鳴かぬなら 信長転生記
朝食を済ませて、街の中心部に向かう。
さすがに中心部が近くなると、街路も舗装されて、家並みも雑ながら整ったものになってくる。
「なんだろ……」
辻に人だかりを見つけると、市は駆けだした。
ちょっと不用心だが、興味のあるものにまっしぐらという感性は悪くない。
人だかりをザっと見渡してから市の後を追う。
人だかりの大半は男だ。人だかりにほとんど隠れてはいるが、どうやら高札らしい。
「また年齢が下がったぞ」
「今度は、15歳~35歳」
「先週は、17歳~33歳だったな」
「これで、一万ほどは定員が増えるか」
「弟にも声をかけてやろう」
「給金は……」
「据え置きか……」
「いや、十元増しだ」
「いいなあ」
「おまえは下兵だろ」
「下兵は据え置きだな」
「上兵は装備支給……」
「悪い話じゃないな……」
男どもの会話でおおよその所が分かる。兵隊の追加募集だ。
まだ戦闘が行われた様子はないから、おそらくは作戦の変更で、より多くの兵が必要なんだ。
十中八九、指揮官が交代している。
「すごい熱気だ!」
人だかりの外で背伸びしている市が振り返る。
「前には出ないのか?」
「さすがにね」
「シイは、どう見る?」
「シイ?」
「憶えろ、お前の名だ」
「あ、そうだった」
「歩きながら話せ」
「うん……大将はバカだね」
「バカか」
「数だけ増やしても戦いには勝てない。それも素人の子どもとおっさん。装備もろくに行き渡らないみたいだし」
「それは分からんぞ」
「どうして?」
「擬兵には使える。長城の上に並べたり、後方に配置して大軍に見せたりな」
「あんた、バカ?」
「バカとはなんだ!」
「戦場に配置された軍勢には気がある。闘志とか敵愾心とか。カカシ同然の素人並べても、そういう気は湧かないよ」
「いや、『気』は作れる。優れた指揮官なら、たった一度の檄や策略でも、カカシを神兵にもする」
「そうなのか?」
「桶狭間でやった」
「ああ、熱田神宮でやったハッタリ」
「ハッタリなもんか、ちゃんと四方に隈なく偵察を出した上での判断だ。むろん檄も飛ばしたが、策略においても隙は無かったぞ」
「フフ、それはそうだたね、功名一番の手柄は梁田政綱(今川義元が桶狭間で休憩していることを一番に知らせた)に与えたものね」
「そうだ、優れた情報は、一番槍に勝るのだ。そして、情報を活かせる者が大将の器なのだ」
「それはそれは、でも、あれ以降、桶狭間的な戦いはやってないよね。やっぱ、博打同然の一発勝負だったって思ってんでしょ」
「違う!」
「図星、でも、成功体験を頼りの自己模倣やらなかったのは認めてあげるわ」
「越前の退却戦のおり、秀吉が金ケ崎城でやったのもそうだ。十倍の朝倉軍に城を囲まれ、あえて篝火をたいて城門を開き、さっさと搦め手から逃げて時間を稼いだ。諸葛孔明も真っ青の空城の計だ」
「サ、サルの話は無し!」
「とにかくだ、勇み足とはいえ袁紹の大敗北の後でも、これだけの士気を保たせている。敵の指揮官は並の男では無いぞ」
「そ、そうね(-_-;)」
いちおう沈黙した市だが、目がクリクリしているところを見ると、なにか突っかかるネタを探している様子。
懲りない奴だ。
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長