水上源一
被告人訊問調書 被告人水上源一
右者ニ對スル叛乱被告事件ニ附、昭和十一年二月二十八日 當分隊ニ於テ本職
( 注：三島憲兵分隊 陸軍司法警察官陸軍憲兵曹長山中梅吉 ） ハ右被告人ニ對シ、訊問ヲ爲スコト左ノ如シ
氏名、年齢、族称、本籍、出生地、住所ハ如何
氏名ハ前述ノ通リ
年令ハ當二十九年
族称ハ平民
本籍ハ東京市神田區西神田二ノ二一ノ三
出生地ハ北海道瀬棚郡利別村今金
住所ハ東京市麻布區霞町一
位記、勲章、記章、恩給、年金ヲ有スルヤ
アリマセン
兵役關係ハ如何
第一補充兵役陸軍電信兵
二月二十六日ノ行動ニ就イテ述ベヨ
私ハ二月二十四日午後三時頃、
歩兵第一聯隊ノ栗原サンヲ久方振リデ訪問シタトキ、「 明晩当直ダカラ 遊ヒビニ來イ 」 ト 云ハレマシタノデ、
同志綿引正三ト二人デ面會ニ行キマシタ処、
「 今日ヤルゾ 」 ト云ヒマシタカラ、何時ダカ問ヒ返スト 「 明朝四時ダ 」 ト答ヘシマシタ。
ソシテ、軍服ト着替ヘロト言ハレルニ儘ニ、
其ノ部屋ニアッタ軍曹肩章附着ノ軍服ト着替ヘ編上靴、巻脚絆ヲ穿ケマシタ。
ソノ内ニ同志ガ集ツテ來マスシ、輕機ヤ拳銃、彈薬等ガ運バレ、私ハ日本刀ヲ持チ、
二十六日午前零時四十分頃、皆ト共ニ河野大尉ノ指揮ヲ受ケ、
牧野伸顕殺害ノタメ湯河原伊藤旅館別館ニ向ヒマシテ同家ヲ襲撃シマシタ。
襲撃時ニ於ケル狀況ヲ述ベヨ
私達ハ隊長ヲ先頭ニ目的地タル牧野ノ宿舎ニ參リマシテ門前ニテ區署ヲ受ケ、
私ト綿引、宇治野ノ三名ハ、表カラト云ワレ、勝手口ノ板垣ノ横カラ侵入シ、表玄關入口ニ向ヒマシタ。
ソノ時、隊長ト同志ニ （ 宮田、黒田 ） ハ 勝手口カニ入リマシタ。
私達ハ表玄關ニ行キ、私ハ日本刀ヲ、綿引ハ足デ硝子戸ヲ破壊シテ居リマスト、
中カラ銃聲カ聞コエマスノデ 「 ヤッタナ 」 ト 思ヒ、屋内カラ 「 畜生ヤリヤガッタナ 」 ト 言フ聲ガシタノデ、
敵ガ彼方ヘ集中シタト感ジ、ヤラレテハ大變ダト勝手口ニ向ハウトシタ時ハ、
共ニ來タニ 二人ハ其処ニハ居リマシタノデ、
ソレデ私モ直グ勝手口ヘ廻ツタトキ、隊長ガ中デ同志ニ助ケラレテ出テ來ルノヲ認メマシタ。
私ハ其ノ時 「 輕機來イ 」 ト 大聲ヲ發シマシタラ、輕機 （ 中島 ） ガ 降リテキテ勝手口カラ飛込ミマシタ。
ソコデ私ハ、屋内ヲ指示シ 「 敵ハ向フタカラ撃テ 」 ト 言ヒマシタガ 銃ノ故障カ彈丸ハ出マセンデシタ。
ソコデ私ハ輕機ガ使ヘナケレバ駄目ダト感ジ、隊長ヲ探シマスト玄關前ノ処デ屈ンデイタノデ隊長ノ許ニ行キ、
「 火ヲツケマス 」 ト云ツテ、前ノ塀ヲ乗リ越ヘテ、
玄關脇ノ物干場ニ行キ干物ｦ下ロシテ火ヲ付ケントシタガ干物ガ湿ツテイテ駄目ナノデ・・・・( 以下略 ）
襲撃ニ加担スルニ至レル動機ハ如何
私ガ日本大學ニ入校シマシタ當時、校内ニ於テ、學生ガ共産主義ヲ云々し、演説練習ニ共産党理論ヲ口説シ、
畏クモ皇室ノ尊嚴ヲ冒瀆スルガ如キ言辭ヤ私有財産制度ノ非認ヲ云々スルガ、
