大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・037『対空戦闘のあとサロンにて』

2021-03-27 09:59:41 | 小説4

・037

『対空戦闘のあとサロンにて』ヒコ   

 

 

 大したことはなかったよ。

 ほら、対空戦闘訓練の最中に天狗党の待ち伏せに遭って実戦に切り替わった。

 敵戦闘機は一万近くいたけど、大半はドローンで、対空戦闘のモチベーションとスキルのまま戦闘に突入したので、言われなければ実戦とは感じなかったかもしれない。

「いやあ、屁みたいなもんだったすよ(#^▽^#)」

 戦闘が終わって、コスモスさんが提案して、サロンで休憩になった。

 それで、ダッシュが戦闘中のテンションのまま頭を掻く。

 ミナホとコスモスさんがキッチン型のレプリケーターとテーブルの間を往復して飲み物や食べ物を配膳してくれている。未来とテルが「わたしたちも」と腰を浮かせるが、「いいわよいいわよ、この船は勝手が分かってないとね(^▽^)」「ドンマイドンマイ(o^-^o)」と躱される。

「君たちが動いたら、わたしもジッとしているわけにはいかなくなるよ」

 元帥が軽口を言われて、みんなクスリとなる。

 元帥の見かけは絶世の美女だけれども、先の満州戦争で瀕死の重傷を負って、ダンサーロボットのJQのにソウル移植したもので、中身は日本陸軍の総帥、実年齢は傘寿に届こうかという老将軍、むろん男性だよ。

「船長は、天狗党の攻撃のタイミングが分かっていたのですか?」

 宮さまが僕たちも思っている質問をされる。たしかに、アルルカンは天狗党の攻撃を警告していたけど、厳密な攻撃時刻を言ったわけではない。

「船長の勘です」

 コスモスさんが笑顔で答える。

「船長は、危機が迫るとお尻が痒くなるんですよ~」

 ミナホが付け加える。

「船長、痔なんすか!?」

 ダッシュも遠慮がない。火星は基本的には開拓地なので、上下の区別が緩いんだ。

「本船のサニタリーは完ぺきですよ」

「感覚遺伝というものだな、何代も軍人をやっている家系には、そういう症状を見せる者がいる。ヨイチは鼻がムズムズしただろう?」

「昔の話であります。さっきの攻撃にも感じませんでしたし」

「地上戦闘じゃ完ぺきなんだがな、我が副官は」

「あら、ひょっとしてヨイチ准尉殿は宇宙空間は初めて?」

「は、ずっと地上配置のまま元帥の副官になりましたので」

 ちょっと意外だ、軍人で宇宙勤務が無くて、個人的にも宇宙経験が無いというのは、令和の時代に飛行機に乗ったことが無いくらいの珍しさだ。しかし、シャイな人なんだろう、膝の上の手を握って俯いてしまった。

「ああ、コスモスの言う通り、俺のは先祖からの遺伝みたいだ。戦いが迫るとむず痒くなるよ、大戦(おおいくさ)の前だと足の指とかもな」

「それって、水虫が蒸れてるだけじゃ?」

「ハハハ、バラしちゃいかんぞ、火星少女」

「ヨイチはよくやってくれるので、つい手放せずにいて、苦労ばかりかけている」

 庇うように元帥、いい主従関係だ。うちの父と上様もこういう関係なんだろうか、しばらく会っていない父のことを思い出す。

「しかし、アルルカンが予告したほどの攻撃ではありませんでしたね」

「威力偵察だったな」

「船長も、そう思われますか?」

「ドローンとは言え、一万機も相手にすれば、こちらの乗員の個性や癖をサンプリングできるだろうからな」

「そうだったんですか、やっぱり現役の軍人さんは違いますねえ」

「殿下、職業病みたいなもんですよ」

「あら、テルちゃんは、お眠かしら?」

 気が付くと最年少の同級生は舟をこいでいる。頭脳は火星でも有数の高校生だけど、体は十歳の女の子だ、ヨイチさんが目配せするとコスモスさんがケットを出して未来が受け取って掛けてやる。

 わずかのうちだけれども、ファルコンZの船内は、ちょっとした家族の雰囲気になってきた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
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らいと古典・わたしの徒然草・55『家の作りやうは、夏をむねとすべし』

