大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・207『恩師を探してゴールデン街』

2024-03-03 09:53:14 | 小説4
・207

『恩師を探してゴールデン街』ミク 




 高機動車は軍用車両なんで、駐禁の制約なんかないんだけども、大人しくピタゴラス第二駐車場に停める。
 第二駐車場はゴールデン街最寄りの駐車場で利用者が多い。こんなところで軍用特権を使うと、微妙に不満を持たれ、その積み重ねが市民の不満をかってしまい、有事の軍事行動の障りになる。

「派出所からまわるか?」

「ううん、心当たりがあるから」

 パーキングメーターにハンベをかざして登録を済ませ、ダッシュと二人、駐車場の出口に向かう。

「やっぱり裏筋からあたるのか?」

「あ……なんとなくの勘」

 そう応えながら、この捜索はなるべく記録に残らない方法をとらなければと思っている。

 半年前に知り合った周温雷を思い出す。気持ちのいいオッサンだったけど、通信ケーブル点検のバイト中に姿を消した。ピタゴラス東の実験プラントのすぐ近く、作業車や近くの岩場にパルス弾の銃痕が残っていた。

 先生の思い出をたどってみても、厳しくて変わり者の教師という属性しか出てこない。だけど、ダッシュの資料を見てみると、急な退職、給料の半分をマースバンクに入れていたことや、月での履歴などひっかかるところがある。

「あ、替わってる」

「え、なにが?」

「あ、ああ、流れてる曲」

「月面宙返りだろ?」

「うん、ちょっと前までは『やんちゃなアルテミス』だったんだけど……」

 月面宙返りの曲はリリースされる度に繰り返し聞いて、おそらく全部知ってるんだけど、この新曲は気づかなかった。
 どうやら、流行り病からこっち諸先輩同様、仕事の虫になってきているのかもしれない。

 先生の件が済んだら、久々にライブに行ってみようと思った。

 月面宙返りの新曲を聞きながら、ゴールデン街の最深部に向かった。


「女将さん、この人なんだけどぉ……」


 ハンベの画像を見せると「ああ」と覚えのある声を上げた。

 ゴールデン街の噂を仕入れるなら居酒屋スリッパの女将さんだ。

 周温雷のことでは世話になったし、多少のお役にも立った。もし、先生のことが不発でも、ここを外しては「水くさいじゃないか」と言われそうなので、まずは居酒屋のスリッパを訪れた。

「うん、二度ほど来たよ。前の周さん同様にいかつい……まあ、うちのお客はこのタイプが多いんだけどね。見かけによらず、根はすごく優しい人って感じだった」

 姉崎先生を――優しい――と形容する人は見たことない。女将さんの感性は独特なんだけど、わたしもダッシュも学校時代の先生を思い出して、つい苦笑してしまう。

「高校時分の担任の先生なんです。急に学校辞めて月にやって来て、それで探してるんです」

「なんか訳あり?」

「あ、マッパ検査で、少し病気っぽいものが見つかって検査入院してたんですけど、居なくなってしまって」

「それは、心配だねえ……二回目に来たのが、あれは……ねえ、ちょっと!」

『はい、女将さん?』

 女将さんは、店の女の子を呼んで、覚えのある特徴を伝えた。

「あの人なら、奥の不動産屋の御隠居さんですよ。帰り道の不動産屋さんなんで憶えてます」

「ああ、そうだ。その不動産屋なら」

 ハンベの地図を出して「ここだよ」と教えてくれる。

「ありがとう、さっそく行ってみます!」

「ありがとうございました!」

 ダッシュとふたり、きちんとお礼を言う。

「いいよいいよ、今度来る時は、プライベートでおいで、その軍曹さんの彼氏といっしょに」

「「あ、ちがうんです!」」

「おお、息もあってるじゃないかぁ(^▽^)」

「はい、カップル割引券(^▽^)」

 間髪を入れず割引券をくれるお店の子。

「あ、いや、だから」「アハハハハ」

 あいまいに笑って、次の不動産屋に向かった。



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第98話《アイドリングな日々・2》

2024-03-03 04:53:15 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第98話《アイドリングな日々・2》さくら 




「お暑い中、わざわざの取材ありがとうございます」


 帝都ドールの社長さんは、70ちょっとぐらいの実直そうなオジサンだ。

 この年代はオジサンとオジィサンに分かれるけど、確実にオジサン。まだまだ元気で頑張ってますって現役オーラがムンムン。

「ちょっとびっくりさせたかもしれませんけど、まだまだこれからです。お二人とも目をつぶって両手を出してもらえますか……」

 言われるままに、目をつぶってプレゼントをもらうように両手を出した。

「「ヒャッ!」」

 はるかさんもあたしも似たような声を上げた。冷やっこくってプニプニしたものが手の上に置かれたから。

 目を開けて、もう一回「ヒヤッ!」と「エエ!?」 あたしの手の上には心臓、はるかさんの手の上には腎臓が載っていた。

「医療教育用のレプリカです。大学の医学部から頂いたデータを基に3Dプリンターで原型をおこし、シリコンで作ったものです」

「え、これが、あのドールさんたちの中に入ってるんですか!?」

 アハハハハハ

 あたしのバカな質問に、セーラー服のお孫さんが健康的に笑ってくれる。

「これは、息子の会社で作ってます。元々のうちの本業です。昔の学校なんかにあったでしょう。人体模型とか臓器の模型とか」

「それが、この人間そっくりなドールさんたちになるんですか?」

「昔、ニクソンショックってのがあって、変動相場制になって円が高くなりまして、医療用の模型じゃやっていけなくなりましてね。苦肉の策で始めたのが、これだったんです。ま、工場の方にどうぞ」

