大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 010『草原(くさっぱら)を行く』

2024-03-23 14:15:17 | 自己紹介
勇者路歴程

010『草原(くさっぱら)を行く』 




「ビクニが来てくれて正解だったよ」

「でしょ」


 これだけで通じた。


 歩けども歩けども草原。これが北海道あたりの草原なら趣もあるんだろうが、ただの草原。

 ちなみにルビを振るとしたら「くさはら」で、けして「そうげん」ではない。

「ですよね、安達ケ原とか曽我兄弟が仇討ちをやった富士の草原(くさっぱら)のイメージですね」

 八百比丘尼だけあって、例えが古い。

「新しいことも言えますよぉ」

「ほう、どんな?」

「安出来のオープンワールドゲーム。アンリアルエンジンとか使って高精細なんだけど、どこまで行っても同じ原っぱ」

「あはは、あるねえ、某無双ゲームとか」

「おまけに、ここは見通しがきかないから、うっかりしていると同じところに戻って来てしまいます。砂漠や吹雪の中を歩いていると、人が通った跡を見つけて、それが自分の足跡だったみたいな」

「ああ、輪形彷徨癖現象だねえ」

「ええ、人間は右と左では微妙に足の長さが違うんで、起こる現象ですね」

「そうだねぇ、人生もそうだ、グルッと周って同じところに戻ってきたりする」

「ふふ、先生、最後の勤務校が自分が卒業した学校でしたものね」

「ははは、最後は教え子の校長に見送られてしまった」

「歴史もそうです、グルグル回って、ここはいつか来た道」

「どこかで聞いた言い回しだねぇ」

「ふふ、軍靴の音が聞こえるとかね……そんな次元の低いことじゃなくて……いえいえ、旅はまだ始まったばかりですから」

「ビクニは、ほんとうに800年生きてきたの?」

「あ、八百屋とか八百万の神々とかといっしょです」

「そうか、いっぱい生きてきたということの言い換えなんだね」

「先生は、幾つの歳から記憶がありますかぁ?」

「そうだねえ……皇太子殿下の、ああ、いまの上皇陛下の結婚式パレードはテレビで見てた」

「え、お金持ちだったんですね。昭和34年ですよ」

「いやいや、隣の家で見せてもらったんだよ」

「あ、そうなんだ」

「うちにテレビが来たのは、その二年ぐらい後かなぁ……あ、親父にタカイタカイしてもらったの憶えてる」

「いいお父様だったんですね」

「いやいや、大正14年生まれなのに、戦争にも行ってないんだ」

「……お体、悪かったんですか?」

「うん、背が低くって、よく病気をしていたなあ……自分じゃ言わなかったけど、親父は、おそらくは丙種だね」

 丙種、説明しなきゃと思ったら通じた。

「大正14年生まれなら、昭和19年の兵役検査でしょうか……でも、よかったですね」

「そうだね、親父が戦争にとられてたら、きっと、わたしは生まれてないよ。まあ、そんな小さくて病弱な親父がタカイタカイをしてくれたんだ。おそらくは三つになったかどうか」

「かわいい坊ちゃんだったんでしょうね(^○^)」

「坊ちゃんかぁ、いまは、あまり言わないね」

「ふふ、八百年ですから」

「そうだね、ボクよりうんとお姉さんだ」

「わたしもね、あまり昔の記憶は無いんですよ」

「昔って、きみの基準じゃどれくらいになるんだろう」

「じつは、気が付いたらタカムスビノカミさまのところに居たんです」

「そうかぁ、きっと、ひどく辛い目に遭ったんだろうねぇ……」

「一言だけ覚えてます……」

「どんな?」

「わたしたちが不甲斐ないばかりに、迷惑かけるわね……そんなことをおっしゃいました」

「ふふ、そうなんだ……」


 もうすこし話を継ごうかと思ったら、唐突、目の前に森が現れた。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
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銀河太平記・211『姉崎先生の死』

2024-03-23 09:57:05 | 小説4
・211

『姉崎先生の死』ミク 




「先生」「姉崎先生」


 額づいた姉崎先生に声をかける。

 ちょっと緊張する。在学中、こちらから声をかけるのは呼び出されて叱られる時ばかりだったので、こういうシチエ―ションでは条件反射で緊張が先に立つ。

 八年ぶりの後姿はピクリと動いたかと思うと、振り向くことなく、そのまま横倒しになった。

 ドサ

「「先生!」」

 仰向けになった髭面には生気がない!

