大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 004『高御産巣日神』

2024-03-05 14:41:25 | 自己紹介
勇者路歴程

004『高御産巣日神 』 





 わらわは……身は……我は……余は……ううん、久々ゆえ、己が身の謂いようにも困るのう……

 口をきいたかと思うと、古代衣装は一人称を決めかねてブツブツ言うのみ。

「しばし待ちや、これよりは令和の言の葉に変換いたすゆえ……」

 ブゥーン

 マブチモーターが回るような音がしたかと思うと、古代衣装の瞳がスロットマシーンのように回り出し、五秒ほどで一回り大きな瞳になって停まる。同時に表情もNHKの女子アナのように柔らかくなる。

「おまたせいたしました。わたしは、この地に長らく住んでおります、タカムスビノカミと申します」

「タカムスビノカミ……」

 記憶にはあるのだが……かなり古い神さまということしか浮かんでこない。

「中村さんは社会の先生なので、お分かりになると思うのですがぁ……」

「え、わたしのことご存知なんですか!?」

「令和の言葉と同時にいろいろダウンロードやインストールしましたからね。四十余年にわたる教職、ほんとうにごくろうさまでした」

「あ、いえいえ、長くやっていただけのことで……あ、思い出しました。タカムスビノカミと申しますと、イザナギイザナミのもっと前……アメノミナカヌシノカミの次でしたか?」

「はい、まあ、アメノミナカヌシノカミとタカムスビノカミとカミムスビノカミは、三つでワンセット。三位一体的な、みたいな、ぽい?」

「それはそれは……」

「…………」

「…………」

「フフ、そうですよね。いきなり神さまが現れたらビックリして、返す言葉にも困りますよねぇ……おとなり、よろしいかしら?」

「あ、どうぞ」

 尻を浮かすと、気楽に横に腰掛けるタカムスビノカミ。ちょっとN生命のオバチャン的。しかし、N生命にこんな若くてきれいな人はいなかった。めちゃくちゃいい匂いもするし(^_^;)。

「ホホ、若くはありませんわ。葬送のフ〇ーレンの十倍は年寄です」

「あ、恐縮です(#^_^#)」

 というか心読まれてる?

「いえ、表情に」

「あはは」

 いや、読んでるって!

「この公園は、昔は神社だったんですのよ」

「え、ああ……」

 言われて見渡してみると、正面の一段高くなったところあたりは拝殿と本殿が有っておかしくないし、入り口の二本の石柱は鳥居の壊れのようにも見える。

「でしょでしょ、この楠なんて、いかにも神社のそれって雰囲気ですものねぇ」

「あ、ひょっとして御神木ですか!?」

 知らぬこととはいえ、御神木に尻を向けているのは落ち着かない。

「いえいえ、市の公園課がせめてもの敬意をと、終戦後に植えてくれたものです。前世紀の終りまでは教育委員会が立ててくれた由緒書きとかあったんですけどねぇ、今は遊具もない小公園なので、気も力も回らないんでしょうねえ……」

 ちょっとだけ自分の退職と重なって微笑んでしまう。タカムスビノカミも柔らかく微笑んで、いい感じなんだけど、収まりが悪い。

「あのう、それで、わたしになにか御用だったんでしょうか?」

「あ、そうそう。七十路に踏み込まれ、行く末を案じられていたご様子でしたので、一つの提案をと思いまして」

 七十からのライフプラン、ますます生命保険。

「恥を申すようなのですが、イザナギイザナミ以前の神は多くの取りこぼしや間違いがあります」

「え、そうなんですか?」

 そうなんですかには意味がある。

 古事記でも日本書紀でも国生みや神生みはイザナギイザナミから始まっていて、それ以前の神々は、名前があるだけで実質が無い。
 おそらくは、イザナギイザナミが優れていることを強調するために前座の神々を設定したんだ。落語でも紅白歌合戦でも、いきなり真打が出てきたら値打ちが無いからな。

「ところが違うんです」

 あ、また読まれてる……けどこだわっていては話が進まない。

「神話にも歴史にも残らないところで、ずいぶん力を尽くしました。しかし、イザナギイザナミ以前のことでもあり、様々な試行錯誤や失敗があって、なんとか、あの男女神に引き継げたというところなんです。ね、そうでしょ、イザナギイザナギもけっこう失敗をやっていますでしょ?」

「ああ……」

 たしかに最初に生んだ島々はできそこないで、海に流したりしている。最後には火の神を生んでイザナミが焼け死んで、イザナギは黄泉の国まで迎えに行ったけど大変な目に遭っている。

「でしょでしょ、神話には残っていないけど、古い神々も仲裁に入ったり説得を試みたんだけども上手くいかなくってぇ、ま、いいかって感じの見切り発車というのが実際だったんですよ。間もなく日本は皇紀2700年を迎えますでしょ」

