橡の木の下で

俳句と共に

第27回「橡の芽投句欄」選後鑑賞

2022-06-30 18:39:09 | 小・中学生の俳句募集
第27回「橡の芽投句欄」選後鑑賞    亜紀子選

一席    
     横浜 小一 吉藤康太郎
りふてぃんぐ一〇かいできたはるのかぜ
 
 サッカーボールのリフティング、はじめは二かいつづけるのもむずかしい。れんしゅう、れんしゅう、ついに一〇かい!プロのせんしゅみたいになれるかな?はるかぜがきもちいい。

二席    
     四日市 小六 榊史帆
つくしんぼ家族もくもくはかまとり
 
 春を味わうつくし。家族そろってハイキングのおみやげでしょうか。はかま取がひと仕事。「もくもく」の言葉でようすが良く分かりました。でも、ゆでるとほんのちょっぴりになってしまいます。

三席
     岐阜 中一  加藤葵衣
ひっそりと鹿の角落つ山の中
 
 鹿の角の生えかわりは三月ごろ。落し角(おとしづの)は春の季語。岐阜の山には鹿も多いのでしょうか。私は見たことはありませんが、静かな早春の山中の景色を思いうかべました。 


秀逸 
    前橋 小三  品川麻実
はしったよたこあがるまでがんばった

    大津 小四  髙橋浅海
雪どけの黒い土よりふきのとう

     東京 小六  吉藤心菜
くつ箱に弟の名よ新学期

     岐阜 中一  井戸悠陽
さようなら行ってしまった卒業生

     岐阜 中一  三品明日香
ちょうちょうと追いかけっこの一年生


佳作   

     吉岡 中三  飯田楓乃音
朧月布団をかぶりのぞいてる

     岐阜 中一  小川葵
入学式桜が道をつくってく

     岐阜 中一  小田憩
グラウンド一年前とはちがう春

     岐阜 中一  佐伯颯太
春あたたか昼休みには外へ行こう

     岐阜 中一  中山竜鳳
うぐいすが朝のアラーム心地良く

     岐阜 中一  細江華由
桜の前みんなと手つなぎ写真とる

     岐阜 中一  渡辺かずは 
通学路ふわっと感じる春の風

     岐阜 中二  加藤綺理
新学期今年は引っ張る私たち

     東京 小一  吉藤涼真
はるがきてこぶしのはながさきました

     府中 小二  はせこうたろう
パセリをねいっぱいならべ木みたいだ

     東京 小三  大空航
そら豆のおへやふわふわすみたいな


     久留米 小三 大野みずき
麦畑白いちょうちょは見えやすい



「緑陰」令和4年「橡」7月号より

2022-06-28 12:03:54 | 俳句とエッセイ
  緑陰   亜紀子

頬白の樹上天辺まだ暮れず
飛び飛びの緑がつなぐ蝶の道
花は葉にけふもノルマの一万歩
ひもじいと泣いて子鴉達者なる
糸とんぼ浮葉かすめて離着陸
釣竿を振るや緑の森動く
夜のかはづ父母とほくなりしかな
緑陰に我いつの間に老いしかな
深山の響きありけり夜の添水
今日ひと日八女の新茶に始まりぬ
丈そろひいまだ蕾の百合の園
囀や出だしやや異な四十雀
夕焼けや犬友達の影も消え
夜々つどひ祭囃子をさらふ子ら
噴水やさらふダンスはボリウッド


「紙上五月大会講評」 令和4年「橡」7月号より

2022-06-28 11:55:37 | 俳句とエッセイ
 令和四年紙上五月大会講評   亜紀子

特選

幸せな名前ばかりや入学児  高沢紀美子

 昔小学生の雑誌のテレビ広告に「ぴっかぴかの一年生」というのがあった。二十年くらい前のことと思うが、現在また復活しているようだ。ぴっかぴかの入学児童の名簿はキラキラネームのオンパレード。そもそも珍しい名前や、その音に漢字を宛字した難読名前だ。古より人名にも流行があるようで、キラキラ全盛期は二〇一〇年前後とのこと、現在は既に沈静化しているらしい。
 橡会報に掲載の橡の芽投句欄ではこのキラキラ世代の中学生がたくさん投句してくれる。パソコンで名簿を作る時が面白い。宛字を音読して打ち込むと、ごく一般的な名前ならコンピューターソフトが適当に漢字変換して提示してくれる。しかしキラキラは自動変換ではなかなか出てこない。私のソフトが古いせいかも知れないが、それにしてもAIの上をいく藤井聡太の将棋のようだなどと呟いてしまう。
 掲句ではっとした。キラキラでもそうでなくても、皆幸せな名前だ。幸せな親心が一人一人の子に思いを込めた名。作者の純で素直な把握で、入学という門出に誕生の日の喜びを思い出す一句となった。

二重丸の中から

曽孫とは年の差九十山笑ふ  本図恵美

 雪も消えて季節は開かれてゆく。曾孫さんの誕生も、九十になる作者も、めでたさひとしお。

道問うて道連れとなる彼岸入 細川玲子

 袖振り合うものご縁。佳き人に道を尋ねた。しばしの道連れ、穏やかに語らいつつ。

初燕風の明るき港町     石井素子

 燕が季節を連れて来る。明るい風が吹くのは、東は横浜、西は神戸のイメージ。

スマホして孤独の集ふ春休み  水本艶子

 若者が皆小さな液晶画面に見入っている。傍から見るとまさに掲句の通り、集いながらの孤独。
 
一重丸の中から

嶺ざくら山の駅員一人のみ   浅野なみ

 山懐の駅舎に駅員はただ一人、しかしこのご時世で無人でないのが床しく感じられる。高嶺に咲く花、嶺ざくらが趣を添えて。

非正規のままの十年花は葉に  小川信子

 掲句の非正規雇用は不本意な十年ということと解する。自然の運行には滞りがないのに。

括りおく古き手紙も雁供養  山下誠子

 ひととせ身ほとりに置いた手紙の束。古きの措辞は一年の整理という以上の年月の長さも暗に感じさせる。今も心惹かれる雁のたまずさではあるが、一区切りここで焚くことに。一見技巧的とも取れるが、どこか不思議に哀切な響きを持つ季語が作者の真情と自ずと一点に結ばれたことと思う。

 
 三度目の正直、二度あることは三度ある、紙上五月大会三回目にはいささか遣る瀬なき思いがあります。
しかし今年もまた大勢の参加を得、たくさんの句を学べる宜しさに感謝しました。ありがとうございます。来年こそはと期待しています。健康に留意して、次の青葉の季節を待ちたいと思います。