大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・204『上野公園を目指して』

2021-03-28 09:16:16 | 小説

魔法少女マヂカ・204

『上野公園を目指して』語り手:マヂカ    

 

 

 日本橋を渡る。緩いアーチになっているので、渡るにつれて、橋の向こう側で待っている背の高い方の霧子の首が現れる。

 心配してくれていたんだ、わたしとブリンダの姿を認めると年頃の女学生らしく零れるような笑顔になる。その笑顔に触発されてノンコがジャンプ。両手を挙げて全身で「おかえり!」を言っている。この二人に害が及ばなくてホッとする。

 

「二人で、なんか暴れてたやろ?」

 腕組みしてノンコが不足顔。

 霧子は気づいていないが、ノンコは準魔法少女なので、なんとなく分かっているようだ。

「ちょっとな、でも、もう大丈夫だ」

「さ、帰るよ」

「え?」

「うちも、なんかしたいいい!」

「無事に終わったんだぞ、帰って授業うけるよ」

「ええやんか、うちもぉ! うちらもぉ!」

「子どもみたいなやつだな」

「子どもや、まだ女学生やぞ!」

「しょうのないやつだな」

「霧子は?」

「うん、わたしも、自分でなにかやってみたいかな」

「じゃ、ほんとに上野に行ってみる?」

「「いくいく」」

 話が決まって、日本橋を渡りなおして東に向かう。

「摂政殿下の御一行も無事に通られただろ?」

 これには霧子が食いついてきた。

「感動したわ!」

「そう、わたしも見たかったなあ!」

 ブリンダも調子を合わせる。

「侍従たちを従えておられるんだけど、あちこちで立ち止まられ、ご自分の目で追確かめになっておられた。時々ご下問になっておられるご様子だったけど、何度かは、ご自分で聞いておられた。少佐の軍服をお召しだから、聞かれた方もすぐには殿下だとは気づかずに、生の声で応えていて、一度はこちらの方をお向きになって、小さく頷かれた」

「霧子見つめすぎや」

「新畑は来なかったか?」

「うん……」

 新畑に関しては触れてほしくない様子だ、今はそっとしておこう。

 

 う……

 

 一瞬顔をしかめたノンコだが、それ以上声にするようなことはしなかった。

 上野公園に着くと、それまで大通りを歩いていては気づかない臭いが立ち込めている。

 震災そのものから十日近く立っている。

 この上野公園では震災直後から数万人の被災者が避難して来て、あちこちでバラックとも言えないものを作って住み着いているのだ。

 その間、まともに風呂にも入れず食事もままならない状況が続いている。

 百年後の令和なら、取りあえずは学校などの緊急避難施設を使うことができるが、大正時代に、そんなものはない。上野公園は広さこそはあるが、しょせんは公園だ。風呂はおろか、生活用水の施設もトイレさえない。避難民は、あちこちに穴を掘って簡易トイレにして、当局は消毒用の石灰を散布するくらいしかできていないだろう。

 プップー!

 クラクションに驚かされる。

 陸軍のトラックが三台入ってきたのだ。

「警備の部隊か」

 ブリンダがアメリカ人の感覚で見当をつける。

「ちがう、食料を配給しに来たんだ」

 トラックの荷台には『被災者用配給物資輸送部隊』と膜が張ってあり、所属部隊は『一師』とあるから、帝都防衛に当っている第一師団のようだ。

 トラックの姿が見えると、避難民の人たちが集まり始めた。

「警備部隊は何をしている? このまま配給を始めたら暴動が起こるぞ」

 ブリンダが心配する。

「その心配は無いと思うよ、ほら、巡査が……」

 巡査が二人現れて、穏やかに列を作って並ぶように指示している。人数が多いので、ほとんど身振り手振りのジェスチャーで、レトロな巡査服と相まって、どこかテーマパークのキャストめいて見える。

「あれで間に合うのか? 銃も持たずに……トラックにも数人の兵隊しか乗っていないぞ」

 巡査と兵隊が敬礼し合い、わずかに言葉を交わしただけで、穏やかに配給が始まった。

「この時代から日本人はこうなのか……」

 警備と言うよりは整理係のような巡査、特に警戒する様子もなく丸腰で荷台から配給物資を下ろす兵隊。避難民一人一人に手渡しする兵隊、もらった米や物資を受け取ると、けして卑屈ではなくお辞儀して後ろの者と交代する人々。

「最後尾のプラカードがあったら、コミケと変わらへんわ」

「コミケ?」

「さあ、わたしらも手伝おうか」

「配給をか?」

「もっと学生らしいこと……あっちだ」

 わたしは三人を先導して欅の間に幕を張った『帝都大学学生会援護所』を目指した。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 

