大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 56『女たちを送る・1』

2022-01-29 17:04:28 | ノベル2

ら 信長転生記

56『女たちを送る・1』信長  

 

 


 女に生まれてきてよかったと思うぞ。


 俺の事ではない、市のことだ。

 横を歩いていてさえ感じる殺気。

 視野の端で捉えると、一見力が抜けているように見えるが、これは、目についたものを切り殺すための準備姿勢だ。

「目に入った者は殺す」と触れているようなものだ。

 これでは数丁先の敵でも太刀を抜いて矢をつがえるぞ。

 戦国の武将が務まるキャラではない。

 信玄や謙信の顔が浮かぶ。あいつらは自己韜晦の化け物だがな……辛うじて生徒会の石田三成……いや、あいつもろくな死に方をせずに転生してきたぞ。

 思うと、憐れな妹ではある。

「シイ(市の偽名)、もう、ここらで女たちは解放しよう」

「なぜ?」

「見れば、関門は、まだ開いている様子。街に入れば、女たちも自分で戻るだろう」

「家まで送り届ける」

「え、あ……」

「わたしどもは」

 女たちも、市の危うさが分かるのだろう、うんとは言わない。

「遠慮はするな、見届けなければ、わたしも落ち着かない」

「「「は、はあ」」」

「待て、シイ」

「ん?」

 パシーーーン!!

 思い切り張り倒した。

 ヒ!

 女たちは身を縮めるが、市は数歩タタラを踏んだだけで錫杖を構えて睨み返してくる。

「何をする!」

「そんな剝き出しの殺気では、すぐに怪しまれる」

「え……あ、そうだね。ちょっと持ってて」

「は、はい」

 女たちに錫杖と太刀を預けると、市は、思いがけぬことをした。

「えいッ!」

 気合いを掛けると、その場で、きれいな倒立をする。

 器用に衣の裾を股で挟んで乱れを防いでいる。

「それでは、血が上りませんか……」

 女たちの方が気を遣う。

「勢いを付けるのよ……」

「お顔が真っ赤に……」

 セイ!

 気合いを入れて体をしならせると、見事なバク転を決めて、着地した。

 パチパチパチ

 思わず、女たちと拍手をしてしまう。

 こいつ、新体操に向いているかもと思ったぞ。

「よし、これで血を下げた。いくよ」

 確かに、人が変わったようにゆったりとした。

「……少し、ここで待て」

「え?」

 俺は返事もせずに林の向こうに回って様子を窺っていた先駆けの二等軍曹をぶちのめす。

 ドゲシ! ドガ!

 悲鳴も上げさせず、軍用の通行手形を召し上げて戻って来る。

「さすがあ!」

「「「おみごと、おみごと」」」

 パチパチパチ

 市が感心し、女たちが拍手する。

 こいつら、変わり身早すぎ(-_-;)。

「おまえたち、家はどこだ?」

「はい、西の指南街のほうです」

「指南街か、学者たちの街か」

 世間知らずの学者の娘たちが、荒くれの兵どもにたぶらかされたというところか。

 さっさと送り届け、うまくいけば、ぶっそうな外邑ではなく、女たちの家で、まともな寝床にありつけるかと再び関門を潜った。

 

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

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明神男坂のぼりたい・56〔初めてのアマゾン!〕

2022-01-29 05:49:50 | 小説6

56〔初めてのアマゾン!〕 

        


 話は前後する。

 月曜は、横浜の異人館街の遠足だったけど、その前の日曜は、しゃくばあ(石神井のお祖母ちゃん)の全快祝いに行ってきた。

 以前、佐渡君のとこらへんで書いたけど、しゃくばあは左の腕を骨折して一カ月半も入院していた。


 単純な骨折だから、普通半月もあったら退院できるんだけど、しゃくばあは骨粗鬆症のうえに足腰弱ってるので、一カ月余分にかかちゃった。

 それが、やっと退院して快気祝い……といっても、家で盛大にやるわけではない。商店街のN寿司に行って、伯母ちゃん夫婦とうちの家族三人で、お寿司を食べるんだ。

 石神井の家から歩いても10分ほどなんだけど、お祖母ちゃんは家からおじさんの車に乗せてもらってやってくる。うちら神田組は、寿司屋の前で順番取り。11時45分開店なんだけど、もう10人ほどの列ができている。しゃくばあがおじさん・伯母ちゃんといっしょに来た頃は、列は店の角を曲がって30人ぐらいになっている。
 

 6人でたらふく食べた。

 あたしは定番のマグロから始めて、中トロ、鉄火、エビ、イカ、蛸、そしてもういっかい鉄火にもどって上がり。ちょっと少ないみたいだけど、ここのN寿司は1皿に3貫載って、ネタも大きいから、お馴染みの回転寿司の倍くらいはある。

 ビックリしたのが蛸。符丁は「ぼうず」 何がビックリしたか言うと、蛸が生だということ。お馴染みの回転寿司やら出前寿司のたこは茹で蛸。いつもの調子で食べたら吸盤が上顎にくっついてえらいことになった(^_^;)。

 あたしの味覚では、サビが足らないのでサビ入りのムラサキをハケで塗ったら死ぬかと思った(;'∀')。

 サビの効き過ぎ。上を向いて、しばらく口を開けている。わさびは揮発性なので、こうやっておくと刺激が抜けていく。だけど「バカな顔するんじゃないの!」と、お母さんに怒られた。伯母ちゃんが、その姿をシャメで撮ちゃって。こんな姿、関根先輩には見せられねえ。

 くっついてきたさつきが、しきりに「うまい!」を連発。「もっと食え」言ったけど、さつきの言う通りにしていたらブタになる。鉄火の追加で辛抱させた。どうもさつきの時代には寿司は無かったみたい。

 それから、しゃくばあの手を引いて喫茶店。

 正確にはしゃくばあが、あたしの腕に掴まっている。保健で習ったし、中学の職業体験で行った介護施設でも身に付いた「手のさしのべ方」の基本。

 だけど、しゃくばあは、嬉しかったみたいで、後でお小遣いむき出しで1万円もくれたよ!

 

 いつも通り前説が長い。

 

 あたしは、この1万円で、始めてネットショッピングをやった! それもお洋服!

 カード決済だと、大人じゃないとできないけど代引きだったらできる。そう知恵をつけてくれたのは、おじさん。

 

 制服以外ではパンツルックが多いあたしは、家の中では、たいがいジャージ。だけどジャージばっかり着ていたらジャージ女になってしまう。

 ジャージ→くつろぎ→だらしないの三段論法は正解だと思う。

 人間は着るもので立ち居振る舞いが決まってくるんだよ。

 美保先輩に勝つためにも、ちょっとは女の子らしいくしなくっちゃね。

 女の子の夏のファッションを検索。正直目の毒(^_^;)。

 2時間ほどかけて、二つ選んだ。七分袖のカットソーと、大きな花柄のスカート(細いブラウンのベルト付き)

 カットソーとTシャツの違いがよく分からんので検索。

 カットソーというのは、生地が編み物で伸縮性がある。Tシャツはただの(主に)木綿の生地。体のフィット感がちがう。で、3回ほどクリックして、アドレスと住所打ち込んだらおしまい。お届けは2日後てなってたけど、遠足から帰ったらもうきていた。

 惜しい、もうちょっと早かったら遠足着ていけたのに!

 で、部屋に籠もって一人ファッションショーをやった!

 我ながら「馬子にも衣装」。スカートがミニだけど、フレアーがかかっててフワっとしてる。カットソーは体に緩やかにフィット。ジャージやら制服とは全然ちゃうシルエットが、そこにあった。

―― あたしって、こんなに女の子らしかったんだ! ――

 感動してしまった。

―― かわいいのは認めるけど、いきなり、これ着て学に会うのはやめろよ ――

 さつきが、いらんことを言う。

―― 坂東の女は心意気だ。都の女みたいにナヨっとするな。まず、ドーンととびこんでいけ。そして相手に通じてからきれいにしたらいい ――

 さつきの言うことも分かる。だけど、こないだみたいに、いきなり夜這いかけるのは違うと思うよ。

 もどかしいなあ、青春いうのは……。

―― なにもむつかしくない、行動あるのみ! ――

「うっさい、黙ってて!」

「このごろ独り言多いねえ……」

 洗濯物干しに上がってきたお母さんに聞かれてしまった……。

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