橡の木の下で

俳句と共に

大塚洋二句集『桑弧』紹介

2018-01-06 14:42:48 | 句集紹介

 句集『桑弧』

平成29年12月20日 発行

著者 大塚洋二(おおつか ようじ)

発行 揺籃社

私家版

 

著者:

昭和25年 群馬県前橋市生れ

平成2年  橡入会

平成29年 橡新人賞

平成30年 橡同人

 

問合せ先:

〒371−0056

群馬県前橋市青柳町915−2

大塚洋二


抄:

行く舟を巻きつつ海猫の渡りかな

義士の日の腹こしらへて子は塾へ

佐渡弥彦ともに見えゐて雪起し

注連貰赤城の裾に住みなれて

北国街道蚕種たやさぬ一戸あり

初赤城裾ゆるやかに我が家まで

切れ切れにのこる旧道初音せり

相思樹の揺るる花かげ胡弓の音

秋燕風の便りを託されて

亀鳴いて友に補聴器すすめけり

田へ急ぐ八海山の雪解水

溝五位の羽音しのばせ朝帰り

抜け穴の残る母校の木の芽垣

今日もつて消ゆる村の名迎春花

草刈隊ラジオ体操して散れり

キューポラの古びし空に秋の声

親鸞像堅雪に杖つきたてて

牧水の健脚しのぶ夏野かな

とりどりの花種もらふ成人日

あすなろの並木ひときは天高し

色鳥や音かろやかな藜杖

遠目にも田鳧とわかる髪飾り

青胡桃まろぶ辰雄の散歩路

姥百合は森の道標四方を指す

檸檬風呂京は古くて新しき

 

 


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鳥越やすこ・浅野なみ二人句集『姉妹アルバム』紹介

2017-08-17 14:12:35 | 句集紹介

句集『姉妹アルバム』

平成29年8月12日発行

著者 鳥越やすこ・浅野なみ

発行 揺籃社

定価 2,500円(送料込)

著者略歴:

鳥越やすこ 

昭和24年 香川県生れ

昭和50年 「馬酔木」初投句

昭和59年 「橡」入会

昭和62年 「橡」青蘆賞(文章)

平成元年 「橡」青蘆賞(俳句)

平成3年 「橡」同人

俳人協会会員

 

浅野なみ

昭和22年 大阪生れ

昭和44年 「馬酔木」初投句

昭和59年 「橡」入会

平成3年 「橡」同人 

     「橡」青蘆賞(俳句・文章)佳作

問合せ:

〒658−0052

兵庫県神戸市東灘区住吉東町4-2-26-101

電話:078-862-9520 

鳥越やすこ



序  『姉妹アルバム』に寄せて

                 亜紀子

 

 鳥越やすこさんと浅野なみさん姉妹。鳥越さんが妹の浅野さんより二つ年下の兄嫁という間柄である。鳥越憲三郎、すみこ夫妻(馬酔木時代から活躍、橡創刊にも大いに貢献された)の薫陶のもと、お二人とも二十代から俳句を始められた。長い俳句人生を学者のご一家、お仲間と和気藹々、ある意味恬淡と俳句そのものを楽しみ、それぞれの持ち味を実直に耕してこられた。待ち望まれた句集も姉妹揃っての発刊というところ如何にも聖鳥越一家の感がある。

 

 鳥越やすこ 

 受験子に洗はれて犬しづかなる

癒えたりと微笑端座の生御魂

母眠り春の雨より息しづか

竜天にその尾を掴み父逝くか

陽炎や父に未完の一著あり

ぽつねんと父の杖あり鳥曇

他人に聞く母のおもひで縷紅草

末の子の佳き人連れて小望月

 

