大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 006『出発』

2024-03-11 16:24:15 | 自己紹介
勇者路歴程

006『出発』 




「ということでよろしくお願いします(^▽^)!」

「わ!?」


 たった今まで静岡あやねが立っていたところに古代衣装がワープしてきた!

「アハハ、いまの生徒さんの馬力で復活して、残りの『勇者の素』もダウンロードできちゃいましたよ」

「あ……」

 胸元が明るくなったかと思うと、胸のところで青い光が明滅している。

「では、インストール!」

「あ、ああ……」

 ブルン ブルブルブル!

 公園が回る、いや、わたしが回っている!

「目をつぶって! 酔っちゃうから!」

「は、はひぃ!」

 子どもの頃、公園の回転遊具に乗せられて、みんなにぶん回された感覚が蘇る。

 そうだ、あの時もKちゃんが「いちろー! 目をつぶってぇ!」と叫んでいたっけ。

 目をつぶって、これ以上は目をつぶっても酔ってしまうというところで、ようやく落ち着く。

「はい、もう大丈夫ですよ」

「ゼーゼーゼー……気持ち悪い……」

 うな垂れると、胸の光は充電の終わったバッテリーのよにグリーンに変わっている。

「ええと、この姿は?」

「デフォルトの勇者コスです」

 白というか生成りのツ-ピース。資料集とかで『古墳時代5世紀ごろの衣装』で紹介されているやつだ。生地は麻、全体にダボッとしていて、やっと啓蟄が過ぎた時期には寒い。髪を触るとミズラに結ってあるし、けっこう恥ずかしい。

「やっぱ、そぐわないかなあ……エイ!」

 ブルン ブルブルブル!

「うわ!?」

 また回る!

 さっきの半分ほどで回転が止まって、目を開けると、アニメやゲームでよく出てくる勇者のコス。

「うん、やっぱり今風がいいようですね」

「あのう、まだお受けしたわけじゃ」

「ええ!? 断ったら……」

 ジジジ

 消えかけの命の蝋燭が出てくる(;'∀')。

「わ、分かりました(-_-;)」

「右手で胸の前で線を引くように指を動かすとインタフェイスが出てくるから、時どき確認してくださいね。機能は、習うより慣れろでいきましょう。中村さんはゲームとかで取説とかチュートリアルとかはやらない方でしょ?」

「ああ……」

 息子やカミさんはよくゲームをやっていたが、わたしは家庭サービスに付き合い程度にしかやったことが無い。

「ああ、それが家庭不和の原因だったかもしれませんねえ」

「心を読まないでください」

「ごめんなさい。そうね、時間もあまりありませんね。では次に……名乗りを決めます」

「名乗りですか」

「本名でも構わないのですが、先に何が待ち受けているか分かりません。本名を名乗っていると、そこから付け込まれることもあります……そう、勇者乙と名乗ってください!」

「え、お、おつ? 甲乙丙丁の乙ですか」

「よかった、中村さんは甲乙丙丁の分かる人なんだ」

「は、はあ、父が兵役検査で乙種だったものですから」

 微妙に凹む。

「ああ、そう言う意味でじゃないんです。いや、そうなのかなあ?」

「は?」

「乙って言っておくと、甲があるような気がするじゃないですか『俺に手を出したら甲のやつが黙っていねえぜ!』とかね『甲にランクアップしたときを覚えてろよ!』とかね」

「なんか、子どものつっぱりみたいですねえ(^_^;)」

「アハハ、まあ異世界旅行も乙なものってノリ的な?」

「あははは(大丈夫かなあ)」

「では、最後の最後に……」

「え、なんですか?」

 神さまが印を結ぶと、ベンチの前の石碑がブルブルと震え出した。

「え、なんですかあれは?」

「わたしの荷物入れ。神社があったころは宝物殿とかに入っていたもの……なんだけどぉ」

「普段はゴロゴロのキャリーにしてます?」

「うん。いつ、この地を追われてもいいように可動式にしているの」

 きっと追われる時は、お婆さんの姿であれを押していくんだろうなあ……ちょっと可哀そうになってきた。

「あの中に、あなたのお供にピッタリなのがいるんで、道連れにしてあげようと思ったんだけど」

 ああ、そう言えば勇者とか冒険者の旅には小動物や妖精やらがお供に付いている。気立てのいい奴だったらいいけど『アラジン』に出てくるランプの精とかだったら勘弁してほしい。むくつけきマッチョに「ご主人さま~」とか呼ばれたくない。

