橡の木の下で

俳句と共に

第31回「橡の芽投句欄」選後鑑賞

2023-06-29 12:22:24 | 小・中学生の俳句募集
橡の芽投句欄  第三十一回

       選  亜紀子

一席    
     吉岡 中二  後藤陽葉里
陽炎に揺られてじっとまちぼうけ
 
 ずいぶんと待っているのでしょうか。だれを待っているのか。ドラマがありそうです。

二席    
     吉岡 中一  落部舞実
陽炎や見慣れた街が非日常

 いつもとちがって見える景色。いつもとちがう作者の一しゅんの心のゆれ?

三席
     東京 中一  吉藤心菜
しみじみと校歌をうたい卒業す

 小学校で最後の校歌せい唱。しみじみの語にまことがあります。


秀逸 

     四日市 中一 榊史帆
ポツポツと広がる波紋春の雨

     岐阜 中三  福井心満
いたちごっこつばめのフンを掃除する

     岐阜 中三  福井悠人
ついに来たキャベツの天てきモンシロチョウ

     岐阜 中三  木下瑛介
雀の子小さく鳴いてる屋根の下

     岐阜 中三  渡邉青空
入学式後輩がくるたのしみだ

     東京 小二  吉藤菫
赤ちゃんとさくらを見たよしあわせだ

     東京 中一  梅沢愛
花びらが電車に入りダンスする 

     久留米 小四 大野瑞桔
ねこの子や親ばなれせず一年間


佳作   

     東京 小二  吉藤涼真
猛獣に生肉あげた春休み

     横浜 小二  吉藤康太郎
サッカーの試合のあとの春の海

     東京 小五  吉藤蒼一郎
花ぐもりくやしき空手リベンジだ

     岐阜 中三  栗本愛桂
空の下桜見守る入学式

     岐阜 中三  纐纈瑛音
桜散りもうこの時期かと通学路

     岐阜 中三  三品明日香
もんしろちょう花束の上ゆれている

     岐阜 中三  宮脇紗希
だんだんと色鮮やかに木の芽時


「緑」令和5年「橡」7月号より

2023-06-29 12:11:42 | 俳句とエッセイ
 緑   亜紀子

緑陰や時の満ちゆく椅子ひとつ
連休に入るや尾を振る五月鯉
河骨の思案顔なり雨催ひ
写生会否鬼ごつこ子供の日
青鷺の雛も上手に漁れる
五月空晴れてきりんのあみだ籤
風若葉のつぽさんじやあさやうなら
戦跡と聞けば緑の身にしみて
太平の蛙天国夜の園
人怖ぢず人驚かす烏の子
庭蛍昭和四十年以前
ふるさとへなびく茅花の鉄路かな
野外ピアノ奏者次々蝶も来て
街暑し蛙顔してとぶ車
コンクリの日本列島梅雨に入る

「令和五年紙上五月大会講評」 令和5年「橡」7月号より

2023-06-29 12:05:05 | 俳句とエッセイ
  令和五年紙上五月大会講評   
                 亜紀子
                 
特選 

 春夕べ淡海いちめんさくらいろ  大谷阿蓮

 作者は橡誌上に毎月「近江歳時記」を執筆中。春の夕日が湖面全てを包む。掲句の淡海は琵琶湖そのもののを指しているが、淡海の国全体を暗示しているようにも聞こえる。水と水の上の何もない空とは近江に独特な景観を与えている。観るものにも特別な心境が生まれるだろうか。朝に夕に眺め、今さくらいろに極まる淡海はまさに作者の血肉になりつつある感。

二重丸の中から

育休を終へてフライト鳥雲に   永山比沙子

 育児休暇が明けて業務に復帰、すぐ出張へ。まだ幼い我が子に残す心、と解読したが、キャビンアテンダントかパイロットか、ストレートに航空業界の人を詠んでいるのかもしれない。育休という現代語に鳥雲にという季語が齟齬なく嵌り余情がある。

寄書きに名言残し卒業す      渡辺栄子

 イチロー、大谷、藤井聡太か。掲句の卒業生の行く末は如何に。若人には自分の思うように活き活きと進んでもらいたい。

雛荒し思ひ出遠くなりしかな   塩野澄江

 雛荒しとはお雛様に供えた菓子などを子供たちが貰い歩く西日本の行事と歳時記にある。作者にもその思い出があるのだろうか。幼き日は遥か。

耳袋老いてしたがふ子もなくて  吉村姉羽

 耳袋という古風な季語。実際には今風の洒落たイヤーウオーマーと思うが、この語をこの句に付けるのは手練れ。俳境佳境に。

屋根替や萱を手に手にボランティア 中野順子

 茅葺き屋根といえば白川郷や五箇山が思い浮かぶ。掲句もおそらくどこか保存地区や文化財に指定されている建物と思われる。屋根材のススキやヨシの生育する茅場は失われ、葺き替えの技の継承も難しい状況だが、今日は日和も良く、大勢のボランティアの助っ人も集まり、皆の笑顔が頼もしい様子が目に見える。