學生間ニ非常ナ拍手感動ヲ與ヘテ居ルノデ、田舎出ノ私ニハ共産党トハ如何ナルモノガ分ラナカッタガ、
皆ニ向ツテ日本ハ他國ト國體ヲ異ニシ 立派ナ國ノ筈ダトテ國體観ヲ述ベタガ弥次ラレテシマッタ様ナ狀態デ、
當時ハ各大學共左翼化シ來テイタ時代デアリマシタ。
ソレカラ私ハ共産党ノ理論ヲ研究シテ見タガ、私ノ國體観ガ正シイノダト信ジマシタ。
然シ、コウシタ學生間ノ叫ビノ内ニ我國ノ何処カニ欠陥ガアルヨウニ感ジマシタ。
ソレカラ一度議會ノ傍聽ニ行ツタ際、神聖ナルベキ國會議場ガ、マルデ政權爭奪ノ修羅場ノ如クデアルノデ、
コレデハ立派ナ政治ガ行ハレナイト感ジマシタ。
ソレハ田中大將ノ張作霖爆死事件等議場ノ問題トスベキモノニ非ザルニ、政權爭奪ノ具ニ供シ、
議會ニ於テ暴露スルガ如キハ徒ラニ國際關係ヲ惡化スルモノト思ヒ、政党ニ對スル不満ヲ抱ハヨウニナリ、
又、續イテ起ツテ來タ ロンドン軍縮會議ニ於ケル政府特權階級ノ私利私慾ニ基ク屈辱的條約ニ締結
及ビ政党財閥ニヨル弗買ヒ、満州事變時ニ於ケル塩賈事件等
私利私慾ノタメニハ國家國民モ眼中ニナキ輩 （ 特權階級 ） ニ對スル不満ヲ一層感スルニ至リマシタ。
ソレカラコノ儘テハイケナイ、何ントカセネバナラヌト考ヘタガ如何トモ出キマセンデシタ。
其処デ私ハ昭和七年五月十六日、自ラ主唱シテ學生間ニ愛國團體 救國學生同盟 ヲ設立し、
事務所ヲ千駄ヶ谷ニ置イテ合法的運動デ進ンデイマシタ。
當時ノ會員ハ日大、拓大、中大、早大、慶大等デ、約４百名アリマシタガ、之ハ、既ニ解散シ、
昭和九年二月十一日 日本靑年党ヲ設立シ、同十年八月郷軍同志會ヲ設立致シマシタ。
コウシタ私ノ氣持ガ今回ノ事件ニ加担シタ主因トナッテ居リマス。
オ前ト栗原中尉トノ関係ハ如何
ソレハ昭和七年十二月友人ノ山内一郎ガ幹候トシテ歩一ノ十中隊ニ入隊シマシテ、
ソノ月ノ半頃 山内ニ面會ニ行キマシタ際
「 中隊ニ君ノヨウナ気持ヲ持ッテイル將校ガ居ル、會ツテ見タラドウカ 」
ト 言ワレタノデ、ソレデハト言ツテ將校室ニ行キ栗原サンニアッタノガ初メテデ、
其時オ互ヒニ信念ヲ語リ會ヒ 大イニ共鳴スル処ガアリマシタノデ、爾來今日迄同志トシテ交際シテ居リマス。
今回ノ事變ニ對スル計畫ニ參與シ非サルヤ如何
私ハ今回ノ事件ガ如何ニ計畫サレテイタカハ一嚮存ジマセン。
唯實行ニ加ツタダケデアリマス。
指揮官河野大尉トハ面識アリシヤ如何
決行ノ夜 栗原サンニ紹介サレタノガ初メテデ、存ジマセンデシタ。
本件ニ就キ他ニ陳述スルコトハアリヤ
私ノ信念ハ尊皇絶對デアリ
今回私達ノ採ツタ行爲ニ依ツテ皇運ノ益々隆昌ナルコトヲ希フモノデアリマス。
水上源一（自筆）拇印
右讀聞ケタル處相違ナキ旨申立ツルニ附署名拇印セシム
昭和十一年二月二十八日
三島憲兵分隊
陸軍司法警察官 陸軍憲兵曹長 山中梅吉 （印）
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(法務官) 維新運動ニ入リタル動機如何
水上源一