「あ、ああ……」

 皇紀2600年は昭和15年だった、だから、その年に出来た新鋭戦闘機に下一桁の零をとって零戦と名付けたんだ。

「それまでに、全部は無理でもいくらかは取り戻したいと思うのです」

「でも、わたしは、もう70歳で……講師の延長も認められませんでした。とても神さまのお手伝いというか、荒事や難しい仕事はできないと思います」

「それは大丈夫! 引き受けていただけたら、中村さんには勇者の力と時間を差し上げます」

「勇者の?」

「大和言葉では猛き賢き兵(たけきかしこきつわもの)とかになるんでしょうけど、長いしダサイでしょ。だから『勇者』、分かりやすいでしょ?」

「え、ああ、でも……」

「時間は……正直どれほどかかるか分からないけど、リアルでは一秒も掛かりません。いわば異世界に行くわけですから、戻ってくれば、この時間この場所です。もう準備もできていますのよ、ほら……」

 神が両手でラブ注入のような形をつくると、ホワっと光るものが手の中に生まれた。

「これをね……エイ!」

「あ、ちょ!」

 光の玉を胸に押し込まれる。ビックリしたのだが、胸に当てられた女神の手と胸の中がとても爽やかで気持ちがいい。

「ごめんなさいね、久々にやったものだから勢いが付いちゃってぇ、テヘペロ(๑´ڤ`๑) 」

「神さまがテヘペロとかしないでくださいよ!」

「いやあ、これはまだ半分でね、パテとか接着剤であるでしょ、二つの材料を混ぜなきゃ力を発揮しないのが」

「エポキシ樹脂ですか、わたしは?」

「そんな感じ」

「断っていいですか?」

「うん、それは自由だけどね……これ見て」

 もう一度女神が手をハートにすると、蠟燭が現れた。

「これは?」

「命の蝋燭」

「え!?」

 落語や童話の中にあった、これが消えると命が尽きる。

「……でも、これずいぶん長くて元気なようですが」

「これは息子さんの。比較のために出したの。中村さんのは……エイ!」

 女神が手を振ると、蝋燭はほとんど燃え尽きて、残った芯だけが心細く燃えて、パチパチいっている。

「ええ、消えかけじゃないですか!?」

「うん、あと二三日というところでしょうねえ」

「そ、そんなあ」

「これもね、憶えているかしら。黄泉比良坂でイザナギが千曳の大岩で蓋をするでしょ。そして『これからは、そちらの国の人間を日に1000人殺してやる』って、イザナミが呪うでしょ? それが、この二三日で順番が回って来るという意味なのよ。そういう歪をね……直して……ほしいんだけど、ちょっと張り切り過ぎたみたい……」

「あ、ちょ……」

 ガク

 うな垂れたかと思うと、女神は、背中に着いたゴム紐に引っ張られるようにして元のベンチに引き戻され、あっという間に老婆に戻り、キャリーのアングルに顎を載せて眠ってしまった。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村一郎       71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田光子        中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉大輔        二代目学食のオヤジ


 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第100話《モスラ~ヤ モスラ》

2024-03-05 09:34:07 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第100話《モスラ~ヤ モスラ》さくら 






 夏休みは、ほとんど成果とか成長とかからは無縁で終わってしまった。


 毎年のことだけど。

 でも、まったく無かったわけでもない。しいて挙げれば二個ある。

 一つがピーナッツを発見したこと。You Tubeを見ていたら偶然「発見」した。
 アカぬけきっていあない少女たちが、ピーナッツの「情熱の花」と「ふりむかないで」歌って踊っている。少女たちのユニットをピンクピーナッツっていうんだけど、彼女たちを通して元祖ピーナッツに目覚めた。
 ピーナッツには昭和の力がこもっていると思う。根拠はないよ。何年か前にナントカってデュオがピーナッツをリカバーライブ、お父さんが照れ隠しにあたしを連れて行った。「いやあ、娘が見たいって言うもんですから」という言い訳のため。

 落語で似たようなのがあった。人前でオナラをする癖がある母親が、万一の言い訳のために息子を連れていく。ついていくと10銭の小遣いがもらえる。ところが、ある日、母親は二回も訪問先で放屁してしまった。

「まあ、この子ったら人様の前で二回も。もうしわけありません(^_^;)」

「お母ちゃん、二回で10銭は安いよ(>▢<)!」

 で、バレてしまうというおはなし。

 あたしは、大人しくしていたし、お父さんが心配するように人に言い訳しなきゃならない状況にはならなかった。

 でも、あたしが元祖ピーナッツにハマってしまった。ハマるといっても。動画でピーナッツを探して観たり聴いたり、スマホのマチウケにするほど浅はかでもない。

 言っとくけど、あたしに音楽的才能なんてのは無い。ただ、なんとなくいいなあと思って聞いている。他にもキャンディーズ、中島みゆき、イルカ(名残雪だけ) かぐや姫、スマップなんか好き。ワクワクする。