 ショールームを抜けて廊下をいくと「関係者以外立ち入り禁止」のドアが自動で開いたのでビックリ。なんのことはない、モニターで見ていた社員の人が、向こう側から開けてくれたのだ。

「ウワー……」

 首のない女の子の体が天井から吊るされてゆっくりと回っている。以前動画で見た肉牛の解体工場を思い出した。

 白手袋のオネーサンたちが、一体ずつ検品している。

「ここでハネられたらボツなんですか?」

「たまには出ますが、細かい傷は補修して、またラインに戻します」

「プロポーションもまちまちなんですね」

 なるほど、よく見れば、モデルさんみたいなボディーもあれば、なんとなく親近感の湧く体型のもあった。

「これなんか、さくらちゃんに似てるかも!」

 はるかさんは切り替えが早い。はしゃぎまくってあたしを、そのボディーと並ばせた。

「この子は身長 158.5cm バスト 83.7cm(Cカップ) ウエスト 63.7cm ヒップ 86.4cmの日本女性の平均です」

 コンマ以下はとにかく、ほとんどあたしといっしょだった。

「一体ずつ違うんですよ。この子たちをお求めになるお客さんの中には女性の方もいらっしゃいます。娘さんが遠くに行ってしまった方や(遠くには、いろんな意味があるのは想像がついた)一人暮らしの方が家族の一員のように迎えてくださる方もいます。で、半分ほどがサイズや特徴をうかがって、それぞれに見合ったものを作っています。こんな感じです」

 社長さんが案内してくださった部屋には、なんと、はるかさんが座っていた。

「あ、あたしだ!」

 一応短パンとカットソーは着ているが、はるかさんそっくりの首がついていた。

「マイって子のマスクが似ていたんで、あとはメイクとウィッグで似せてあります。一か月もあれば完全にそっくりなものも作れたんですけどね」

「さくらさんのもできましたよ」

 マスクに白衣の歯科助手みたいなオネーサンが、あたしの首を持って現れた。

「ギョエ、あたしの生首!」

 で、ドールといっしょに記念撮影。社長さんは、こともなげに「これは売れるなあ……」正直複雑な気持ち……。

「ご安心を。お二人は並の肖像権以外に、プロダクションが版権もってますから、商品にはできません」

 なんだか残念そう。

「でも、これだとオーダーメイドで高くて、値段の割には商売にならないんじゃないですか?」

「ハハ、さすが坂東さんだ。うちの主力商品は、こちらです」

 次に案内された工場は、小さい子たちで一杯だった。

「BJDとかSDとか業界では言ってますが、ビスクドールの進化系です。1/3~1/6までのラインナップです。金属製の関節が入ったドールで、ヘッドは市販の他社ののものでも付けられるようにアタッチメントが付いています」

「こちらの小さいのは?」

「あ、そうそう、絶版になっていた1/12のです。数を集めると1/6でも大きいようで、C国製はこのサイズが不振でしてね。あちらは佐世保の一件からガタガタしているので、巻き返そうと思っています。あちらはリアル指向ですが、うちはキューピー風にデフォルメしたのに力を入れようと思っています」

 なるほど、こういう業界でもC国との競争があるんだ。

「なるほどぉ、いっぱい集めても大丈夫ですね」

「いろいろカスタマイズして遊べますね」

「はい、坂東さんがおっしゃる通り、再販にあたってはカスタマイズの方向に力を入れようと力をいれています、あちらです……」

 壁を曲がったコーナーには、いろんなコスやパーツが展示されていて、真田山学院の制服っぽいのもある。

「はるか風と由香風もあるよ!」

「アハハ、お二人が来られるんで、スタッフが試作したんです」

 丸眼鏡のスタッフが恥ずかしそうに頭を掻いた。

「『はるか ワケあり転校生の7カ月』の人気は、まだまだ続きますよ。親しみの持てるルックスだし、これに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』のキャラも入れて学院シリーズで売り出そうと思ってます」

「社長、本気ですか!?」

 丸眼鏡さんがビックリ。

 で、それぞれはるか風と由香風をもらった。


 家に持って帰って、まねき猫たちの横に並べる。


 夜中に目が覚めて棚を見ると、もらった由香風にネコミミが生えてまねき猫と同じポーズをしていた。

 朝には、完全にまねき猫化するかと思ったけど、朝には普通に戻っていた。

 さっそく、あの会社のサイトにアクセスして、ネコミミとか買って、自分でまねき猫風にやってみた。

 棚の上には、都合四つのまねき猫が並んだ。

 
☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生

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