あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

無眼私論 5 「 眞人 」

2017年04月01日 04時41分57秒 | 西田税 ・ 無眼私論


無眼私論
西田 税

前頁 無眼私論 4 「 女は戀するものである 」 の続き

新人の叫び高い今日 果して新人の意を解し得る人が幾人あらう。
私の高る新人は即ち眞人である。
實際文化進歩の今日。
哲理遂究の漸次徹底し來つた今日に於て新しき人とは眞の人生味に触れた人であらねばならぬ。
然らば 眞の人生味にふれた人とはどうであるか。
人生の行路障碍多し。
而も人生の前途には光明がある。
理想がある。
人生の理想を認め得ずして進みゆく人。
唯々現實眼前に展開する行路をのみ之れを認めて大なる前途の理想を知らざる人。
は 要するに夢生の人である。
之れを眞人と云ふ事は出來ない。
人生の理想----自己の理想に向つて猛進し得る人はまこと眞人である。
所謂自己を屈し、素志を祈つて心ならぬ生活をなす人々こそ實に人生の本義を滅却した人である。

現代、自己の所信を一貫すべく邁進する人間が果して幾人あらうか。
虚僞の人生。
私はこれを最も排斥する。
斯の如き人は決して眞の人生味に触るることは出來ぬ。
人らしい生活----これが私のいふ眞の人生である。
虚僞は人生を壊崩せしむるものである。
形ばかりの人生。内容の貧弱なそして頼りない人生は凡 まる で浮雲の様に哀しい。
あとかたのないものだ。
人生の永遠性を認める私はこんな幻影的な人生を絶對排斥します。

人生の永遠性を認めた私は又私自身即ち自己なるものに就いての眞を認めた。
私は私自身を知つています。
私は決して迷ひません。
私は私の行くべく行路を眞面目に辿ります 而し私は決して他からの妨碍を避けない。
私は精神的に活きる。----活きたいが故に凡ての障碍物を排斥します。
障碍物は境遇的に來襲します。
而も それが多くは物質的な事象のみである。

人間の多くはこの物質のために眩惑させられます。
これが虚僞に陥り易く 從て人生の永遠性を失ふ所以である。
虚僞は人生の永遠性を失ふのみならず國家社会----人間の建設する凡て----を滅亡せしめる。
私は現代を惡く言はぬ 唯。これを現實に直視するとき云ひしれぬ悲しみに打たれるのである。

西欧の文明には曾て理想といふものがなかつた。
理想といふ点に於て当方文明は西欧のそれと雲泥の差がある。
理想のない文明は空文的である。
西欧文明の心酔者は尠しく反省せられたがよからうとは誰やらの話。

俟及でも アツシリア でも 羅馬でも 希臘でも
その過去の文明に於ては決して理想といふものがなかつた
其点に就ては實際俟及に遣つて居る
ピラミッドでもスフィンクスでも何等の理想をも見出すことが出來ないことを發見する。
東方文明。----印度でも支那でも之れには確然として大なる理想を見出し得る。
ここに東方文明の偉大さを知り得る。
徒に西欧文明の尻をつけて自己そのものの眞価を知らない近頃の一部人士諸子よ。
こいねがわく は自省せよ。
況や皮相なる思想を編入してこの偉大なる歴史的文明を壊らむとする者流をや。
小學三年生時代は僕の最も大切な----いまから想ふと----時代であつた。
それを爾來の僕の性質 否 性癖とでもいはうか。習慣といふものの上に大なる變化を來したからだ。
然し それが突然生起したといふのではなく矢張り先天的の素質があつたといふことは爭はれない。

九歳の正月 僕は兄から少年世界を賜はつた。
元旦であつた僕 は一日で讀んでしまつた。
第一頁から最終の頁まで広告であらうが何であらうが盡くをみ通して終つた。
「 面白い 」 といふ感じが特別に深く印象に残つた。
實際その頃の雑誌は今日と違つて出鱈目な気分は少しもなく有益であつたもので
決して今日の様な不眞面目な却つて吾人の精神上に面白からぬ印象や影響を与へるものとは全で違つていた。
それも其日の中に讀んで終つた。
非常な感じを心に受けた僕はそれから毎日毎日裏の土蔵に這入りこんで書物を探した。
そして讀めるものは凡てよんだ。
薄暗い土蔵の中で格子窓を漏れる光線で僕は本を讀んだ。
難しい本もたくさんあつた。
小學校の讀本は簡単である。決して勉強しなければ出來ないといふ程のものではない。
僕は毎日學校がひけると本包みを投げ出して直ぐに土蔵に入り浸つた。

それから四年生を通りこして春を迎へ秋を送り僕は五年生である。
丁度その頃僕の一番大きな姉は嫁いで行った。
先方が教師をしていたので僕の家に寄宿する様になつて僕は益々喜んだ。
本が讀める。本が讀める。
僕の讀める様な本はもう土蔵にはなくなつて來た。
心細かつた僕はここに於て一段の光明を認めた譯だ。

オイケン の哲學もよんだ。カント もよんだ。
一年有半といふ面白さうな本があつたのを好奇心からよんで終つた。
僕は手あたり次第讀んだ
寄生木や思出の記などはとつくに昔によんで終つて小説類にも興味をもつ様になつた。

