言だけで、「睡眠薬」を処方されない場合はどれくらいあるでしょうか。百歩譲って2割ぐらいはあるとしても、80%のケースは「不眠症の病名」=「睡眠薬の処方」ではないでしょうか。

すなわち「不眠症」の病名と「睡眠薬の内服」には80%以上の相関があるのです。

さて上の図は以下の論文の結論です。
The Association Between the Use of Zolpidem and the Risk of Alzheimer's Disease Among Older People.
J Am Geriatr Soc. 2017;65:2488-2495.


この論文では過去のことを後ろ向きに調査してPropensity Score(プロペンシティースコア・傾向スコア)マッチングという統計手法が使用されています。

傾向スコア・マッチングを、すごく単純化してわかりやすく説明しますと、
例えば、A市とB市の大腸ガンの発症率を比べるとき、A市の市民はB市より1.5倍肉を食べていて、B市はA市より2倍運動をしていると仮定し、肉の食べ過ぎは1.2倍大腸ガンになりやすく、運動は0.8倍なりにくくすると仮定します。

「肉の摂取」や「運動」は大腸ガンの発症に関連があることはすでに明らかになっているので、その他の因子を探したいとします。

それらの影響を除外するために、
肉を食べ過ぎて運動している人は、1.2 x (1) + 0.8 x (1) = 2
肉を食べ過ぎて運動していない人は、1.2 x (1) + 0.8 x (0) = 1.2
のようにスコアを算出します。

すごく単純化してあるのでこの例では一次関数ですが、実際には、自然対数の底eを用いた対数関数で算出します。

自然対数の底eを用いるのは対数関数 y = ax の x = 0 における微分係数が1(すなわちリスクが1倍)になるのは a = eであるからです。次に、多変量解析であるロジスティック回帰分析で求めたβをxのところに使用します。

そして、A市とB市の傾向スコアがの合計が同じになるように解析対象となる市民を抽出するのです。

上の図を見ると、マイスリー10mg x 180回 (5mgなら360回) 以上の使用で4,18倍アルツハイマー型認知症を誘発しています。

しかし前回と同様に、ここには限界と誤解があります。すなわち「不眠症」の病名と「睡眠薬の内服」には80%以上の相関があるので、「睡眠薬の内服の有無」で結論を出そうと2群分けしているのに、それと80%以上相関がある「不眠症の有無」をプロペンシティースコアの「因子」に入れてしまうのは不正解であり、そうすると「マイスリーの内服の有無」まで補正されてしまって、結果が不正確になってしまうのです。

「ニワトリが先か、卵が先か」証明できないのです。

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