「あ、大丈夫。八百比丘尼っていう女の子だから」

「八百比丘尼ぃ……熊野とかに伝説のある?」

「うん、人魚の肉を食べて永遠の命を得たっていう半妖、まだ、ここに社があったころにね転がり込んできて、ずっと宝物殿の守りをしてくれていたの……数百年ぶりだから、ちょっと苦労してるっぽいなあ……よしよし、わたしが手伝ってあげるから、そんなに焦らないでぇ……あ、中村さん、いえ勇者乙は、そろそろ時間だから」

「で、どうやって行けば(^_^;)?」

「電車とリンクしてあるから、急いでぇ、乗り遅れたら蝋燭間に合わなくなってしまいますからねぇ!」

 ジジジ

「は、はい!」

 慌てて公園を飛び出した。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

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鳴かぬなら 信長転生記 169『赤壁・1』

2024-03-11 11:05:34 | ノベル2
ら 信長転生記
169『赤壁・1』書籍範 




 大橋(だいきょう)さんには感謝するばかりだ。

 本来なら『大橋さん』などと気安く呼べるお方ではない。

 豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)のオーナーで、自由都市豊盃で一目も二目も置かれる商人であるばかりでなく文化的リーダー。パサージュという新しい業態で、豊盃楼(豊盃ビル)を生き返らせ豊盃一お洒落な商業施設にしてくださった。
 お蔭で、閉店寸前だったわたしの店もパサージュの中央路に移って望外の繁盛。繁盛しすぎて老夫婦では回し切れなくなり、もう若い人に譲ろうかと思った時。わたしを店主にしたまま自分の店になさって、なんと家賃まで払ってくださる。「全部譲られてはお寂しいでしょ」と、店の一画を新聞と雑誌のコーナーにして仕事を残してくださった。

 それに、大橋さんは呉の孫策公の妃である。元々は喬公の姫で喬公が呉に下った時に捕虜同然に妻妾の一人にされたが、その器の大きさと優れた器量で妃同然の処遇を受けていらっしゃる。
 妹の小橋さまも、孫策様第一の家臣、周瑜殿の妃になられ、姉妹共々呉の発展と三国志の平安に尽くされている。

 その大橋さま、いや、大橋さんが、いくつかの地点を指し示し「ちょっと見てきて下さらないかしら」と老生にお頼みになった。

 これで二回目。

 前回は「三蔵法師さま御一行に豊盃に来ていただけるように、あ、いえ、道中お噂を集めて知らせていただけないかしら」とお頼みになり、運に恵まれて御一行を豊盃にお連れすることができた。

「街や村々の様子を知らせてくださるだけでいいんです。そうねぇ、今度は奥様もお連れになって、お店の方はうちの、そう、リュドミラさんにやってもらいます。だいぶ柔らかくはなったけど、もう少しがんばってもらいましょう。チュウボウ(孫権)も懐いてるし、二人とも社会勉強的な? そんな感じで。ね、正直羨ましいんですよ。孫策さんももう少しお暇になったら、いっしょにあちこち見て周りたい……まぁ、そんな下心あってのことだから、どうぞお気楽に(⌒∇⌒)」

