大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・033『階段で怪我をした』

2024-03-02 11:22:51 | カントリーロード
くもやかし物語 2
033『階段で怪我をした』 





 もう一段あると思って脚を下ろしたら一階の床だった。

 グニュ

 みごとに足をグネってしまって立ち上がれなくなってしまった(;'∀')

 
 で、今日は授業も休んで、部屋で大人しくしている(^_^;)。


 月が改まると、出番を思い出した役者が勢いつけて舞台に現れたみたいに、急に春めいてきた。

 森の木々たちも、心なしフワフワして見えるし、植えて間もないヒメシャラも幼木ながらツヤツヤしくて、うっかり蝶々が留まったら、ツルンと滑ってしまいそう。

 昼休には、お仲間の生徒たちも外に出てノビをしたり大あくびをしたり。

 ああ、外に出たいなあ……

 出窓に腰掛けて独り言を言ってみたりする。


 プルルルル


 黒電話が優しく鳴って、松葉杖を軸に振り返って受話器を取る。

「もしもし」

『あ、交換手です。退屈しているようなので、ちょっと話しかけてみました』

「あ、どうもありがとう(^_^;)」

『もう少し暖かくなったら、故郷の真岡とかご紹介しますよ』

「え、真岡って、樺太の?」

『はい、真岡の春は遅いですけど、流氷がバリバリ流れ始めて、ちょっと男性的で素敵ですよ』

「わあ、そうなんだ。流氷なんて見たことないしぃ……でも、どうやって行くの? 日本も樺太も地球の裏側だよ」

『大丈夫ですよ、やくもの胸にはタマノオが巡り始めてますから、ソウルだけでなら行けるようになりますよ』

「そうなんだ!」

『それに……あ、御来客です』

 トントン

「あ、はいどうぞ」

「「失礼しますねぇ……」」

 え、二人?

 なんと、王女さまが詩(ことは)さんの車いすを押して入ってきた!

詩:「階段から落ちたって聞いて」

王女:「だいじょうぶ?」

やくも:「だいじょうぶです! わ、わざわざお越しいただいて!」

詩:「わたしも階段から落ちたから、ちょっと心配で」

 そうだった、詩さんは階段でよろめいた女王陛下を助けようとして転げ落ちたんだ(せやさかい402『王宮某重大事件・1・詩の災難』)。

やくも:「グネっただけですから、腫れがひいたら大丈夫ってお医者さんも言ってましたし」

詩:「そう、それは良かったぁ」

王女:「わたしも、学校の総裁だからね、ちょっと気になって」

やくも:「ああ、ボーっとしてたからです。急に春めいてきましたしぃ」

王女:「うん、それならいいんだけど、施設面で不具合があったら遠慮なく言ってちょうだい。ここのところ、行事やら福の湯のことに気を取られていて、校舎や寄宿舎の事に気が回らなかったかもしれないから」

やくも:「だいじょうぶですだいじょうぶです。それに、ほら、出窓からみんなの様子見てるの楽しいです。さっきから、ずっと見てるんですよ」

王女:「わ、ほんとう……よかったぁ、少し心配だったけど、みんな仲良くやっているわねえ」

 ちょっとだけ王女さまの視線が気になった。

 みんなから少し離れたところでデラシネがポツンと立っている。どうやったらみんなの中に入れるか困っている転校生みたい。

 自信が無いせいか、そういう魔法をかけているのかかかっているのか、他の子には見えていない。王女さまにも見えてはいないみたい。

王女:「あ、ハイジが木登りしてる」

やくも:「あはは、おサルさんみたい(^_^;)」

王女:「男の子たちも」

やくも:「男はヘタみたいです」

王女:「元気そうでなにより……コットンも見てみる?」

詩:「いえ、わたしは」

王女:「わたしが支える。大丈夫よ」

やくも:「出窓のところに体重をあずければ……」

詩:「あ、すみません」

 詩さんを出窓に座らせようとした時に異変が起こった。

 後から上ってきた男子をからかって、ハイジがより高いところに上った。

 そして、サルみたいに隣の木にジャンプ!

 ジャンプした先の木の枝がポッキリ折れた!

 キャ!

 ハイジは掴まった枝もろとも地面に落ちて、わたしの怪我どころじゃないと目をつぶって……そして、目を開くと、ハイジは地上五十センチのところで宙に浮いている……ように見えているはず。

 デラシネが、お姫様ダッコでハイジを受け止めていた!


 そして、もうひとつ。


 詩さんが自分の脚で立っていた( ゚Д゚)!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第97話《アイドリングな日々・1》

2024-03-02 07:25:28 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第97話《アイドリングな日々・1》さくら 




 あたしは、このごろアイドリングのような毎日だ。


『長徳寺の終戦 ファーストレインボウ』の仕事以来、ドラマや映画の仕事が無い。

 かと言って、まとまった休みが取れるわけでもない。

 ワイドショーやトーク番組、ラジオの仕事などが単発で入っている。いわばアイドリング状態。

 この日は『プロフェッショナル日本』という番組のロケ取材だった。

 タイトルは地味だけど、関東ローカルで18ぐらいの数字を取っている。8月放送分からは全国ネットになる。その記念すべき第一回のレポーターに、あたしが選ばれた。

 むろんメインではない。メインレポーターは『はるか ワケあり転校生の7カ月』でいっしょになった坂東はるかさん。

『世界一のドール制作』というのが今回のテーマで、気楽なお人形さんの取材だと思っていた。


「「えー、こんなのがあるんですかあ!?」」


 はるかさんと同時に叫んでしまった。ほんとは「キャー!」と言いそうなのを、職業意識で堪えた。

 葛飾にあるその工場は一見普通の三階建ての中小企業。アイボリーの外壁は、そろそろ塗りなおしたほうがいいんじゃないかと思われるくらいの……老舗の会社で、看板も「帝都ドール」と真面目が椅子に腰かけたような名前。

 ところが、清純そうな広報担当のオネーサンが出迎えてくれて、最初に通されたショールームでぶっタマゲタ。

 20畳ほどのスペースには、ベッドやカウチが並べられていて、女の子がいろんな衣装で、寝たり座ったりしていた。

「これって、言われなきゃ人間だと思っちゃいますね!?」

「驚いたあ……触っていいですか?」

「フフ、ええどうぞ」

「あ、なんか可笑しかったですか?」

 はるかさんが、赤い顔をして聞いた。

「わたしが入社した時も、そっくり同じことを社長に聞きましたから」

「ハハ、ですよね……ウワー、プニプニだあ。さくらも触ってみ」

 はるかさんは、ネグリジェ姿で寝ている女の子の胸を揉みながら言った。あたしは、横で座っているカットソーに短パンの女の子の太ももに触ってみた。体温が低いことを除いて本物そっくり。

「キャ!」

 はるかさんに、いきなりお尻を掴まれた。

「柔らかさ、いっしょよ!」

 そういうことは言ってからやってほしい……でも、これくらいはレポートを面白くするための演出だと納得する。

「この子たちは、ドイツ製の最高のシリコンで出来てるんです。中はシリコンだけだと重くなるのでウレタンのお肉とジュラルミンの骨格が入っていて、一応人間がとれるポーズは、たいていとれるようになってるんです」

 広報のオネーサンは無造作に女の子の脚を持ち上げて、曲げたり開いたり。で、なんちゅーか大事な部分もリアルに作られているので、目のやり場に困った(^_^;)。

「えー、こんなとこマジマジ見たことないけど……この子のはきれいですね!」

 と、はるかさんは平気でご覧になっている。

「ここは完全にボカシですね」

 カメラさんが黙ってうなづいた。

「今度一緒にお風呂入ったら見せっこしよう!」

 はるかさんは計算している。清純そうな自分が、そう言ったときのインパクトを。

「でも、シリコンというのはたいへん静電気を帯びやすいもので、愛情を持ってお世話してあげないといけないんです」

「ほんとだ、あたしが触ったとこ、もうホコリが付いてる」

「そういう時は、軽く水拭きしたあと、ベビーパウダーをはたいてあげるんです」

 オネーサンがやると、赤ちゃんのような匂いがした。

 仕事だけど、なんだか、とんでもない世界に飛び込んだような気がした。

 ガバ

「「ヒャ(,,ºΔº,,*) !」」

 セーラー服のドールが起きだした。

「じゃ、社長に来てもらうね(^▽^)」

 ドールが喋った!

「ハハ、社長のお孫さんです。ゲストが来られたとき、ああやって遊んでるんです(^_^;)」

 ああ、訳の分からん世界だ!


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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