大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 171『赤壁・3』

2024-03-19 11:36:45 | ノベル2
ら 信長転生記
171『赤壁・3』書籍範 




「婆さん、馬を下りろ、このお方は貴人だ!」

 栞ちゃんと変換する余裕もなく、悲鳴のように叫んでしまう。

「ま、まことに失礼いたしました!」

 ここ何年もやったことが無い土下座の礼で詫びる。

 魏王様とか曹操様と呼ぶべきなのかもしれないが、様子を見ると現場監督か主任技師かと見まごうような軽い身なりでいらっしゃる。下手に御身分の分かる呼び方をしては障りがあるかもしれない!

「いやいや、畏まらないでください。お察しの通りなんだが、いまはただ工事の進捗を見に来ただけです。仰々しい供の者も付けてはおりません。旅の途中で出会った工事関係者と思って下されればよろしいですから(^_^)」

「ははぁ!」

「どうぞお手を上げてください。そのように礼をされますと、我々も蹲踞の礼をとらなくてはならなくなります」

 中尉の階級章を付けた士官が頭を掻く。見れば階級章は近衛では無くて工兵科、常なら王のそばには寄れない兵科と階級だ。

「それでは、お言葉に甘えます。栞ちゃんもお立ち」

「ほう、奥方はカンチャンとおっしゃるのか」

「ああ、はい、栞(しおり)の一字でカンと読みます(^_^;)」

「ほうほう、御亭主の人生のページに挟まれた偉大な栞なのでござるな」

「ほほほ、お上手な」

「こ、これ、狎れるんじゃない」

「いやいや、御亭主も力を抜いて下され、力が入っては堤防工事にも障りがでます。八分の力でボチボチやってこそ手堅いものができます」

「はい、恐れ入ります」

「言葉に北の訛を感じますが、豊盃あたりのお方か?」

「はい、豊盃で小さな店を出しております」

「店といいましても店借のテナントなんですけどねぇ( ´艸`)」

 栞ちゃん、なんだか若やいでいる。

「ああ、ひょっとして大橋さんがお作りになった豊盃パサージュの?」

「はい、ご存知なんですかぁ?」

「いや、なかなかお洒落な商業施設で繁盛していると聞いておりますぞ」

 背後の兵も表情を柔らかくして頷いている。見ると半分は呉の兵隊だ。

「はい、元々は豊盃楼と呼ばれていたころからのテナントなんです。移転しても店の権利は残してくださいましてね、店のほとんどは大橋さまに使って頂いているんですけど、ちゃんと店賃も下さって、今回は主人とふたりで旅行までさせてくださいましたの」

「おお、さすがは喬公の姫君、孫策殿の妃、行き届いておられる。そうだ、この工事が終わったら、工事関係者にも慰労の会をもつとしようか。のう?」

 魏と呉の兵に均等に言葉をかけ、兵たちも嬉しそうに微笑む。魏の曹操が何の腹積もりも無く人に優しくすることなどあり得ない。なにが腹の中にあるのかと思うが、この和やかさはなんだ?

 おっと、いかん。こういう貴人の前で不足や疑問のある顔は禁物だ。

 兵たちと同様に過不足のない笑みをたたえておく。

「曹操さま」

「なんですか、奥方?」

 うう、変なこと聞くんじゃないぞ。

「お作りになっている堤防、魏の方が50センチほど低いように見えるんですが?」

 まずい、そういうことは気づいても口にするんじゃない(;'∀')。

「そのようにご覧になられましたかぁ……」

「あ、いや年寄の思い込みでございますから」

「いや、奥方は正確にご覧になっている。実は、魏の方の堤は二尺近く低いのです」

「「え?」」

「恥ずかしながら、予算が少しばかり足りんのです。この工事はこちらの方から呉の孫策さんに提案したんですがね、赤壁の前後百里に及ぶ大工事。失礼ながら、呉の経済規模は魏の半分ほどでしてね、そうそう無理は言えません。と言って手をこまねいていては、いずれは起こるであろう水害には間に合いません。幸い、魏の方が予想水害面積が小さいのです。それで、魏の方を50センチ低く抑えました。これで、工事費用は二割近く少なくて済んでいます」

 パチパチパチ

「これ、拍手なんか」

 感極まって思わず拍手する婆さんをたしなめる。

「これは面映ゆい。いやはや、苦肉の策なんです。が、まあ、魏の方の堤でも、これを越水するような水害は百年に一度あるかないかです。いずれ余裕ができれば増築の工事に入ります」

「それで、工事にかかる費用はどのような割合で出されているのですか?」

「おお、さすがは豊盃の商人であられる」

 そこまで言うと曹操殿は、前を向いて遠い目をされる。

「実は……」

 呉の士官が曹操殿に代わって口を開いた。

「実は、工事費用は全額魏に負担していただいております」

「え、全額を?」

「アハハ、いやいや、その分兵と労務者の7割。それに、食料のほとんどを呉ににみてもらっています。江南の米はうちよりも美味い。おかげで、少々太ったようで、ダイエットを兼ねて現場を見て周っておるのですよ(^▽^)/」

「陛下、そろそろ次の工区にまいりませんと」

「おお、いやはや無駄話をしてしまいました。それでは、よい旅を続けてください」

「は、はい、恐縮であります!」「ありがとうございます!」

 婆さんと二人、工事中の堤防を去り行く曹操殿を見送って頭を下げた。

 赤壁の堤上、日輪は南中しようとしていた。


 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

2024-03-19 08:53:40 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第114話《聖火ドロボー》さくら 





 古い学校には伝説や言い伝えが付き物だ。


 佐伯君の乃木坂学院でもマッカーサーの机(『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。

――さあ、六つ目よ!――

 下校時間も迫った5時過ぎ、米井さんのメールで、わたしたちは学校の玄関に集まった。

「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」

 ええぇ?

