大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・087『オートマ体変更の理由とヒント』

2022-01-05 13:57:44 | 小説4

・087

『オートマ体変更の理由とヒント』 本多兵二    

 

 

 昭和のむかし、天気予報の的中率は64%ほどだったらしい。

 実は、晴れの確率も64%なので、毎日「明日の天気は晴れです」と言っていれば64%の確率で当たる。

 なにも、わざわざお金と資材と人員を使って予報しなくてもいいわけで、気象庁無用論を唱える人も居たらしい。

 じっさい気象庁の運動会に雨が降ることがあったらしいから、そんなものだろう。

 23世紀の今日、天気予報は100%の的中率を誇る。

 

 しかし、地震予知の確率は昭和の時代とさほど変わらない。

「ここ50年間には、かならず、この地方に地震が起こります」という程度にしか予測ができない。それは、過去の歴史から地震の記録を見て、その周期を言うのと変わりがない。

 言ってみれば、それほどに地球の内部は複雑なのだ。素通しの大気を観察するようなわけにはいかない。

 

 だから、島民みんなが驚き、かつ喜んだ。

 

 何に驚き、何を喜んだかというと、A鉱区の第四層で、巨大なパルス鉱脈が発見されたのだ。

 A鉱区は、大規模な落盤事故があって、多くの犠牲者を出したばかりだ。

 ナバホ村とフートンからの援助があって、復旧作業と採掘作業が並行して行われた結果だ。

 僕も、フートンから派遣されたお助け隊の一員なので、ちょっと嬉しい。

「もっと喜んでもいいのよ」

「じゅうぶん喜んでる」

「ううん……薄いのよ、喜び方っていうか、感情表現が。ごらんなさいよ、シゲさんとか、おたくのサブちゃんとか、もう全身で喜びを表現してるじゃない」

「じゃあ、メグミも、ああ云うふうに喜んでみればいい」

「アハハ、冗談言わないでよ、女子が、あんな格好できるもんですか!」

 

 ウワアアアアアアアア! アハハハハ!

 

 鉱脈発見の島を挙げての宴会の間最中。

 火を囲んだ島民から歓声と笑いが巻き起こる。

 シゲさんとサブが、酒の勢いで始めた剣舞が、いつの間にか、やけくその裸踊りになってきた。

 二人とも両手にトレーを持って、器用に過激に踊って喝さいを浴びている。

「おう、メグミ!」

「え、あたしに振らないでよ!」

「そこの、アイスクリームのコーンを投げてくれ!」

 サブが、トレーで招くようにして催促する。

「これでいいの?」

「おう」

「いくよ、えい!」

 食堂特製のコーンは、少し重量があって、きれいな放物線を描いてサブの頭上に落ちていく。

「よし……止し……どうだ!」

 サブはファールフライを追うようにして、落下してきたコーンを体とトレーの間に落とし込んだ。

 次の瞬間「ハイ!」の掛け声と共にトレーをどけると、さっきの倍以上の歓声と笑いが起こる。

「どうだ!」

 コーンは、マタグラの凸部にきれいにかぶさっている。

 ウワアアアアアアアア! アハハハハ!

「ちょ、なに、この下品さ!」

「いやいや、まだ終わりじゃないようだ」

 今度はシゲさんが、お岩さんに催促している。

「ほら、シゲ、あんたは、これだ!」

 お岩さんが投げたのは……食堂で「セルフサービス!」とか「ちゃんと列に並んで!」とか言う時のためのメガホンだ。

 スポ!

 シゲさんは、口で擬音を発しながら、サブと同様にしてキャッチした!

「どうだ!」

 ウオオオオオオオ! ワハハハハ!

 いやはや……なんとも……見ているだけで恥ずかしい(#^_^#)

「もお、島の男ども、サイテー!」

 

 サブとシゲさんの芸に腹を立てたメグミだけども、数日後、これに勝るとも劣らない任務を果たした。

 

「社長」

「おお、出来ましたか!?」

「あ……いえ、まだプランの段階なんですが、このやり方しかアレンジのしようがなくて」

「どれどれ……フムフム……なるほど、いいアイデアだと思うよ」

「ですかぁ?」

「ハイ(^▽^)」

 タブレットで見せたアイデアは、あっさりと社長のOKが出てしまった。

 

 じつは、鉱脈の詳しい探査をしなければならなくなった。

 予備調査で分かったのは、鉱脈のおおよその分布だけだ。

 詳しい調査をしなければ、採掘の計画も立てられないので、調査人員を向かわせなければならない。

 大事故から間がないこともあり、人にしろロボットにしろ、危険な任務には就かせられない。

 そこで白羽の矢が立ったのがパチパチたちだ。

 オートマ体が、機能的のもサイズ的にもピッタリなのだ。

 作業機械なので、ロボットのようにパルスCPへの影響も考えずに済む。

 パチパチたちは落盤事故で、被災者の救助はできなかったものの、発見や初期対応には、いい成果を残している。

 問題は、広範囲にわたる鉱脈の構造をサーチする機能だ。オートマ体のそれでは地中において、たかだか10メートルほどの探査機能しか付いていない。最低でも1000メートルの探査能力がなくては役に立たない。

