橡の木の下で

俳句と共に

選後鑑賞平成27年『橡』2月号より

2015-01-28 15:18:23 | 俳句とエッセイ

選後鑑賞  亜紀子

 

延縄を入るる目当ての紅葉山  平石勝嗣

 

 車をバックで車庫入れするのが苦手だ。自宅のカーポートには私なりの目当てが決めてあって、いつもの手順通りに動かせば失敗することはない。

 さて掲句は、長い幹縄に暖簾のように取り付けた枝縄の先の釣り針で魚を捕る延縄漁。漁船で縄を仕掛けに出る。比較的沿岸で行われる小規模の漁であろうか。陸地に見える紅葉の山と漁船の位置関係から仕掛け場所が決まっているようだ。空は澄み、甲板の上ゆく潮風が快い。海を知る人ならではの紅葉山の眺めである。

 

樺太鷲冬虹越えて去りにけり  折田幸弘

 

 樺太鷲はユーラシア大陸の中緯度域で繁殖し、冬季はインド、中国南部へ渡る。日本にはまれな冬鳥として渡来し、各地にその記録が残る。鹿児島県川内市の農耕地では一九九二年以来毎冬渡来しているという。地の利を得た作者であるが、珍しい鳥であることには変わりがない。双眼鏡を手にして探鳥吟行に出られたのであろう。折しも時雨の後の虹がかかり、その彼方へ消えていくのを見送った。樺太、冬虹、去りにけり、等々の言葉が静かに響き合う。

 

出払ひてやかんの滾る鮭番屋  太田順子

 

 もぬけの殻の番屋のストーブに、掛けっぱなしの薬缶の湯がチンチンと滾って湯気を噴いている。鮭が上がってきたのだろうか。番屋の薬缶一個に、鮭漁の様子、岸辺の冬枯の景色、男たちの声等々が想像されるのである。

 

尖りたる阿賀の川風懸け大根  松田松栄

 

 福島と群馬に源を発し、広大な越後平野を形成して日本海へ注ぐ阿賀野川。全長二一〇キロメートル、水量は最大級の大河である。対岸は遥か彼方の幅広の川面。日本海から吹きつける季節風に波も尖る。その風に曝されて並ぶ干し大根。新潟県は大根の生産量も最大級のようである。おそらくずらりと懸けられた大根だろう。厳しいながら越後の冬の景が絵になっている。

 

奥多摩や干菜のにほふ御師の道 西堀裕子

 

 東京都の西部、武蔵国多摩郡、現在の青梅市の御嶽山。山頂に古くから修験道の霊場として栄えた武蔵御嶽神社(むさしみたけ神社)が鎮座する。神社の仕事に携わり、講の参拝客の世話などをする御師の集落が連綿と維持されてをり、今も宿坊として観光客の世話もする。下界と隔絶された集落の道。干菜は自家用だろうか、あるいは坊の客に供されるのか。奥多摩の固有名詞が五七五の中によく所を得ている。

 

新ワイン銀坑窟に眠りゐし   吉田暢子

 

 新ワイン、ボジョレー・ヌーボー解禁に湧いたバブル時代。現在も十一月のその時期になれば話題を呼ぶが、かつてのような空騒ぎは収まったのではなかろうか。掲句のワインは銀山の坑道跡に寝かせておいたもの。洞窟内は湿度、温度が年間を通して一定のところから、醸造発酵の条件に適しているようだ。銀山窟から取り出されたワイン。どこか落ち着いた味わい。

 

水尾よりごろごろごろと柚の苞 大野藤香

 

 京都市右京区嵯峨水尾は柚子栽培発祥の地「柚子の里」である。水尾の柚子は香り高く、品質が良いそうだ。その高級柚子を土産として仰山、無造作にごろごろと手提げ袋から取り出して届けてくれた友人。きっと一日を水尾吟行で過ごして来た親しい俳句仲間ではなかったろうか。

 

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