大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・273『出願』

2022-01-24 16:16:58 | ノベル

・273

『出願』さくら     

 

 

 ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

 昨日までの寒さが、ちょびっとだけ緩んだ昼下がり、あたしは大和川を超えてるとこ。

 

 いつやったか、言うたよね。

 堺の中学生が大和川を超えるのは、ちょっとだけ特別なことやて。

 ミナミに遊びに行くか(ミナミは堺からは北やねんけど、こういう場合でも『ミナミに行く』という)、親類の用事とか、部活の遠征とか。まあ、年に数回しかないやろという特別なことのため。

 国語やったか社会やったかで習った『ハレの日のハレの行い』なんですわ。

 

 で、今日は、一生に何回もないハレ中のハレ!

 

 入学試験の願書を、留美ちゃんと二人、聖真理愛(せいまりあ)学院に持っていくとこデス!

「あ、それってソフィアの!?」

「あ、せやね。ソフィアが『デス』って付けるのんて、こんな感じやってんやろねえ(^▽^)」

「アハハ、頼子さんのガードって、気合い入れなきゃできないもんね」

「あ、頼子さんに会うたら、言うたろお」

「あ、いや、あくまでソフィアの受け止め方だから」

「アハハ、分かってるよ。とにかく、新鮮なドキドキ感やねえ」

「ドキドキはいいんだけども、子どもみたいに窓向いて座るのは……」

「ええやんか、お客さん少ないねんし!」

 子どもっぽいことは分かってる。

 せやけど、この、ハレの喜びをかみしめたいわけですよ。

「ねえ、真理愛受けるのん、うちらだけかなあ?」

「どうだろ……」

「せやかて、真理愛のセット(願書とか内申書とか)貰って、電車に乗ってるのん、うちらだけやし」

「噂だけど、当落線上にいる子は出願状況見て、ギリギリまで様子見するって言うよ」

「え、そうなん!?」

「あ、噂だから(^_^;)」

「いや、きっとそうやし。うん、そうや。せやさかい私学は出願期間が長いんや!」

 うちは、もう余裕のよっちゃんいう気になってきた!

「あ、あたしたち専願だしぃ」

「あ、そうか、専願や! うちらは真理愛命デス!」

「こ、声大きいよ(;'∀')!」

「あ、ごめん(^_^;)」

 

 さすがに駅に着いてからは大人しい……せやかて、他の学校から願書持ってきた子ぉらといっしょになってるさかいね。

「みんな賢そうに見えるねえ……」

「そりゃ、出願だもん。さくらだって、ブラウスの第一ボタンまで停まってるし」

「え、そら、出願……て、せやねえ」

 

 あっさり出願は終わって、正門に向かってると、留美ちゃんが袖を引く。

「ちょ、あれ、頼子さんだよ」

「え?」

 見上げると、三階の廊下で頼子さんが女生徒と話してる。頼子さんの後ろにはソフィアがポーカーフェイス。

 なにやら真剣に話してるご様子で、あたしは、うっかり上げかけた手ぇを下ろした。

「あ、あの人……」

 留美ちゃんは、頼子さんと喋っている女生徒に注目。

「どないかした?」

「あ、いや……」

 すると、ソフィアが半身の姿勢のままうちらを見た。

 見たんやけど――今は声を掛けないで――というオーラを感じた。

 口に出さんでも、そういう意思が伝わるのは、付き合いが長いから?

「ソフィアのテレパシーだよ、いくよ」

「あ、ちょ、なんか面白そうやのにい」

 留美ちゃんは、そんなうちの野次馬根性無視して、ズンズンと歩いて行った。

 

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明神男坂のぼりたい・51〔てーへんだ!〕

2022-01-24 06:00:19 | 小説6

51〔てーへんだ!〕 

        

 

 好きなフレーズに『てーへんだ!』がある。

 しゃくばあ(石神井のお祖母ちゃん)が時代劇が好きで、行くと、たいてい『銭形平次』とか『暴れん坊将軍』とかを観ていた。『銭形平次』だったと思うんだけど、手下の岡っ引きが「てーへんだ親分!」とやってくる。あれが好きだった。真似すると、みんな「明日香はひょうきんだねえ(^▽^)」と喜んでくれたしね。


