大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・253『クマさん失踪』

2022-01-09 13:20:59 | 小説

魔法少女マヂカ・253

『クマさん失踪語り手:マヂカ      

 

 

 クマさーん、旦那様がお呼びでーす。

 

 声がかかったので、運転手の松本さんはキュっとブレーキを踏んだ。

「すみません」

 自分が悪いわけでもないのに、クマさんは同乗のみんなに頭を下げて助手席を下りた。

 余裕のある登校をしているので、五分ぐらいの遅れはなんでもない。松本さんも腕のいい運転手なので、二三分の遅れなら取り戻してくれる。

 ……それが、五分経っても戻ってこない。

「クマさん、おそいねえ」

 ノンコが言うのと、正門から侯爵のパッカードが入って来るのが同時だった。

「そうだ、旦那様は、夕べはお泊りだった!」

 そう言うと、松本さんは運転席を下りてフォードに駆け寄った。

 フォードも窓を開いて、尚孝侯爵が松本さんに話している。

「何かあったんだ!」

 わたしたちも車を降りた。

「さっき、クマさんに声を掛けたのはだれだ!?」

 見送りに出ていた使用人たちに声を掛ける松本さん。

 みんな、同じように首を横に振る。

 誰も声を掛けていない、どころか、聞いていなかった。

 突然車が停まったて、クマさんが下りてきて玄関に入ったというばかりだ

 

 クマさんは、まやかしの声にひっかかって屋敷に戻ったのだ。

 声は、車に乗っている者にしか聞こえていない。

 

 これは妖の類のしわざだ。

 

「松本さん、車を出して、わたしが残るわ!」

「はい、お願いします」

 松本さんが戻って、ちょっと揉めたが、わたしを降ろしただけで、車は女子学習院に向かった。

 窓から不足そうな顔をのぞかせる霧子に「任せといて!」と声を掛けて、守衛室から出てきた箕作巡査とともに玄関に向かった。

「不審な声がして、だれもおかしいとは思わなかったのか!?」

 侯爵は、めずらしく声を荒げた。

 箕作巡査との結婚もきまり、人柄のいい侯爵は自分の娘のような気がしているのだ。

「声を聞いたのは車に乗っていた者たちだけなのでございます」

「バカな、車の中で聞こえたなら、外に居る者にも聞こえているだろ?」

「しかし……」

「すまん、ちょっと、わたしも狼狽えている」

「箕作君、すまない」

「いいえ、侯爵、ここからは、自分が指揮を執ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、むろんだ。きみはクマの未来の夫であり、現職の警察官なのだからな」

「承知しました。では、みなさん、これを持ってください」

 箕作巡査は、屋敷の者を二人一組にした上で、ハガキ大に切った紙の束を渡した。

「調べたところは、かならず、この紙に名前を書いて貼ってください。探し漏れや重複を避けるためです。今から、各班の捜索場所を伝えます。終わったら、このダイニングに報告しに来てください。見つからなければ、人を替えて、さらに捜索します。春日さんはご近所にもお顔がきくでしょうから、屋敷周りをまわってください。それではかかりましょう!」

 見事な指揮だ。

 もうほとんど妖の仕業だと思っているけど、いきなり言っては動揺をさそうばかり。

 なにかしらの目途か証拠が見つからなければ口にはできない。

 それは、三度目の捜索が終わった箕作巡査が見つけた。

 なんと、戻った守衛室の応対窓の内側の壁に貼られていた。

 

『虎沢クマは預かった、返してほしくば渡辺真智香一人で長崎までこい。猶予は24時間だ』

 

「くそ!」

 箕作巡査は歯噛みした。守衛室は請願巡査の持ち場で、捜索の対象からも外れている。

 外の騒ぎに気を取られ、自分が飛び出す前に、その張り紙があったのか記憶が無い。

 あるいは、自分の不在の間に貼られたのか。

 知らされたわたしは困った。

 ブリンダに飛行石を貸してやったわたしは、24時間で長崎に行ける力が無い……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・36〔離婚旅行随伴記・1〕

2022-01-09 07:04:08 | 小説6

36〔離婚旅行随伴記・1〕   

 