日本大學在學中、學生間ニ共産主義運動ヲ主張セルモノ多カリシガ、
共産主義者ハ我ガ國體ニ相反スル思想ナリト反駁シ、
當時ヨリ日本精神ノ研究ニ入リタリ
ロンドン條約ハ我ガ重臣ガ米國ヨリ買収セラレ、
遂ニ六割ト云フ屈辱的條約ヲ締結シタル事實ヲ知リ、
重臣等ハ全ク私利私慾ノミニ狂奔シ國家ヲ顧ズ、
之等奸賊ノ一掃ヲ痛感シ居タル折柄、
五 ・一五事件、神兵隊事件、埼玉挺身隊事件等相次イデ惹起シ、
一層維新達成ノ必要ヲ痛感シタルモノナリ。
(法) 栗原中尉と知り合ひたる動機
友人ガ昭和九年一月歩兵第一聯隊ニ入營シタル爲見送リニ行キ、知リ合ヒマシタ。
(法) 二・二六事件ニ参加シタル經緯
栗原中尉ト知リ合ヒタル後ハ時々出入シ、國家改造ヲ論議シ來リシガ、
栗原中尉ヨリ、二月二十三日頃満洲ニ出征スルカラ面會ニ來イトノ事デ、
二十四日ニ同中尉ヲ訪問シタルガ、今日ハ多忙デ面會出來ヌカラ二十五日ノ午後九時頃來イトノ事デ、
二十五日午後九時頃栗原中尉ヲ訪レタルニ、明朝午前五時ヲ期シテ決行スル旨聞キ、
始メテ維新斷行ノ決行ヲ知リ、參加ヲ承諾シ、參加セリ
(法) 蹶起後の行動に就て
栗原中尉ヨリ日本刀ヲ与ヘラレ、
午前零時三十分頃、航空兵河野大尉外六名ト共ニ營門前カラ自動車二臺ニ分乗シ、
神奈川県湯河原ニ向ケ出發、午前五時頃湯河原伊藤旅館別館ニ到着、
河野大尉ノ指示ニ從ヒ同館ヲ襲撃、放課後、同七時頃自動車ニ分乗、
河野大尉不肖シタルヲ以テ熱海病院ニ向ヒ、到着后三島憲兵隊ニ同行セラレタリ
(法) 直接行動ニヨリ維新斷行ハ成功スルモノト信ジ居リヤ
栗原中尉ヨリ常ニ維新斷行ハ第一師團全部ガ出動スルト聞イテ居リタルヲ以テ、
斷行出來得ルモノト信ジテ居リタリ、云々
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水上源一
求刑は懲役十五年
判決は死刑
死刑の判決文には、
「 右ノ者等ニ對スル叛亂被告事件ニ附 當軍法會議ハ
檢察官陸軍法務官井上一男 干與審理ヲ遂ゲ
判決スルコト左ノ如シ
主文 被告人水上源一ヲ死刑ニ處ス （以下略）」
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(法) 被告ハ何時カラ維新運動ニ關心ヲ有スルニ至リタルヤ
宮田晃 豫備曹長
歩兵學校戰車隊ニ文遣トナリタル頃カラデアリマス。
丁度其ノ時ハ五 ・一五事件後デアリ、下士官集會所及將校集會所等ニ於テ、
盛ニ五 ・一五事件ニ就テ議論セラレ、
結局、其ノ精神ハ諒トスルモ、直接行動ハ考慮スベキ餘地ガアル、
然シ、現在ノ時勢ニ雄テハ
萬止ムヲ得ズトスル所ノ輿論ニ大部分ノ者ガ同意シツツアリテ、私モソレニ同意シテ居リマシタ。
維新運動ニ感心ヲ有スルニ至リタルハ、此頃カラデアリマス。
歩一ノ栗原中尉モ歩兵學校ニ來テ居リ、
誰カ友人ガ栗原中尉ノ職權ニ抱負、人格等ニ就テ知ラセテクレマシタノデ、
其ノ後栗原中尉ニ会會ヒ、種々時事問題等ヲ承リ、