 今日は、公式と非公式の「てーへんだ!」があった。

 高校二年にもなると、世間の手前「てーへんだ!」と言わなくちゃならないことと、心では、そう思っていも口に出して「てーへんだ!」と言ってはいけないことの区別ぐらいはつく。

 それが、一日に二つとも起こってしまった。珍しい一日だ。

 世間の手前は、新しい校長先生が来たこと。

 世間には、一回聞いたら忘れられない名前がある。例えば剛力 彩芽。苗字と名前のギャップが大きいんで、この人はテレビで一発で覚えた。これが、特別であるのは、たいていの人の名前は一発では覚えられないという常識的な話。

 新しい校長先生は、都教委の指導主事やってた人。

 指導主事と言うだけで、うちはガックリ。何度か触れたけど、うちの両親は元学校の先生。だから、よその子よりは、学校のことに詳しい。

 指導主事というのは、学校現場では使いもんにはならない先生がなるもんらしい。で、校長先生の半分は、教師として生徒やら保護者と協調できない人がなってる。新しい校長先生は、その両方が被ってる。だから、着任の挨拶もろくに聞いていない。もっとも、本人が前の校長さん以上に話し下手いうこともあるけど。

「どうですか、新しい校長先生がこられて?」

 学校の帰りに、テレビ局のオネエチャンに掴まってしまった。

「(溜め息)……今度のことは、生徒には大変ショックです。だから新しい校長先生に指導力を発揮してもらって、一日も早く学校を正常化してもらいたいと期待してます」

 と、毒にも薬にもならない、いいかげんな答をしておいた。なんせ、その時には、新校長の名前も忘れて、顔の印象もおぼろ。だから、最初の溜め息は――どうしよう(;'∀')?――というだけの間。

 それが、テレビ局には「傷ついた女子高生の苦悩」みたいに写ったみたいで、他の生徒にもインタビューしてたけど、ニュースで流れたのはあたしへのインタビュー。なんと云っても、こないだまでは演劇部だったから、悩める女子高生一般なんかチョロイ。

『学校の主人公であるべき生徒たちは、このように傷つき混乱しています。民間人校長のありようが問われ、なによりも一日も早い正常な学校生活の復活が望まれます』

 と、レポーターのオネエチャンは締めくくってた。

 どーでもいいニュースだったけど、学校の主人公が生徒だというのには引っかかった。主人公だなんて感じたことないしね。

 学校いうところは上意下達。下々の生徒風情が主人公だなんて、日本の平和は憲法9条のおかげだというくらいに非現実的。マスとしての『生徒』は主人公なのかもしれないけど、一人一人の生徒は主人公としては扱われない。演劇日時代のあたしとか、ほら……佐渡くんとかね。

 

 もう一個の「てーへんだ!」は、関根先輩からメールがきたことーーーー(# ゚Д゚#)!!

 

 だって、あたし、先輩の番号知らないし、先輩もあたしの番号は知らないはず……それが、どうして!?

 犯人は……さつきらしい。

 こないだ、さつきのタクラミで、関根先輩に告白させられてしまった。だけど、さつきは、スマホなんちゃらいうもんは知らないから、番号の交換はしなかった。しかし、あたしに覚えがないいうことは、あたしの中に居るさつきしか考えられない。

「やっぱり、さつき?」
「ああ、日々学習してるからな。明日香が寝てる間に、チョイチョイとやっといた。三人ほど電話したら、すぐに番号分かったぞ」
「さ、三人て、だれ!? なに言ったの!?」
「人の名前って、すぐ忘れからね。最後の一人だけ覚えてるかな」
「だ、誰やのん!!?」
「田辺美保。こいつは明日香の恋敵でもあるみたいだから。牽制の意味もこめて電話しといたぞ」
「で、なに喋ったの……いや、なに喋らせたのよ、あたしに!?」
「忘れてしまったあ。まあ、いいではないか。これで二三歩は関根君に近づいたぞ。アハハハ……」

 豪快な笑いだけ残してさつきは、あたしの奥に潜ってしまいやがった。

 そして。

 怖いから、なかなか関根先輩のメールは開けなかった……。

 

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