2021-03-27 06:42:22 | 自己紹介

わたしの然草・55
『家の作りやうは、夏をむねとすべし』  


徒然草 第五十五段

 家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪え難き事なり。
 深き水は、涼しげなし。浅くて流れたる、遥かに涼し。細かなる物を見るに、遣戸は、蔀の間よりも明し。 天井の高きは、冬寒く、燈暗し。造作は、用なき所を作りたる、見るも面白く、万の用にも立ちてよしとぞ、人の定め合ひ侍りし。


 日本の家屋は、弥生の昔の高床式倉庫から、夏の暑さと湿度を気遣った作りになっていました。むろん一般の人々の家屋が高床になるのは、都市部では江戸時代。地方にいくとどうかすると昭和に入ってからというところもあります。
 では、庶民の家屋は夏に弱かったか。いや、エアコンなど無くても、けっこう涼しかったようです。
 江戸時代までの庶民のほとんどは、弥生の昔の縦穴住居とあまり変わらない住まいに住んでいた。近代に入り庶民の家も人がましくなっても、夏には強い生活空間でありました。
 日本建築では、壁というものが、あまり存在しません。たいがい障子一枚が外界との境であり、屋内の部屋の仕切も襖一枚であります。

 南こうせつの『妹』という名曲の中にもあります。

~妹よ~襖一枚隔ててぇ~いまぁ~小さな寝息をたててる妹よ~♪

 そう、夏は障子を開け放ち、襖を取り払えば涼しかった。都市部でも緑が多く、地面もアスファルトで塗り固められるということもありません。昼過ぎの暑い盛りになると、近所のオバチャンたちがホースで盛大に水を撒きます。打ち水などというヤワで上品なものでなく。ちょっとした防火訓練並の撒きようでありました。
 ホースから放たれる水に、時に小さな虹がかかることもあって、子どもたちは、オバチャンたちがホースで盛大に撒く水の中をキャーキャー言いながらくぐり抜け、程よく濡れて涼んでいました。
 土がむき出しの道路は、すぐに水を吸い込んだし、お日さまは残りの水を蒸発させ、その蒸発していく中で道路の空気は冷まされ、開け放った家の玄関や襖、障子を緩やかな冷風となって、通り抜けていきました。
  
 七十年代の歌に、こんなフレーズのものがありました。

 ~通り雨、過ぎた後に残る香りは夏このごろぉ~♪

 そう、夏には香りがありました。今よりも、もっと濃厚な香りが。
 あれは、地面がアスファルトで塗り固められることもなく、家々の玄関や障子が開け放たれていたからこそ感じられた香りなのでしょう。
 夏の朝などは、集団登校のため、ちょっと遅れたりすると、同じ班のガキンチョ仲間が、玄関の中まで入ってきて、呼ばわった。
「むっちゃん、もう時間やでぇ」
 近所のオバチャンたちもよく玄関に立っていた。
「田舎から、こんなん送ってきたよってに、少ないけど、どうぞ」
 あるときは、裏庭が共用になっている縁側に、友だちや、オバチャンたちが顔を出した。
「むっちゃん、熱下がったんかいな」
 明治生まれの隣りの年かさのオバチャンなど、そのまま上がり込んで、おでこの熱を診てくれたりしてくれたりしました。

 わたしは三歳のころ行方不明になったことがあります。もちろん、わたし自身には記憶がありません。
しかし、そのときはご近所総出で探して下さったそうです。三軒となりのオッチャンは元陸軍の優秀な下士官で、瞬くうちに近所の人たちに捜索の手はずを指示しました。当時の大人達は、子どもの遊び場所をよく心得ていて、三十分ほどで心当たりの捜索を終えたそうです。
 しかし、わたしの行方は要として知れない。元下士官のオッチャンは三人のオッチャン、オバチャンを指揮して、所轄の警察署までの道の角に配置し、いつでも捜索願を出せる体制をとった。そして索敵範囲を電車道の向こうまで広げました。
「電車道やと、難儀やなあ……」
 なんせ、交通事故の死者が年間数万人の時代であります。
「もう、捜索願出したほうがええで」
 元陸軍准尉のパン屋のオッチャンが、作戦変更を提案。筋向かいの元海軍さんが走りかけたころ、わたしは、見知らぬオバチャンに手を引かれて戻ってきた。
「カネボウの方から来ました」
 その人は、電車道のその向こうの方でウロウロしていたわたしを不審に思い、訪ね訪ねしながら、わたしを連れてきてくださったそうでした。
 丙種で、戦争に行けなかった父は、元陸軍さんや、海軍さん、国防婦人会、女子挺身隊のみなさんに頭の下げっぱなしであった……そうです。
 まさに『三丁目の夕日』の世界でありました。