 しかし、それを可能とする地中ソナーは小型化してもテニスボールほどの大きさがあり、3D的探査をやるには、二個のソナーを12センチの間隔で並列に並べなければならない。小学四年生ほどの体格でしかないオートマ体には、格納するスペースが無い。

 ということで、体の前方、正中線を跨いだ中央部。胸につけざるを得ない。

「ということで、君たちのオートマ体は女性型に変更!」

 三体のオートマ体は、女性型に変更された。

 この件については、島中の意見を二分してしまうことになった……。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、おタキさん)
  • 村長                西ノ島 ナバホ村村長 
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

明神男坂のぼりたい・32〔魂が抜けるような開放感〕

2022-01-05 06:34:14 | 小説6

32〔魂が抜けるような開放感〕 

         


 試験が終わった!!

 なんという開放感!

 最後の数学の終了を告げる鐘が鳴ったとき、クラスが、いや学校中が魂が抜けるような開放感に満ちた。


 教室のあちこちで、溜息や歓声。中には、三日ぶりぐらいに便秘が治って、ドバっと出たときの感触とか的確な、でも品のない例えを言ってる女子。さっそくスマホを出してスクロールしている男子。監督の先生もニコニコと肩を回しながら出ていく。

 いや、一週間ぶり! 十日ぶり! いや、難産で子どもを産んだあと! 

 開放感の例えが過激になってきている(^_^;)

 せめてパリの解放とか『三丁目の夕日』で観た東京オリンピックの開会式の抜けるような青い空……ぐらいにしてよ。

 

 ま、瞬間思った『魂が抜けるような開放感』が、我ながら秀逸。

 

 とにかく、あとは二十日の終業式に来たら、四月の八日まで、学校に来なくてもいいし、宿題もなし。

 完全無欠の「お・や・す・み!」

 クラブも辞めたし、なんの義理もないけど、直ぐに帰るのも惜しい。

 で、図書室に行ってみた。

 ざっと新刊本の背中を眺める。去年の十二月に入った本が、まだ新刊に並んでいる。

 予算のせいもあるんだろうけど、なんか興ざめ。

 あたしは、一つだけ確認しときたい本があった。

 

 アンネの日記

 

 関東地方の図書館で『アンネの日記』を破る悪戯が続いて、国際問題にまでなりかけているってテレビで言ってた。バカな生徒が真似して、破っているかも知れない。

 文学書の棚に行って、たった一冊だけ有る『アンネの日記』を手に取る。

 大丈夫、まっさら同然。

 あたしは、そのまま『アンネ』を借りてしまった。安全を確認したら、そのまま書架に戻すつもりだったんだけど、発作的に借りてしまった。

 まあ、いいわ。もう二回も読んだ本だけど、高校生になってからは読んでない。

 そう言えば、アンネは十五歳で死んでしまった。

 時分は十六だけど、まだ死ぬつもりも予定もない。ささやかだけど、あたしなりにアンネを守ってあげる。
 
 パソコンのコーナーに行ってみる。これには特に目的はない。習慣で東京都高等学校演劇連盟を引いてみる。第七地区のO高校の演劇部のブログが目に止まる。クラブでブログを持つことはいいことだと思う。

 しかし、うちの演劇部はブログどころか、クラブそのものが実質がない。美咲さんに、もうちょっとやる気があったらなあ……と、思う。

 O高校のブログは、一見充実してるように見えた。

 きれいだし、アクセスカウントもできるようになってて、あたしが53465番目。いつから始めたのか分からないけど、大したものだ。

 でも、中味がショボイ。公演やら、クラブやって楽しかったことばっかり書いてある。演劇部だったら、もっと芝居のこと書けよなあ……本読んでる形跡もない。閉じよう思たら、審査のことが書いてあるのが目に入った。

――よその地区では審査をめぐって混乱があったところもあるらしい。確かに、なんでと思うようなことも無いではない。しかし、コンクールを競技会のように捉えるのはどうだろう。勉強の場ととらえれば、もっと見えてくるものがあると思う……審査基準を作れという話もあるらしい。そんなことをやったら、審査基準狙いの芝居が増えるだけだろう……――

 おいおい……。

 地区の高校演劇は、創作劇を奨励しすぎて、創作率が90%を超えている。すでに、審査受け狙いは始まってるんだよ。審査基準がないから浦島太郎みたいな審査員が出てきて、期せずして、地区総会で演説するハメになってしまった。

 よその地区で混乱……あたしのことか?

