大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・69『一時間目から自習』

2021-03-19 08:42:41 | ライトノベルセレクト

物語・69

一時間目から自習』    

 

 

 今日は一時間目から自習になった。

 自習は年に何回かある。

 自習と言うのは、その時間の教科の先生がお休みで、自習監督の先生が来る。

 たいてい三十分くらいでできる課題があって、その課題をやり終えたら静かにしているかぎり自由。

 ただし、じっとしていてもスマホは禁止だよ。自習時間にみんながやってることを書いてもいいんだけど、そのことじゃない。

 今日の自習はね、監督の先生も自習課題も間に合わなかったみたいで、担任がやってきて「自習課題はないけど、騒ぐんじゃないぞ」と注意だけして行った。

 たぶん、急な自習で間に合わなかったんだ。

 うちは、真面目なクラスという評判だし、こういう放置プレイもやむなしなんだろう。

 昨日の席替えで窓際になったので、一時間、窓からの景色を堪能する。

 もうちょっと視界が開けていたら染井さんが見えたかもしれない。

 染井さんというのは、通用門の脇にある古い、いや、ベテランの桜。

 ベテランだから、もう霊的な存在で、ときどき人間に化けて学校の中や周辺に出没する。わたしとは気が合って、ときどきお話とかするんだけど、さすがに授業中にちょっかいを出してくるようなことはない。

 だから、ボーっと学校の外を見ている。

 すると、大勢の生徒が前の道を歩いていくのが見えた。

 ちょっとビックリ!

 だって、三時間目だよ、授業中だよ!

 集団脱走!? でも、走るってふうでもない、先生が追っかけてきて叱るってこともない。

 ヤバイ! 

「合格発表なんだ……」

 後ろのKさんが呟く。

 そうだ、今日は四丁目にある県立高校の合格発表の日なんだ。高校への道は、うちの学校の前を通るのが近道だって、卒業生でもあるお母さんが言ってた。

 四丁目は生活圏外だし、中学からの転校生であるわたしは、校区からも外れてるんで行ったことがない。

 

 合格発表というのは、すぐに終わるんだ。

 

 さっき通って行ったばかりの三年生が、ぞろぞろ逆方向から歩いてくる。

 みんな明るい表情だ。

 きっと受かったんだ。人の事なんだけど嬉しくなる。

 春一番も、すっかり羊のように大人しくなったし、梅も満開で桜も綻びかけてうららかな日差し。

 と、思ったら。

 ひとり、集団から離れて、とぼとぼ歩いてくる男子がいる。

「落ちたんだ……」

    Kさんが、さっきより小さく呟く。

 そうだよね、ちょびっとだけど、1・0を超える競争率なんだ、落ちる人もいる。

 

 問題はね、その男子生徒の後ろについている半透明の男子生徒。

 はっきり言って妖(あやかし)だよ! ひょっとしたら悪い霊かもしれない。

 とっさに制服の胸ごと勾玉を掴む。

 消えろ!

 そう念じて、顔を伏せる。

 万一失敗したら、念を飛ばされて逆襲される。

 三つ数えて、柱とカーテンの隙間から覗いてみる。

 良かったぁ……男子生徒は一人で歩いていて、妖の姿なかった。

 

 でも、これで終わりじゃなかったんだよ(;゚Д゚)ねえ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

 

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真凡プレジデント・26《正体は学校の七不思議に》

2021-03-19 06:31:25 | 小説3

レジデント・26

《正体は学校の七不思議に》   

 

 

 駅前交差点で実況をやっていたのは体育祭の訓練だというのは言ったわよね。

 最初、お姉ちゃんに頼んだんだけど「プロがやったら違和感ありすぎ!」と断られ、じゃ、自分でやるからコーチしてよ!

