あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

最期の陳述 ・ 坂井直 「 私が死刑になれば 高橋、安田、麥屋、下士官兵に罪なしと斷言します 」

2020年09月08日 17時51分56秒 | 暗黒裁判・幕僚の謀略2 蹶起した人達


坂井直
昭和十一年六月四日
最終陳述


罪は自分一個のものならず何処いずこにありやを考えます。
反省すべきは五月四日勅語を賜りたる者たちであります。
( 第六十九特別議会開院式の勅語に
今次 東京に起レル事件ハ朕ガ憾うらみトスル所ナリ
我ガ忠良ナル臣民朝野和恊文武一致 力ヲ國家ノ進暢しんちょうニ致サムコトヲ期セヨ  とある )

論告を一貫して観察するとき、正義はいずれにありやを疑います。
事件の眞相は二十六日以後にあります。
私は謀議したことはありません。
二十三日の晩、點呼報告のため週番司令室に行ったとき、
安藤より計畫の一端を聞かされたのみであります。
二十六日午前八時頃、眞崎大將が大臣と會談したあと參内して伏見宮に拝謁し、
その上 上奏せられました。
その後になって大臣が上奏せられ蹶起趣意書を陛下の御前にて朗讀せられたとのことであります。
このことは、軍が責任を負う決意を表明したものであります。
秩父宮は 常にざっくばらんにお話し申上げていましたが、
同志間には蹶起した場合、
同宮の御同行を仰いで宮中へ參内するような話がありましたから、
國内の惡い奴を斬るために軍が飛び出し御迎に行ったとき、
殿下は護良もりなが親王の立場に立ち 渦中に立たれませんかとお伺しますと・・
( と 言いかけ 裁判長よりその御答は後で聞くと制止せられたり )
二十六日から二十九日までのことを一體として考えてもらわねば、
今回の事件の眞相は判明しませぬ。
奉勅命令を傳達しなかったことも、犯罪であります。
全部私が仕向けたのでありますから、
私が死刑になれば 高橋、安田、麥屋、下士官兵に罪なしと斷言します。
北島は不起訴になったそうでありますが、長瀬に對する取扱いはそれに比較すれば不公平ではありませんか。
( 註・歩三第一中隊の歩兵伍長 長瀬一と北島弘。斎藤内大臣と渡辺教育総監襲撃に参加して
予審に付され、四月二十四日、長瀬は起訴、北島は不起訴となった。のち北島は追起訴になり、二人とも禁錮の実刑を受けることになる。)
率直に申上げると 兩人は大差はありません。
北島は頭が良いので訓示を聞かなかったと言ったものと思います。
部下を率いて行動に參加したのでありますから長瀬と差はないはずであります。
公平な御取調べを願います。
私は中學時代狂人になったことがあり、
蹶起前にはちょうど陸大受驗
二十三日週番勤務中 安藤より決行を聞き 非常な刺激を受け、
狂人のようになっていました。
このように常軌を逸した人間に率いられた部下には罪はないと思います。
以上
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1、安藤、栗原等ノ陳述ト大同小異ナルモ、時局認識ニ附、
 秩父宮殿下ニ對シ奉ル談話ニ言及シ、裁判長ヨリ注意サル
2、妻帯直後ノ犯行ニ附、一身上ニ附、當時ハ陸大ノ受驗勉強中、週番トナリ、
 身心共ニ困憊こんぱいシアリ、
且ツ安藤大尉ハ自重論者ナリシ爲 此ノ様ナコトハ惹起ナシト確信シ居タルモ、
安藤大尉ノ命ニヨリ間違ヒナキモノト信ジ 一路御維新ニ邁進セル 旨開陳シ
且 小學校時代ニ異動アリタル
コトヲ供述ス
( 約一時間三十分 ) ・・・憲兵報告


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