大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 52『人だかり』

2022-01-04 15:50:00 | ノベル2

ら 信長転生記

52『人だかり』信長  

 

 

 

 朝食を済ませて、街の中心部に向かう。

 

 さすがに中心部が近くなると、街路も舗装されて、家並みも雑ながら整ったものになってくる。

「なんだろ……」

 辻に人だかりを見つけると、市は駆けだした。

 ちょっと不用心だが、興味のあるものにまっしぐらという感性は悪くない。

 人だかりをザっと見渡してから市の後を追う。

 人だかりの大半は男だ。人だかりにほとんど隠れてはいるが、どうやら高札らしい。

 

「また年齢が下がったぞ」

「今度は、15歳~35歳」

「先週は、17歳~33歳だったな」

「これで、一万ほどは定員が増えるか」

「弟にも声をかけてやろう」

「給金は……」

「据え置きか……」

「いや、十元増しだ」

「いいなあ」

「おまえは下兵だろ」

「下兵は据え置きだな」

「上兵は装備支給……」

「悪い話じゃないな……」

 

 男どもの会話でおおよその所が分かる。兵隊の追加募集だ。

 まだ戦闘が行われた様子はないから、おそらくは作戦の変更で、より多くの兵が必要なんだ。

 十中八九、指揮官が交代している。

「すごい熱気だ!」

 人だかりの外で背伸びしている市が振り返る。

「前には出ないのか?」

「さすがにね」

「シイは、どう見る?」

「シイ?」

「憶えろ、お前の名だ」

「あ、そうだった」

「歩きながら話せ」

「うん……大将はバカだね」

「バカか」

「数だけ増やしても戦いには勝てない。それも素人の子どもとおっさん。装備もろくに行き渡らないみたいだし」

「それは分からんぞ」

「どうして?」

「擬兵には使える。長城の上に並べたり、後方に配置して大軍に見せたりな」

「あんた、バカ?」

「バカとはなんだ!」

「戦場に配置された軍勢には気がある。闘志とか敵愾心とか。カカシ同然の素人並べても、そういう気は湧かないよ」

「いや、『気』は作れる。優れた指揮官なら、たった一度の檄や策略でも、カカシを神兵にもする」

「そうなのか?」

「桶狭間でやった」

「ああ、熱田神宮でやったハッタリ」

「ハッタリなもんか、ちゃんと四方に隈なく偵察を出した上での判断だ。むろん檄も飛ばしたが、策略においても隙は無かったぞ」

「フフ、それはそうだたね、功名一番の手柄は梁田政綱(今川義元が桶狭間で休憩していることを一番に知らせた)に与えたものね」

「そうだ、優れた情報は、一番槍に勝るのだ。そして、情報を活かせる者が大将の器なのだ」

「それはそれは、でも、あれ以降、桶狭間的な戦いはやってないよね。やっぱ、博打同然の一発勝負だったって思ってんでしょ」

「違う!」

「図星、でも、成功体験を頼りの自己模倣やらなかったのは認めてあげるわ」

「越前の退却戦のおり、秀吉が金ケ崎城でやったのもそうだ。十倍の朝倉軍に城を囲まれ、あえて篝火をたいて城門を開き、さっさと搦め手から逃げて時間を稼いだ。諸葛孔明も真っ青の空城の計だ」

「サ、サルの話は無し!」

「とにかくだ、勇み足とはいえ袁紹の大敗北の後でも、これだけの士気を保たせている。敵の指揮官は並の男では無いぞ」

「そ、そうね(-_-;)」

 いちおう沈黙した市だが、目がクリクリしているところを見ると、なにか突っかかるネタを探している様子。

 懲りない奴だ。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  宮本 武蔵       孤高の剣聖
  •  二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  •  今川 義元       学院生徒会長 
  •  坂本 乙女       学園生徒会長 

 

 

 

 

 

 

 

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明神男坂のぼりたい・31〔今日は卒業式〕

2022-01-04 06:40:49 | 小説6

31〔今日は卒業式〕 

       

      

