大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・091『パチパチ大改修』

2022-01-30 13:44:46 | 小説4

・091

『パチパチ大改修』 加藤 恵    

 

 

 パチパチたちのボディーは1・5倍のサイズになった。

 

 身長140センチの中学生程度。

 元のオートマ体のサイズでは、銀行のさまざまな機器を扱うには小さすぎるのだ。

 機器の方をパチパチに合わせることもできないではないが、それでは、一般の汎用品が使えず不経済な上に、将来の機能拡張を考えると、パチパチの方をスケールアップしたほうが合理的だ。

 それに、窓口業務をやらせると、元のオートマ体では、カウンターの上に頭が出てこず、なんとも頼りない。

 完全な新造体を作るのが一番なんだけど、社長が、こう言う。

「できるだけ、元のパーツを活かしてやってくれるかなあ……そう、子どもが成長するみたいに、パーツが成長するように、太く大きくなるみたいな感じで」

「分かったわ」

 多少は面白いと思って取り組んでみた。

 子どもが成長するようにって感覚が素敵だと思ったしね。

 骨格は、継ぎ足して、その上で太くしてやるという手間のかけよう。

 特にヘッドには気を遣った。

 フェイスは40個、その他の頭骨は30個に分割、その上で、大きくなった分をくっつけてやった。

 ラボは食堂の隣なので、昼や夕飯のあとでは、見学者がやってくる。

 遠慮のない者たちが、半ば素通しの窓から覗き込む。

 元々は配給所だったラボは、半ば素通しのようなものなので、遠慮のないオッサン・オバハン・ロボットたちが、中にまで入って来る。

「ほお、パルス溶接でやるのか」

 シゲさんが覗き込む。

「髭焼けてしまうわよ」

「こんな小せえの、大丈夫か?」

 心配はもっともだ。パルス溶接は船(宇宙船)や戦車に使う溶接方法で、オートマ体などに使うものではない。

 昔の感覚で言えば、時計の修理を電気溶接でするようなものだ。

「俺のご先祖は、パワーショベルでワインを注いだってって言うけど、それ以上だなア」

「うちのひいひい爺さんは、遺跡から戦車掘り出して復元してたけど、こんなだったぜ」

「こんなに愛情かけてもらって、ちょっとウラヤマだなあ」

 ある時は、内側の骨格パーツの溶接に苦労していた。

 汗が目に入って、しばしば中断。

「汗拭きます」

 お岩さんが雇った給仕ロボットが汗を拭いてくれる。

「以前は、病院でオペ助手もやってましたから」

 西ノ島は、人にしろロボットにしろ、様々な過去を持った者が多い。

 病院勤務のロボットが西ノ島の社員食堂で給仕をするまでには、様々なドラマがあったんだろう。以前ほど秘密にすることはないけど、進んで喋ることもない。

「……ち、また失敗!」

「あ、ごめんなさい」

「あなたのせいじゃないわ。汗拭いてもらわなかったら、三十分前にはキレてた」

「あ、そうですか(^_^;)」

「なあ、グミ」

「なに!?」

 わたしをグミと呼ぶのはシゲさんのお友だちの隠居。

 ナバホ村で、腕のいい技師だったけど、事故で半身の自由を失って隠居暮らし。

 義体に換えれば元のように動けるんだけど、あえて、それをやらないでいる。村長も「お前は隠居」と真面目腐った顔で宣言したとか。まあ、他所では許されない、あるいはあり得ないことも通ったりしている。

「そこはよお、治具そのものに角度つけるとやり易いぜ」

「治具を?」

「ああ、ピンセットとかでも、用途によって形や角度が違うだろ」

「あ!?」

「思い至ったかい?」

「それもあるけど、ご隠居、ひょっとして、むかし戦艦カワチの船体工事で……」

「え、知ってんのかい?」

「うん、天狗党にも技術畑の年寄りが居てて、話を聞いたよ」

「そうなのか、ご隠居?」

「やだぜ、むかしの事さ」

 宇宙戦艦カワチの建造は難工事で、特に装甲板の取り付けが難しく、そのために工期が二度にわたって延長された。

 それを、若い技師が『治具そのものに角度をつければ』と提案し、三度目の工期延長がなくなったという。

「いや、ま、参考になりゃな、アハハハ」

 頭を掻いてご隠居は行ってしまった。

 

 まあ、そんなこんなで、島のみんなも楽しみにしてくれて、三か月後。

 

「それでは、西ノ島の三つの銀行を担う。新生パチパチのお披露目でーす!」

 今や助手になった給仕ロボットがマイクを握って、ラボ前に作られた特設ステージの幕を切って落とした。

 ドーーーン パチパチパチ

 予期せぬ花火まで上がって、いよいよ除幕!

 不肖、加藤恵が除幕のボタンを押すと、いよいよ銀行窓口の制服を着たパチパチたちが姿を現わした。

 

 オオオオオオオオオオオ!

 

 食堂前広場にどよめきが起こった。

 作った自分も感動した。

 まるで、妖精のようだ……。

「メグミ、紹介を」

 社長に促されて我に返る。

「では、パチパチたち、改めて自己紹介!」

 三人のパチパチがゆっくりと目を開ける。

 

 オオオオオオオオオオオ!

