大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

2024-03-12 14:54:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
086『女バレの部室』   




 月に一度バイトのギャラをもらいに行く。



 いつもは学校の帰りに寄っていくんだけど、春休みだし、この三日間は入試業務で生徒の立ち入りは制限されてるんで、わざわざ行く。
 それでもいちおう制服。正門の前まで行って入れるんなら中庭とかで日向ぼっこしてもいいかなあと思ってる。

 直美さんは雑誌の仕事で居なくて、マスターにいただく。マスターとはあまり会話にならないのでお礼言って、受け取りにハンコ捺いて学校に向かう。

 よしよし。

 正門に入る前から部活の生徒が見えたんで安心して入る。

 校舎の入り口には『教職員以外立ち入り禁止』の張り紙がしてある。

 こういう張り紙は令和ではパソコンで打ち出した機械の文字だけど、昭和では手書きだよ。禁止の止の字なんか、最後の横棒にグッと力が入っていて、いかにも「入ってくんな!」の感じがしてる。

 見上げた図書室に先生たちの後頭部がいくつか見える。たぶん、あそこで選抜会議とかやってるんだ。ごくろうさま。


 おお、グッチ!


 元気な声に振り返ると佳奈子がジャージ姿でバケツをぶら下げてる。

「あ、佳奈子も来てたんだ!」

「部室の掃除、ちょうど終わったところだから、寄っといでよ」

「あ、うん、いくいく!」


 部室等に行くのは初めてだ。


 二階建てのアパートみたいになってて、女バレの部室は外階段を上がって一番グラウンド寄りの部屋。

「かなっち、あたしたち帰るけど、鍵頼める?」

「うん、まかしといて」

 見覚えのある女子が二人、挨拶して外階段を下りていく。

「三人だけで掃除してたの?」

「うん、一年は三人しかいないからねえ。まあ、こんどバレーの強い子がチラホラ入ってるっていうから、ちょっと期待」

 なるほど、そういう意味合いもあって掃除がんばったんだ。

 部室は八畳を横から押したような縦長で、真ん中にゼミテーブルが縦に二つ、左右の壁には二段ロッカーが並んでて、ドアのガラスと奥の窓から光が入って、ちょっと薄暗い。むろん蛍光灯は点いてるんだけど、外が明るすぎるせいかもしれない。

「広くはないけどきれいだね」

「うん、掃除したとこだし、日ごろから気を付けてるからね。一階はすごいけどね」

「一階?」

「うん、男子のクラブは一階にまとめられてる」

「ああ、なるほど(^_^;)」

 ラグビー、サッカー、野球、陸上、テニス……なるほど、汗臭の泥だらけに違いない。

「適当に座ってて、インスタントだけどコーヒー淹れるから」

「あ、ありがとう……お、ずいぶんストックがあるんだ」

「卒業した三年生が置いていってくれたの」

 ロッカー二つが共用になってるようで、紙コップ、コーヒー、お茶やらがけっこうな量入ってる。

「お煎餅とクラッカーどっちがいい?」

「あ、クラッカーがいいかなあ」

「よし」

 ロッカーの上の段ボールを下ろすと一箱まるまるクラッカー。

「ほい、あたり前田のクラッカー」

「おお、リアル前田のクラッカー!」

「グッチって、時どき『リアルなになに!』って感動してるよね」

「え、あ……」

 そうか、この時代には『リアルなになに!』って言い回しはしないんだ(;'∀')。

「なんか、いい意味でゆるいっていうか穏やかっていうか、いいセンスだよね」

「あ、そうかなあ(^_^;)」

 まあ、仲間内なら多少の令和ネタやら令和言葉はいいだろう。こんなことで、そうそう歴史が変わるものでもないだろうし。

「ねえ、ちょっと早いけど、グッチは進路とか考えてる?」

「進路ぉ……」

 そうだよ、二年の二学期には進路希望調査が始まるんだ。最低でも就職か進学かぐらいは決めなくちゃならない。っていうか、わたしの場合、昭和に留まるか令和に戻るかっていう、ぜったい人には言えない進路選択もしなくちゃならない。

「選択によっちゃあ部活も考えなきゃいけないからねぇ」

「え、ひょっとして理系とか?」

「ううん、文系だけど。うち、公立でないと厳しいから」

「ああ、そういうのって共通テスト受けなきゃなんだよね」

「え、共通テスト?」

「え、あ、ちがくて……センター試験?」

「え? ようわからんけど、まあ二期校狙いだからねぇ」

 二期校……? イミフなんだけど、質問したら墓穴掘りそうだし、話題を変える。

「えと、春休みって、宿題無いし、けっこう時間あるし。また、みんなで出かけられるといいかもね」

「あ、うん……万博行ったのはよかったね。みんなでいっしょの企画にしなかったら行けてなかっただろうね……映画にも行ったし、花火大会も、MITAKAも刺激的だったしぃ……」