 浅野なみ

 角とれし父の気性や桃啜る

銀漢や戸締りゆるき父母の家

冬の鵙父のペン先機嫌よき

受験子の度胸は祖父の血を受くる

鵤鳴き口笛合はす合格子

母の笑み言葉に勝り聖夜なり

春星や亡き母恋ひて父の逝く

初雪や天にふはりと母召され

蓑虫や人もちちよと呼びてをり

子の胸に父母は棲みたり露の秋

 

なみさんと呼ぶ親しさも春隣  星眠

 

 星眠先生のこの一句は浅野さんその人を言い尽くしている。いつどこでお目にかかっても、全身の微笑で迎え入れてくださる。母上のすみこ先生を彷彿。そのすみこ先生から、やすこのことは誰に聞いても悪く言う人がいないんですよと常伺っていた。この二人の写真集であるから、どのページを開いても見る者の心に気持ちが良い。俳句はこうありたいという星眠精神の表れである。

 

 鳥越やすこ  

 マント着て影大いなり宣教師

わが窓のいくたびかげり雁帰る

祝婚や丘のヴェールの花林檎

ソーダ水窓一面に瀑布見て

一飛行養花天より霾天へ

火車春夜上京の荷を枕とす

上京家族地図に頭を寄す鳥曇

リラの樹下椅子ひとつ置き床屋なり

中国将棋差すも覗くも瓜食める

倫敦の時雨あとさき霧を生む 

漆黒の瞳すずしくマヤ少女

新訳の源氏に溺れ梅雨籠り

信長忌はた光秀忌梅雨荒るる

黒南風や橋につながれ淡路島

寒鮒釣目礼をしてまた一人

ハードボイルド読めばかなぶん体当り

蒸米を大黒担ぎ寒造

虻と入る御室桜の雲中に

荒神輿蟬飛び入りて弾かれし

 

 浅野なみ

 拝火教墓域に来れば時雨けり

鴨撃やまだ汚れざる犬の四肢

春風に膝小僧出すアンネ像

をろがみてとくとく清水手に掬ぶ

薫風のときに烈風摩天楼

ビーバーの巣組みし水の明易し

鈴や鉦打ちて虫酔ふ望の月

天文台新樹の夜も電波読む

烏相撲尻餅といふ負けもあり

新涼や小鳥が小さき舌見せて

焼栗屋司祭さま来て立話

北風をやすやす入れし自動ドア

善き人に飼はれ金魚の長生きす

水影も身も漆黒の蝶とんぼ

芭蕉翁終焉の地の枯るる音

朝東風や稽古力士の湯気立つる

「天国と地獄」に沸けり運動会

 

 風景句、はっとするクローズアップに思いがけないロングショット。異国の生活スナップも多々あり興味は尽きない。どこかに深い陰影を宿しながら、けれんや嫌みのない心象風景。いずれ劣らぬ名ショットの数々は、穏やかに、しかし妥協は許さず我が道を撮りつづけてこられた結実である。

 鳥越さんは「橡」編集長として奮闘活躍されている。思えばいの一番に「やすこさんは編集の仕事をするために生まれてきたような人」と見抜いてくださったのは浅野さんだった。お二人には昔も今もお世話になるばかりである。『姉妹アルバム』のご上梓をお祝い申し上げ、嬉しく、心弾んでいる。  

 

         平成二十九年七月佳日

 

 

 

 

 


  


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細川玲子句集『木のほとけ』紹介

2017-07-08 08:30:05 | 句集紹介

細川玲子句集『木の仏』

平成29年水無月吉日 発行

著者 細川玲子

発行 Baum

私家版

著者略歴:

昭和4年 東京生まれ

昭和50年 馬酔木入門

昭和59年 毎日俳壇賞受賞

昭和59年 「橡」入門

平成17年 「橡」同人

俳人協会会員

京都俳句作家協会会員

問合せ:

〒614−8367

京都府八幡市男山長沢22−1

 

