大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・67『名前は言えない』

2021-03-06 09:10:18 | ライトノベルセレクト

物語・67

名前は言えない』    

 

 

 あれから一週間。

 

 ほら、梅の木に誘われて、崖下の路地を抜けたら、その梅の木が「今日は、このつづら折れは登らない方がいいわよ」って教えてくれた。

 なにかが居るんだ!

 それで、この一週間は、学校の行き帰りにも路地の向こうを見ないようにしてしていた。

 それで、この一週間は無事だったこともあって、路地の向こうが気にかかってしょうがない。

 それでね、今日は下校の途中で、ふっと目が行ってしまったのよ。

 瞬間、しまったと思った。

 あやかしはね、人に呪をかけるんだよ。呪(しゅ)というのは、まあ、呪いというか、暗示と言うか。

 たいていはナニナニをさせるって呪なんだけども、時にはナニナニしてはいけないと逆を言いながら、ナニナニに誘い込むという手の込んだ呪をかけてくることもある。

 ほら、『鶴の恩返し』でさ、女房になった鶴が言うでしょ「けして覗いてはいけません」とか。イザナギが死んだイザナミを黄泉の国に訪ねて、イザナミが言うよね「黄泉の神さまと相談するから、けして覗いてはいきません」ってさ。

 そうすると、たいてい覗いてしまう。

 人間の好奇心とこらえ性の無さをうまく逆手に取った呪なのよ。

 知ってたんだけど、お天気もいいし、一週間無事だったし、思わず覗いてしまった。

 チラ見のつもりだった。

 あの梅が元気に満開の花をつけていたら、それで納得して家に帰ったと思う。

「あれ?」

 路地の向こうに梅の姿が見えないのよ。

 花が散っていたのならまだしも、梅の木そのものが見えない。

 だから、確かめたくって、路地の向こう側に行ってしまった。

 

 え……無い?

 

 どこにも、あの見栄っ張りの梅の姿が無い。

 キョロキョロしていると、つづら折れの上の方から気配が下りてきた。

 タタタタ タタタタ

 振り返ると、五歳くらいの男の子と女の子が駆け下りてくる。

 男の子は坊ちゃん刈、女の子はおかっぱ頭で、昔の子どもって感じ。

「おねえちゃん、なに探してるの?」

 坊ちゃん刈が聞いてくる。

「あ、うん、ここに梅の木があったはずなんだけど」

「梅?」

「そんなのあったけ?」

「あ、えと……路地の向こう側から見えるとこだけ立派に花の付いてるやつなんだけど」

「ああ、あの見栄っ張り」

「ああ、それそれ、その梅」

 アハハハハ

 二人楽しそうに顔を見かわして笑う。笑われてしまう。

「見栄っ張りなら、そこだよ」

「ここ、ここ」

 おかっぱが、わざわざ、そこまで行って指し示してくれたのは、草叢の中に十センチほど覗いている古い切り株。

「これって……」

「何年も前に切り倒されたよ、見栄っ張りだから」

「見栄っ張りって、嘘ばっかり言うんだもんね」

「「そりゃ、切り倒される!」」

「ところで、あなたたちは?」

 わたしも、越してきてから一年。そうそう、こんな子供に笑われるのも癪なので、腰に手を当てて問いただす。

「おねえちゃん」

「なに?」

「今のぼくたちで良かったね」

「ちょっと前のあたしたちだったら……」

「「死んでるとこだよ」」

「あんたたち、妖だね!?」

 わたしは、胸の勾玉を取り出した。こういう時、セーラー服の胸って取り出しやすいよ。

「「あ、それは……(;゚Д゚)」」

 二人とも青ざめて固まってしまう。いい気味。

「「あ、あ、あ……」」

「あた、あた、あたしたち、フキノトウの妖精だよ」

「うん、ただの妖精」

「いいこと教えたげる(^_^;)」

「なに?」

「むこうに……」

 坊ちゃん刈が、さらに北の方の崖を指さす。そっちは、まだ未踏査の領域だ。

「なにがあるの?」

「名前は言えない」

「名前を言うと呪がかかって自由を奪われるよ」

「いまのお姉ちゃんなら、やっつけられる」

「ふだんは土に潜っていてやっつけられないけど」

「きょうは、啓蟄で、出てきてもボーっとしてるから……ね」

「やっつけられる!」

 ピューーーーーーー!