その頃僕の家ではよく風呂を沸した。
今では面倒だから風呂場を壊して物置にしてあるが僕の子供時代には殆ど毎日の様に沸した。
三助は無論僕であつた。
火を焚く間。湯気の立つ迄の退屈さを僕は歌で繕つた。
しまひには詩吟なるものを覺えた。
僕が一番初めに覺えて歌つた詩は月落烏鳴であつた。
それは四年生の夏だつたらうと思ふ。
それからの僕は一方に於ては非常に詩歌なるものに興味を感ずる様になつた。

自己ノ修養
体操ノ目的ト教練ノ目的
自覺、興味
嚴粛ナル軍紀
個性ト競技
教育法
細密ナル計畫準備
習技者ノ個性 ( 心、身 )
時期 ( 天候、其他 )
説明簡明
模範正確
指導者号令時期ノ態度
欠點ノ發覺ヲ速ニシ且其矯正ノ迅速ナル事
習技者ノ姿勢及實施ヲ正確ニス
運動速度ヲ既整ニス
運動間呼吸ヲ平靜に保タシム
外傷予防ノ注意。指導ノ無理。機械ノ設備。習技者ノ狀態。幇助
教官ノ位置
教官ノ場所

統帥と修養法
統帥---統帥ノ道ハ自己ノ眞的生活ノ結果ニ外ナラズ。
統御セムト欲シテ統御セムカ必ズヤ懐崩セム。
統帥トハ實ニ自己ノ眞的修養ノ贅 ムダ ニアラズシテ何ゾヤ
眞的修養トハ何ゾ
享受セル天眞 ( 之レヲ性ト云フ ) ノ流露 即チ眞ノ自我ニ覺醒シテ其僞ラザル人生行路ヲ順行シ
以テ自我ヲ天眞ノ現實ニ専心スルコト。
之レヲ眞的修養ノ眞骨頭トナス
  * 崇嚴
 三冬孤拙遺
soleil-Levevant  Solennite'
noble 高尚

大隅は逝いた。
而して今復た山県は逝いた。
彼等は共に邦家の柱石であつた。
維新の元勲であつた。
而して曾て因襲的政態を打破して古に復るべく立ち上つた日本の
----新興日本の--- 産婆役を務めた彼等は逝いたのである。
元老として内外に重きをなした彼等。
一片の至誠に生涯を貫き通した彼等。
彼等は今や溘焉として逝いたのである。
私はいろいろと黙想に耽つた。
----奇兵隊の花形たりし往年の山県狂介
----大西郷に自裁を勧告した山県監軍
----遼東の野に兵を麾いた山県大将
----百万の日東陸軍を大陸に動かした山県元帥
----政界の元首として幾年奮闘した山県公
----元老として一代の高位高官を辱けなうし 又 萬般の事を処した山県老公。
彼れは晩年あまりに振はなかつた。
元老無用論の主題ともなつた。
そして今や再び大正維新を迎へつつ逝いたのである。

----大隅八太郎。----何といふ勇ましい名だらう。
長崎時代の

中央政界に乗出したときの彼
更に征韓論投資背の彼れ
更に條約改正當時の彼れ
----私はこれを思ふに刺客來島常喜が悲壮なる事跡を思ひ出して坐ろに暗涙に咽ぶのだ。
----改進党領袖として天下の健児を唸らせた彼
----内閣の首班として奮闘した彼。
----天下の浪人としての彼。
----一萬の學児を育むべく立つた彼。
----幾万の児に擁せられて彼は遂に逝いたのである。

功罪幾何ぞ。而も私は皇室中心の彼等個人を決して
×
×
その後衛として尽く逝いた。

君よ。現實を直視せよ。
而して君はその重大なるを感ぜねばならぬ。
時局----日本を中心とした----は實に重大である。
而も日本は再び維新の時期を迎へて居るのである。

先輩は逝いてもう頼むべきでない。
----而も當時彼等は宛も吾等の如き青年であつたのだ。
新興日本----世界に絶大の寄与をなすべく重大なる責任をもつた日本は今や再び
改革新興の時期に到達したのである。
凡ては吾等青年にかかって居る。
青年日本の建設。----何たる雄々しき叫びぞ。
青年の起つべき時期は丁度今だ。
  誤つた空想的な學問に浸つているときでない
  汚ない思想に心を奪はれて居るときでない
  利己や享楽に耽るときでない
大いに奮発。國家を思ひ。民族を思ひ。更に全人類のために努力すべきである。
活用することの出來ないことは全て無益である。
今や實際に活躍せざるべからざる時期である。
先輩諸氏は吾等青年にこの重大なる時局を有する國家國民
----民族 ( アジア民族 ) ひいて全人類を任せ去つたのである。

聖上の御不例未だ快癒せらるるに至らずして愁雲大内山に漠々たるあるも
臣民としてその御全復を冀ふの一班はまこと臣民としての責を盡して
その大御心を安じ奉るにある。
況や。
英明なる  摂政殿下  在ますをや。

青年日本 !
新興日本 !
青年は起たねばならぬ
 
四月三日夜

( 入院ヨリ三月二十四日迄 )
葉書
加藤芳、中原泰、戸塚、松下、松田、三木、内藤護民、白木寛、岡本成、小山、
菊山、中村文、高木、香取、河邊、宮崎義、鎌田健三、來島大尉、末吉、
封書
父、母、弟、戸塚、新妻中尉、福泉、岡谷、平野、


この記事についてブログを書く
« 西田税 ・戰雲を麾く | トップ | 無眼私論 4 「 女は戀するも... »