あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

藤井中尉、血盟団 小沼正、國家改造を誓う

2018年02月01日 05時15分07秒 | 藤井齊


藤井齊 

藤井中尉と國家改造を誓う

小沼君、
日本もいよいよ此処まで来ては駄目だ。
君も識っている通り、
政党は、党利党略あって、国利国策なし、
三井、三菱、住友等の財閥は政権と結んで国家、国民を搾取して飽くことを知らない。
為に、農村は極度に疲弊しているが、
今の政府はその救済は題目だけ。
都会には失業者が日に月に増加し、
犯罪と一家心中が徒に新聞の三面記事を賑わす材料となるのみだ。
共産主義者は刈れども 摘めども後を絶たぬ。
これは日本の現状が、その温床をなしていると言えるのではないか。
政界の堕落、疑獄は疑獄を生み、腐敗はその極度に達し、
勲章さえ金で売買されるのだ。
頼みに思われた軍部までが、山科半蔵陸軍大将事件で、その威信を国民に問われている。
軍政、軍令の別も今や怪しくなって来た。
皇師幾万の血を以て贖あがなうた満洲の権利も今は全く危殆きたいに頻している。
南京の蒋介石政権は慇懃無礼、陽に排日政策を打ち出し、その陰には、英と米が糸を引く。
それを知りながら、日本の外交は英米追従外交に終始し、
特に幣原外相の軟弱さは、何処の国の大臣で、何処の国の外交かと その所属を問いたいくらいだ。
このざまでは、
いざ お国に一旦緩急あった場合、
青年達は果して祖国防衛に生命を賭して闘うであろうか。
自分の親、兄弟、妻子が飢えていて何の防衛か。
誰の為の防衛か。
青年達がこのことを考えるようになったら大変だ。
私は、思いを茲ここに致す時、
小沼君、
限りない不安と焦燥を感じてならないのだ。
だがここに、吾が国には、一つの救い道がある。
上、天皇在し、汚れなき日の丸がある。
これが今日の日本を支え、明日の日本を救う唯一の希望であり道である。
この一筋の道だけがまた、この己を支えてくれるのだ。
それは和尚の言う通りだ。
しかし道は、余りにま険しく、国民はその荊いばらの道に迷っている。
吾々の任務は既にきまっておるのだ。
国家改造だ!
藤井中尉の声は熱し、その気魄は潮騒さえも押し返していた。
小沼君、
この吾々の使命を達するにはどうすべきか。
和尚以外の指導者はないのだ。
吾々は和尚を中心に死を以て団結し、
国家改造をやろう。
あの記念館にある明治維新の志士先覚者の志を嗣ついで、この日本を護ろう。
腐敗堕落した国家社会を救い、
やがて、日本が名実共にアジア民族の支柱となるようにすることだ。
だがナア 小沼君、
私は軍人だ。
軍人は軍命令で何時、如何なる死地にも赴かねばならんのだ。
私は国家改造をやらねばならんから その方は御免だと言う訳にはゆかぬ。
もし
万が一
私に何事かあったら、
小沼君、
君は 私の分まで働いてくれ。
頼む・・・・。
藤井中尉は、私の手を荒々しく握って、その手に力をこめた。
「 藤井さん、人間は老生不定で お互い様だ。
私に 万一のことがあった場合には、
その時は、藤井さん、私の分までやって下さい 」
よし、お互い二人分だぞ
私は瞳が熱くなった。
藤井中尉の眼にも キラリと光るものがあった。


血盟団 ・ 小沼 正
一人一殺第一号  から


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