 

 

 

 

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らいと古典・わたしの徒然草56

2021-03-28 05:18:22 | 自己紹介

わたしの然草・56
『よき人の物語するは』  



徒然草 第五十六段

 久しく隔りて逢ひたる人の、我が方にありつる事、数々に残りなく語り続くるこそ、あいなけれ。隔てなく馴れぬる人も、程経て見るは、恥づかしからぬかは。つぎざまの人は、あからさまに立ち出でても、今日ありつる事とて、息も継ぎあへず語り興ずるぞかし。人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから、人も聞くにこそあれ、よからぬ人は、誰ともなく、あまたの中にうち出でて、見ることのやうに語りなせば、皆同じく笑ひののしる。いとらうがはし。
 をかしき事を言ひてもいたく興ぜぬと、興なき事を言ひてもよく笑ふにぞ、品のほど計られぬべき。
 人の見ざまのよし・あし、才ある人はその事など定め合へるに、己が身をひきかけて言ひ出でたる、いとわびし。

 これは人付き合いについての兼好のの意見、感想というか、処世術ですね。

 久しぶりに会った人に、自分のことばっかし喋りまくるのはアカンと言います。
「おれさ、あれから、あんなこと、こんなことあってさ。そんでよ……」
 という具合で、自分の事しか言わない。会話で大事なのは、いかに人の話が聞けるかにある。
 わたしも久方ぶりの人は、まず相手の話を聞くことにしています。
 教師をやっていて身に付いたことであります。
 懇談などやっても、「お子さんの成績がどうのこうの」などとは始めません。
「お家のほうでは、いかがですか?」から始める。
「いや、ちょっとも言うこと聞きませんわ」
「どんな話をしはるんですか?」
 あとは、出てきた話に合わせます。
「いや、うちの主人が、ちょっとも子どものことやら、家のことは言わしませんねん」
 ああ、このお母ちゃんは、かなり自分の亭主のことに不満があるなあ、と知れます。
 ひとしきり、亭主の棚卸しを聞く。長くなりそうだったら、こう提案する。
「お母さん、なんやったら、別に時間とってお聞きしましょか」
 十人に一人ぐらい「そうしてもらえます!?」になる。
 そう答えたお母さんの大半は、それだけで終わりになる。
 ごく稀に、本当に、もう一度やってくるお母さんがいます。最長で、六時間喋っていったお母ちゃんがいました。子どもへの不満から始まり、果ては自分の半生記を語り出す。
 それをとぎらせず、ひたすら聞く。黙って聞いていてはいけない。「ほー」とか「それから?」とか合いの手を入れる。「大変でしたなあ」「よう辛抱しはりましたなあ」などと親和的な言葉も挟む。

 生徒に対しても同じで、相手の言葉から、話のトッカカリをつかんで話を聞きます。

 男子生徒が、女子生徒を叩く現場に出くわしたことがあります。当たり前なら暴力行為で、すぐ生活指導室に引っ張っていき、事情聴取、そして主担や生指部長に報告、で、停学処分となります。周りに他の教師や生徒もおらず。二人が個人的関係であることも承知していました。「夫婦ゲンカやったら外でやってくれよ」から始めました。女の子の表情も伺う。涙目ではあるが、「二人のことやねん」と目が言っています。
 で、二三日様子をみる。夫婦ゲンカは収まっている。で、時を置いて聞いてみる。
「なんでどついたんや?」
「しょうもないこっちゃねん。こないだ待ちきっとったら用事できて行かれへんかってん。ほんなら、あのブス、ムクレよったさかい」
「あほか、おまえら」
「エヘヘ……」
 と、話して収まりがつく。
 これ、普段から生徒との関係ができていて、また生徒同士の関係を承知していなければできない芸当であります。

 よそのクラスの懇談で、こんなことがありました。たまたまPTAの担当だったので、その懇談に来たお父ちゃんのグチを聞くことができました。
「子どもを、私立の大学にやりたい言うたんですわ……」
「ほう、で、なにか?」
「担任のセンセ、いきなり『三百万用意してください。四年間でそのくらいかかります』ですわ」
 子どもにしろ、親にしろ、私学の大学に行かせるのには、それなりの葛藤があったはずです。なんせ、わたしの学校は進学と就職が半々なのです。まずは、進学と決めたことへの敬意を持ち、経緯を聞かなければならりません。そのお父ちゃんは、息子の進学のため自動車の買い換えを諦めたそうなのです。そんな話を食堂でうどんをすすりながら伺いました。
 