 正式に言うと卒業証書授与式

 卒業式の方がしっくりくるし、正式は看板と、開会式の時の開会宣言のときぐらいで、先生も生徒も、ごく普通に「卒業式」とよんでいる。

 入学式は、ただの入学式。バランスから言っても、やっぱり「卒業式」の方がぴったりくるよ。

 なんで、こんなしょーもないことにこだわってるかというと。あたしたち一年は式に出られないから。

 あたしは馬場先輩から絵をもらうので、式の間は学校に居なくちゃならない。

 で、担任の毒島先生に式次第もらって、そのタイトルを見て疑問に思ったわけ。

 調べてみると、文科省では卒業式になっている。まあ、細かいことなので、どう呼ぶかは、学校やら教育委員会任せらしい。


 ことは、明治の昔に遡る。


 当時は、小学校は年齢関係なく、試験(筆記と口述)の結果によって進級が決まるシステムだったんだって。

 新しい時代になり、優れた人材を育てることが日本を成長させると考えられたから。そんな中、子どもをがんばらせるために、試験は保護者や一般の人たちに公開されていた。

 ただ、試験を見てるだけでは一般の人には優劣がわからない。

 そこで「誰がよくできる子なのか」が最もわかりやすい方法として、及第点を取って進級した子へ、試験後に証書の授与が行われるようになった。

 当時は進級が「卒業」と呼ばれてたから、これこそが卒業証書の授与だったってわけ(以上、お父さんから聞いた内容)


 おもしろいなあと思った。

 古い日本のことはなんでも否定しにかかってる先生たちが、こともあろうに明治時代の否定すべき名称を平気で使っている。


 それだったら、君が代やら日の丸やら仰げば尊しやらを否定してるのと矛盾する。

 そう思わない?


 寒かったら、どうしょうかと思ったけど、今日は三月中旬なみの暖かさ。式場の外で待っていても、そう気にはならなかった。

 気になったのは、先生たち。

 三年と二年の担任は生徒が式場に入ってるので、自分たちも式場に入っている。

 わけ分からないのは、それ以外の先生。

 誘導やら受付は分かるけども、何するでもなく、校内やら、どうかすると職員室でブラブラしてる先生が居る。

「そういう先生たちを撮ってみ。きっとおもろい反応するぞ」


 で、式が始まってから、そういう先生らを写真に撮ってみた。

 おもしろかった!

 式が始まるまでは、ニコニコ写ってた先生らが、式始まると、スマホ向けると顔を背ける。


 ピンときた。この先生らは、式場で君が代歌うのがイヤやなんだ。


 最近は、都教委から参列したエライサンが、先生たちの口元までチェックしてるらしい。

 ケチクサイ話だけど、君が代歌わないために、式場の外ブラブラしてる先生たちもおかしい。


 ヒマだから、組合の分会長やってるA先生に聞いてみた。


「なんで、卒業証書授与式ていうか知ってますか?」

「え……」


 完全に虚を突かれた顔になる。

 で、その由来を説明して、反応を見る。


「これって、明治絶対主義の残滓やと思うんですけど。なんで日の丸、君が代みたいに反対しないんですか?」

「そ、それはだな……」

「組合の上の方から言うてけえへんからですよね」

「そ、そんなことは……」

「それて、戦時中に上の言いなりになってた教師と同じとちゃいますノン……なんちゃって(^_^;)」


 と、ニコニコ顔で、さらに写真を撮る。


「鈴木、まさか、その写真、ブログに使ったりしないだろうな!?」

「それは、あたしの表現の自由でーす(^▽^)/」


 そうやって、先生をおちょくってるうちに式が終わった。


「ほい、約束の絵だ。十年もしたら、すごい値段が付くかもしれないぜ」

 馬場先輩は、お茶目な顔で、大きな袋に入った肖像画を渡してくれた。

「ありがとうございます。一生の宝物にします……これ、ささやかだけど、お礼と、卒業のお祝いです」

 用意していた花束を渡す。

「いやあ、礼を言うのはオレの方だよ。いい勉強させてもらったよ」

 
 予感がしたので、家に帰ってから『TGH卒業式』で検索したら……やっぱりあった。


――麗しい卒業のお祝い。二人はラブラブ――

 キャプション付きで写真が載っていた。

――第二ボタンをもらうような関係ではありません。第一に肖像権の侵害!――

 と、コメントを付けといた。


 描かれた絵を部屋に飾る……ため息一つついて何にも言えない明日香でした。

 