―― 審査員は連盟が選んだのだから、立派な人たちで、キチンと審査をされているのに違いない ――

「バカか!」

 思わず声が出てしまった。

 そのとき後ろで気配がした。振り向くと……なんと自分が笑っていた。

「あ、あなた……?」

「鈴木明日香」

「……明日香はあたし」

「まだ気づかない? あ・た・し……馬場先輩の明日香よ」

「え……!?」

 あの絵から抜け出してきた……。

「怪しまれないように、ポニーテールじゃなくてロングにしてきたから。ま、ときどきしか出てこないから安心して」

 そう言うと、馬場明日香は図書館から出て行った……ドアも開けずに。司書のオバチャンがびっくりしてる。

 

 外堀通りを通って帰る途中、また馬場明日香が現れた。


「あんたね、司書のおばさん、びっくりしてたよ。部屋出るときは、ちゃんとドア開けなくっちゃ」

「まだ、慣れないもんで。アハハ」

 なんだか、春休みはけったいなことになりそうよ……。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

紛らいもののセラ・9『慰霊式』

2022-01-05 05:31:18 | カントリーロード

らいもののセラ

9『慰霊式』   

 




 セラは、一時間早く慰霊式会場に出向いた。

 手紙の主の、佐藤良子に会うためだ。良子は事故で二人兄妹の兄を亡くした。その思いを手紙にして春美に送っていたのだ。

 しかし、当の良子は耳が不自由で、唯一の生存者であるセラに代読を依頼してきた。

 真剣に向き合おうとしたセラは、良子と話をしておきたく、また、良子も同様に思っていたので、一時間前の面談ということになった。

「まさか読んでもらえるとは思いませんでした。それもセラさんに」

 手話通訳の母親が言っている間にも、良子はキラキラした目でセラのことを見ている。

「木本(春美)さんから、お話があったときはびっくりしましたけど、お手紙を読んで、わたしが読まなきゃと思ったんです。あれは、もう立派な詩ですね。どれだけやれるか分かりませんが、しっかり務めさせていただきます」

「……わたしこそ、セラさんに読んでいただいて光栄です。慰霊祭が間近に迫って、わたしなりに気持ちを表したくて居ても立っても居られなくなったんです。文章苦手なんで、あんな散文的なものになってしまいましたけど」

 それから、亡くなった兄の事を、遠慮気味に話し出した。

「……兄は、わたしにスキーをさせてやりたくて、下見に行ってくれたんです。耳が不自由なもので、施設面や介助のことで問題が無いかどうか」

「そうだったんですか、優しいお兄さんだったんですね……今のお話し聞いておいて良かったです。単なるお兄さんのお楽しみでなくて、良子さんへの思いが籠っていることがよくわかりました」

 セラにもワケ有の兄がいる。今回の事故で、事情は違うが兄妹の気まずさが緩んで、やっと打ち解けてきたところだ。

 今日もセラを乗せて会場まで来てくれて、目立たぬよう明後日の方角を見て素知らぬ風を装っていたが、目には光るものがあった。

 セラ自身も、時間いっぱい良子と話をして、手紙には書かれていなかった兄妹の思い出を聞き、目を真っ赤にした。

 仕掛け人の春美も、その様子を見て胸が熱くなった。春美が仕事を離れて心から感動するのも稀有なことである。

 時間になったので、一同は控えの公民館から、事故現場の慰霊祭会場に向かった。

 春の気配を天気予報で言ってはいるが、スキー場近くの会場は、まだまだ真冬の気温。参列者の多くは、喪服の上から、コートやブルゾンを重ねていた。

「お兄ちゃん、持ってて」

 セラは、Pコートを脱いで兄の竜介に渡した。

「大丈夫か、この寒さだぞ」
「ううん、ちっとも寒くなんかないわ」

「まるで、アナ雪だな」

 竜介が、そう言うと、セラは泣き笑いの顔でマイクに向かった。

 冬服とは言え高校の制服である。寒いのに違いはないが、セラは凛として、息を吸いこみ、ゆっくりと語り始めた。

 男臭い六畳の窓を開け、寒さの中にも、かすかな春を感じる。

 ちょっと多感すぎるかな。

 机の下の綿ぼこりが、風におかしく踊ってる。ベッドの上には脱ぎ散らかした靴下やTシャツ。

 洗濯籠に放り込み、掃除機のプラグを差し込んで、小さな火花。心に火花。

 いつも通り習慣の掃除の手が止まる。

 いつも通りにすることが、記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 四十九日ぶり、部屋の掃除の手が止まる。

 下の部屋から香るお線香、その分男臭さが抜けていく。

 いつも通りにすることが、記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 

 セラは、手紙を暗記していた。暗記していたから、自然に胸を張って、仮の慰霊碑に向かい、自分の言葉として語ることができた。

 語り終え、セラは一礼すると「代読、世良セラ」と言うのを言い忘れて席に戻った。

「鎮魂の言葉は佐藤良子さん。代読は世良セラさんでした」

 MCの春美がフォローした。

 この様子は、昼のワイドショーで取り上げられたほか、YouTubeなどではセラの語りの全編が流れた。アクセスは10万近くいき、大勢の人たちが感動した。

 作曲家の大木功は、気が付いたら、この手紙と言うよりは詩とよんでいい、それに音符を付けていた。

 兄の竜介はただただ感動していたが、妹に対するそれではないことには、まだ気づいてはいなかった。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする