大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)133・真面目に下見・1

2024-08-27 06:52:55 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
133・真面目に下見・1 朝倉美乃梨 





 T駅の改札を出てロータリーに向かう階段を降りると、驚いたことにお迎えが来ていた。

 南河内温泉の法被を着て温泉の小旗を持った、ちょっと髪の毛が寂しい番頭さん。

「わざわざお迎え有難うございます、予約しておいた朝倉です」

「あ、おいでなさいませ! どうぞ、車の中へ(^▽^)」

 髪の毛とは真逆の笑顔で出迎えてくれて、たった四十分前、行き掛かり上決めてしまった一泊旅行も――ま、いいか――ぐらいには治まってきた。予約の後に家に電話して「もう、もっと早く言いなさいよ、晩ご飯無駄になるでしょ」と母に文句を言われて、ちょっと凹んでたしね。

 温泉のロゴの入ったワンボックスに収まる、直ぐに発車……と思ったら、番頭さんは小旗を振りながら走り出した。

 何事かと思ったら、もう一つ出口があったようで、五人連れの女子学生風といっしょに戻ってきた。どうやら、他にもお客が居たんだ。

「では、出発いたします」


 六人の客を乗せて走り出す。


「すみません、後ろに追いやったみたいで」

 わたしの横に座ったボブの似合う子が頭を下げる。

「いいえ、学生さん?」

「はい、おひとりですか?」

「ええ」

 あなたも学生さん? とは聞いてこなかった。

 半年とは言え、教師をやっていると『らしさ』が身に付いたのかもしれない。一泊の、それも下見なんだ。同宿の人に気を使うこともないわよね。

「朝倉先生、夕食は承っていたのですが、気を付けなければならない食材とかございますか?」

「え、ああ、特にアレルギーとかはありませんから」

 簡単に済ませた予約だから確認が遅れたんだろうけど、先生の敬称は余計だ。

「あ、先生だったんですか?」

 ボブ子さんが笑顔を向けてくる。

「ええ、こんど生徒を連れてくるんで、下見に」

「あ、そうなんだ。高校ですか?」

「あ、はい」

 それから、前のシートの四人も話に加わる。ボブ子さんとポニ子(ポニーテール)さんが教職をとっていて、この春に教育実習を済ませたところだったので、いろいろと質問される。

 まあ、同宿のよしみ。半分は社交辞令と和やかに話しているうちに、和泉山脈麓の宿に到着。

 まだ半年にしかならないと言うと「え、そうなんですか!?」「なんか、ベテランに見えます!」とか驚かれる。

 驚かれるということは……実年齢よりも……歳食って見えるってこと?


 正体がバレてしまったので、宿の駐車場に着くと、ロビーに至るまでの動線を確認。スロープとか、玄関ロビーの段差とか。

 千歳の事があるからね。

「朝倉さん、送迎の車、折り畳みの車いすなら後ろから載せられるそうですよ!」

 ポニ子さんが教えてくれる。

 抜かっていた、まずは車いすが載せられるかどうかが問題なんだ。千歳は普段は電動を使っている。

 あ、でも、なんで千歳の事知ってるんだ? あ、自覚無いけど話しちゃったんだっけ?

「朝倉さん、入浴用の車いす完備しているそうなんで、あとで試してみません?」

 ボブ子さんがフロントで確認してくれてご注進。

 優雅に温泉に浸ろうかと思っていたんだけど、なんだか真剣に下見しなければならなくなってきた(;^_^A


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 

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