 それだけ言うと、あっという間に居なくなってしまった。

 恐るおそる、崖に沿って北に進む。

 モゴ モゴモゴ

 崖の下、そこらへんの茂みごと、なにかが動き出して、今にも、なにかが出てきそうな気配。

 大急ぎで勾玉を出して、モーゼが十戒の石板をそうしたように、頭上高く掲げた!

 ズ ズズズズズズズズ…………

 氷だけになったジュースをストローで吸うような音がして、それがしだいに小さくなって消えて行った。

 

 フウウウウウウウウ……どうやら間に合ったみたい。

 

 勾玉をしまって、元の道を戻る。

 路地を出てホッとする。

 もう、当分は、この路地の向こうには行かないでおこう。

 急いで家に帰って、まだ、ちょっと早いんだけども風呂掃除に励んだ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅
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らいと古典・20『わたしの徒然草・40何の入道とかやいふ者の娘』

2021-03-06 05:56:41 | 自己紹介

わたしの徒然草・20

『第四十段 何の入道とかやいふ者の娘』 

 



 因幡国に、何の入道とかやいふ者の娘、かたちよしと聞きて、人あまた言ひわたりけれども、この娘、ただ、栗をのみ食ひて、更に、米の類を食はざりければ、「かかる異様の者、人に見ゆべきにあらず」とて、親許さざりけり。

 これは、今の感覚では「どこそこで、ツチノコが出た!」という地方版のニュースのようなものでしょう。

 ウソかマコトか、確かめられずもせずに、因幡(今の鳥取県)から、都に伝わった、その手の地方ニュースの一つなのでしょう。

 中味は、鳥取県のある入道(在家で坊主のなりをした、たいがいお金持ち)の娘が、チョーカワイイのですが、米のご飯をまるで食べずに栗ばっか食べている。
 で、父親の入道が、こう怒りました。
「こんな栗ばっか食べているような変な娘は、人さまの前にも出せない!」

 意訳すると、こうでしょう。

 親の言うことをな~んにも聞かないわがまま娘。それが「栗をのみ食いて」に象徴されています。そういう娘のわがままぶりを、可愛く思いながらニクソサ半分の親心をあらわしているように思います。
「人に見ゆべきにもあらず」
 これは、屈折した娘自慢。
「人さまの前にも出せない」
 これは、実は人さまに見てもらいたいという気持ちの表現。「誉め殺し」ならぬ「殺し誉め」なのかと思ったりします。
「いやあ、家の娘は、オテンバの気まぐれのブスで、嫁のもらい手があるか心配ですわ。アハハハ」
 そういう、今の娘を持つオヤジの心理と同じものを兼好さんも感じたのでしょう。

 では、単なる親バカかというと、それだけではない。
 娘から、阻害されている気配を感じます。

「お父さんのパンツ、いっしょに洗わないでよね!」
「ひとが(自分が)携帯で話してんの、新聞読むふりして聞かないでよね!」
「バレンタインチョコ?  義理チョコ余ったらあげる(さげすんだ眼差し)」
「明日、トモダチ来るから、お父さん、どこか行っててよね!」
「やだ、お父さん、また、このソファーで寝てたでしょ。加齢臭がすんだからやめてよね!」
 このように、オヤジというのは年頃の娘にはジャケンにされるものです。そのウップンと寂しさが、うかがえます。

 また、十七八の女性というのは、人生でもっとも(その子なりに)輝いている時期で怖いモノ知らずなところがあります。
「わたしたち、な~にをしても、許されるとしごろ♪」
 AKB48の『スカートひらり』の歌詞の中にもあるように、その女性の一生の中で一番残忍な、お年頃であります。
 太宰治の『カチカチ山』の中で、この年頃の娘ウサギに惚れた親父ダヌキを泥の船に乗せて沈めた。おぼれ死ぬタヌキが、断末魔にこう叫びます。
「惚れたが悪いか!」
 それを、ウサギは櫂(オール)でしたたかに打ち据え、トドメをさし、額の汗をぬぐって、ポンと一言。
「ホ、ひどい汗」

 このオヤジと娘のコントラストに面白さです。兼好のオッサンもそう理解したのではないでしょうか。

 娘に嫌われながらも可愛くて仕方がない不器用な父親に親近感を持ったのでしょう。

 