維新問題ニ就テハ荒木、眞崎、柳川ノ陸軍首脳部ノ者モ 吾々ト同一意見ヲモツテ居ルモノダト栗原中尉リ聞キ、
將校ヲ絶對ニ信ジテイタ私達トシテハ疑フ餘地モナク 國家革新運動ヲセネバナラヌト思ヒマシタ。
其頃郷里ノ生計狀況等ニ就イテ聞ヒテ見タ処、
私ノ實家ハ町内デ中位ノ生計ヲ營ミ居タガ、
私ノ入營後、何時ノ間ニカ全財産ガ他人ニ賣リ渡サレテ居ル事實ヲ知リ、
私ノ心ハ一層國家改新運動ノ急務ヲ痛感スル様ニナリマシタ。
(法) 二・二六事件ニ參加シタル動機
私ハ昨年十一月、家庭ノ事情デ除隊致シマシタガ、
除隊後ノ就職運動ニ際シ、栗原中尉ノ紹介ニ依リ、
山口大尉ヲ經テ日本製鋼株式會社人事係トシテ就職スル事ヲ得マシタ。
ソレ迄ハ八方手段ヲ盡シテ就職運動ヲ致シマシタガ適當ナモノガナク困ツテ居ル時、
一躍願ツテモ出來ナイ人事係トシテ採用サレタノモ、
之 一偏ニ栗原、オ蔭ナリトシテ一層信頼スル様ニナリ、何時カハ恩ニ報ヒナケレバナラヌト誓イマシタ。
偶々一月中旬頃、其ノオ礼ノ傍栗原中尉ヲ訪問シタル処、
今度俺達ノ蹶起スル時ハ必ズ參加シテクレト頼マレマシタノデ、即座ニ返答シ、別レマシタ。
其ノ後二月二十一日栗原中尉ヨリ電話ガアリテ、
二十三日來テ呉レトノ事デユキマシタ処、
忙シイカラ二十五日午後八時ニ中島モ同行シテ來イト命ゼラレ、別レマシタ。
其ノ前ニ中島ノ就職方ヲ栗原中尉ニ依頼シテアリマシタノデ、
多分就職運動ノ事ダロウト思ヒ、二十五日午後八時訪問シ、
初メテ昭和維新斷行ノ事ヲ知リ、參加イタシマシタ。
(法) 被告ハ湯河原伊藤旅館ニ於テ拳銃ヲ發射シタカ、如何
其ノ事ハ豫審廷ニ於テ種々訊問セラレテ居ルガ、私ニハヨクワカリマセン。
豫審廷ニ於テ、薬莢ガ一個アルカラ發射シタロウト云ハレマシタガ、
私ハ河野大尉ト表玄關カラ侵入シ、誰カ男ノ人ガ奥ニ見エマシタノデ其ノ男ヲ捕ヘ、
牧野ノ居室ニ案内セヨト強要シ、其ノ案内ノ途中、河野大尉ト私トハ拳銃デ射撃サレ、
其ノ場ニ倒レ、其ノ時始メテ拳銃ヲ取出シマシタガ、射撃セリヤ否ヤハハッキリ記憶ガアリマセン。
(法) 其ノ後ドウセルヤ
黒澤ノ援ケヲ得テ自動車ニ乗リ、同志ノ引上ゲルノヲ待ツテ松野病院ニ運バレ、
治療ヲ受ケテ居ル中ニ憲兵ガ來テ、横須賀ノ衛戍病院ニ移サレマシタ。
(法) 伊藤屋旅館ガ家事ニナッタ時、被告ハ自動車ノ中ニ居タノカ
ソウデアリマス
(法) 被告ハ直属上官ヲ信頼セル事ナク、栗原中尉ノミヲ信頼セルハ如何ナル理由カ
此ノ問題ハ別個ノ問題デアリ、栗原中尉ヲ信頼スルモ敢テ差支ナイト思ヒマス。
當時栗原中尉等ハ聯隊内ニ於テモ相當急進將校トシテ有名デアリ、
又、中隊長、大隊長、聯隊長等ガ彈壓ヲ加ヘルデモナク、注意ヲ与ヘル事モナカツタノデ、
聯隊全部ガ維新斷行ノ必要ヲ認メテ居ルト思ヒマシタノデ、
將校ヲ絶對ニ信頼シテ居タ私等ハ、中隊長デアルト否トニ拘ラズ信頼シテ居マシタ。
(法) 被告ハ直接行動ニ對シテ如何ナル考ヲ以テ居ルカ
最惡ノ場合ハ致方ナイト思ヒマス。
(法) 現在ノ心境如何