 ピーナッツというのは、そういうワクワクの源流みたいな感じ。

 動画で『モスラ』のピーナッツを発見した。

 ピーナッツが南の島の小人さんで、モスラを呼ぶときに「モスラ~ヤ モスラ~ ドゥンガカサクヤン インドゥムン……」と歌う。

 これが、いつの間にか口癖みたくなって、つい「モスラ~ヤ モスラ~」と口ずさんでいる。モスラ~の下は言わずに、ただ「モスラ~ヤ モスラ~」を繰り返してしまう。

 おねえちゃんに「ダスゲマイネよりはいいんじゃね」と言われて気が付いた。

 そうなんだ、中三の夏休みに読書感想を書いて以来、ダスゲマイネが口癖だった。ダスゲマイネを言ってると破滅するというのがおねえちゃんの説。ググったら太宰は玉川上水で自殺している(;'∀')。それを知った時は、もう口癖っぽくなっていたんでピーナッツの「モスラ~ヤ モスラ~」は救世主みたいだ。

 もう一つの成果は『はるか ワケあり転校生の7カ月』の発見。以前は『はるか 真田山学院高校演劇部物語』でネットに出ていた。タイトルを変えて本物の本になったのでビックリするやら、先見の明がビビッとするやら。

 主人公のはるかが、今時こんな女子高生いるかって感じなんだけど。ちょっと抜けててピュアなところが、で、坂東はるかって女優さんのセミドキュメンタリー風。あたしのアンテナの周波数にあった。


 今日は夏休み明けの短縮授業なんで渋谷Tデパートの本屋さんに行った。恵里奈は部活があるので、マクサを誘う。

「あ、絵の展示会やってる」

 エレベーターの中でマクサがささやくように言った。

 見ると印象派っぽい広告が貼ってあった。印象派は好きだしタダで観られるので、本屋さんの階は飛ばして催事場へ。

 H・大林という人の絵だ。港を海側から見た絵で『魔女の宅急便』の冒頭に似たものを感じる。ヨットの帆柱が林立する向こうに、ローマ時代の水道橋が見えて、その下のあたりが入江か川でがあることを暗示している。印象派的な光の使い方もいいけど、見えないところに空間の奥行きを感じさせるところがいい。

 このコンパクトでツボを押さえた評はマクサ。茶道家元の娘だけのことはある。

 会場を出てエスカレーターに乗ると再びマクサがささやく。 

「ちょっと、そのまま、ガラスに目の焦点合わせてみそ」

「え、なに?」

「いいから……」

 目のピントを変えて分かった。

 ガラスには、あたしたちと同じ帝都の制服と乃木坂学院の制服のアベックが、絵を観ているのが映っていた。
 乃木坂は、ぜんぜん方角違い。これは、乃木坂の男子が気を使って、渋谷にまで来て、絵の鑑賞をしながらのつつましいデート。

「ウラヤマ~」

 マクサが呟く。あたしも、このアベックのありようをとても好ましく思った。だからして、お邪魔虫にならないよう、二人の視界に入らないように気を使った(n*´ω`*n)。

 ここから問題なのよね!

 一階下の本屋さんのフロアーに行ったら、また、このアベックに出くわした。本屋さんに来ることは問題なし。微笑ましいくらいに、あたしのアンテナには好ましく感じられ。

 ところが、ところがよ。あとがダメダメ!

 女の子は、ファッション雑誌のコーナーで若者向きのファッション雑誌見ながら「かわいい~」「いけてる~」を連発。よくよく見ると、甘ロリのところでキャピキャピ。男の子は、スマホでモバゲーとかやってる感じで、テキトーに返事。で、二人から感じられるのはイケてるオーラ。さっきのつつましさはどこ行ったんだ!

「ちょっ、よしなさいよ」

 マクサの制止をを振り切って横に並ぶ。彼女と同じ雑誌めくって「サイテーのセンスだねぇ」と独り言。さすがに女の子はムッとして、こちらをチラ見。

「あ、佐倉さん!?」

「あ、(学級委員長の)米井さん!」

 同じクラスで、疎遠な米井由美と初めて会話を交わした瞬間だった。

 その瞬間の後――同じことがあった――とデジャブ。

 でも、もう口癖のダスゲマイネは出てこないで――モスラ~ヤ モスラ~――が出てくる。

 ダスゲマイネは、なにか失敗とかダメだった時にポツンと出てくるだけだったんだけど、モスラは果てしなくリフレインする。

 お父さんに貰った耳なしまねき猫に手を合わせて、やっと収まった。


 
☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生




 


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