 再びの歓声。

 

「えと、本店担当のニッパチです」

「ナバホ村支店のサンパチでござる」

「フートン担当のイッパチアルよ」

 

 姿形は変わったが、声と言い回しは以前のままで、感動してしまっている観衆は、どう反応していいか分からない様子。

 

 アハハハハハ  パチパチパチ

 

 社長が笑って手を叩くと、みんな、それに倣って手を叩き、パチパチたちが頬を染めると、広場は、割れんばかりの歓声に包まれた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

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明神男坂のぼりたい・57〔フラレてしまった!!〕

2022-01-30 07:02:24 | 小説6

57〔フラレてしまった!!〕 

      


 フラレてしまった!!

 と、騒ぎ立てるのは早いかと思うけど。感覚的には、まさにフラレた(;゚Д゚)。

 ちなみに、あたしは今日で17歳になる。平成17年5月2日、金曜日、午後3:05に、あたしは石神井の病院で呱々の声(産声を格好良う言うと、こないなる)をあげた。

 なんで、こんなに詳しく生まれた曜日やら時間を知ってるかというと、頭がいいから……ではなく、折に触れてお父さんが言うから。

 この日は、6時間目体育館で学年集会をやっていて、それが3:05分に終わって、教室で終礼しなくちゃならないから、トロトロ歩いてる生徒に「早く出ろ、はやく出て教室戻れ!」て怒鳴っていたから。
 なんせ、終礼を早やくしないと掃除当番がフケてさっさと帰ってしまう。で……「早く出ろ!」と叫んでる時に、あたしはお母さんのお腹から出てきた。それが面白いのか、なにかにつけて、お父さんが言うので、覚えてしまった。

 ほんとうは、今日の放課後でも関根先輩が「マクドでも行こうか?」と言って、ささやかにマックシェ-クかなんかで「誕生日おめでとう」と言ってくれたら、あたしは、それ以上のことは望まない。
 誕生日は、こないだメールでさりげに教えてあるし。なんか言ってくるんだったら、夕べのうちだろうと日付がかわるまで、スマホ前に置いて待っていた。

 だけど、電話はおろかメールもこない。

 で、かねて用意のデートの申込みを送信した(#´艸`#)。

 コースは決めていた。悔しいけど、かねがねお父さんに教えてももろてたデートコース。いくつも教えてもらったけど、静かにゆっくりをコンセプトに選んだ。

 連休は、どこにいっても人いっぱい。それがめったに人がこない絶好のスポット……て、別に飛躍したやらしいことは考えてません。念のため。

 どんなコースなんだ?

 さつきが聞くけど教えません。ぜったい冷やかすもんね。

 そんなことはないぞ(* ´艸`)。

「ほら、もう笑ってるし!」

 コースの情報添付してメールを送った「もし良かったら、連休のいつでも」と、メッセ。遠慮してるようで、がっついてるかなあ……迷いはあったけど、エイっと送信ボタンを押す。

 で、1分で返事が返ってきた。

―― ごめん、部活と美保との約束があって、一日も空いてない ――

 これはないだろ。

 断られるのは半分覚悟してた。だけど、わざわざ「美保との約束」……ヤケドに辛子塗るような答えしなくてもいいじゃんか。

 鴨居に掛けといたデート用のスカートとカットソー(こないだアマゾンで買ったやつ)を仕舞って、布団被って寝た。どす黒い後悔が胸の中を蛇みたいにクネクネして、なかなか寝付けなかった。

 

「明日香、誕生日だな、おめでとう」

 

 学校で、担任のガンダムに言われた。

 嬉しいよりもキショクワルイ。

 なんで何人もいてる女生徒の中で、あたしの誕生日覚えてんの!? それが表情に出たんだろ、ガンダムは付け足した。

「クラス持つときに調査書見たら、俺と誕生日いっしょだったから覚えてしまった」
「ほとですか!? で、なんかパーティーとか、奥さんとデートとか?」
「この歳なって、そんなものしてもらえると思うか? もしやりやがったら、なんか下心あるんじゃねえかと疑ってしまうぞ」

 なんとも味気ない返事。

 一日凹んだままで、帰りの外堀通り。

 ポロンと音がしてメールが入った。

―― 誕生日おめでとう。学 ――

 え? ええ!?

 心臓が口から出そうだった。で、道の向かいに気配。

 !!?

 関根先輩が手を振ってくれてる!

 あたしはジャンプして、思い切り手を振った!

 すると――あっちあっち――と進行方向の横断歩道を指さす。

 え? え?

 急ぎ足で行くと、ちょうど青になって、先輩が渡って来る。

「地元のものでなんだけど、誕生祝」

 そう言って、見覚えのあるナメクジ巴の包み紙『名代 明神団子』のロゴ。

「じゃな、学校戻るわ」

 青信号が点滅して先輩は戻っていった。

 

 こんなに明神団子を愛しく思ったことはない。

 今度はさつきに食べられないように!

 固く決心!

 

 家に帰って開けてみると、明神さまの『開運』のお守りが入っていた。

 『恋愛成就』のお守りだったら、もっと良かったのにね。

 思ったら、さっそくお団子が一つ消えた。

 明神さまの娘は油断がならない。

 

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