大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・252『ブリンダのお願い』

2022-01-02 15:41:31 | 小説

魔法少女マヂカ・252

『ブリンダのお願い語り手:マヂカ      

 

 

 クマさんと箕作巡査の婚約騒動から三日後、ブリンダが高坂邸にやってきた。

 

「お二人とも、ほんとうにおめでとう!」

 だれが見ても『二人の婚約をお祝いに来た!』という感じの祝意をホカホカの婚約者たちに述べた後、ブリンダは、わたしの部屋にやってきた。

 

「それで、ほんとうの用事はなによ?」

 

「え、バレてんのか?」

「長い付き合いだからね」

「さすがは日ノ本一番の魔法少女だ話が早い」

 とたんに行儀悪くなって、ソファーの上で胡座をかく。

「フン」

「あ、でも、二人にお祝いの言葉を言うのが半分以上の目的だぞ。だから、こっちは後回しにしただろーが」

「どうせ、あたしは後回しなんだ」

「おい、からむなよ」

「で、アメリカ一番の魔法少女が日ノ本一番の魔法少女になんの用?」

「飛行石をかしてくれ」

「はあ?」

 ペシ!

 厚かましく伸ばした手を張ってやる。

「あ、ひどいなあ……いや、だから飛行石を……な」

 ちょっと注釈。

 魔法少女は空を飛ぶんだけど、飛び方は二種類ある。

 乗り物に乗るのと、自分の力で飛ぶのと。

 乗り物は、魔法のホウキから、こないだの筋斗雲とか、大塚台公園のオブジェとかね。

 飛行属性の無い物体でも魔法で飛行能力を与えてやることもできる。

 自分で飛んだり、そういう飛行属性の無い物体に飛行能力を与えてやる時に使うのが飛行石だ。

 普段は体の中に収納している。

 収納場所は魔法少女仲間にも秘密だ。能力の高い魔法少女なら人の飛行石を盗むこともできるからね。

「ブリンダ、大使の娘ってことになってるんだから、適当に乗り継いでいけるでしょ」

 大正12年だから、自動車はもちろん飛行機だって、ライト兄弟の初飛行から十年たって、戦争にだって使われたから、大使令嬢なら、たいていの乗り物には乗れるだろう。

「それがな、アメリカなんだ」

「なら、船でしょ」

「船じゃ間に合わない、十日にはバーバンクに着かなきゃならないんでな」

「バーバンク……カリフォルニア?」

「あ、ああ」

「いったい何があるのよ?」

「ウォルトが会社を作るんだ」

「ウォルト…………あ、ウォルトディズニー!?」

「あ、ああ、そのウォルトだ」

「お祝いに行く……だけではないのね?」

「ああ、ちょっと魔族がらみの妨害があってな。オレが手助けして、やっと間に合ったんだ」

「つまり、史実と異なって、ブリンダはこっちに来てるから、心もとないというわけ?」

「その通りだ。同一の時空に二人以上の自分が存在していると、力が弱くなる。まして、このイレギュラーな状況だ。ひょっとしたら、アメリカに、もう一人のオレは存在していないかもしれない」

「なるほどね……」

 ディズニーは、その後力を持って、令和の次代には霊雁島の第七魔法艦隊の司令を務めることになる。

 無下に断ることもできない。

「見ちゃダメよ」

「あ、ああ、もちろん」

 えい

 掛け声をかけると、分身の術を使う。隠れて取り出しても、ブリンダほどの魔法少女ならお見通しだからね。

 それにブリンダは「見てはいけない」は守れっこない。鶴の恩返しの主役みたいな性格だしね。

「信用ねえなあ……」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「当たり前よ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 部屋中だんご状態になったわたしが応える。

「ああ、目がチカチカする!」

 百人を超えるわたしが、それぞれ、体の別の場所から飛行石を取り出す。

「はい、どうぞ」

「すまん、恩に着るよ。二人の結婚式までには帰って来るから!」

 そう言うと、ブリンダは、窓を大きく開け放った。

「あ、ちょっと、まさか……!?」

 そのまさかだった。

 セイ!

 軽くジャンプすると、スーパーマンのように東の空に飛んで行った。

 仕方がない、元々は心配して、この大正時代に飛び込んできてくれたんだからね。

 静かに窓を閉めて……ちょっと気になった。

 三日前、天窓を過った黒い影。

 あれから姿を現わさない。

 まあ、少々のことは飛行石がなくてもやれるか。

 

 見上げる空は、令和のそれよりも、うんと真っ青に透き通った青空。

 この青空を見上げて、この時代の日本人は震災の復興に取り組んでいるんだ。

 わたしも、もう少し顎を上げてやってもいいのかもしれない。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

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明神男坂のぼりたい・29〔月曜はつまらない〕

2022-01-02 07:00:16 | 小説6

29〔月曜はつまらない〕 

 

 


 月曜はつまらない。

 
 理由は、学校がおもしろくないから。

 言わなくても分かってる?
 