『木のほとけ』に寄せて

            亜紀子

 細川玲子さんが処女句集を編むとうかがい、軽い驚きを覚えた。とうに第一句集を拝見していたような錯覚があったのだ。

 こころみに初期の作品からいくつか引いてみる。

鷹羽よと春蘭掘の呉れにけり

一茎の青蘆挿せり鑑真忌

蓑虫の衣紋抜きたる萩小袖

どの道もみ仏思慕の柿の村

空白に幸ひありし古日記

鴛鴦の淡きしぐさの妻選び

山霧のせめぎ入るなり竹伐会

白腹は野守のごとし落葉掻く

着眼と言葉の斡旋、調べが整い、端然として崩れざる風情、すでに及び難い境地である。一句の底に深い思慮と詩心とが一体となり、自ずと品格がにじみ出る。

 関西同人会の吟行句会でご一緒させていただく細川さんは寡黙である。歩いている間は観察怠りなく、鳥どちの声にも耳を澄ます。句会の席ではご自分から発言されることは少なく、人の話に聞き入る。こちらからお喋りをすれば正鵠を射る返事をいただき、安心と落ち着きを得る。

  集中二章以降の作品から挙げる。多彩な句材のどれも細川美学が貫かれている。

 柚子湯出でほのぼの老いの兆しけり

大佐渡に雪嶺ひとつ種下し

青梅雨の山の窪みに浄土院

雪吊りの弦に小をどり玉霰

子の妻と阿吽の厨月日貝

蜻蛉らも水に尾を挿す御田植

入浴介護しとどの汗に了りけり

暖かや来ては余談の往診医

昼眠る夫の辺にわが籠まくら

星寒し怠らざれど躓く日

大盃の月傾けて新仏

抽斗をひとつ引くにも風邪心地

屈託をさらりと躱しスイミング

独り住むことの涼しくすひかづら

邯鄲の近づくほどに声はろか

夕木槿音なく白帆畳みをり

夕蟬や怒髪しづかに木のほとけ

秋気満つ一山羅漢声もなく  

みんみんや黒光はなつエジソン碑

雪の降るこの静けさや星眠忌

文机へ夫の墓前へ水仙花

 

 星眠代理として初めて五月大会に参加した日、おろおろとしていた私に、お忙しいですねと細川さんが声をかけてくださった。常変わらぬその声を聞くと、咄嗟に、波に呑まれぬようにしなければと思いますと答えていた。爾来ものに動じぬ一本の芯を持つ細川さんは道しるべである。

 音楽家のお孫さんが欧州で活躍されていると漏れ聞く以外には細川さんの来し方など何も存じ上げないのだが、このたび昭和四年東京生れということを伺った。昭和六年東京生れの母が思い出され、いっそうこころ懐かしく、この機会を与えてくださったことに感謝するばかりである。 

 

 


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昼寝の会合同句集『昼寝の枕』

2017-06-18 10:01:47 | 句集紹介

昼寝の会合同句集『昼寝の枕』

平成29年6月吉日 発行

発行者 昼寝の会

代表 吉村香月

〒152−0001 東京都目黒区中央町1−9−29−504

定価 1,000円(税込み)


昼寝の会 合同句集「昼寝の枕」が完成しました。

  「ルドルフとイッパイアッテナ」という絵本の中で、イッパイアッテナという猫は、いろいろな名前でよばれている。この「昼寝の会」では、まず俳号をもってもらうことにしている。

本名と違う俳号であれば、結社やキャリアにこだわらず、自由に俳句が楽しめるのではないだろうか。正岡子規にも四十二の号があったのだから。

 「昼寝の会」は、某異業種交流会のクラブ活動のような形で、平成十四年に始まった句会である。初回の兼題から名前を付けた。毎月飲み会のような句会を欠かさずに続けている。この合同句集「昼寝の枕」は、初回から第百八十回までの約十五年をまとめたもの。二回以上参加された三十二名の方の作品を掲載している。

