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医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

症状のない糖尿病患者に冠動脈CTは有益でない

2014年11月20日 | 循環器
学会で発表するためにシカゴに来ています。昼間でも気温はマイナス5度と非常に寒いです。

今回も興味深い臨床研究が発表されました。

Effect of Screening for Coronary Artery Disease Using CT Angiography on Mortality and Cardiac Events in High-Risk Patients With Diabetes: The FACTOR-64 Randomized Clinical Trial.
JAMA. 2014 Nov 17. doi: 10.1001/jama.2014.15825. [Epub ahead of print]
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★☆)

糖尿病患者は痛みの神経も障害されていることが多く心臓が血液不足になっても胸の痛みが出現することがない場合が多いです。また、糖尿病は心臓の血管の動脈硬化を起こしやすく、症状がないまま血管が細くなっていることも多いです。そのような2つの状態をを想定して、「症状のない」糖尿病患者にあえて血管が細くなっているかを調べる冠動脈CTを行うのが有益であるのかを検討した意義深い臨床研究です。

900人の症状のない、少なくとも3~5年以上糖尿病に罹患している患者が、冠動脈CTを行う群と行わない群に無作為に割り当てられ、その後4~7年間、動脈硬化性の心臓病の発症が比較されました。ただし、両群とも糖尿病の重症度を表すHbA1cは7.0%以下、悪玉コレステロールは100mg/dl以下、血圧は130mmHg以下にするように努力されました。そして冠動脈CTを行った群で、治療が必要なほど動脈が細くなっていた場合には、その状態に応じて適切に治療されました。

結果は、両群で動脈硬化性の心臓病の発症に違いは認められませんでした。

これは非常に興味深い結果だと思います。つまり、症状のない糖尿病患者に対して、糖尿病では動脈硬化が多いからといって、冠動脈の細さの程度を調べるCT検査を行っても、患者の予後は変わらないという事です。

これは何を意味するかというと、糖尿病患者では心臓病で寿命が決まる以外に、例えば腎臓病であったり、脳血管疾患であったり、別の疾患が影響を与えているので、動脈硬化性心臓病だけを症状のない段階で早期に見つけても、患者の寿命を改善することは出来ないということです。

しかし、悪玉コレステロールは100mg/dl以下、血圧は130mmHg以下にはできても、HbA1cを7.0%以下にコントロールするのは容易ではありません。


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エパデールの効果 JELIS study、やはり、「狭心症による入院」というエンドポイントはダメでしょう

2014年06月19日 | 循環器
前回、前々回と「狭心症による入院というエンドポイントはバイアスが入る」ということをお伝えしてきました。

魚の油 EPAの製剤エパデールが、本当に動脈硬化の病気に効果があるかという論文を検証してみましょう。私はこのデータが発表された9年前に感想を書いています。

もう一つのブレイキング・ニュース
現在はこの薬も少し安くなって、心筋梗塞・狭心症で治療した患者では、もう少し安く次の心筋梗塞を予防できるそうです。(ただし、この研究結果が真実である場合です)

Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis.
Lancet. 2007 Mar 31;369(9567):1090-8.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)


この研究では、悪玉コレステロールが高くスタチンという悪玉コレステロール低下薬で治療されている患者18645人が、スタチン単独の内服と、スタチン+エパデール内服群に分けられ、その後約4.6年間の「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」数が比較されました。

結果は、上の図にあるように、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」は、スタチン単独の内服群では3.5%であったのに対して、スタチン+エパデール内服群では2.8%と効果があったと結論づけています。

しかし、論文を詳しく読んでみますと、原文では「The occurrence of coronary death or myocardial infarction was not significantly lower in the EPA group than in controls. The frequency of fetal or non-fatal myocardial infarction was not significantly reduced. In the EPA group, however, that of non-fatal coronary events (including non-fatal myocardial infarction, unstable angina, and events of angioplasty, stenting, or coronary artery bypass grafting) was significantly lower in the EPA group than in controls.」と書かれています。

すなわち、「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」のはスタチン+エパデール内服群で低かったが、「突然死、致死性心筋梗塞」では差がなかったということです。

ところが、「突然死、致死性心筋梗塞、非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」全体で効果があったごとくに宣伝されています。

前回以下のようにお伝えしました。
「今回のディオバン問題に関連して発言したのは、滋賀医科大学公衆衛生学教授の上島弘嗣氏。Kyoto Heart StudyやJikei Heart Study(JHS)などで用いられたProbe法に言及、これらの論文の共著者でもあるスウェーデンの医師、ビヨン・ダーロフ氏が「Probe法について、メリットを強調するなど、誤った見解を広めたのではないか」と問題視。例えば、Probe法では、RCTとは異なり、あらかじめ投与する薬剤が分かるため、医師と患者の協力が得られやすいものの、症例を分析する委員会への報告内容に「情報バイアス」がかかりやすいなどの指摘がある。特に、狭心症や心不全による「入院」というソフトエンドポイントを用いた場合、医師の主観で判定が揺らぎかねないとした。上島氏は、2006年の国際高血圧学会でJHSが発表された時点で、自身が「(ディオバン投与群が)非致死性のイベントのみ有効である点は、二重盲検でないことによる情報のバイアスの可能性がある」と指摘していたことも紹介。」