 それで、練習のために引っ張り出されたわけ。

 出来心とはいえ生徒会長を引き受けたことで、わたしの錆びついたスイッチが入ったみたい。

 というか、そんな『やる気スイッチ』めいたものが自分にもあったんだと驚いているんだけど、ゆっくり驚いている場合ではない。

 体育祭と言うのは、刻々と変化する競技の行方をリアルタイムで喋らなければならない。

 やってみて分かったんだけど、実況中継って、自転車に似ている。自転車はペダルをこぐのを止めると停まってしまう。停まってしまうとネギの幅ほどのタイヤで支えられている自転車は、すぐに転倒してしまう。

 実況中継のアナウンスも、ずっと喋っていなければすぐに『こける』ものなんだ。だから、一度喋り出したら、とことん喋っていなければならない。

 交差点の様子を観察する自分と喋る自分と、二人の自分を鍛えなければならない。

「そう、自転車といっしょなのよ!」

「やっぱり」

 姉の言葉で、子どものころ自転車の乗り方を教えてもらったことを思いだす。ちょっと懐かしい。

「『観察』と『喋り』って、二つのタイヤがあって、初めて実況中継って自転車は前に進むのよ。よし、今度は駅の向こうの交差点!」

「お、おお(^_^;)!」

 でも、さすがに二カ所続けてというのはきびしい、合計で三十分を超えたところで目眩がしてきた。

「真凡、なかなかスジいいわよ」

 お姉ちゃんは――グッジョブ!――と親指を立ててくれたけど、自分がやりたくないという気持ちが半分なので額面通りには受け止められない。

 落ち着いてから分かったんだけど、お姉ちゃんは母校であるうちの高校には来たくないという気持ちがあるらしい。

 いずれ聞き質したいけど、今は、体育祭なんだ!

 

 梅雨の晴れ間と言うには憎たらしいほどの晴天になった。

 正直ね、生まれて初めて雨が降ればいいと思った。

 お姉ちゃんの特訓でマシになったとは言え、初めてやることは魂が痛むほどに緊張する。

 わたしは、子どものころから――さっさとやっちまおう!――という性格なので、こんなことは初めて。

 でも、テルテル坊主を逆さに吊るほどのヒトデナシでもない。

 

「「じゃ、よろしくお願いします」」

 

 たった二人の放送部員が頭を下げる。

 わたしが買って出たので、放送部は機材の設営だけの仕事でアナウンスからは解放された。

 アナウンスを嫌がる放送部ってどうなんだろって気持ちはあるけど、文化部の多くは、こういう状態なんだ。

 部活の沈滞って問題なんだろうけど、それも生徒会で取り上げるべき問題なんだろうけど、ま、ペンディング。

 取りあえずは体育祭の活性化だ!

 

――心配された空模様も、我が校、第七十回体育祭を寿ぐような快晴となりました。いよいよ入場行進であります、行進曲は伝統の定番『双頭の鷲の旗のもとに』。演奏は本校吹奏楽部2011年度演奏のもので、たったいま、入場門を校旗を先頭に入場行進が始まりました、旗手は生徒会副会長の福島みずき、続いて一年生より入場、一年一組。旗手は安藤忠信くん。クラス旗は、クラス担任の藤本先生の似顔絵。続いて二組……――

 滑り出しは快調! 駅前特訓の成果アリ!

――……第四走者にバトンが渡り、五クラスそろって最終走者、アンカーになりました! 先頭三組は、早くも第二コーナーを回りました! しかし四組のアンカーは陸上部の佐々木君、ラストスパートには目を見張るものが、あ、三組を抜いて四組に……並んで第三コーナーに迫る、迫る! 三組の石田君と並ぶ、並ぶ、並んでええええゴールイン! さあ、優勝は……どうやらビデオ判定に……――

 あらかじめ書記の綾乃が作ってくれた資料(クラスの旗から、走者のプロフまで入っている)にも助けられ、我ながら生き生きした実況が出来た。

 クラス対抗リレー予選ではPTAの方々が、昼休みには、学年を超えて用事もない男子が放送席のあたりをウロウロ。

「え、どの子?」「あの子?」「違うみたい」「影武者?」「生徒会長だって」「どの子が?」「あれ、違うかなあ?」「え、え、ほんとかよ!?」「声と違いすぎ」「で、どの子?」「あの子……違ったっけ?」「イメージ……」「うう、分からん」

 あまりに声も実況も素敵なので、みんなが見に来る。

 でも、あまりに声とイメージが違うので半信半疑、中には替え玉・影武者などと思う人も居て、アナウンスの正体はわが校七不思議に一つになってしまった。

 

 ま、どーーでもいいんだけどね!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

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