銀河太平記・036
ガックン ガックン ガックン
振動がえげつない。
ファルコンZの機関砲のショックはハンパじゃない。
銃座の旋回軸が銃の機関部にあるので、軸から50センチ後ろの射手シートが銃座がターゲットを指向するたびに振り回される。
普通の銃座は射手の頭の位置に同期されていて、感覚としては頭を振るほどの衝撃しかない。
例えればな、時代劇に出てくる殺虫スプレー。あいつで蚊を追いかける時って頭が軸だろ?
その殺虫スプレーの軸がスプレー缶にあると思えよ。そうすっと、蚊を狙う度に体が振り回されるって感じになるだろ?
それが、宇宙空間でビュンビュン飛んでくる戦闘機を撃つんだぜ! 蚊の何百、何千倍って速度だ。もう、巨大なシェーカーの中で振り回されてるようなもんで、もう脳みそがスクランブルエッグになりそうだ。
え、バーチャルの遠隔操作だろうって?
そうだよ、リアルの体はキャビンにあって、ヘッドセット被ってやってんだけどな。対空機関砲のスペックが、そのまんまバーチャルの体感に反映される。
古典ラノベにSAOってのががあったじゃんか。アニメとかゲームとかになって、二十位世紀前半のサブカルチャーの金字塔って言われてる。正式タイトルは『ソードアートオンライン』って言うんだ。
あれってナーブギアっての着けて、ゲームの中にフルダイブする。五感がリアルで、痛みとか衝撃とかもリアルに感じる。あれと同じ。
「しかし、なんで、こ、こんな旧式なんすかああああああ!?」
撃墜が三ケタになったところで、悲鳴と共に聞いてしまった。
『なんせ、98隻分のジャンクパーツでできてるからなあ、対空射撃の管制を統一しようとすると、一番古いパーツのスペックに合わさなきゃならないんでな……よっと、1000機クリアだ! がんばれ火星少年!』
「古いって、いつごろのっ!?」
『ダッシュが使ってんのは戦艦三笠のだ』
「に、日露戦争!?」
『そこまで神話時代じゃない、グノーシス侵略の時のだ』
「ええ!?」
グノーシス侵略ってのは、百年前の開拓時代に地球と火星を襲った正体不明の侵略だ。短期間でグノーシスは撤退したけど、その時活躍した日本の宇宙戦艦だ。宇宙戦艦と言っても地球の成層圏の外を飛ぶのがやっとで、正しくは空中戦艦。成層圏から地球上の敵をやっつけるものだ、それに開発されたばかりのパルス機関を積んでムリクリ出撃させて、グノーシスと同士討ちをやったってロートルだ。
その宙域は、今でも『ミカサエリア』と呼ばれているくらいだ。その三笠の機関砲ということは、パルス機関を搭載するためにドッグ入りした時に外したものだろう。三笠そのものは、敵の主力艦と共にロストしてしまっている。
『船長、訓練を中止してください、三時の方向から天狗党の編隊が接近しています!』
コスモスが割り込んで落ち着いた声で意見具申をしてきた。
『いいタイミングだ、総員、ここからは実戦だ! 死ぬ気で戦え!』
コンソールの敵機を示すドットが、実戦を示す赤色に変わった。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 児玉元帥
- 森ノ宮親王
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
- グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略