青柿のこぼるる道の親しさよ 亜紀子
梅雨青嶺負ふ薬園の静けさよ
薬園に素なる冷茶をもてなさる
真白なる花かかげをり蠅地獄
薬園のガイドの汗に蝶の寄る
涼しさやしだれ槐の花に触れ
パナマ草破れ葉をつづる暑さかな
熱中症注意しやぼんの木の下に
この夏は揚羽ばかりの小さき庭
亜紀子
スクランブル 亜紀子
子供の日あがちちははの懐しき
かにかくに四季も乱れて今日立夏
抜きんでて風に祝がるる樟若葉
東京の不思議緑の釣堀は
ひとつづつ思ひ出灯る橡の花
宴果つる五月の夕日裾を引き
誰かれの一人に戻る夕永し
齧りしは誰か真つ赤な蛇苺
薔薇百花咲かせ主の寡黙なる
褪せもせで日ごとに積もる薔薇の塵
夏暁や雀も猫も屋根に出て
大仕事したかにひとつ蚊を打ちて
巣を狙ふ鴉に椋鳥のスクランブル
頭を高く並べ筍青二才
朝風に子を呼ぶ声音四十雀