大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

2024-03-10 09:12:03 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?さくら 





「……戸籍謄本を見てしまったの」


 数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。

 そして、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。

「じゃ、先生が話すけど、いい?」

 米井さんは黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。

「去年、乃木坂の文化祭に行って、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」

 ここまでは当たり前に理解できた。

 Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、そういう関係に夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。

「念のため、この話は人には内緒だからね」

「「「「はい……」」」」

 先生の念押しに、わたしたちは静かに頷く。感情を表に出したら、米井さん崩れてしまいそうだった。

「ところが、この春に佐伯君は健康診断にひっかかり、精密検査で病気だってことが分かったの……命にかかわるような。そして、6月頃からは、ずっと入院生活。米井さんは毎日お見舞いにいった。お互いに友達以上の気持ちに……なっていった」

「先生、もう大丈夫です。あとは自分で言います」

 米井さんは、涙をこらえながら、でもしっかりあたしたちの方を向いて言った。

「去年、うちのお祖父ちゃんがが亡くなったんで、遺産相続のために、お父さん戸籍謄本を取り寄せてたの。それを、たまたまあたしが見つけてしまって、そして分かったの。わたしは、ずっと弟と二人兄弟かと思っていた……わたしには、双子の兄がいた……そして、いろいろ調べているうちに分かったの……佐伯君は、その双子の兄だった」

 表面張力一杯の心から、涙が一筋流れていった。

「わたしは……彼も、兄妹の関係に戻そうとした。あの日は、兄妹の気持ちでTデパートに行ったの。そこを佐倉さんに見つかったってわけ。で、例のチェ-ンメール。もう、頭ぐちゃぐちゃ」

「そう……そうだったの」

 そう返すが精一杯だった。

「でも、訳わかんないけど、あなたたちじゃないことはよく分かった。先生の話でも半信半疑だったけど、今のあなたたちの顔を見ていたら分かった。わたし気が楽になった。今まで一人で胸にしまい込んで……でも、ここまで分かってくれる友達が五人もできた。ありがとう!」

 あとは、六人で泣きの涙だった。先生はあたしたちを六人だけにしてくれ、次の授業は進路指導のための公欠あつかいにしてくれた。


 バン! バシュバシュ バシュバシュ……


 帰りの電車、対向電車とすれ違う時にビックリしてしまう。

 新幹線がすれ違うほどじゃない、いつも乗ってる小田急だしね。でも、ボンヤリしてて不意打ちだったのでビックリしたんだ。

 すれ違ってる何秒間、対向車の陰になって窓ガラスが鏡のようになって自分の顔が映る。

 ああ、ひどい顔……

 米井さんは自分を押えて、これでお仕舞にしてくれた。チェーンメールのことも『不思議な事件』と胸に収めてくれた。やっぱり、委員長をやるだけあって人格者だ。

 むろん、わたしにも身に覚えのないことで、なにも呵責に思うことはないんだけど。米井さんが率先して事態を収拾した。もし逆の立場だったら、あんな笑顔で「ありがとう!」とは言えなかっただろう。

 そういう、米井さんの偉さにあてられて……佐倉さくらは凹んでる。

 そうだ、験直しに豪徳寺に行こう。

 改札を出ると、いやでも見えるまねき猫が目に入ると、そう決心した。

 モスラ~ヤ モスラ~……

 いつの間にかモスラが頭の中で聞こえ出して、そのリズムに乗って商店街を抜け、数カ月ぶりに豪徳寺を目指す。

 モスラでよかった。これがちょっと前のダスゲマイネだったら、まっすぐ家に帰って布団被って寝てる。

 あれ?

 ここを曲がったら豪徳寺の山門……と思ったら、世田谷熊野明神。

 前は、豪徳寺の帰りに世田谷熊野明神が現れた。

 思った、ここをパスしたら豪徳寺どころか、自分の家にも戻れない。

 だから、最初から目的地だったように、一礼して鳥居を潜る。

 以前と同じ巫女さんが箒を動かしながら笑顔で挨拶してくれる。

 二礼二拍手したところで――人魚の肉はどうするぅ?――と頭の中で声がする。

――ありがとうございます。でも、今日はけっこうです――

 ガチャガチャ

 今どき珍しい籤の筒を振って……え、百一番?

 お御籤に三桁の番号ってあったっけ?

 窓口で「えと、百一番なんですけど……」と巫女さんに告げる。

「それはそれは……百年に一度しか出ない籤ですよぉ」

 え、なんかオチョクラレてる?

 いっしゅん思ったけど、曖昧に笑って籤を受け取る。

 超吉

 え、ちょーきち?

「お御籤に超吉ってあるんですか?」

 思わず巫女さんに聞く?

「はい、百年に一回(^▽^)」

「ありがとうございます」

 鳥居に戻りながら続きを読むと『この後、豪徳寺に参るべし』と一行だけ。

 その後、予定どおり豪徳寺に寄って、一番小さなまねき猫を買って帰る。

 来た道をそのまま戻ったんだけど、思った通り熊野明神を見かけることは無かった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
コメント
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