 夏の日本家屋の有りようから三丁目の夕日まで行ってしまいました。

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真凡プレジデント・34《胸を叩いた》

2021-03-27 06:22:29 | 小説3

レジデント・34

《胸を叩いた》  

 

 どう書いていいかも分かんなかった……

 

 ベッドの上、接する壁に同化するように膝を抱えるなつきが顔も上げずに、やっとそれだけ言った。

 階下ではアイドルタイムが終わって賑わい始めたお店の気配。

 お好み焼き屋たちばなは流行っている店だけど、それに甘えて休むわけにはいかない。おばさんもなつきのことが気にならないはずはないんだけど、定休日以外に休んでしまうと、とたんに客足に影響する。

 それに、ホームドラマじゃあるまいし、母親がちょこっと声をかけて解決するような問題でもないことも分かっている。

 中坊のときグレかかったときも「まあ、麻疹みたいなもんだから」と気楽に構えていたおばさんだけど、ほんとはどうしてやりようもなかったんだ。せめて普通に店を開けて元気にお客さんの相手をして見せることで娘を支えているんだ。

 いつもなら年中出しっぱなしのコタツに収まる。

 なつきはベッドとコタツの谷間、わたしは壁側というのが定位置。

 でも、なつきが定位置に収まらず、ベッドの上でクマのぬいぐるみといっしょに膝を抱えていては、入り口近くに腰を下ろすのがやっとだ。ドアの向こう、あと二段上ったら廊下というところで健二が心配そうにしているのも気になるしね。

「なつきは、悪いことなにもしてないよ。がんばって進級もしたし、だれにひけ目を感じることもないんだよ」

「でも、ほんとに合格していたのはあの子で、わたしは届かない成績だったんだから。あの子が怒るのも無理ないよ、怒って当然だよ。真凡に支えてもらってやっと借り進級だよ、ほんとなら二年生にもなれない成績で、真凡が居なかったら、この三月でやめてるところだったよ……」

「そんなことない、いくらわたしが居ても、なつきが、その気になってなきゃ進級なんてできてなかったよ」

「わたしバカだけど、分かってるよ自分がバカだってことは」

「とにかく早まらないで、なつきが学校辞める理由なんてどこにも無いんだから!」

「学校辞める時は一筆書かなきゃならない、でもって、いざ書くとなると『たい学とどけ』だったか『じひょう』だったかも分かんない。いろいろ書いて調べて、やっと分かった。退学届だって、送り仮名はいらないんだよね、『退学届け』って書いたらダメなんだよ。良く読んだら『退学』に『届け!』って間抜けの願望みたいで笑っちゃう……ほんで自分で書いてもダメで、学校の指定の用紙で書かなきゃならないって、でも、学校に行く勇気出なくて……」

「なつき……」

 ちょっと言葉が続かない。

「だって、スマホにもネットにも『おまえがヤメロ!』って書き込みが一杯で、もう、とってもやってけないよ」

 それはその通り、心無い書き込みは、学校のホームページだけでなく、普通の生徒たちにも中町高校というだけで書きこまれている。生徒全員じゃないだろうけど、マスコミとかネットで叩かれまくって、そのいら立ちをなつきに向けてくる奴もいる。

「そんなの、わたしが許さない! そんなやつら、わたしがやっつけてやる、わたしは中町高校のプレジデントなんだから! なつきは会計だろ、会計は会長の部下なんだよ、部下が困ってる時に助けるのは会長の役目なんだからね! 任せとけ!」

 啖呵は切ったが当てがあるわけじゃない。

 でも、親友だったら、当てがあろうがなかろうが、ドンと胸を叩いておくのが当たり前だと思った。

 これでも、江戸の昔から数えて十三代目の江戸っ子なんだから!

 

 胸を叩いたところで、スマホが鳴った。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

 

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