 先日、ご主人の母国フランスに帰る女友達の送別会を六人でやりました。前述したような会話のコツを心得たもの同士であったので、話題の振り方も程よく、互いの近況をほぼ等分に聞くことができました。わたしは高校演劇関係でカタキを作りすぎると意見されました。友人は、日本人がいかにフランスを尊敬しすぎているかについて述べ、間接的にフランスに行くのがイヤだということをおもしろおかしく話してくれました。この友人の子どもは三人いますが、上の二人は日本に留まり、上の子は自衛隊に志願するとのことで、一般論としては賛成。個人的には「もうちょっと考えたほうがいい」と言っていました。これから先、自衛隊は体と命を張った任務が増えそうだからとの心配からです。

 よき人の物語するは、人あまたあれど、一人に向きて言ふを、おのづから、人も聞くにこそあれ(本当にできた人の話は、大勢の人に語っているようでも、一人一人に語りかけているようでいいんだよなあ)
 こんな人は少なくなった。

 先の大震災のおりの天皇陛下(いまの上皇陛下)のお言葉など、これであったように感じました。そういうと「おまえはカタヨッテいる」と言われます。陛下は当時の石原慎太郎都知事が「被災地のお見舞いは、皇太子殿下にお任せになっては」との意見具申にいちいち頷かれ、会談の終わり、会場の出口で立ち止まられ、こうおっしゃったそうです。
「やはり、被災地へは、わたし自身で行きます」
 さすがの石原氏も汗顔であったそうです。こういう話に日本人はドンカンになってしまいました。兼好の時代の日本人は、人の話を聞くアンテナの感度が、今の日本人よりよかったのではないかと感じてしまいます。鎌倉仏教が隆盛になったのは、兼好のオッチャンより少し前の時代でありましたが、感度がよかったからこそ、日蓮、法然、親鸞などの「よき人」の話が素直に入ったのではと想像します。今の時代ならば中程度の新興宗教で終わっていたのではないでしょうか。
 

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真凡プレジデント・35《ペス》

2021-03-28 04:54:31 | 小説3

レジデント・35

《ペス》        

 

 

 呼び出されたのは中町公園。

 なつきの部屋で当てのない啖呵を切ってしまったところでスマホに電話がかかってきて、中町公園に呼び出されているのよ。

 

 噴水そばのベンチに座っていると、見覚えのあるわんこが、ダラダラとリードを引きずりながらやってきた。

「あ、キミは……」

『おう、おいらペスだぜ』

「え!?」

 わんこが喋った!?

『んなわけないだろ、俺だよ俺』

 落ち着いて聞くと柳沢琢磨の声だ。

 でもってよーく見ると、ペスの首輪に小さなスピーカーが付いていて、声はそこから聞こえてくる。

「なんで、こんな……本体はどこにいるんですか?」

『探すんじゃない。俺からは見えてるから安心してくれ』

 そっちは安心でも、こっちは面白くないよ。呼び出されたと思ったら、こっちからは姿が見えないで、そっちからだけ見えてるなんて気持ちが悪い。

『先日の鉄道事件で面が割れてるからな、下手に会ってるところを見られたら真凡も迷惑するだろ……ほら、西側の道路に車が停まってるの見えるだろ、あれ、毎朝テレビの覆面だ。俺が現れたら密かにカメラを回すつもりだ。向かいの喫茶店には週刊文潮の記者がいる。だから、ペスと遊んでる感じで話してくれ』

 目の端っこで確認すると、なるほど言われた通り状況だ。

「それで、どうするんですか?」

『学校にも、落とされた子にも問題はあると思うんだけど、細かいことはいい。バカ騒ぎにして俺の平安な環境をかき乱すマスコミが許せない。一週間でカタをつけるから、その間、俺を信用して待っていてくれないか。なつきの問題も本編を解決すれば自然に収まるよ、早まって退学届けなんか出さないように見てやってほしい』

「そ、そうなんだ」

 ちょっと悔しいけど、柳沢ならやり遂げるような気がする。

『おう、真凡も、ちょっと安心した顔になったな』

「ま、まあ……て、見えてるんですか?」

『ああ、スピーカーの他にカメラも付いてるんでな』

「え!?」

 わたしは慌てた。

 だって、お座りしたペスの位置からだとスカートの中が丸見えなのだ。

『ああ、だいじょうぶ。ライトまでは付いてないから、陰になってるところは見えてない。納得がいったら、ペスを連れて公園を出てくれ、角を曲がったところで元の飼い主が待っている。うん、あの小学生。あいつが家まで連れてきてくれることになってるから。じゃあな』

 わたしは、ごく自然な感じでリードを持って公園を出て行ったのだった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

 

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