上島先生が指摘しているように、狭心症や心不全による「入院」というソフトエンドポイントを用いた場合、医師の主観で判定が揺らぎかねないのです。非致死性のイベントのみ有効である点は、二重盲検でないことによる情報のバイアスの可能性があるのです。

この研究では「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」にしか差が認められていません。しかもこの研究はオープンラベル、すなわち研究に携わる医者が、対象となる患者がどちらのグループであるかを知っている研究です。オープンラベル、ここが重要です。スタチン+エパデール内服群の方が効果があると信じている医者が無意識のうちに、スタチン+エパデール内服群で「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」を少なくしてしまった可能性を否定できません。

不安定狭心症の定義は厳密に存在しても、その適応方法は非常にあいまいです。表現方法はいろいろありますが、「6か月以上発作がなかった場合の再発や初めての狭心症発作が3週間以内に始まり,1週以内にも発作があるが、新しい梗塞を示す心電図所見や血中酵素値上昇のないもの」です。Brounwaldの分類では、2ヶ月以内、1ヶ月以内、48時間以内に区切りがあります。

極端な話、前者の定義では、患者に「症状はいつからですか?」と尋ね、「だいたい3週間ぐらい前からです」と言われても、もう少し前から症状はありませんでしたか?」と聞き直して、患者が「はい、そうかもしれません」と言えば、不安定狭心症ではなく安定狭心症にすることができます。

「いつから症状があったのか」という、患者の記憶が頼りの診断定義なのです。

当たり前の事ですが、「突然死、心筋梗塞で死亡してしまった」は人為的に操作できません。それに対して「不安定狭心症、風船治療やステント治療やバイパス術が必要となった」は、ある程度人為的に操作できます。

私は日頃から感じています。オープンラベルの研究では「不安定狭心症、風船治療やステント治療が必要となった」というような人為的に操作できる調査項目を使用するのは、「李下に冠を正さず」エチケットとして避けるべきで、その結果を疑われても仕方がないと。


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奇妙な発症曲線の臨床研究

2014年03月13日 | 循環器
前回、武田薬品のブロプレスの広告が不適切であった論文の原本をお伝えしました。その中で、経過の途中で疾患の発症率が変化してくる「奇妙な」発症曲線のことに言及しました。

私が、もう一つ「奇妙」だと感じている発症曲線が示されている臨床研究がありますので、今回はそれをご紹介したいと思います。

Principal results of the Japanese trial to assess optimal systolic blood pressure in elderly hypertensive patients (JATOS).
Hypertens Res. 2008 Dec;31(12):2115-27.

(インパクトファクター★★☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

これは、製薬会社が関与している研究ではないです。65歳以上の高齢者はどれぐらい血圧を下げるのが必要十分であるかを調べた研究です。

1994年からランデルという商品名でゼリア新薬工業,2005年から塩野義製薬より発売されている薬をベースに内服して、血圧が140~160mmHgを目指す患者と、140mmHg以下を目指すように別の薬を併用する患者、両群で4400人が2年間の予後が調査されました。

結果的に、140~160mmHgを目指した群は平均146nnHg、140mmHg以下を目指した群は平均136mmHgになりました。

調査する疾患(エンドポイントといいます)は、今回の論点には非常に重要ですので、具体的に全て記載いたします。

脳出血
脳梗塞
一過性脳虚血発作
心筋梗塞(以前発症した心筋梗塞を調べても意味はないので、急性心筋梗塞と推測できます)
入院が必要な狭心症
心不全
突然死
解離性大動脈瘤
閉塞性動脈硬化症
腎機能の指標が2倍に悪くなり1.5 mg/dl以上になった

あれ~1つだけ変だなぁ、と思いませんか?それは、「入院が必要な狭心症」って、誰が決めるのだろうということです。狭心症の定義はあいまいで、最近運動や運動しなくても胸が締め付けられると患者が訴えても、それではどれぐらいの運動の強度なのか、入院が必要なのかは医者が決める非常に主観的なものです。

閉塞性動脈硬化症の定義もあいまいです。足の動脈が細くなりある程度の距離を歩くと足が痛くなるのですが、それではどれぐらい歩くと痛くなるのを閉塞性動脈硬化症と診断するのかは医者が決める非常に主観的なものです。

そこで上の図ですが、研究期間の半分たった頃から急に、140mmHg以下をめざしている群の発症率が低下しています。研究期間の半分たった頃というのは研究結果の中間の結果が発表(本当は発表するのは間違いです。本件のような事が起きてしまうからです)されずとも、漏れてしまった可能性が否定できません。そもそもある疾患の発症率は、研究の条件が変わらない限り変わるはずがありません。

65歳以上の高齢者の場合でも、血圧は140~160mmHgより140mmHg以下が予後が良いと先入観を持っている医者が、漏れ聞いた中間結果から、「そんな結果はおかしい」と感じ、140~160mmHg群で「入院が必要な狭心症」や「閉塞性動脈硬化症」の診断数を無意識(私は意図的でないことを祈っています)に減らしてしまったと考えるのが一番説得力があります。ある疾患の発症率は、研究の条件が変わらない限り変わらないのです。

