村中孝次
昭和十一年六月四日
最終陳述
1、檢察官ノ論告ハ全面的ニ認ムル能ハズ。
2、日本改造法案ノ説明ヲナシ、改造法案ノ内容ハ決シテ社會民主主義ヲ基礎トシアルモノニアラズ、
天皇ヲ根柱トシアルモノナリ。
然レドモ、今回ノ行動ハ此ノ改造法案ノ實現ニハアラズ。
此ノ法案ハ理想トスルモノニシテ、改造ノ一指針ナリ。
3、今回ノ行ハ民主革命ニアラズ。
陛下ノ御爲ニ重臣、財閥等ノ袞竜こんりゅうノ袖ニ隠レテ大權簒奮ヲナセルモノヲ斬ツタノニ過ギザルモノナリ。
4、我々ノ行動ハ已ムニ止マレズ起チタルモノナリ。
國家危急存亡ノ秋、時弊ヲ今ニシテ改メズンバ國體ノ危機ヨリ、超法的ニ行動ヲナシタルモノナリ。
故ニ、國憲國法ヲ無視シタルモノニアラズ。
即チ、大權簒奮者ニ對スル現行刑法ノ制裁ナシ。
因テ、其ノ犯行者ヲ其儘ニスル能ハザルヲ以テ、之ヲ討ツニハ斬ルヨリ他ニ途ナシ。
5、謀議者トハ 私、磯部、栗原、野中ノ四名ナリ。
強イテ謀議ノ中ニ入ルノナレバ、安藤、香田 位ナルベシ。
ソノ他ノ者ハ自分ガ部署ヲ決定シ下達シタルモノニシテ、
檢察官ノ曰ハルル謀議ハ行動者タル軍隊ノ部隊トノ聯絡迄モ謀議ノ中にイレアルハ遺憾ナリ。
6、法律論
今回ノ行動ハ大權簒奮者ヲ斬ル爲ノ獨斷専行ナリ。
党ヲ結ビテ徒ニ暴力ヲ用ヒタルモノニアラズ。
我々軍隊的行動ニヨリ終始一貫シタルモノナルヲ以テ、
此獨斷専行ヲ認メラルゝカ否カハ一ニ大御心ニアルモノナリ。
若シ 大御心ニ副ヒ奉ル能ハザリシ時ト雖モ反亂者ニアラズ。
陸軍刑法上ヨリスレバ壇健ノ罪ニヨリ処斷セラルルモノタルヲ信ズ。
・・・憲兵報告
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