 直感で、命の火が消えかかっているのが分かる。

 すぐに呼吸と脈拍を調べる。

「どうだ?」

「バイタルが弱い、めちゃくちゃ弱い!」

「救急要請するぞ!」

 ダッシュがハンベに呼びかけようとすると、先生の髭がピクリと動いた。

「懐かしいなあ二人ともぉ……」

「喋っちゃいけません、いま、救急車を呼びますから。取りあえず、酸素吸ってください」

 バッグから非番の時でも持っている携帯酸素吸入器を出す。

「……ムグ」

 吸入器を加えさせると、先生は救急要請をしようとしているダッシュの手を掴んだ。

「先生?」

 先生は声を出さずに自分の頭を示した。ハンベで脳波会話しろという意味だ。

――すまん……もう会話する力もない――

 すぐにハンベは、先生の意志を音声化したが、後が続かない。

 それでもハンベは先生の脳との会話をやめず、ダッシュも救急要請をやめず、病院に着いて脳死判定されるまで続いた。


 先生の頭脳の七割は人工頭脳だったことが検死で分かった。


 二十三世紀の今日、ロボットと人間の境目は曖昧だ。臓器や筋肉以外でも、脳機能の一部を機械に置き換えることは前世紀から行われている。人とロボットの差は『ソウルがあるかないか』というのが基準だけど、論理的にはロボットの人工頭脳に人のソウルを移植することも可能だと言われ、現に、日本の児玉元帥と漢明の劉宏大統領の先例がある。

 先生の頭脳とハンベは脳死判定されるまで繋いでおいたから、かなりの記憶や情報がリンクしている養生所のサーバーに保存された。

 マッパ病のリスクがあるので、先生の遺体はパルス波で火葬にされた。

 遺骨を届ける親族を探さなければならなかったし、先生も最後に言い残すことがある様子だったので、半ば公務として先生の記憶を再現した。公務扱いなので、軍警のダッシュも任務として付き添ってくれる。

「なにか分かったのか?」

「うん、ここ見て」

 朝ごはんのお握りをパクつきながらモニターのスイッチを入れる。

 静かの海と思われる戦場、実体弾やレーザー、パルス波が飛び交い、そこここで炸裂、それを避けながら前進だか後退だかしている兵士。兵士のボディーカメラの映像、激しく揺れて、めちゃくちゃ見にくい。

「三人称視点にならないのか?」

「ああ、メカに弱いもんだから(^_^;)」

「ちょっと触るぞ……」

「おお、さすが軍警!」

「変換すると裁判とかの公的資料にはならないが、大づかみするにはこのほうがいい」

 ああ、そうだろうね。大昔のゲームは早い時期に一人称視点は廃れてしまう。疲れるし酔っちゃうし、そのへんの感覚は二百年経っても変わらない。

 三人称視点にすると、さらに凄惨さは倍増した。

「あんまり握り飯食いながら見る景色じゃねえなあ……」

「う、うん……」

 二個目のお握りはラップも解かずに袋に戻して続きを見た……。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》

2024-03-23 06:29:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第118話《遅いんだよな、開票結果!》さつき 





「ええ、まだ結果出てないの!?」


 二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまって、さくらが嫌味な視線が刺さる。

「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」

「え、なに?」

 返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。

 昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。

 イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできない場合もあるだろう。

 でもトムは違う。日本に来ているのだ。日本人は世界に冠たるミーハーな国民性だけど、マスコミが騒ぐほどにはスコットランドには関心が無い。だから、なんの遠慮も無く賛成でも反対でも叫べる。それが昨日車で跳ね飛ばしそうになってから丸一日付き合うハメになったけど、トムはハムレットだった。

「投票結果出るのは夕方だって……」

 お母さんが、朝ごはんの用意しながら教えてくれた。

「日本だったら、出口調査で投票締め切りと同時に結果でるわよ」

 トーストの上にスクランブルエッグ載っけて、あたしはぼやく。

「せめて着替えてから朝飯食べたら」

 斜め前のお父さんが言う。

「いいの。スコットランドのお蔭で、昨日は振り回されっぱなしだったんだから」

「それは同情するけど、ここのボタンぐらい留めなさい」

 と、胸元を指した。あたしったら、パジャマの第二ボタンが外れていた。お父さんの角度からだと胸が丸見えだったんだろう。

「ごめんなふぁい……」

 トースト咥えたまま素直に謝る。さくらだったら「変態オヤジ!」とか逆ねじなんだろうけど、さすがに大学生、自他の状況を見て反応が出来る。お母さんの「情けない」という視線をシカトして、モソモソと朝食を咀嚼する。

 なんとか身づくろいしてダイニングに戻ると、お父さんはご出勤、さくらも学校に行っていた。でも、テレビでは相変わらずスコットランド。で、コメンテーターが、沖縄の独立なんて飛躍した話をしている。

「こういう奴が一番許せないのよね……」

 お母さんが冷やかに言った。

 たしかに、このコメンテーターは慰安婦問題でさんざん政府を批判しておきながらA新聞が叩かれ始めると、一週間沈黙したあと、急にA新聞批判になってしまった。   

 で、知ったかぶりの話題づくりのために沖縄独立なんてことを言いだす。

「針程の事を電柱程にも言うんだから。スコットランドはイングランドと違ってケルト人だけど、沖縄は純然たる日本よ。文化的にも民族的にも。沖縄が外国だって言うんなら、東北だって外国。京都や山陰は人類的形質じゃ韓国と同じになっちゃう。そういうことも分からないで、ただエキセントリックだというだけで、こんなことほざくんだもんね」

 かなり学問的で分析的な批判をお母さんは言う。

 見かけは普通の主婦だけど、お母さんは兼業作家だ。知識と理屈は並の大学の講師の上を行く。付き合っていては論議を吹っ掛けられそうなので、大学へ行くことにする。

 そこにゼミの高坂先生から電話……トムが夕べから寮に帰っていないだとさ。

 アンチクショー!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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