大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・255『豊島郡長崎』

2022-01-21 13:10:18 | 小説

魔法少女マヂカ・255

『豊島郡長崎語り手:マヂカ  

 

 

 ズシ

 

 まるで、自動車そのものが気が付いたように停車した。

 むろん、自動車に意思があるわけではない。

 高坂家お抱え運転手の松本が、急ブレーキを踏んだのだ。

 松本は、高坂家の車であればパッカードもフォードも、江戸時代から使っている大八車でも、まるで自分の手足のように操れる。だから、急ブレーキを踏んでも、どこか柔らかい。

 キキー、ガックン!

 それに引き換え、後ろから付いてきた淀橋警察署のフォードは、つんのめるように急停車した。

「どうかしましたか?」

 警察のフォードから箕作巡査がまろび出て、パッカードの窓ガラスを叩いた。

「長崎の、どこへ行けばいいんでしょう?」

「え、分からずに走ってきたんですか?」

 

 パッカードに乗っているみんなが「あ、そう言えば!」という顔になって互いを見かわした。

 

 田中執事長の閃きで、九州の長崎ではなくて、豊島郡(後の豊島区)の長崎かもしれないというので、車で出発したのだ。箕作巡査も警察にかけあったが、分署である千駄ヶ谷署には自動車が無いので、本署である淀橋署からフォードを出してもらったのだ。

 パッカードには、松本運転手の他に霧子、わたし(マヂカ)、ノンコ、田中執事長。淀橋署のフォードには、箕作巡査の運転で、高坂侯爵と署長が乗っている。

 うかつだった。

 パッカードのみんなが思い、フォードのみんなは呆れた。

 人はともかく、魔法少女のわたしまで気が回らなかったというのは、気が逸っていたとはいえ、ちょっと異常。

「呪(しゅ)がかかっていたのかもしれない……」

「呪?」

 わたしの独り言を田中執事長が聞きとがめる。

「我々を自分の縄張りに絡めとろうとする犯人の呪です」

「そんなことが……」

「松本さん、もし、ここで停まらなければ、どちらに向かっていました?」

「はい……あたりまえですと……そう、あの神社の向こう当たりでしょうか、甲州街道への分岐になります」

「あの神社……見覚えがあるかもしれへん」

 

 ノンコが意外なことを言う。

 

「ほんとか?」

 ノンコは、完ぺきに令和の女子高生。それも日暮里高校だから、大正時代の豊島に詳しいのは変だ。

「うん、トキワ荘ってアパートの跡を見に来ことがあるのん」

「トキワ荘?」

「お父さん漫画家でさ、トキワ荘いうのは、マンガ家の聖地で。それが再建されるいうんで、跡地を見に来たんよ」

 みんなが怪訝な顔をしている。大正時代にはトキワ荘どころか、漫画という言葉も成立していないぞ。

「その、跡地は、あの神社が目印やったから……うん、周りの景色はちゃうけど、あの鳥居とかは憶えてる」

「そうか、ノンコは京都の野宮神社の宮司の家系だったわよね」

「え、あ、そうそう」

「『常盤荘』というのも、文人墨客が集うにふさわしい名前だね」

 高坂侯爵までもノッテきた。

「そう言えば、葛飾北斎の作品で北斎漫画という画帳が残されておりました。その類かもしれません」

「うん、田中の言う通り、そういうものに関係するものかもしれない」

「よし、取りあえず、そっちの方角に向かってみよう」

「承知しました」

 パッカードとフォードに分乗して、神社の向こう、後の時代にトキワ荘が建つ辺りを目指して進んで行く。

 ん?

 バックミラーに映る景色が、古いゲームの背景のように消えていく。異世界に入りかけているのかもしれない。

 

 しまったか……。

 

 気づいているのは、わたし一人だけ。

 いま言えば、いたずらに混乱を招く。

 今少し、様子を見るか……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・48〔ガンダムの怒り〕

2022-01-21 06:07:27 | 小説6

48〔ガンダムの怒り〕 

 

    


 新学年の始まりにはいろいろある。

 一年のときに書いた健康調査とか住所・電話とか、変更があってもなくても、全員に配られる書類。

 たいていの者は変更がないから、新しいクラスと出席番号。あと、簡単な健康上のアンケートをチェックしておしまい。

 一年のとき、佐渡君が、この健康アンケートのとこに「ビタミン不足」と書いたのを思い出した。一応健康問題なので、佐渡君は、保健室に呼び出されて詳しく聞かれた。

「佐渡君、君は、なにのビタミンが足りないのかな?」

 保健室の先生に聞かれて、佐渡君は、こう答えた。

「はい、ビタミンIです……」

 頭の回転の鈍い藤田先生(一年のときの担任)は「ビタミンIって……?」やったけど、保健の先生はすぐに分かった。

「アハハ、佐渡くんは、オチャメな子ねえ(^▽^)」

 Iは愛にひっかけていた。気が付いた藤田先生はクラスで言って、みんな明るく笑った。

 佐渡君も笑ってたけど、ほんとうは切実だったんだ。

 

 あんなに寂しい死に方をして……。

 

 それから、進路に関する説明会と、早手回しの修学旅行の説明が一時間。「二年は、一番ダレル学年だから、締めてかかれ」と、まだ生活指導部長の名残が消えないガンダムの長話。その間に一年生が発育測定。

 で、今日は、あたしたち二年が発育測定。

 身長、体重、座高、胸囲、聴力、視力と計る。

 クラス毎に最初に計る項目が決まっていて、あとは空いたところを適当に見つけて周っていく。ここで暫定委員長、副委員長の力が試される。空いたとこを要領よく回るのは、この二人の目端にかかっている。

 南ララアも安室並平も目端が利くとみえて、わがガンダムクラスは、いちばん早く終わったぞ。

 当たり前だったら、教室に戻って、担任が待っていて視力検査やっておしまい。で、チャッチャとやったクラスから早く帰れる。

 ところが、教室に戻ると肝心のガンダムが居ない。

 まあ、先生も測定係りやってるから、仕方がない。

 で、教室のあっちこっちで、スマホをいじりだした。

 仲よくなった者同士が番号の交換やったり写真を撮ったり、動画を見たり。

 あたしは、ネットで『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読む。この本は、この5月には改訂されて、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で出版される。799円と女子高生の心をくすぐるような値段。買って読もうと思てるんで、比較のためにチョビチョビ読み直してる。

「鈴木さん、あなたラインしないの?」
「え……あれって、ヤギさんの手紙みたいにキリ無くなるから、ちょっとね(^_^;)」
「えらいね!」

 ララアが誉めてくれた。

 ほんとうは、やりたい相手は居てる……関根先輩。

 こないだは、さつきに告白させられてしまったけど、さつきはスマホを知らないから、先輩の番号は聞き損ねた。ララアに誉められるほどイイ子ではないよ。

 だけどさ、人の特徴を美点から見ていこいうララアの自然な対応には好感が持てたよ。

 それから5分ほどして、校内放送が入った。

 ピンポンパ~ン

「ただ今より、臨時の全校集会をやります。生徒は、至急体育館に集合しなさい」

 体育館にいくと、明日は3年の発育測定だいうのに、測定機材は隅に片づけられていた。

「黙って、チャチャッと座れ!」

 まだ生活指導部長の名残が抜けないガンダムが仕切りはじめた。新しい生指部長は黙ってる。ガンダムはなんか怖い顔してるぞ。

 みんなが静まったとこで、教頭先生がマイクの前に立った。

「ちょっと事情があって、校長先生がしばらくお休みになられます。その間は、わたしが校長の代理を務めます。いま君たちに言えるのは、そこまでです。なんだか、よく分からんかもしれませんが、先生たちも、いっしょです。で……」

 あとは、事務的な話。奨学金やら、各種証明書の発行が今日明日はできないような……。

 ガンダムの顔が、いよいよ厳しく、大魔神のようになってきた……。

 

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