のらぼうをどつさり抱へ友来たる 齋藤冨美子

 のらぼう菜は菜の花の一種。和種ではなく西洋アブラナに属し、もとは江戸周辺で栽培されたものらしい。摘み取った花芽の脇からまた芽を噴く強い生育力、ご友人の畑では有り余る収穫があったようだ。のらぼうのネーミングが飄逸。友来たる喜び、春来たる喜び。

一重丸の中から

図書館の大活字本緑さす  高沢紀美子

 美しい季節、明るい窓、大きな文字、ストレスなく読書を楽しめる。

陽炎や列車来さうな廃線路 藤田彦

 春草生う忘れられた鉄路。夢か幻か、沿線のかつての人々の生活を乗せて、向こうから列車が。

星涼し宇宙飛行士生れし村  栗林さだを

 星美しい信州佐久の川上村。二〇一五年国際宇宙ステーションに長期滞在した油井亀美也宇宙飛行士の出身地。

蝿生る仕立下ろしの翅ひろげ  関東忍

 嫌われ者の蝿もこうやってよく見るとなかなかのもの。人にも虫にも良い季節が巡ってきた。


   

選後鑑賞令和5年「橡」7月号より

2023-06-29 11:58:42 | 俳句とエッセイ
選後鑑賞    亜紀子

山清水厨にも引き木地師村  端径子

 木地師は轆轤を用いて橡や欅などの材から椀や盆を作る技能集団。その昔は山を渡り歩いていたという。木地師発祥の地といわれる近江小椋谷。歴史は千百年以上も遡るという。水清き山間の隠れ里のような佇まい彷彿。

散歩道猪出没に後もどり   中川幸子

 山の動物が里に現れるようになって事件も起こる。原因は様々だが、まずはお互いに危害を与え合わないよう暮らしたい。おちおち散歩も楽しめないのは困る。

橡咲ける空の青さや港町   石井素子

 神楽の鈴のような、あるいは華燭のような橡の花。思わず見上げた空は真青。下五で港横浜と知り、洒落た並木道の景が浮かび上がった。

月一度迎ふる僧も更衣    松尾佳代子

 月命日にお坊さまを欠かさずお迎えする暮らし。夏衣でおいでの姿に日月の流れをひとしお強く感じられたのでは。

老妻の眼鏡カラフル青葉風  釘宮幸則

 お若い老妻。風の青葉も一色ならずカラフル。

点薬の時を守りつ日の永き  小谷真理子

 術後の手当てか。朝昼晩と欠かさぬ目薬。習慣化すればどうということはないのだろうが二、三ヶ月は続くのか。日もさらに長くなっていく。

草好きの友と散歩やみどりの日  買手屋一草

 草花好きの気の合う二人。道辺の草、垣内の花、あれこれ寄り道、お喋り、楽しいみどりの日。

今朝夏の浅間連峰風かろし  岩下悦子

 星眠先生の「白兎のごとき初浅間」は浅間・烏帽子火山群の一つ。作者は日常この連峰の姿として目にするのだろう。初夏の快い風が吹き渡る。

あさなさなとぎ水注ぎ薔薇咲かす  松尾守

 植物に米の研ぎ汁、土の中で栄養分が発酵して良い効果があるのだとか。まさに手塩にかけて咲かす薔薇。
 
しきたりの疎かならず府中祭 佐藤法子

 府中市の大國魂神社の創建は西暦百十一年。例大祭のくらやみ祭、今年の日程は四月三十日から五月六日とのこと。ようやくコロナが落ちつき、由緒ある祭礼が執り行われたようだ。

残雪やみくりが池の深眠り  小原緑

 富山室堂のみくりが池。岸辺の斑雪にようやく巡りきた春を感じつつ、湖面は凍結、まだ息もせず沈黙の様子。それでいて掲句から不思議に紺碧の湖面を想起。

初かはづ甑倒しを知らせけり  松瀬弘佳

 酒造りの一年最後の醪の仕込みを終えることを甑倒しと言うそうだ。ちょうど初かはづを聞く頃に重なるのだろう。懐かしく優しい蛙の声に辺りの景も想像できる。

試し読みしだいに耽り書肆薄暑  藤原省吾

 立ち読みしていることを忘れている作者。書肆薄暑の語に街の風景。

昼夜無く超然とミニ鯉のぼり  長谷部未楽

 ミニ鯉のぼりの超然が愉快。ひらひらとは靡かぬ突っ張ったままの素材?

夏向きの妻の髪型わがカット  小林一之

 カットも手入れも簡単な切り下げ髪か。もっと短髪か。わがの一語が効いている。