あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

軍務局長室 (7) 軍属 金子伊八 「 片倉衷少佐が帽子を持って居りました 」

2018年05月10日 06時48分11秒 | 相澤中佐事件 ( 永田軍務局長刺殺事件 )

聴取書
陸軍省軍務局
陸軍属  金子伊八
本月十二日 軍務局長遭難当時の状況を申しますと、
同日午前九時四十分頃と思ひますが、局長室の方に当ってどつどつと云ふ様な異様な物音がすると共に、
引続いて局長室と云ふ声が聞えたので私は急いで廊下に飛出した処、
左の方廊下の扉の附近に背の高い佐官(帯革の赤き) が出て行くのを見ました。
其の時 山田大佐が局長室の前の廊下に居って、
こっちだこっちだと申しますから急いで局長室に入りましたら、
円卓の向側に局長が上半身を椅子に凭せて倒れて 其の椅子は円卓に支へられて居りました。
私が局長室に入った時には山田大佐の外には未だ誰も居らなかった様に思ひます。
私は直ぐ仰向けに倒れて居る局長の左側から局長の上半身を抱き起しました処、
別に処置の採り様がありませぬから暫く其の儘 支へて居りました処、
軍医が来て胸の釦を脱して 胸の附近を見ましたから 私は下に寝させました。
夫れから間もなく私は自分の室に帰りました。

其の後 私が課員室の階段の方の入口前の廊下に居った時、
整備局の属官が来て局長室に帽子があるから取って来て呉れと云ひましたが、
私は直ぐ局長室に入れぬと思って其の旨を云うて断りました。
併し私は果して帽子があるか否かと思うて 局長室に行って見ました処、
片倉衷少佐が帽子を持って居りましたから、同少佐に整備局の属官が帽子を取りに来ました
と 云ひましたら 同少佐は  「 之は遣れぬ 」  と 申されました。


私が最初物音や声を聞いた時の位置は、課員室の隣の会議室であります。
元来私は属官室に於て執務するのでありますが 
予算、積算の仕事をする為に雇員一名と共に花本大尉の指揮を受けて同室で仕事をして居ったのであります。
花本大尉も同室に居りましたから兇変の際は同大尉も私に続いて飛出したと思ひます。

血痕の状況は局長室から出て軍事課の前の廊下、監房に通ずる廊下及軍事課北側廊下 (階段上の所)
に落ちて居りましたが、之れ等の血痕は製本職工岡部が掃除したから同人が能く知って居る筈であります。
・・・昭和十年八月十六日

現代史資料23
国家主義運動3 


この記事についてブログを書く
« 大御心 「 陸軍に如此珍事あ... | トップ | 軍務局長室 (6) 池田純久中... »