「ね、ね、けっこうアグレッシブにやってきたでしょ!」

「そうだねぇ、うんうん、考え込むのはちょっと早いよね。よし、天気もいいし、楽しむことかんがえようか!」

「そうだそうだ! エモいのもいいけど、青春を楽しまなくっちゃ!」

「そうだそうだ!……で、エモいってなに?」

「え、ああ……」

 ちょっと言葉には気を付けようと思って、いよいよ春本番!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  




 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

2024-03-12 07:17:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第107話《大容量メモリー惣一 




 船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。

 といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジ館をメインにうろうろする。

 オレの乗っている艦は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の艦の倍はくたびれる。今日の潮抜きは長くなるかもしれない。

 ラジ館は、天下に名の知れたオタクのメッカだ。

 昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。
 今年の上半期でかなりの新製品が出たので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっていた。童心に帰って30分のイベントを観た後、いざ目的のフィギュアの店に向かう。

 キャストのフィギュアを横目に殺し、可動フィギュアの陳列棚を見る。「あかぎ」に関わるようになってからロクに情報を集められていなので、新製品の人形たちにびっくりする。陸自の災害出動の可動フィギュアがあった。今までドイツ兵やアメリカ兵のはあったが自衛隊のそれは初めて見た。それも災害出動仕様。まだ癒えない震災体験と自衛隊への認識が変わったことの現れだろう。顔を見ると、うちの砲雷長に似ているので笑いそうになった。まあ海自や空自のフィギュアは出ないだろうが、少し嬉しくなる。しかし、こんなのが目当てではない。

 あくまでも女性のフィギュアだ。オレには「さつき」と「さくら」という二人の妹がいるが、妹とは言え生身の女は手を焼く。正直苦手……というわけではないが、女性の、それもシリコンの可動フィギュアに目が行くF社が1/6で、ころあいのものを出している。
 内部にステンレスの骨格が入っていて、間接が30以上も稼働する。「あかぎ」の前の「しらなみ」の時にハマった。なんせ人並みの姿勢を保持できるので、以前ハマっていたキャストのフィギュアよりも格納という点で優れている。
 小さな姿勢をとらせると、ショ-トケーキほどの小ささになってかさばらない。骨格が強化プラスチックの旧バージョンを4体ほど持っているが、2体は関節を壊してしまった。別にいやらしいポーズをさせていたわけではない。関節にラチェットが組み込まれていて、動かすたびにカチカチと音がする。それが硬くて、少し角度を間違えると骨折してしまう。二体壊してやっと扱いに慣れた。

 それは新製品の棚の上にあった。

 シリコンの宿命である静電気を帯電しにくく、したがって汚れにくい。そしてなにより関節がステンレスになり、動きもスムーズで骨折の心配がない。三種あったが、もっとも日本人的な顔をしているやつ。それと『ルパン三世』の実写版のルパンを買った。

 ラジ館とその周辺で三時間近く時間が経って、ジャンク通りに行きたくなったのをグッとこらえて電車に乗って帰る。

 豪徳寺の駅を降りるころには、佐倉惣一一等海尉から、ただの惣一に戻っていた。

「あれ、見慣れない車だなあ……」

 そう独り言を言うと、車の向こうからホースを握ったさつきが顔を出した。

「あ、ソーニーお帰り。半年ぶりだねぇ」

「7カ月ぶりだ。お前の車か?」

「うん、バイト先から押し付けられたのホンダZ。これで命拾いしたんだよ」

 さつきは、試運転の時に交差点で当て逃げされかけた話をした。

「このケツの短さで助かったかぁ、良かったじゃないか。しかし、これってほとんどクラシックカーだろ?」

「あちこち手が入ってるから、ただのポンコツ。ヤフオクで似たようなのが8万で落札されてた」

「まあ、今時クーペに乗る奴なんて、ちょっとオタクだろうな」

「ソーニーに言われたかないわよ」

「お帰りソーニー!」

 さくらが出てきて抱き付いてきた。昔と変わらないオニイチャン子だが、抱き付かれた背中に胸のふくらみを感じるのには閉口だ。

「ちょ、やめれ」

「あ、デニーズのテイクアウト!」

「ああ、土産だ。みんなで食うんだぞ!」

「はーい!」

 お土産の袋だけ持って、さっさと家の中に消えてしまった。やっぱり十二分にガキだ。

「駅前のデニーズで済ますなんて、ソーニーらしいわ」

「前の日から予約してたんだぞ……なんだこりゃ?」

 後ろのバンパーに大きめのチューインガムのようなものが付いている。

「やだ、ガムなんか着いてる!」

「ん……こりゃシリコンだな……なかなかとれない。これ、かなりの勢いで貼りつけられたんだな」

「ソーニー、取ってよ」

「うん……」

 こういうところで、シリコンの扱いが役に立つとは思わなかった。

「ソーニー、やらしい。また、こんな人形買ってきて!」

 リビングから、さくらが叫ぶのが、両親の笑い声とともに聞こえた。

「シリコンの中に何か入ってるぞ」

「え、なに?」

 オレは慎重にシリコンをはがした。

「……なんで、こんなもんが?」

 それは、C国製の大容量のメモリーだった。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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