橡の木の下で

俳句と共に

正面

2009-06-30 17:30:17 | 一日一句
恐るるべきは自分。
自らを受け止める、正面から見据えて、軸足を動かさず、体の中心で。
流さない、逃げない、誤摩化してはいけない。
誰もみな独りで生まれおち、独りで消えていく。これを当たり前のこととして。
自らを頼めば、世界がそこから広がる。
光り。

啓蟄や己れの言に驚きて  (平21橡5月号)
青蔦を鎧ふあやふき小家かな(平19橡8月号)

花にまつわる

2009-06-30 01:15:27 | 一日一句
修道女若しチェリーの花を掃き (平5橡7月号)
盤石の上にもゆるるちんぐるま (平7橡9月号)
十薬や旧き家並の陰ひなた   (平9橡7月号)
山茱萸の花の瞬きひらきけり  (平11橡5月号)
喜びやひとつ二つと蕗のたう  (平17橡3月号)
柊の花のやうにぞありたけれ  (平19橡2月号)

野の花はただそれ自体で過不足なし
A flower is of itself.
時々思い出し、くり返してみる。
雨に打たれて折れぬ花。
夜更けの雨しとど。



問いの在り所

2009-06-29 14:55:27 | 一日一句
地をよぎる蝶の影濃き日和かな (平19橡7月号)
石けりの跡や南天花こぼし   (平19橡8月号)
そぼ濡れて鴉子育ていかなるや (平18橡6月号)
検針日紫陽花ごしに覗きをり  (平18橡9月号)
かの路地の昔恋しき花ざくろ  (平16橡9月号)

小学校の保護者会が毎年数回の古紙古着の回収で収益をあげ、生徒の学校生活に還元してきた。昨今は学校の設備費の一部に保護者会費を充てることも。
同じ地域の町内会も資源回収を始めた。狭い路地に電灯を設置して夜間の安全をはかる運動の一環。世帯数は同じである。資源確保をめぐって小さな対立。これまで小学校も使わせてもらっていた町内会の掲示板の利用ができなくなった。
町内会の立役者はおおむね達者なお年寄り。
お孫さんは学校に通っているでしょうに、町費はこちらも納めているのに、云々。しかしそこは同じコミュニティーのお隣同士。口には出さず、争いは避けて円満に。それでもちょっとしっくりこない。

だが待てよ。公立の小学校の設備費まで保護者が直接負担するのはなぜ。
町内のささやかな安全確保のために波風立てながらも自腹を切るのはどうして。
そもそもの問題の在り所はどこ。

春興

2009-06-28 21:15:23 | 俳句とエッセイ
(平21年7月 橡最新号より)
あをあをと青葉称ふる鴉かな
春興やはつかに揺るるシャンデリア
尾を立てて甍踏みゆくノラの恋
かたつむり汝と語りし日もありき
二階より水木の花序を数へけり  
               亜紀子

子を思う闇も、子への献身も出どころはひとつ。
愛情というものは厳密に追及すれば自己中心egocentrismに行き着く。それも究極の。そう思って観念すればきれいごとや言い訳は払拭される。一方で、それぞれがおのおので生きているのであれば、自分の思い通りにならぬことを嘆く必要はない。生まれおちた人というものは、どんな小さな子どもでも初めから小さな一個の太陽である。哀しみも喜びも自らが放つ光。そうして、そのひとつひとつの星がどこかで繋がっている、その幸せ。

ピンク色

2009-06-27 20:29:39 | 俳句とエッセイ
夏千金夜の明けやらぬ鳥の歌 (平19橡10月号)
林檎切る夜明けの窓のその色の(平12橡1月号)

朝早いのは三文の得である。

昔こどもが週2回の託児所に通い始めの頃、迎えにいくと全面丹念にピンク色に塗り上げた大きな紙を見せてくれた。託児所の先生は他の色もすすめたのだが、どうしてもポスターカラーのピンク1色にこだわってほとんど丸々2時間をイーゼルの前から離れなかった様子を教えてくれた。こどもにたくさんの色を活き活き試させることができなかったと、申し訳なさそうであった。

その朝、アパートのベランダ(そこはほぼ全天を見渡せる場所であった)から、それこそ360度空全面がピンク色に染まる朝焼けを見たのだ。こどもの絵はそれだ。言葉で先生に説明することができなかったらしい。生まれて初めて見た空の光景。

生まれながらに言葉より前に感じる心のあることは確かだと、こどもたちを見てきてそう思う。
どうやってもぴったり言葉にできない想いのあることは確かだと、自らを顧みてそう思う。

どう掘り起こしても、築いても言葉にならないなら、ただ立ち尽くしてピンク色の空を眺めていればいい。とは言いながら、なんとかして取りこぼしてしまったものを拾いたいと思うのだ。