 まいったまいった、これだけのことを大説法会パレードの最中に馬を寄せて、ラーメン一杯できるくらいの間におっしゃるんだからなあ。

「ほほほ、あなた、もう耳にタコですよ」

「いや、感謝してもしきれんだろうがぁ。こうやって、本で読むしかなかった三国志のあちらこちらを見て周れてるんだ」

「それはそうだけど、ブツブツ言ってる間にも景色は変わっていきます、しっかり目に停めて大橋さんにお話しできるようにしなくちゃいけませんよ」

「いや、ちゃんと見てるし」

「そうお、じゃあ、ここまでに見えた雲はどんな雲でしたぁ?」

「雲ぉ?」

「あ、上を向いちゃいけません。目に留まったままをおっしゃい」

「ええと……いわし雲、時どき入道雲」

「なんですか、それぇ。夏と秋の雲がごっちゃじゃないですか」

「いや、季節の変わり目だからぁ」

「雲一つない晴天ですよ」

「え、そうなのか?」

「もう、行雲流水を見るのは観光のイロハじゃないですか。ボーっとするのは店番の時だけでいいですからね」

 ぐぬぬ、口の減らん婆さんだ。

「なにか言いましたぁ?」

「あ、いや、今日はな、行雲流水の流水の方を見に行こうと思ってるんだ」

「流水なら、すぐ脇を流れているじゃないですか」

 たしかに長江に沿って馬を進めている。

「水と人との関りを見るんだ。舟運、治水、開発、そういう人の関わり方で自然というものは姿を変えていくんだ」

「そうですねえ、転石苔を生ぜず……若いころ言ってましたよねぇ」

「え、そうだったかぁ?」

「そうですよ、英語で言うとA rolling stone gathers no moss. 言ってましたよ範さん」

「ああ、英語の方がカッコいいかなあ」

「あの言葉には二つの意味があるって、結婚してから分かりましたけどね」

「知ってたのかあ」

「でも、まあ……それで、どのあたりで流水を鑑賞するおつもりなんですか?」

「赤壁」

「え?」

「セキヘキ……ほら、この川の折れを曲がったところだ」

 言うと少女のような反射の良さで首を巡らす。

 口の減ららない婆さんになったが、こういうところは昔のままだ。

 いや、昔を取り戻したのか……大橋さんはほんとうにいい機会を作ってくださった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

2024-03-11 07:03:28 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第106話《車をあてがわれて妹を拾うさつき 




 あたし学生なんですけどぉ。


 思わず口ごたえしてしまった。

 原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。

「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。

 車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。

 怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増えてギャラが変わらなきゃタダ働きになってしまう。

 見透かしたように編集長が続けた。

「ギャラは、上限5万として出来高払い。もち経費は別。ただし常識の範囲でね」

 少しときめいた。まさか毎回5万くれるわけじゃないだろうけど、均して3万。月に3本で9万……これはおいしい。

「でも、あたしほとんどペーパードライバーですけど」

「ちょうどいい車を用意してある……」


 というわけで、車とは名ばかりのお母さんと同年配のホンダZの慣らし運転をやっている。

 全長3メートルを切る車体は、今の軽自動車よりも二回り小さく、まるでチョロキュー。行き交う車のウンちゃんが珍しそうに見ていく。前から見た姿はホンダのいいセンスを感じるけど、後ろがちょん切ったように存在しない。水中眼鏡と言われたハッチバックのすぐ下はバンパー。まあ苦手な車庫入れや縦列駐車はやりやすそうなのでヨシとする。

 豪徳寺の傍を走っていると、学校帰りのさくらを見つける。

「なにいーーーこの狭さ。なんで、今時二人乗りなのよ?」

 姉妹のよしみで、つい声を掛けたのが間違いだった。ま、今時の女子高生に、この車のよさを……いつの間にか、車を気に入りかけている自分に驚く。

「なんで、こんなとこ歩いてんのよ?」

 豪徳寺は家から離れてる。家への帰り道、商店街を突き抜けてわざわざ来なきゃならない。

 チャラ

 さくらは黙ってストラップ付のまねき猫を示した。

「米井さんとはうまくいったの?」

「実は……というわけで、二人は実の兄妹だったんだ。で、佐伯君は……あ、今の内緒ね」

「いいよ。大体わかる。あたしボランティアで、ときどきホスピスに行くの。さくらも知ってるでしょ?」

「うん……あ、ひょっとして!?」

「そう、見たことあると思ってたら、ホスピスで何度か話もした子だったんでびっくりした」

「なんで言ってくれなかったのよ!」

「さくらも、自分で解決した方がいいと思ったから。どう、上手くいったんでしょ?」

「まあね、心に何枚かバンソーコー貼ることになったけどね」

「あとは米井さんが、どう乗り越えていくかだね……つかず離れず、見守ってあげなよ」

「うん……」

「しかし、あのチェ-ンメールは不思議だよね。一回限りしか転送できなくて、問題が解決したら消去されるんだろ?」

「こんなメール、誰が回し始めたんだろ……とても高度なスマホとかのテクニックないとできないよ」

「さくらの番号をハッキングして、そこから回し始めて、結局知ったのは、米井さんのことをある程度には知ってる子たちなんだもんね」

「ひょっとしたら、神様……」

「アハハ……かもね」

 気楽に返事して、交差点を渡ろうとしたら、猛然と信号無視の車が愛車の真後ろを走り抜けていった。その後ろをパトカーがサイレン鳴らしながら走り抜けていった。

「この車、もうちょっと後ろが長かったら跳ね飛ばされてるとこだったよ!」

 さくらが、バックミラーを見ながらしみじみと言った。

 あたし学生なんですけど……そう言いたくなるような事件の前兆であった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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