        


「ちょっと冷えそうだな」

 明菜のお父さんは、開けたドアを締め直し、ジャケットを掴んで助手席から車を降りた。

 仲居さんや番頭さんたちが、案内や荷物運びのために車の周りに寄って来る。

 予約はしてあったんだろうけど、かなりの常連さんのよう。

「あ、タバコ切らしたから買ってくる」

「タバコだったら、フロントにございますが……」

「ありがとう。でも、先月から銘柄変えてね。なあに、店はとっくに調べてあるから。じゃ、ちょっと」

「すみませんね、お寒い中、お待たせしちゃって」

 お母さんが恐縮する。

「ちょっと庭とか見てっていいかな?」

「ええ、いいわよ。玉美屋さんの庭はちょっと見ものよ。そうだ、あたしもいっしょに行こう」

「では、お荷物はロビーに運ばせていただきます」

 仲居さん達は甲斐甲斐しく荷物を運ぶだけではなく、何人かは、お父さんとあたしたちを玄関前で待ってくれて、ひとりは案内に付いてきてくれる。客商売とは言え、なかなかの気配り。

「ほんとに、きれいなお庭」

「回遊式庭園では箱根で一番よ」

「温泉旅館て、傾斜の多いところに立ってるから、これだけの庭を作るのは大変みたいよ」

 なるほど、振り返ると、建物は傾斜の上に段々になっていて、この庭を見下ろす形になっている。

 梅が満開。寒椿なんかも咲いていて、ほんとにきれい。まだ春浅いのに庭の苔は青々としている。

 カコーーン

 え?

 小さく驚くと「鹿威しが、あちらに」と仲居さんが説明してくれる。神田の街中で暮らしているので、こういう雅なものには縁が遠い……っていうか、こんなに高級な旅館は初めて。

 奥へ進むと、ほんのりと温泉の匂い。

「そこの芝垣の向こうが露天風呂になっています」

「じゃ、そこの岩の上に上ったら覗けるかもね」

「ホホ、身長三メートルぐらいでないと、岩に上っても見えないでしょうね」

 と、お付きの仲居さん。

「見えそうで見えないところが、情緒あっていいのよね」

 明菜のお母さんは面白がる。

 パン パン パン

 え!?

 鹿威しの一種?

 いや、仲居さんの顔も訝しんでる。

「パンクかしら?」

 立て続けに三回もパンクが起こる訳がない。

 

『大変だ! 人が撃たれた!』

 

 どこかのオッサンの声がして、あたしたちも、声のする旅館前の道路に行ってみた。

「キャー! お、お父さん!」

 明菜が悲鳴をあげた。明菜のお父さんが胸を朱に染めて倒れていた。

「さ、殺人事件!? け、警察! 救急車!」

 旅館の人たちも出てきて大騒ぎになった。

「みなさん、落ち着いてください!」

 お母さんは、つかつかとお父さんに近寄ると、お父さんの横腹を蹴り上げた。

「ゲフ……痛いなあ、怪我するだろ」

 ぶつぶつ言いながら、血染めのお父さんが立ち上がった。

 え…………?

 みんな、あっけにとられた。


「こんな弾着の仕掛けで、あたしがおたつくとでも思ったの。しかし、あなたもマメね。いまどき潤滑剤の付いてないコンドームなんて、なかなか手に入らないわよ」

 お母さんがめくると、お父さんの上着の裏には、破裂したコンドームがジャケットを真っ赤にしてぶら下がっていた。

「おーい、失敗。カミサンに見抜かれてた」

 向こうの自販機の横から、いかにも業界人らしいオッサンがカメラを抱えて現れた。


「これ、年末のドッキリ失敗ビデオに使わせてもらえるかなあ」

「やっぱ、杉下さん。あなたの弾着って、クセがあるのよね」

「アキちゃんにかかっちゃ、かなわないなあ」

 そのときの、お母さんの横顔で思い出した。梅竹映画によう出てる稲垣明子だ!

