大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・037『番号を回したら樺太だった』

2024-03-20 11:17:09 | カントリーロード
くもやかし物語 2
037『番号を回したら樺太だった』 




『この番号を回してください……』


 交換手さんは簡単に言ったけど、10桁の番号は聞いただけでは憶えられないので、二回に分けて言ってもらってメモに取り、もう一回確認してからダイヤルに指をかける。

 ジーコ ジーコ……

「やくも、おまえ、魔法使いには向いてないぞ」

「え、どうしてぇ?」

 魔法使いになるつもりはないけど、デラシネの言い方はひっかかる。

「たかが10桁の数字。一発で覚えられなきゃ、魔法の詠唱なんかできないよ」

『だからして、わらわが付いておるのじゃ』

「もう、御息所もぉ……ほら、間違えちゃったじゃない」

 もう一度、いちからかけ直し。

「ちょっと、覚えにくい番号なのよねぇ……」

 47230のぉ……14226っと……

 ツー カシャカシャ ツー カシャカシャ ツーカシャ カシャカシャ……

 メチャクチャ長い接続音(^_^;)

 ポシャ

 接続完了の音がして、これで話し中だったらどうしようかと思ったけど、電話をかけているわけじゃない。

 理屈は分からないけど、これは樺太の真岡に行くための番号なんだ。

「あ、もしもし……」

 習慣で電話の呼びかけをしてしまう(^_^;)

 
 ドゴゴォォォォォォォン


 すごい音がしたと思ったら、はるか目の下で氷がひしめきぶつかり合っている。

「これが全部氷なのか……すごい……白い猛獣たちがひしめき合っているようだ!」

「たしかにねぇ……」

 流氷とか氷山とか、動画や映画とかでは見たけど、リアルで見るのは初めて。コタツでミカンの皮を剥きながら見ているのと違って、周り中ひんやりしてるし、足もとからは流氷で鋭くなった冷気が無数の矢になった感じでピシピシ打ち上げられてくる。

「でも、デラシネ、ヤマセンの湖だって氷が張るんじゃないの?」

「これに比べれば栗鼠か兎の感じだ、ここのは虎かライオン、伝説のサーベルタイガーとかマンモス。それ以上だ、こんな凶暴な氷は始めて見た」

 バッキーーン!

「「ウワ!」」

 ひときわ大きな氷が弾けて、大小の破片が噴き上がる。

 デラシネと二人、思わず身をかわした。

「さすが、戦前の樺太、迫力がちがうなあ」

『『いえ、これは今の樺太ですよ』』

 御息所が交換手さんの声で言う。

『ちょっと、人をスピーカー代わりにしないでくれる!』

『『すみません、樺太までは声が届きませんので』』

『ああ、そう』

「戦前の真岡に来るんじゃなかったの?」

『回線の都合です。ほら、左の方に島が見えますでしょ』

「え、ああ」

 氷に見惚れてるうちに陸地に近づいてきたみたいで、島の所どころに日本風ではない街や建物が見える。
 みんな敷地が広くて、建物はゆったりと建っている。鉄筋アパートみたいなのもあるけど、戸建てのは壁は白かアイボリー、屋根はオレンジに近い赤色が多い。所どころに玉ねぎ坊主みたいな屋根が見えるのはロシア式の教会なんだろうね。

『『あれは真岡の南の方の町です。これから戦前の樺太に飛びます。インタフェイスのダイヤルを回してください。番号は……』』

 また五桁が二つだったらどうしようかと思ったけど、今度は1941。

 これは、ひょっとしたら西暦のことかもしれないねえ。

 ジー コロコロ ジーー コロコロコロ……

 ダイヤルを回すと視界の真ん中に読み込み中そっくりのグルグルが現れる。

 交換手さんの電話って、ひょっとしたらネットなのかなあと思った。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》

2024-03-20 07:14:45 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第115話《最後の七不思議・1》さくら 




「起立」の声がかかって――アレ?――っと思った。

 いつものところからじゃなく、廊下側の後ろからだったし、声が違う。

 続く「礼、着席」の声で気づいた。
 
 いつもの米井さんじゃなくて、副委員長の加藤さんだ。

 米井さんは休んだことが無い。まして今日は七不思議の最後を取材しなきゃならない日だ。こんな日になんの連絡もなしに休むわけがない。

 わたしと米井さんは、夏休みにTデパートで佐伯君といっしょのところを見かけるまでは、ただのクラスメートだった。それがチェーンメールのことが問題になることで、その容疑者と思われ、怖い顔で文句言われた。でも、それがきっかけで、その容疑が晴れると共に友達になっていったんだ。

 それからは文化祭の『帝都の七不思議』を一緒に取り組むようになった。スマホ番号の交換もやって、恵里奈、マクサと同じくらいに親友になりかけていた。

「米井さん、なんでお休みなんですか?」

「ご家庭の事情……としか言えないわ。ごめん」

 朝礼終わって、担任の水野先生に聞いても要領を得ない。先生も詳しいことは分からないようだった。

 水野先生は、普段は亜紀ちゃんと呼ばれている。歳が近いせいもあるけど、ウソを言うときには女子高生みたいに目線が逃げるので、非常に分かりやすい。その亜紀ちゃんの目線が逃げなかったので、本当に知らないのだろう。

 想像力のたくましいわたしたちだけど、お父さんの会社の問題とかお父さんの浮気がバレて大変なことになってるとか、強盗が入って人質になり、学校にも「家庭事情」としか言えないとか、今思えば下衆の勘繰りみたいなことしか頭に浮かばなかった。

 いかに普段から安物のラノベくらいしか読んでいないことが分かる。ちなみに強盗説はバレー部の恵里奈。こいつは吉本新喜劇の観すぎ。


――兄が亡くなりました。詳しくは後で。由美――


 昼休みに、このメールが入ってきた。

 米井由美は弟と二人姉弟だ。兄と言えば、この夏に双子の兄と分かった佐伯君しかいない……。

 そうだ、佐伯君は不治の病で入院していて、七不思議の取材協力にも病院から来ていたんだ。

 見かけは元気で乃木坂の制服着てるもんで、あたしたちは頭から抜けていた。帝都の女生徒らしい抜け方だ。昨日気まずいことがあっても、今日が楽しければ、そんな気まずさは忘れてしまうという長所でもあり、短所でもある。

「いまSセレモニー会館に兄といっしょにいます。明日は通夜で込み合うので、来てくれたら嬉しいです」

「え、亡くなった夜がお通夜とちゃうのん?」

 恵里奈の素朴な質問にマクサが答えた。

「亡くなった夜は、故人と、ごく親しい者だけで過ごす、仮通夜ともいうの。いわゆるお通夜は本通夜と言って儀式だから、本音の話なんかできない。由美、きっとあたしたちに話があるのよ」

 さすがにお茶の家元。洞察力が違う。

 地下鉄を一回乗り換えて三つめの駅で降りる。

 地上に出ると「Sセレモニー会館こちら」の看板が目に飛び込んでくる。ファミレスやパチンコのそれと違ってモノトーンの案内板は、地味だが、かえって目立つ。

 会館に着くと「佐伯家控室」の白地に黒の案内が出ていた。

 旅館の入り口みたいなところに『佐伯家』のぼんぼりがあった。

「失礼します」

 あたしが代表で声をかける。

 ………………。

 入ったところで畳の上に座ったけど、それ以上の声がかけられない。米井由美は兄の骸の前で俯いて、必死に悲しみに耐えていた……。
 


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生


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