その後、140~160mmHgより140mmHg以下が予後が良いと先入観を持っている医者も我に返ったのか、両群の発症は同等までになっています。

この臨床研究の結果は、この4月から改正される高血圧治療ガイドラインに反映され、「後期高齢者ではまず<150/90mmHgを目指し,忍容性があれば<140/90mmHgを目指す」と変更されます。後期高齢者は140~150mmHgであっても予後が変わることがないと判明したからです。

それでは今後どうしたらよいか?「入院が必要な狭心症」などという医者が決めるのに非常に主観的な項目を臨床研究の調査対象に入れないことではないでしょうか。たとえ、医者が公明正大に研究をしようとしているのであっても、「李下に冠を正さず」、エチケットとしてこういう項目を臨床研究入れてはなりません。私はこういう項目が入った臨床研究の結果を見る度に、いつも懐疑的になっています。

疑われるような方法でデータが出て(真実性)、万が一、国民に不利益になるのであれば(間違った方向に導かれる)(公共性)(公益性)それは改善していただかなくてはいけません。

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『危機に瀕する日本』第1巻: 文化略奪と歴史歪曲に関する一考察
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商業雑誌に記載される情報の信頼性について 

2013年12月22日 | 循環器
         ↑日経メディカル2013年12月特別編集版より引用

ご存じのように、先日以下のような新聞記事がありました。

(以下、日本経済新聞より引用)
がん患者向けの雑誌に掲載された記事が、薬事法で禁じられた抗がん剤の広告にあたる可能性があるとして、厚生労働省が調査を始めたことが、12月11日分かった。特定の商品についてPRする内容の記事が多いうえ、複数の製薬会社が出版社側に金銭を支払っていたという。

厚労省が問題視しているのは、一般書店で販売されているがん患者向けの月刊誌。抗がん剤に関する多くの記事で、医師らが特定の商品名を挙げて効果を説明する内容となっている。記事を掲載する際、出版社側は抗がん剤を販売する製薬会社から金銭を受け取っていたという。

薬事法は抗がん剤の広告を一般の人向けに行うことを禁止。違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。副作用が強いものも多く、広告を無制限に認めると、患者本人が選択を誤って健康被害を受ける恐れがあるためだ。広告の定義について、旧厚生省は1998年の通知で(1)顧客を誘引する意図が明確(2)商品名が明らか(3)一般人が認知できる状態にある――としており、月刊誌の掲載記事が事実上の広告に当たるとの見方を強めている。

厚労省は今秋に調査を開始。製薬会社が出版社に支払った具体的な金額や名目なども含め、金銭授受の詳細について調べる方針。
(以上、日本経済新聞より引用)

記載されているように、このような広告が禁止されるのは、「患者本人が選択を誤って「健康被害」を受ける恐れがあるため」であれば、「患者本人が選択を誤って効果のない薬剤を内服し、「金銭被害」を受ける恐れがあるため」に広告が禁止されても良いはず。

「健康被害」は考慮されるけれど「金銭被害」は考慮されなくてもよいのですか?

このブログでは、以前から以下のように↓ゼチーアが臨床的有用性を持つ証拠がないことをお伝えしてきました。

ゼチーアの有用性について間違った解釈(その1)

悪玉コレステロール低下剤ゼチーアは効果なし

悪玉コレステロール低下剤、ゼチーアの効果について

ゼチーアの効果について間違った解釈(その2)

ゼチーアの効果について間違った解釈(その3)

↓ゼチーアがこんなにも処方されています。医者自身もちゃんとエビデンスを考慮しましょう。
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/cvd/201311/533499.html

国民に不利益になる(効果のない薬を買わされる)コメントが間違って公言されることがあれば、それは大問題だと思いますし(公共性)(公益性)、その証拠(真実性)はしっかりと残したいものです。


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急性心筋梗塞の時、別の部位が50%以上狭くなっていれば同時に治療したほうがよい

2013年09月13日 | 循環器
心臓の血管が完全に詰まってしまう急性心筋梗塞になった時、風船治療(およびステント治療)で詰まったところを広げて血液が流れるようにします。その際、その血管の詰まった以外の場所に50%以上狭くなった箇所(直径が4mmなら2mm以下に細くなったという意味です)があれば、同時に風船治療(およびステント治療)をしておくのがいいか、しなくてもいいかを調べた研究です。

50%以上狭くなった箇所といっても、心臓の筋肉に血液不足が証明できなければ、今の健康保険ではその治療は認められていません。

Randomized Trial of Preventive Angioplasty in Myocardial Infarction
New Eng J Med. September 1, 2013DOI: 10.1056/NEJMoa1305520
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★☆☆)

このPRAMI研究では、急性心筋梗塞になった465人が、同時に風船治療(ステント治療)する群としない群に割り当てられ、その後3年間の心臓病による死亡、心筋梗塞の発症、狭心症の再発が調べられました。