初めて句集を手にする方のために、歳時記のようにし、どんな季語が入っているかをわかるようにした。また、読みにくい箇所にはルビをつけた。わからないことがあれば、遠慮なく聞いていただきたいし、歳時記を繙いてみられたらどうだろう。 

 俳句が身近にある文芸であることをご理解いただけるのではないだろうか。

                     一冊 千円

              問い合わせ先:〒152-0001 東京都目黒区中央町1丁目9番29号504

                     吉村 香月 (姉羽)

<時候>

  無言館黙して朱夏の小半日   餘花

   炎帝や油まみれの修理工    井蛙

卯月 通勤の渦に歩のあふ夏初月   香月

立夏 両国に鬢付け香り夏来る    歩人

夏至 高きよりシェリー酒注ぐや夏至ゆふべ  紫野

夏めく 夏兆す石の祠のマリア像   井蛙

薄暑 電光ニュースすべりゆくなり街薄暑

   湿原の木道ぽくぽく薄暑かな  いずみ

   パエリアの大鍋の香や街薄暑  紫野





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菅原ちはや句集『草も木も花も』紹介

2017-04-06 20:59:41 | 句集紹介

菅原ちはや句集『草も木も花も』

平成29年3月18日発行

著者 菅原ちはや

発行 揺籃社

私家版

著者:

昭和22年 東京生れ

平成27年 橡同人

俳人協会会員

問合せ:

〒158-0091

東京都世田谷区中町4−31−1

tel.03−5706−7806

 

『草も木も花も』に寄せて

             亜紀子   

 

 菅原さんは藤色が似合う。お好きな色だとのこと。吟行句会でもよく藤色のシャツやセーターを身につけて来られる。何かでこの色を見つけると「あっ、ちはやさん」と、句会仲間はすぐに楚々とした菅原さんを思い浮かべるほどだ。自然や事象の繊細な、微に入った趣きに着目して詠まれる。何となく、俳句そのものに青みを帯びた紫の色を連想する。

 

燭ゆらぎ手話降誕を告げてをり

解き放つ心を乗せて春の雲

梅雨冷えやひとり芝居の試着室

ひと筋の日差に咲きて山薄荷

錦木の小花さみどり梅雨に入る

風船葛いつもだれかが触れゆけり

 

 ところが菅原さんには別な一面もある。ご自身のはっきりした意見をお持ちで、この世ごとなどに対してきっぱりした物言いをされるので驚かされる。公正で合理的、団塊の世代である。この世代の女性は強くしなやか。同性として尊敬する。

 

風船をはなち今日より廃校に

雪嶺の屏風はるかに雛飾る

極月のタクト一気に楽生るる

波郷墳冬日さへぎるもののなく

ハングライダー助走短く花野発つ

一湾の波音消して大花火

 

 菅原さんがクリスチャンであることは存じ上げていたが、信仰について話されることはなく、教会の花壇の世話のことなどを楽しく伺うのみである。

 

新任の司祭花好き小鳥来る

聖堂のしじまに満ちて初茜

朝ミサに開く大扉や初茜

 

 本集の巻末の二編は巡礼の句でまとめられた。どちらも気負ったところはなく、素直に対象を見つめ、把握し、のびやかな詠いぶりだ。

 

春暁の心にとどむ聖句あり

アラブ菓子ほろりとくづれ春の昼

初夏の風吹きかはるガラリヤ湖

旅信書く卓に影おく棕櫚の花

日焼せし漁師加はる朝のミサ

島人の祈りつぐ日々花蘇鉄

夏暁の出船見送るマリア像

運転手ガイドも信徒島の夏

 

菅原ちはやという人をバランス良く統一しているのが信仰なのではと思い至る。

 

草も木も花も実となる小六月

 

『草も木も花も』という題名も神の讃歌の一節のように響いてくる。

 繙いて本句集への興趣尽きることなく、また吟行をご一緒させていただくのを楽しみにしている。

 

       平成二十八年春

 

 

 


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