REオフステージ (惣堀高校演劇部)
132・正直苦手なのよ 朝倉美乃梨
宿泊を伴う部活には顧問の付き添いが原則なのよ。
宿泊と言っても、商店街の福引に当って大阪府内の温泉に一泊。
やかましく『原則』を振り回さなくてもいいと思うんだけど、職員室に来て報告されたんじゃ「あ、そう」というわけにはいかないわよ。
まして、参加メンバーの中には車いすの沢村千歳がいる。
温泉というからには入浴するんだろうから介助が必要でしょう。
惣堀高校はバリアフリーのモデル校。
つまり、身障者の教育環境には大阪でいちばん気を配ってますって学校。
その惣堀の演劇部が部員揃って宿泊する。それに顧問が付き添わないのはまずいでしょ。
反射的に言ってしまった「……下見に行く」と。
「しゃくし定規にやらんでもええですよ」
横の席のB先生は松井さんが出ていくのを待って言ってくれた。
「個人旅行なんだから、関与しなくても。ね」
前の席のM先生も目配せしてくれる。
でもね、聞こえてるはずの教頭先生は無言。
無言と言うのは、なにか起こった時には「教頭としては承知していません」と言い逃れるためで、そう言う時には、聞いていながら手を打たなかった顧問の責任になるんだ。
ああ、知らせになんか来ないで、勝手に行ってくれればよかったのにぃ。
煮え切らない気持ちのまま仕事を終えて駅に向かう。
ホームに降りると、ギョッとした。
松井さんが待っているではないか!?
「あら、いま帰り?」
まるで同僚に話しかける口調。
松井須磨は三年生の生徒なんだけど、わたしの同級生でもある(-_-;)。
最初は気づかなかった。
向こうから挨拶されたときは心臓が停まるかと思った。
本人には悪いけど『化け物か!?』と慄いたわよ。
風のうわさで松井さんが留年したとは聞いていたけど、ふつう女子が留年したら退学する。だから、とっくに退学して別の人生を歩んでいると思っていた。その後も留年を繰り返して、わたしが新任教師として赴任して出くわすとは思わなかった。
これだけでもとんでもないことなのに、何の因果か、松井さんが所属する演劇部の顧問になってしまった。
正直苦手なのよ、松井さんは(-_-;)。
彼女が元同級生だと分かって、図書室の卒アルとかで確認したら、なんと一年生の時も同級だった。松井さんは最初から気づいていたようだけど、メチャ恥ずかしい機会で分かるまで一言も言わなかった。
だから、ホームで出くわして「あ、今から下見」とか、みっともなく言って、帰宅するのとは逆方向の八尾南行きの電車に乗ってしまった(;^_^A
いまさら、谷九で乗り換えて家に帰るわけにもいかないでしょ。
だから、ホームで出くわして「あ、今から下見」とか、みっともなく言って、帰宅するのとは逆方向の八尾南行きの電車に乗ってしまった(;^_^A
いまさら、谷九で乗り換えて家に帰るわけにもいかないでしょ。
だから、そうなんだ。
わたしは生徒の為に下見をしに行くんだ。そうなんだ、そう決めていたんだ!
「すみません、惣堀高校の朝倉と申しますが、今夜一泊でお願いできるでしょうか……はい、今度お世話になる生徒たちの、はい、下見のためです(''◇'')!」
谷九を過ぎて、南河内温泉に電話をいれるわたしだった。
「すみません、惣堀高校の朝倉と申しますが、今夜一泊でお願いできるでしょうか……はい、今度お世話になる生徒たちの、はい、下見のためです(''◇'')!」
谷九を過ぎて、南河内温泉に電話をいれるわたしだった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)