 当惑を通り越して、憮然としてる明菜には悪いけど、あたしはワクワクしてきた。

 

※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
 明菜           中学時代の友だち 千代田高校

 

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紛らいもののセラ・13『出でよハートのエース』

2022-01-09 06:16:04 | カントリーロード

らいもののセラ

13『出でよハートのエース


 

 ちょっと探してしまった。

 約束した駅の西側に行っても、大木の姿も春美の姿も見えなかった。

―― いったい、どこなの? ――

 キョロキョロしていると、駐車場の方から小さくクラクション。

 プ

 大きめのワンボックスカーのドアから春美がオイデオイデをしている。

 車の中には、春美さんと大木さんの他にも、カメラさんやらのスタッフがいて驚いたけど、そんな驚きは一瞬で、大木は新曲の歌詞と楽譜をセラの前に広げた。

〔出でよハートのエース〕

 タイトルの下には、何種類かの歌詞が書いてあった。

 要は、トランプの裏側はみんな同じで、めくるとジョ-カーを含めて53の顔があり、人間本当の姿は、トランプの表をめくるように分からない。

 それで、宿題の出来から始まって、彼の気持ちをどう受け止めるかまで、韻を踏んで女の子の気持ちと、無限に変われる可能性を明るく歌った13の歌詞が並んでいた。

「一番と、最後の歌詞は決まりだと思うんだ。宿題の出来から始まって、彼の気持ちをどう受け止めるか。で、セラちゃんには、その間の歌詞を5つほど選んで欲しいんだ。青春の揺れる気持ちと可能性を明るく歌い上げた、これでセラちゃんの解離性同一性障害の噂を逆手にとってヒットもとばせる。いや、ヒットは副産物。今のセラちゃんを元気にできると思うんだ」

 気づくとワンボックスは動き出していて、セラの心を揺らしながら事務所のスタジオに着いてしまった。

 この業界の恐ろしいところは、考えている間もなくことを進めてしまうこと。

 ちょっとテストしてみようということで、十数回歌ってみたら13回目のが出来が良く、そのままOKが出てしまい、 その日のうちにレコーディングが終わってしまった(^_^;)。

 春美たちの気持ちは、純粋ではなかった。かと言って、セラを食い物にして儲けようという気持ちでもない。自分たちの手でスターを育てたい、そのことで本人とファンの人たちが生き生きと元気になれば、それが彼らの喜びである。

 世の中に絶対の善など存在しないとセラは思っている。春美や大木の敷いたレールから降りるつもりもなかった。

 実際〔出でよハートのエース〕はヒットし、解離性同一性障害ということだけで、マスコミから騒がれることもなくなった。

 世間もセラの事をバス事故に便乗して出てきたポッと出のタレントとは見なくなってきた。

 きっかけなんてどうでもいい、みんなを元気にしてくれるアイドルが生まれたんだから。セラの人気上昇の早さは業界新記録になった。

「セラは城中高校の希望の星よ。仕事で抜けた授業なんか、わたしがカバーしておくから、セラは仕事に専念してちょうだい!」

 三宮月子は、校内でのフォローと親衛隊長を買って出た。

「お客さん、疲れてますね」

 収録が深夜に跨り、放送局が出してくれたタクシーの中、ふと眠りかけたらウンちゃんが、そう話しかけてきた。

「あ……どうも、まだ体が、この仕事に慣れてないもんで」
「苦労しますね。アイドルも大変だ……」

 セラは、ウンちゃんの声に聞き覚えがあるような気がしてバックミラーを見た。

「あ……!」

 セラではない記憶の半分が蘇った。

「サリエル部長天使!」
「やっと見つけたよ、本物のセラの魂を」

 その一言で分かった。この体の中に居る「わたし」は本物のセラじゃない。

 本物は……。

「そう、おまえさんの心に同居している。解離性同一性障害などと言われたのは、そのせいだ」
「じゃ……今あなたと喋っているわたしは?」
「それは、決まりで言えないことになっている」

 サリエル部長天使はニベもなく言った。

「お客さん、着きましたよ」

 ウンちゃんが、そう言ったときセラは夢から覚めたが、夢の中身が本当であるという確信が生まれていた……。 

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