 みんなもそうだもんね。

 あたしは、このつまらない月曜を、大学を入れたら六年も辛抱しなくちゃならない。

 え、働いたらもっと……ごもっとも。

 そこいくと、うちの親は羨ましい。

 お父さんも、お母さんも早く退職して、このつまらない月曜からは、とっくに解放されている。

 だから、月曜の「いってきまーす」「いってらっしゃーい」は複雑な心境。

 お父さんなんか、自称作家だから、時に曜日感覚が飛んでしまってる。

 今朝の「いってらっしゃーい」は、完全に愛娘が痛々しくも悲劇の月曜を迎えたいうシンパシーが無かった。

 

 お父さんが仕事してたころはちがった。

 保育所の年長さんになったころには分かってた。

 お父さんは、あたしを保育所に送ってから仕事場に行っていた。仕事場がたいがいだというのも分かっていた。都立高校でも有数のシンドイ学校。子供心にも大変だなあって思てた。

 小学校に行くようになってから、お父さんが先に出ることになった。

 七時過ぎには家を出ていた。仕事熱心だということもあったけど、半分は通勤途中に生徒と出くわさないため。

 登校途中の生徒といっしょになるとろくな事がない。タバコ見つけたり、近所の人とトラブってるとこに出くわしたり。だから、そのころのお父さんは可哀想だと思ってた。

 それが、あたしが中学に入ると同時に退職。

 可哀想は逆転した。

 お父さんは、早やくから起きて「仕事」。

 で、あたしは小学校よりもつまらない中学校に登校。そして、いまは高校。

 

 今日は、いつもより数分早く出た。

 

 いつものように男坂を駆けあがる。

 ほんとはね、いつかは友だちと駆け上がるようになりたかった。

 だって、男坂は四五人が横に手をつないだまま上がれそうなくらい幅が広いし、朝日が上から降って来るし、一人じゃもったいない。

『明神男坂のぼりたい』の『のぼりたい』には上り隊の意味もある。

 ほら、むかしアイドルグループで流行りだったじゃん。

『雨上がり決死隊』とか『渡り廊下走り隊』とかさ。

 でも、その夢はいまだにかなわずに、今朝も一人で駆けあがる。

 

 パンパン

 

 時間に余裕があるので、二発だけだけど小さく手を打ってお辞儀をする。

―― 今朝は、いろいろ人に会えるよ ――

 明神さまの声が聞こえたような気がした。

 

 よし!

 

 小さくガッツポーズして、随神門から出ることにする。

 巫女さんと笑顔の交換して、だんご屋のおばちゃんに手を振って、外堀通りを目指すべく湯島の聖堂を左に見ながら本郷通を南下。

 横断歩道を渡ってビックリした。

 向こうの歩道を関根先輩と美保先輩が私服姿で御茶ノ水の駅を目指してる。

 二人ともなんだか落ち着きがない。そして、あきらかに一泊二日程度の旅行の荷物と姿。


 卒業旅行? 

 

 だけど二人は学校が違う……こういうバージョンの卒業旅行は特別……バッグの中味が妄想される。コンドーさんに勝負パンツ……うう、鼻血が出る!

「どうぞ、楽しんできてください!」

 バカの明日香は外堀通りに下りる階段のところで声を掛ける。 

 キャ!

 美保先輩が可愛く悲鳴。

 これは、もう確実……挨拶も交わさないで階段を駆け下りる。

 医科歯科大を過ぎて郵便局が見えてくると、隣接してる地下鉄の地上出口から美咲先輩が出てくるのが見えた。

 なんか髪の毛いじって、右手で制服伸ばしてる……スカートが、真ん中へんで横に線が入ってる。今の今までたたんでましたという感じ。

 で、紙袋から、私服らしきものが覗いてる。

 気づかれないようにように距離を詰めると、明らかに朝シャンやった匂いがした。

 美咲先輩お泊まりか……慌てて距離をとると、また、頭の中で妄想劇場の幕が上がる。

 

 しょ しょ 処女じゃない 

 処女じゃない証拠には 

 つんつん 月のモノが三月も ないないない♪

 

 父親譲りの春歌が思わず口をついて出てくる。

 春歌で調子づいたので、いろいろ歌いながら学校を目指す。

 主にアニソン……なんだかやけくそ。

「こら、アスカ!」

「キャ!」

 こんどは、後ろ歩いてた東風先生におこられて飛び上がる。

「ボーっと歩いてんじゃないわよ、信号赤だぞ」

「すみません」

 先生は、そんなにセカセカしてたら早死にしますよってぐらいの速足で、わたしを抜かしていく。

 

 なんで、今日はこんな人らに会うんだろ。

 明神さまのお蔭?