天皇陛下ノ御宸襟ヲ悩マシ奉リタルハ恐懼シテ居マスガ、
私等ノヤツタ行爲ハ惡イトハ思ツテ居リマセン。
(法) 被告ハ未ダ何カ申述ベタイコトモアルト思フガ、後日機會ヲ見テ与ヘルカラ、今日ハ之デ打切ル
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(法) 被告は維新運動に何時頃から関心を有するに至りたるや
中島清治 予備曹長
歩兵學校戰車隊ニ分遣中、栗原中尉ト會ツタル頃カラデアリマス。
其ノ経緯ハ、宮田ノ動機ト略同一デアリマス。
(法) 被告ハ未ダ恩給年限ニ達シアラザルガ、ナゼ除隊セルヤ
第一、長兄ガ三ヶ年前カラ行方不明デアリ、次兄ハ分家トナリ、
實家ヲ救フノハ私意外ニ誰モ無ク、一日モ早ク實家ヲ窮地ヨリ救ツテヤリタカツタカラデス。
第二、國家革新運動ニ就イテ中隊長ト意見衝突セル爲、
現役ニアツテハ國家革新運動ガ出來ナイト思ヒ、亦、中隊長ニ對スル反感モ一助トナツテ居マス。
第三、 歩兵學校戰車隊ニ分遣トナリタルハ、左足ヲ負傷シ歩行スルニ苦痛ヲ感ジル様ニナツタ爲、
戰車隊ナラバ奉公出來ルト思ヒ、分遣勤務トナツタノデアツタガ、
其ノ後モ左足ノ具合ガ良好ナラザル爲、除隊ヲ決意セリ。
(法) 二・二六事件ニ參加シタル動機
除隊後ノ就職方ヲ栗原中尉ニ依頼シアリタル爲、宮田方ニ世話ニナリナガラ、除隊後モ二、三回會ヒマシタ。
會ヒ度ニ栗原中尉ハ、「用意ハイイカ」 ト口癖ノ様ニ云ツテ居ルノデ、
何時決行スルノカトキイテモ敎ヘテ呉レマセンノデ、亦就職ノ事モ決定セザルタメ、一時實家に歸リマシタ。
偶々二月二十三日に 「 スグ出テコイ、シユウゴウ 」 ト言フ電報ガ參リマシタノデ、
愈々決行スルモノト覺悟ヲナシ、家事整理ヲナシ、二十五日上京致シマシタ。
然シ、其ノ時ハハツキリワカリマセンデシタ。
二十五日 宮田ト同道栗原中尉ヲ聯隊ニ訪問シ、初メテ決行スル事ヲ知リ、
同志ト牧野伯殺害ノ命ヲ受ケ、河野大尉ト參加致シマシタ。
(法) 被告ハ湯河原ニ於テ如何ナル事ヲナセルヤ
輕機二銃ヲ携行、一銃ハ表玄關ノ方向ヘ、一銃ハ裏口ノ方向ヘ銃口ヲ向ケ、
黒田ニ小銃ヲ携行セシメ監視シテ居リマシタ
(法) 牧野伯ノ居室ニ向ケ発射セリトキクガ、事實カ
水上ガ伊藤屋旅館ニ放火セルニ拘ラズ、猶牧野伯ノ姿ガ見ヱナイ爲、發射致シマシタ。
(法) 幾發位發射セルヤ
三、四十發位ト思ヒマス。
其ノ後間モナク火事モ擴大シ、牧野ノ姿モ見エズ焼死セルモノト信ジ、河野大尉ノ命ヲ俟ツテ引上ゲマシタ。
(法) 其ノ後ハ
引上ゲテ來タガ、家族ガ悲鳴ヲアゲテ救ヲ求メテ居ルノヲ聞キ、
サツソク消防隊ニ救助ヲ命ジ、私等ハ其儘引上ゲテ參リマシタ。
(法) 現在ノ心境ハ
陛下ノ御心ヲ悩マシ奉リタルハ恐懼ニ堪ヘマセンガ、
我々ノヤツタ事ガ惡イトハ思ツテ居リマセン。
若シ惡イトスルナラバ、モット徹底的ニ奸賊ヲ除カナケレバナランカ、
サモナケレバ別方面ニ原因ガアルカ、研究シナケレバナラヌ問題ト思ヒマス。
