あを雲の涯

「 二、二六事件て何や 」
親友・長野が問う
「 世直しや 」
私はそう答えた

貧乏徳利 「 兵隊さんの心は解つて居ます 」

2019年09月18日 05時14分45秒 | 栗原部隊

≪ 首相官邸 ≫
一老人、
三、四才ノ幼童ニ古キ手拭デホオカムリヲナシ背負ヒ、自ラモ古キ着物ヲ着、
六十以上ノミスボラシキ労働者風ノ一老人、
其日ノ糧ニモ貧シカルナランニ、
イズコデ求メシカ、貧乏徳利ニ酒一升ヲ持参。
首相官邸ニ来り。
涙ヲ流シ、泣き乍ラ、
兵隊サンノ心ハ解ツテ居マス。
ドーカ之ヲ呑ンデ下サイ。
コノ老人ノ真心ニハ並居ル将士、心ヲ打レザルハナカッタ。
人ヲ動カスモノハ誠デアル。
真ニ至誠デアル。
少シモイツワラズ、カザラズ、心ヲ込メタルコノ一升徳利ニハ、
赤垣源蔵ノ徳利ノ別レナラデ実ニ心カラ感謝シタ。
コノ酒ハ有難ク戴キ、共ニ呑ンダ其味ノウマサヲ、未ダニ忘レラレナイ。
思ヘハ此ノ老人、今達者カ。
幼キ子供ハ無事成長シテオレカ。
何カ方法ガアツタラ、尋ネテ御礼ガシタイ。
姓モ語ラズ、名モ語ラナカツタ。
二・二六ト貧乏徳利、誠ニフサワシイ天意妙。
雪、血、涙。
今ニシテ思ハム徳利ノ別レナリ。
同志酢ニナシ。
同志ノ遺嘱一念貫徹。
コノ貧乏老人ノ貧乏徳利、一片ノ詩ナリ。
對馬曰ク、国民ノ昭和維新万歳ノ声ガキコエル。
山本曰ク、ソーダ、アナタハ心ノ耳デキクカラ声ナキ声ヲ聞ク。
志士ハ声ナキ天真ノ声ヲキク。
コノ事件ハ雪、血涙事件ダ。
對馬、ソーデス。
君ノタメニ流ス血涙デス。
コノ夜同志、君、国ヲ思ヒ国家ノ前途ヲ憂フ。
首相官邸表玄関入口ニ重機関銃ヲスヘ、コノ傍ニ我等同志語ル。
君、国アルヲ知リ、我、身アルヲ知ラズ。


現代語訳「二・二六日本革命史」
山本 又 著
二・二六事件蹶起将校 最後の手記 から 


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