 いらないお世話。

 いっしゅん思って打ち消す。

 神さまに文句を言ってはバチが当たります(^_^;)

 教室についたら、一番だった。

 

 で……違和感。

 

 直ぐに気づいた。

 金曜日まで花が載っていた佐渡君の席が机ごと無くなっていた。

 朝からのつまらないことが、いっぺんに吹き飛んだ。

 閉じかけていた心の傷が開いて血が滲み出してきた……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん

 

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紛らいもののセラ・6『脱輪』

2022-01-02 05:29:30 | カントリーロード

らいもののセラ

6『脱輪』   

 


 父の龍太は喜びつつも戸惑っていた。

 表面には出さないが、なんとなくの雰囲気で分かってしまう。

 事故以来、直接会うのは初めてなのだ。

 会社で建造中の26DDHのアレンジミスが見つかって、年が明けてから一度も娘に会っていなかった。

 

 そこで連休を利用してセラの方から会いに来たのだ。

 

 家にも帰れない忙しさなので、父の遅い昼食時を狙って、造船所にやってきた。

 家から遠いことと、造船所の構内が広いため、兄の竜一に車で付いてもらった。

「セラ、なんだかたくましくなったな……」

 父は、戸惑いを誉め言葉で表現した。

「うん、なんだか生まれ変わった感じ……いろんな人に会って、いろんな話をして……なにより遺族の人たちには気を遣う。たった一人の生存者だから、喜びすぎても落ち込みすぎても傷つけちゃうから……ここ何年かは、慰霊祭の度に顔を出そうと思うの……あら、もう完食しちゃった!」

 造船所の社員食堂の大盛りカツ丼を、父と変わらない速さで食べてしまった。

「セラの食欲すごいんだよ。帰ったその晩に団子一盛りペロリだもんな」

「言わないでよ、あのせいで盗撮までされちゃって大変だったんだから」

「……ほんとうに、竜介のことをお兄ちゃんと呼べるようになったんだな……」

 父の龍太は、口に出して言ったことはなかったが、竜介とセラが、いつまでも兄妹として打ち解けないことを気にしていた。

 だから、セラの変化は嬉しいのだが、事故前と印象がまるで違うので、どうしても戸惑いになってしまう。

「うん、事故の後、気が付いたらお兄ちゃんが居て、自然に『お兄ちゃん』て言ってた」

「大きな事故やら大変な体験は人を変えることがあるけど……いや、お父さん嬉しいよ」

 もう少し話していたかったが、仕事が詰まっているので、親子の再会は30分あまりで終わってしまった。

 なんせ26DDHは特別高価な護衛艦である。一日工期が延びるだけで数千万円の経費がかかる。で、その出所は国民の税金である。なんとか工期を取り戻さなければ、国に大きな負担をかけてしまう。

 造船所を出て、車でしばらく行くと、セダンが側溝に脱輪して立ち往生しているのに出会った。

 あとから考えれば造船所への一本道にセダンがいることがおかしかったんだけど……。

 

「脱輪ですか?」

 

 気のいい兄が車を止めて聞いた。

 外に立っていたスーツ姿の男女二人がペコリと頭を下げた。

「ネコが飛び出してきましてね、それを避けようとして、この有様です。JAFを呼んでるんですが、道路事情がね。なんせ連休なもんで」

「オレの車4WDだから、引き上げましょうか?」

「それは助かる! どなたかは存じませんが、お願いできますか」

「はい、直ぐに準備しますから」

 引き上げの間、男は兄といっしょに作業を手伝っていたが、女が愛想よく車中のセラに近寄ってきた。

「あの、人違いだったらごめんなさい。あなたバス事故で命拾いされた世良セラさんじゃないですか?」

 人の目がさすので車中にこもっていたセラだったが、わざわざ声を掛けられて無視するわけにもいかず、遠慮ぎみの笑顔で応えた。

「やっぱり! わたしSプロ事務所の木本と申します……」

 徹子のサンルームに出てから三回目のスカウトだったが、ここまで手の込んだアプローチをされたのは初めてだった……。

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