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真凡プレジデント・13《キャイン!》

2021-03-06 05:30:49 | 小説3

プレジデント・13

《キャイン!》   

 

 

 新学年最初の中間考査はユルユルと過ぎていく。

 わたしもなつきもユルユルの志し。

 間違っても学年十番以内とか評定平均を八以上にするんだ! というような高望みはしていない。

 平均六十点くらい、成績表に3が付けばいいと思っている。なつきは2でもヘーキヘーキと笑っている。

 テストが終わると、いよいよ立会演説会になる。

 例の似顔絵ポスターでとどめを刺されたわたしは100%あきらめの境地、六十点志望のわたしは、書き終えた答案を見直しもせず、まあ平均点がとれればいいやと教室の窓から見える青空のようにサバサバしている。

 北白川さんは怖いほどの引き締まった顔で時間いっぱいシャーペン持つ手を動かしている。

 

「ガンガンやらなくったって、北白川さんなら楽勝っしょ?」

 なつきがため息まじりに聞くと、彼女は、こう答えた。

「ケアレスミスということもあるし、記述問題などは最後まで文章を練りなおすの」

 北白川さんは正解かどうかである以前に美しい答案でなければならないようだ。

 こんな北白川さんとお近づきになれたのは、彼女が柳沢を毛嫌いしているからだ。

 毛嫌いの理由はよく分からないけど、柳沢が生徒会長に立候補したのが、とても許せない感じ。まるで、民主党員がトランプが大統領選挙に出ることが許せないみたいな。

 今までは、クラスのお姫様的な存在だったので、男子はともかく、女子も容易には近づきがたかった。

 でも、柳沢が共通の敵認定されてしまうと、距離が一気に縮まった。

 接してみると、どこか天然の所があるけど、意外とフランクだ。なつきも、どこか動物的感覚で仲間認定しているし、せっかく友だちになれたんだ、大事にしたい。たぶん、彼女も、そう思っているから。

 だから、この芽生えかけた友情のためにも、選挙を諦めていることは気取られてはいけないのだ。

 

 ところが、意外な出来事でわたしの当選の確率が跳ね上がってしまった。

 

 それは、明日が立会演説会というテストの最終日に起こった。

 ほら、なつきの部屋で試験勉強していたら、なつきの弟、健二が学校で怪我をしたってオバサンが言ってきたじゃない。

 なつきと二人で学校に行って、交代で健二を背負って一休みした橋、橋と言っても、川じゃなくてJRを跨いでいる、テッチャンたちには有名な撮影スポット。

 

 そこで、こんな事件があった……。

 

 緩くカーブした線路の先で自動車が立ち往生していた。

 ちょっと先の踏切から進入したようなのだけど、運転していたのは八十を超えるお爺ちゃん。

 パニックになったのか線路の上を五十メートルほど進んで停まってしまった。

 橋の上には数人のテッチャン。もとよりシャッターチャンスを狙っているので、ダイヤは頭の中に入っている。

「もうすぐ下りの急行が通るぞ!」

 橋の向こうは緩やかなカーブになっていて、列車の運転手からは立ち往生の車は見えない。

 テッチャンたちは、橋の上から声を限りにカーブの向こうまで迫って来た電車に向かって叫ぶが聞こえるはずもない。

「こんな時は、運行司令に連絡だ!」

 なまじ詳しいものだから、テッチャンたちはJRの運行司令に電話して停止させようとする。

 橋下では、すぐそこまで迫った列車の接近にレールがカタンコトンと音を響かせている。

 

 そこに柳沢は居合わせた。

 

 柳沢は二秒ほど見渡すと、ちょうど犬の散歩に居合わせた女の人からリードを奪って、犬を抱き上げたかと思うと、とんでもない行為に及んだ。

 なんと、犬を橋の下に投げ落としたのだ!

 キャーーー! 

 キャイン!

 犬と女の人の悲鳴が響いた!

 投げ落とされた犬は、足を痛めながらも走り去る、犬の身ではあるが橋上の暴漢から逃げたい一心でカーブの向こうへ!

 突然現れた犬に驚いた列車の運転手は警笛と急ブレーキを掛け、十数秒後に自動車の手前数十センチのところでやっと停止した。

 大惨事は避けられたが、駆けつけた警察によって柳沢は逮捕されてしまった。

 列車往来危険罪並びに動物愛護法違反の緊急逮捕であった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

 

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