結果は上の図のごとく、「心臓病による死亡」、「心筋梗塞の発症」、「狭心症の再発」を3つ合わせると同時に風船治療(およびステント治療)しておく群で21人、しない群で53人と、治療しておく群でその後の患者の予後は改善されました。

「心臓病による死亡」だけを単独にみると、両群で差はありませんでした。

死亡は予防できませんが、この方法で心筋梗塞の発症、狭心症の再発率が改善されるのであれば、今後、この同時治療が健康保険で認められるようになるかもしれないということです。

患者の皆さんに誤解があるといけないのでもう少し説明しますと、これは「心臓の血管に細いところがあると予想されるので何月何日に検査して狭いところがあれば風船治療しましょう」という予定手術のことではありません。「急性心筋梗塞で緊急入院」して緊急に風船治療(ステント治療)したという場合です。

従って、今後逆にこの研究の結果を拡大解釈して、「予定手術」の時に医者から「ほかの部位にも50%細くなっているところがありますから治療しておきましょう」などと言われたら、それは誤りです。

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新しい糖尿病治療薬DPP-4阻害剤ネシーナを追加しても動脈硬化性疾患は減少しない

2013年09月03日 | 循環器
学会で発表するためにアムステルダムに来ています。
本日も新しい画期的な研究の結果が発表されました。

最近、新しい糖尿病治療薬でDPP-4阻害剤という薬が使用できるようになりました。その薬が動脈硬化性疾患に効果があるかという結果です。この研究では武田薬品のネシーナが使用されました。

このEXAMINE研究では、急性心筋梗塞になってから15日~90日の糖尿病患者5380人を従来の糖尿病治療にDPP-4阻害剤を追加する群としない群に振り分け、その後平均1年半、最大3年間の心臓病による死亡、心筋梗塞、脳梗塞の発症を比較しました。

結果は、DPP-4阻害剤を追加した群で、糖尿病の重症度を表すHbA1cは0.5%余計に改善しましたが、DPP-4阻害剤を追加した群でも心臓病による死亡、心筋梗塞、脳梗塞の発症は低下しませんでした。

DPP-4阻害剤は期待されていたほど動脈硬化性疾患に効果がないということです。

HbA1cが余計に改善されても、糖尿病の治療は主に動脈硬化性疾患を予防するために行っているので、特別にネシーナを投与しなくても、もっと安い糖尿病薬でHbA1cを下げればよいということになります。また武田薬品の薬ですね。DPP-4阻害剤は他の製薬会社からもイッパイ発売されています。

この結果は、先ほどの発表と同時にNew England Journal of Medicineに掲載・発表されました。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1305889?query=featured_home

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急性心筋梗塞では別の部位が半分以上狭くなっていれば同時に治療したほうがよい

2013年09月02日 | 循環器
学会で発表するためにアムステルダムに来ています。
さきほど驚くべき研究結果が発表されました。

心臓の血管が完全に詰まってしまう急性心筋梗塞になった時、風船治療(およびステント治療)で詰まったところを広げて血液が流れるようにします。その際、その血管の詰まった以外の場所に半分以上狭くなった箇所があれば(例えば、血管の直径が4mmの場合、2mm以下に細くなっているという意味です)、同時にその個所を風船治療(ステント治療)をしておくのがいいか、しなくてもいいかを調べた研究です。

半分以上狭くなった箇所といっても、その筋肉の部位に血液不足が証明されなければ、現行の健康保険ではその治療は認められていません。

このPRAMI 研究では、急性心筋梗塞になった465人が、同時に風船治療(ステント治療)する群としない群に割り当てられ、その後3年間の死亡、心筋梗塞の発症、狭心症の再発が調べられました。

両群であまりにも差がついたので、倫理的な問題により途中で早く研究が打ち切られたそうです。

結果は、上の写真のように(前の聴衆の頭でスライドの下のほうが見えないのはスクリーンの設置のミスです)、急性心筋梗塞の時に、血管の詰まった以外の場所に半分以上狭くなった箇所があれば、同時に風船治療しておく群で21人、しない群で53人と、しておく群でその後の患者の予後は改善されました。

患者の皆様に誤解があるといけないのでもう少し説明しますと、これは心臓の血管に細いところがあると予想されるので何月何日に検査して狭いところがあれば風船治療しましょうという予定手術のことではありません。急性心筋梗塞で緊急入院して緊急に風船治療(ステント治療)したという場合です。

この方法で、患者の予後が改善されるのであれば、今後、この同時治療が健康保険で認められるようになるということです。

この結果は、先ほどの発表と同時にNew England Journal of Medicineに掲載・発表されました。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1305520?query=featured_home

素晴らしい研究でした。今までの医療行為の適応を根本から変えてしまう結果です。2000人以上の聴衆は、結果が発表されると一斉にザワメキ始めました。

改善されたのが、死亡、心筋梗塞の発症、狭心症の再発のうち、狭心症の再発だけなら、「なんだ~それぐらの改善?死亡は減少させないの?」ということになりますので、原文が手に入りましたら、詳しいことは再度お伝えします。