 わたしたちは玄関を見渡した。

 玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に卒業生の彫刻家さんが寄付したというという制服少女の胸像と全身像、むかし制服改定の話が上がった時に寄贈されたらしい、タイトルは『憧れ』と『祈り』。きっと「制服は変えないで」という想いが籠められている。創立者のジイサンの胸像よりも小さいんだけど趣味も出来もいい。

「これよ」

 5分ほど眺めているうちにマクサが指さした。

 そこには5人の帝都の女生徒が、変な手つきして、不器用そうに固まっている油絵が飾ってあった。右の下を見るとSEIKO1998とサインが入っている。よく描けた絵だけど、線や色のタッチから美術部の生徒かOGが描いたものだろうと推測された。

「あ、この子たちの手、手話だ!」

 吉良小百合という、一度聞いたら忘れられない名前の子が発見した。

「なんて書いたあるの?」

 一番背の低い恵里奈が乗り出して聞く。

「それが……へんだなぁ?」

 小百合はご本家に負けないくらい人生前向きな顔で小首を傾げた。

「どう変なのよ?」

「古い手話なんで自信ないんだけど、ド・ロ・ボ・ーかなあ」

「「「「「泥棒!?」」」」」

 みんなの声が玄関ホールに響いた。


「バレちゃったかしら?」


 声に気づいて振り返ると、なんと校長先生が立っていた。

「あ……ア!?」

 小百合がさらに何かに気づいて口を押えた。

「そう、このドロボーの「ド」の手をしているのが私……!」


 というわけで、校長室に通された。


「あなたたちが七不思議を探しているのは知ってたわ。食堂のおじさんや技能員さんがうわさしてたから。でも、ここまで来るとは思わなかった」

「あたし、これが本命だったんです。あとのは、これの引立てみたいなもんです」

 引立てに、あたしら引きずり回したのかよ……。

「以前、校長室にお邪魔したときに引っかかったもんで」

「ああ、あれ……」

 校長先生が振り返ったところには、校長専用の飾り棚があって、そこに古ぼけたランプがあった。よく見るとランプの下にもSEIKOと字が彫り込まれている。

「その字と絵のサインがいっしょで、手話の「ド」の女の子が若いころの校長先生だって分かったんです」

「よくわかったわね?」

 同感。

「名札の字は崩してありますけど『白波』って読めました。そう読めると……頭の中で補正したら、校長先生になっちゃったんです」

「ハハ、しわを伸ばして、ぜい肉とったのね」

「あ、いえ、その……」

 米井さん以外が、みんな笑った。

「でも、校長先生の苗字は白波じゃないですよね?」

 あ、旧姓……でも、校長先生は独身だったよね。

「ひょっとして、泥棒の意味ですか?」

 まくさが身を乗り出す。

「よく分かったわね」

「祖母が歌舞伎好きで『白波五人男』が大好きなんです」

 シラナミゴニンオトコ?

「そう、白波って、泥棒のことなのよね。仲良し五人でね、最初は全員『白波』って名札にしたんだけどね」

 他の子のは崩してあったり、ぼかしてあったりして読めなかった。

「えと……なにかを……盗んだんですかぁ?」

 白石優奈が声を潜める。

「あれ、東京オリンピックの聖火を盗んだの。だからド・ロ・ボ・ー」

「え、聖火盗んだんですか!?」

 思わず声が出たけど、疑問がいっぱい。

 東京オリンピックって二回あったけど……昭和のは校長先生でも生まれていたかどうか、令和のはコロナだったし、先生はもう校長だったし。

「はい、盗んだんです」

「「「「「どうやって!?」」」」」

 感嘆と質問がいっせいに出た。

「むろん聖火そのものは盗めやしないわ。「ロ」の子が写真部でね、部室で昔の東京オリンピックの聖火リレーの写真を見つけたの。ネガも残っていたし、それを大きめのスライドに焼いてね、「ボ」の字の子が演劇部でね、スポットライトのレンズの真ん中に貼りつけて、太陽の光を集めて火を起こしたの。それやったのが「-」の子。で、その年の運動会の聖火に、これを使ったってわけ」

「あの、SEIKOというのは?」

 ふつうに読めば時計会社のロゴなんだけど、きっと違う。

「美術の松田先生。偶然名前が聖子だからってわけじゃないんだけど、手話と重ねて読むと……」

「ドロボー成功!?」

 というわけで、ウン十年ぶりに聖火のランプに火をともした。帝都伝統のオチャッピーの聖火!

 帰りに、校長先生は米井さんと佐伯君に声をかけていた。

 声は聞こえなかったけど「がんばってるわね」というのが口の形で分かった。

 七不思議の残りは、あと一つ。

 それは、もっと意外なところに……あった。


 いや、起こった……



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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