※ 主な登場人物

  •  鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
  •  東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
  •  香里奈          部活の仲間
  •  お父さん
  •  お母さん         今日子
  •  関根先輩         中学の先輩
  •  美保先輩         田辺美保
  •  馬場先輩         イケメンの美術部
  •  佐渡くん         不登校ぎみの同級生
  •  巫女さん
  •  だんご屋のおばちゃん

 

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紛らいもののセラ・8『ちょっと多感すぎるかな』

2022-01-04 05:53:14 | カントリーロード

らいもののセラ

8『ちょっと多感すぎるかな』   

 


 春美からもらったアプリは面白かった。

 日本一の名スカウトで名プロデューサーでもある日野康が、春美にやり込められていることなど笑ってしまった。

 

「日野さんて、目立ちすぎ。スカウトもプロディユーサーも男のパンツといっしょ。しょっちゅう露出するのは変態よ」
 
「出る釘は変態って言われるんだ。いつの時代でもそうだぜ」

「でも、レコ大で、アイドルの子たちと一緒の舞台で泣いてるなんてみっともないわよ」

「あれは、ファンの気持ちを代表して泣いちゃうんだよ。よくもここまで育ったなあって」

「まあ、言って分かる日野ちゃんじゃないけど、そろそろ気づきなさいよ。ズボンのチャック開いたまま」

「え、あ、あああ!」

 慌てて、チャックを締める気配。

 天下の日野康がチャック全開で、その下にラクダを着ているギャップなんか、セラはお腹を抱えてしまった。

 アプリから、春美自身スカウトだけでなく、プロディユーサーとしても、ジャーナリストとしても活躍していることが分かって驚きもした。

「春美さんの観察力って、すごいですね。日野さんのラクダ露出なんて、何重にも意味があって面白かったです」

「セラちゃんも、そういうとこに興味持つなんて、なかなかね」

 などと持ち上げられながら、もう半分以上春美の手の上に載っていることには気づかないセラだった。

「あのバス事故でお兄さんを亡くした女の子から、こんな手紙がきたの……」

 

 男臭い六畳の窓開ける、寒さの中にも微かな春を感じる。

 ちょっと多感すぎるかな。

 机の下の綿ぼこりが、風におかしく踊ってる。ベッドの上には脱ぎ散らかした靴下やTシャツ。

 洗濯籠に放り込み、掃除機のプラグを差し込んで、小さな火花。心に火花。

 いつも通りの手が止まる。

 いつも通りにすることが、記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 四十九日ぶり、お部屋の掃除の手が止まる。

 下の部屋から香るお線香、その分男臭さが抜けていく。

 いつも通りにすることが、記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 掃除機のスイッチ止めて、いそいで窓を閉める。

 今年の冬は去るのが惜しい。今年の春は来るのが怖い。

 電波時計は無慈悲に時の流れを刻んでいる、カレンダーは去年のままなのに。

 このデジタルめ。

 人の心はアナログなのよ。

 何もなかったようには、進めない、歩けない。

 いつも通りはまだ早い。

 記憶を思い出にする、思い出を遠くする。

 ちょっと多感すぎるかな。

 

 それ以上は読めなかった。

 この、まるで詩のような手紙には、お兄ちゃんという言葉は一言も出てこなかった。

 セラ自身、親の再婚以来、竜介のことを「兄」と呼べなかった対極の気持ちで、お兄ちゃんとは書けないんだ。唯一の生存者であるセラにはよくわかった。

「あさっての慰霊祭、セラちゃんも出るんでしょ?」

「はい、そのつもりです」

「この手紙……というか、詩を読んでもらえないかしら。仕事抜きのお願いなの」

「でも、妹さんご本人が読まれた方がいいんじゃないですか」

「この妹さん……喋ることができないの、生まれつきね」

 

 落ち着いて読み返してみると、五感で兄を感じているようだが聴覚だけが無い……。

 セラの心に火花が走った。

――わたしには、これを読む義務がある――

 

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