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最初からの冠動脈CT血管造影は、待ってからの心臓カテーテル検査と効果・費用は同じ

2013年07月02日 | 循環器
横軸は退院までの時間、縦軸は退院率、青線は冠動脈CTを施行した群で、赤線は心臓カテーテル検査を施行した群です。


以前、冠動脈CTの試行は逆に医療費を増やしてしまったことをお伝えしました。CTでは比較的簡易に検査ができるので、急性心筋梗塞を疑う患者の費用も減らすことができるのではないかということで、両方を比較する臨床研究が行われました。

Coronary CT Angiography versus Standard Evaluation in Acute Chest Pain
N Engl J Med 2012; 367:299
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

米国の多施設で2010年から2012年の間に、胸痛があって救急部を受診したけれど、その場の心電図と血液検査に異常を認めない1000人が前向き調査の対象となりました。最初に冠動脈CTを施行して異常があれば心臓カテーテル検査を施行する群と心電図や血液検査に異常が出てくる時間を待って、異常が出てくれば心臓カテーテル検査を施行する通常治療群にランダムに分けた結果、最初に冠動脈CTを行った群は501人、通常治療群は499人、でした。

これらの患者で、その後の入院時間、費用が調べられました。もちろん、本当に急性心筋梗塞であった場合は、治療の費用も含められました。

結果は、冠動脈CTを施行した群の方が、平均入院時間は7.6時間短く、救急部より直接退院する率も冠動脈CTを施行した群で47%、心臓カテーテル検査を施行した群で12%と短かったのですが、冠動脈CTを施行した群では、その後の検査数と放射線被曝量が多く、全ての治療費の平均費用は冠動脈CTを施行した群で4289ドル、心通常治療群で4060ドルと差はありませんでした。

検査後28日間の合併症率や、検出できなかった急性心筋梗塞の率は両群で差がありませんでした。

アメリカの場合、日本と異なり、心臓カテーテル検査を行う客観的な根拠(心臓シンチグラムなどの負荷検査や心エコーなど)なしに心臓カテーテル検査を行うと、保険会社が医療費を償還してくれない場合がほとんどですから、この臨床研究は、血液検査に異常が出てくるのを待たず、その前に冠動脈CTを施行して異常があればそれを根拠に心臓カテーテル治療に移る場合と、心電図や血液検査に異常が出てくる時間を待って、異常があった場合に心臓カテーテル治療を施行する場合を比較する目的と思われます。

両者に差がないなら、こういうケース(胸痛があって救急部を受診したけれど、その場の心電図と血液検査に異常を認めない)の場合、冠動脈CTを行うよりも心電図や血液検査に異常が出てくる時間を待って心臓カテーテル治療を施行した方が良いという結果です。

明確な根拠がなくても保険で心臓カテーテル検査ができる日本では、その病院に循環器医がいれば、最初から心臓カテーテル検査をする方が、被曝量という点からもいいのではないでしょうか。ただし、マンパワーのことを考えると昼間の場合ですけど。

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ラジレスは心不全で入院後の予後を改善せず、逆に副作用を増やす

2013年05月02日 | 循環器
高血圧症の患者の血圧を下げるためには、器を広げるという原理の血管拡張薬、器の中の余分な水分を抜いてあげるという原理の利尿薬、血圧を上げる物質を抑制する作用を持つ薬、など様々な薬があります。

その中でも、ラジレスは血圧を上げる物質を直接阻害するという新しいタイプの薬です。詳しくは「ラジレス」で検索すると載っています。この薬を販売している製薬会社は最近、自社の薬の効果を調べた医学研究で、内緒でその社員が統計解析に参加していたということや、その他の疑惑で、学会から真相の調査依頼を受けて神経質になっており、このごろは自社製品の「ラジレスが効かなかった」という情報も積極的に医者に公開して名誉挽回を計っています。しかし、だからといって、以前のことが無罪放免になることはないです。この件に関しては、もちろん研究者側も学会から調査依頼を受けています。

今回は、最近発表された、「ラジレスが効かなかった」という論文をお伝えしたいと思います。

Effect of aliskiren on postdischarge mortality and heart failure readmissions among patients hospitalized for heart failure: the ASTRONAUT randomized trial.
JAMA 2013;309:1125.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★☆)

心臓の駆出率が40%以下という、正常の3分の2以下に低下した心不全で入院した患者を対象に調査されました。心不全の時に上昇するBNP(ビー・エヌ・ピー)という物質が400pg/mL以上かNT-pro BNPが1600pg/mL以上であるという基準も設けられました。退院後、ラジレスを1日150mg内服する群と、内服しない群に分けて、12ヶ月後までの死亡と再入院が調査されました。

無作為に2群に割り当てた結果、ラジレスを内服する群は808人、内服しない群は807人になりました。結果的に平均年齢は65歳、駆出率の平均は28%と、正常の3分の1以下に低下した対象となりました。心不全の治療のため96%に利尿薬、83%にβブロッカー、84%にACE阻害薬かARBという血圧に対する薬が投与されていました。

12ヶ月後、ラジレス内服群では35%に死亡か再入院が起こり、非内服群では37%で、ラジレスが効果があるとは言えませんでした。逆に、低血圧、高カリウム血症、腎不全がラジレス内服群で増えてしまいました。

現在、ラジレス150mgは1錠で150円です。

ラジレスを処方されている患者さんは、こんな論文があると申し出て、もう一度担当の医者と相談することをお勧めします。

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脳卒中と心筋梗塞の危険因子はなにか

2012年12月30日 | 循環器
特定健診の膨大なデータを利用して、日本人において脳卒中と心筋梗塞の危険因子を明らかにした素晴らしい研究があり、今年10月に発表されたのでご紹介します。

特定健診(特定健康診査)とは、厚生労働省により公的医療保険加入者全員に実施が義務づけられた、メタボリックシンドロームに着目した健康診査のことです。

特定健診データをもとに脳・心血管疾患発症を予測するツールの開発
Therapeutic Research 2012;33:1541.
(インパクトファクター★☆☆☆☆、研究対象人数★★★★★)

1995年~2000年の40歳~69歳の住民健診受診者のうち脳・心疾患に罹患したことのない8,886人が対象とされ、脳・心疾患の発症と発症した患者の特徴の関係について、平均9.8年調査されました。患者の特徴は多変量解析で解析されました。

上の図が結果です。
発症と関係があった因子は赤色で示してあります。脳出血と脳梗塞をあわせたいわゆる脳卒中を発症する危険因子は年齢、血圧値、高血圧症でした。

数字はそれがあると何倍リスクが増えるかで、例えば血圧は10mmHg上昇すると、脳卒中の発症は1.16倍になります。カッコのなかの数字は95%信頼区間といって、その倍率が95%の確率でその範囲に入っているということで、その数字が例えば0.98―1.05のように1をはさんでいると、リスクが上昇することもあるし低下することもあるということで、その因子は関連がないと判断されます。

心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患の発症に関連するのは、男性であること、年齢、血圧値、善玉コレステロール値、喫煙でした。本来、高血圧症も危険因子ですが、血圧値という項目にマスクされ(多重共線性といいます)ています。

心筋梗塞の場合、男性というだけでリスクが4.61倍ということがわかりますし、年齢が10歳高くなるとリスクが1.61倍になることがわかります。善玉コレステロールが10mg/dl上がると、リスクは0.77倍に低下します。

一方、総コレステロールから善玉コレステロールを引いた悪いコレステロールや、中性脂肪は他の因子ほど関連のある危険因子ではないことがわかります。

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善玉コレステロールを上げる薬剤は心筋梗塞の予防に効果がない

2012年11月09日 | 循環器
           ↑ピンぼけで申し訳ありません。

学会で発表するためにロサンゼルスに来ています。

本日も、世界に先駆けて発表された結果をお伝えします。

最近、コレステロール・エステル・トランスファー・プロテイン抑制剤という、善玉コレステロールを上昇させる薬が注目されていました。善玉コレステロールを上昇させるので、心筋梗塞を予防するのに有用ではないかと考えられていたからです。しかし、その効果はありませんでした。

研究の詳細はここに載っていますが、

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23126252

Effects of Dalcetrapib in Patients with a Recent Acute Coronary Syndrome
New Engl J Med 2012 Nov 5
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

15、871人の患者(すでに97%に悪玉コレステロールを低下させる薬剤が投与されています)をコレステロール・エステル・トランスファー・プロテイン(CETP)抑制剤を内服する群と、内服しない群に分けて約3年間、心臓病による死亡・心筋梗塞・脳梗塞・不安定狭心症による入院の発症率が比較されました。

内服により、悪玉コレステロール値には両群で変化はなかったのですが、CETP抑制剤内服群で善玉コレステロールが約30%上昇しました。

上の図で赤線が内服群、黒線が非内服群です。CETP抑制剤を内服してもしなくても、これらの発症率は8~9%で両群に差はありませんでした。

発表者であるシュワルツ医師は、「心筋梗塞を減らす他の薬剤を内服している患者には、もはやCETP抑制剤は有用ではない。CETP抑制剤内服群で血圧が0.6 mmHg上昇していることで、血圧上昇による疾患の発症の上昇があったことが、両群で差がつかなかった理由の1つである」と述べていました。

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心臓の2本の血管に狭窄がある糖尿病患者にはステント治療よりバイパス手術の方が有効

2012年11月07日 | 循環器
学会で発表するためにロサンゼルスに来ています。

昨年のレイト・ブレイキングでは、以下のような内容をご紹介しましたが、
http://blog.goo.ne.jp/secondopinion/e/85c1e5a6a67e3fdd936c9ae122c0743a

今年は、昨日世界に先駆けて発表されたFREEDOM Trialという医学研究の結果をお伝えします。私も会場にいて実際に聴いていました。

詳細は昨日発表されたばかりのNew England Journal of Medicineに載っています。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23121323

Strategies for Multivessel Revascularization in Patients with Diabetes.
New Engl J Med 2012 Nov 4
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

2005年から2010年までの間に、3本の心臓の血管のうち2本の血管に70%以上の狭窄がある糖尿病患者1900人が、ステント治療する群とバイパス手術をする群に割り当てられて、平均約4年間(2年~7年)死亡・心筋梗塞・脳卒中の発症が調べられました。

上の図で赤線はステント治療群で、黄線はバイパス手術群です。バイパス手術群で死亡・心筋梗塞・脳卒中の発症が5年間で約18.7%であるのに対して、ステント治療群は約26.6%の死亡・心筋梗塞・脳卒中の発症があり、有意に高いことが分かりました。

心臓の3本の血管のうち2本の血管に狭窄がある糖尿病患者の皆さんは、盲目的にステント治療をするステント治療医からステント治療を勧められても、このデータをその医者に見せて、もう一度よく考えてもらう必要があります。

確かに、3本の心臓の血管のうち2本の血管に70%以上の狭窄がある糖尿病患者でもステント治療が向いている患者もいますが、それはどういう特徴がある患者なのか、ステント治療医は印象だけで述べていないで、科学的に明らかにする必要があります。

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女性は心筋梗塞で胸痛がないことが多く死亡率が高い

2012年05月06日 | 循環器
急性心筋梗塞の発症は男性の方が多いのですが、一旦発症すれば女性の方が予後が悪いということが分かっています。最近、それらのことを大規模に調査した研究が発表されました。

Association of age and sex with myocardial infarction symptom presentation and in-hospital mortality.
JAMA. 2012;307:813-22.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

1994年から2006年の間に急性心筋梗塞で入院した114万3,513人が調査の対象となりました。男性の発症平均年齢は67歳であるのに女性の平均年齢は74歳と、女性の方が有意に高齢でした。

受診時に胸部痛や不快感のなかった患者は男性が30.7%であるのに対して女性は42.0%で、女性の方が典型的な症状がない割合が有意に高くなりました。

女性が男性と比較して何倍症状のない場合があるかは、年齢に関係していて、45歳未満では男性の1.30倍、45歳~54歳では1.26倍、55歳~64歳では1.24倍、65歳~74歳では1.13倍、75歳以上では1.03倍というように、若い患者ほど症状のない割合が多くなりました。

院内死亡率は男性が10.3%で女性は14.6%と、女性の方が有意に高くなりました。

急性心筋梗塞の予後が女性の方が男性より悪いのは、女性の方が胸部痛や不快感などの症状がない場合が多く、積極的な治療の開始が遅れることが原因ということが証明されました。

急性心筋梗塞は心電図され施行すれば診断できますので、女性の皆さんは心筋梗塞に典型的な症状がなくても心電図を施行してもらいましょう。

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冠動脈CTの施行でステント治療が増え医療費も増えた

2012年04月21日 | 循環器
以前冠動脈CTについてお伝えしました。それまでは心臓のように常に動いている臓器の撮影は不可能でしたが、技術の進歩により撮影が可能になりました。造影剤を注射して横になっていれば、上のような心臓の血管が撮影できて、どこに狭窄があるかも一目瞭然です。

Association of coronary CT angiography or stress testing with subsequent utilization and spending among Medicare beneficiaries.
JAMA 2011;306:2126.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

2005年から2008年の間に動脈硬化性心疾患の疑いで、冠動脈CTか、従来から用いられている運動負荷心筋シンチグラフィーや薬物負荷心臓エコーを受けた66歳以上の282,830人が調査されました。

冠動脈CTを施行した群では、その後心臓カテーテル検査を受ける割合が増え(冠動脈CT群 23%、シンチグラフィーかエコー群 12%)、ステント治療を受ける割合が増えました(冠動脈CT群 7.8%、シンチグラフィーかエコー群 3.4%)。

その反面、患者の検査後6か月の死亡率は、両群で変わりありませんでした(冠動脈CT群 1.05%、シンチグラフィーかエコー群 1.28%)。

検査後の経過における医療費は、冠動脈CT群で、シンチグラフィーかエコー群と比較して約40%高額になりました。

つまり、病院が儲かるようになっただけで、患者の有益性にはつながっていないということです。

冠動脈CTが施行できるようになり、最初の「冠動脈CTがさらなる検査や不必要な処置を減らし、医療費を減らす」という期待とは反対となってしまいました。

心筋梗塞は、心臓の血管がかなり狭くなった場所以外から発症することが多いので、冠動脈CTでかなり狭くなった場所を見つけても、死亡を改善できないのは当たり前のことです。

この論文の著者たちは、「冠動脈CTを施行して高額な医療費を支出することで、患者の利益につながるか分からない。この調査は6カ月間であり、冠動脈CTとその後の死亡率との関連を正当に評価するには、長期にわたる研究が必要である」と述べています。

私は、長期にわたって調査しても、医者側が運動負荷心筋シンチグラフィーを施行して本当に心臓が血液不足になっている場所と範囲を正当に評価してステント治療をしない限り、結果は同じだと思っています。


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天皇陛下はなぜステント治療ではなくてバイパス手術なのか

2012年02月24日 | 循環器
心臓の血管が狭くなった状態を治療するのにバイパス手術とカテーテル治療がありますが、カテーテル治療には次の3つの世代がありました。

第1世代:先端に風船がついたカテーテルを使用して狭いところを広げる風船治療(1980年代)
第2世代:ステントという金属を狭いところで広げて留置しておくステント治療(1990年代)
第3世代:再び狭くならないようにする薬剤を塗ったステントを留置する薬剤溶出性ステント治療(2000年代~)

第1世代には、心臓の血管3本ともに狭窄がある場合、風船治療とバイパス手術のどちらが患者の予後(死亡や心筋梗塞)が良いかということに関して風船治療はバイパス治療ほど成績が良くありませんでした。しかし、そのような研究の結果が出る頃には時代は第2世代になっており、風船治療をしている医者は「今はステント治療の時代なのだから、現状ではバイパス手術に負けているかどうか分からない」と主張し、ステント治療を続けていました。

その後、やはりステント治療はバイパス治療ほど成績が良くないことが臨床研究の結果から分かりました。しかし、そのような研究の結果が出る頃には第3世代になっており、この時もステント治療している医者は「今は薬剤溶出性ステント治療の時代なのだから、現状ではバイパス手術に負けているかどうか分からない」と主張し、薬剤溶出性ステント治療を続けていました。

今までに同様の研究は欧米で行われて、2009年9月にNew England Journal of Medicineで公表されていました。結果は総合してみると,主要心脳血管イベントの発生はバイパス手術のほうが有意に良好で、この傾向は病変が複雑になるほど強く、複雑病変ではバイパス手術が適しているという結果でした。

それでも、「日本の医者は欧米の医者よりも手先が器用でステント治療が上手だから、この結果は日本には当てはまらない」と主張を続ける医者がいました。

最近、「日本において」ステント治療とバイパス手術のどちらが平均して患者の予後が良いかという、画期的な結果が発表されました。

上の図は、赤線はバイパス手術、青線はステント治療(77%が薬剤溶出性ステント)です。CABGはバイパス術のこと、PCIはステント治療のことです。3年間での死亡はバイパス術が9.3%、ステント治療が11.7%でステント治療の方が多いです。3年間での心筋梗塞も、バイパス術が2.5%、ステント治療が5.0%%でステント治療の方が多いです。患者の予後はバイパス術の方が良好でした。

3年間で2.4%の差ということは、9年間で約7%ということです(予後はかならずしも直線的ではないので、あくまでも大ざっぱな計算ですが)。9年後には、あの時バイパス術を選んでいたら死なずに済んだという人が14人に1人出てくるわけです。


3年間で死亡率が10%近いというのはかなり高い確率と思われるかもしれませんが、その理由は、バイパス手術をしなければならない状態は心臓の血管が3本とも細いし、その他の動脈の動脈硬化もかなり進行している患者であるからです。

さて、なぜ天皇陛下にはバイパス術が選択されたか?

その前に、死亡はバイパス術が9.3%、ステント治療が11.7%だといっても、ステント治療でも88.3%は3年間に死亡していないという事実、そして、ステント治療は入院が2~3日間程度で、バイパス術が約2週間程度であるのに比較して、身体への負担は少ないという事実も理解しなければなりません。

一般の人(天皇陛下以外の人という意味で)では9.3%と11.7%の差、すなわち「2.4%の死亡のリスクの上昇と引き替えに「身体への負担が少ない方」を選ぶことも行われている」ということで、これは患者が「2.4%死亡のリスクが上昇する」ことに「納得」していれば、間違っていることではありません。

しかし、天皇陛下の場合はどうでしょうか。天皇陛下の場合、「9年で14分の1の確率で、あの時バイパス術を選んでいたら死なずに済んだ」のに、その死亡のリスクと引き替えに「ステント治療は傷口が痛まないから、入院が短いから」ステント治療を選ぶことは許されません。できるだけ死亡リスクが少ない方を選ばなければならない立場であるのです。

さて、ここでふと思うのですが、それでは実際に「3年間で死亡のリスクが2.4%上昇するけれど、それでもステント治療で良いか」ということを、医者は患者にちゃんと説明しているか疑問が残るということです。5年間で心筋梗塞を1%減少させるという理由で、ある薬をせっせと患者に追加しながら、一方で「3年間で死亡のリスクが2.4%上昇する」治療を選択しているのは、矛盾している部分もあります。

あなたならどちらを選びますか?→アンケートはこちらです←是非参加して下さい

その他考えられる理由として、天皇陛下は手術が上手な医者に執刀してもらえるから?この分析は必ずしも正しくありません。なぜなら、上記の最近の日本の研究は、26箇所の病院のデータを総合したものであり、手術が上手な病院だけを特別に調べたものではないからです。それに、たとえステント治療になってもステント治療が上手な医者を選んでくるからです。

ステント治療は、再び細くなることがバイパス術よりも多いので、天皇陛下が入院を繰り返すのは公務に差し支えるから?これは一部当たっていると思います。でも、それなら一般の人にステント治療をする際には、一般の人は日常の仕事に差し支えても良いのか?という疑問が残ります。

患者の皆さん、不安であれば、「私の場合も天皇陛下と同じように判断して下さい」と、ちゃんと医者に言いましょう。

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