大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・66『路地の向こうの満開梅』

2021-03-01 08:38:48 | ライトノベルセレクト

物語・66

『路地の向こうの満開梅』    

 

 

 たまに道を変える。

 道って通学路のこと。

 通学路と言っても帰り道。

 行きは二丁目の坂道。遅刻するのやだし、そんな余裕ないし、ここに来た時ほど坂道も怖くなくなったし。

 変えるのは、学校から下校の途中――ここから坂道――という分岐点。

 目の前に崖が立ちふさがっていて、右に崖に沿った坂道が伸びている。この坂道をどん詰まりまで上って180度折れ曲がって残り半分の坂道登って、むかしペコリお化けが出たお屋敷が見えたところで右に折れて我が家への道になる。

 それをね、分岐点のところで左に曲がるんだ。

 やっと人一人が通れるくらいの小道と言うか路地になっていてね、そこを抜けると、相変わらずの崖なんだけども、つづら折れの階段があって、そこを上がるとペコリ屋敷(ペコリお化けが出たお屋敷)の北側に出る。

 ほら、むかし、四毛猫が出たところね。

 今日は、月が改まって三月一日。二月と三月って違うでしょ。

 二月二十八日っていうと、まだまだというか、きっぱりと冬ですよ。

 それが、たった一日たっただけなんだけど、三月一日になると、たった一日なんだけど『春』って感じでしょ(#^.^#)!?

 それに、路地の向こうに満開の梅の花が見えたのよ。

 路地の向こうだから、梅の木の全貌が見えるわけじゃないんだけどね。

 ほんの一部が見えるのは、なんとも想像力をかき立てるんですよ。

 全貌を見たら、どんなに素敵だろう!

 それで、ノコノコと左に折れて路地の向こうへ踏み込んでみる。

 

 あ…………あははは

 

 我ながら、空気が抜けるような笑い漏れ出てしまった。

 梅の木は、路地のあっち側から見えているとこだけが花々しくって、こっち側に来て見えた分は、枝も花も貧相で、なんとも見栄を張った梅なのですよ。

 その、見栄を張った部分だけ立派なものだから、スカイプとかやるために、下はパジャマのままで、上だけネクタイとスーツみたいにおかしい。

 やっぱり、梅でも、人から見られるところはきれいにしたいと思うんだろうか。

 

 アハ アハハハ(n*´ω`*n)……

 

 照れたような笑い声がした。

 だれかが悪戯でスピーカーとか仕込んでいなかったら、梅の木の笑い声だ。

 妖かなあ……思わず胸に下げた勾玉の上に手を置いてしまう。

―― あ、妖じゃないから(^_^;)ね ――

 梅の木が喋った。

「あ、ごめん。ここのところ続いてるから、ついね」

―― 大きな声じゃ言えないけど ――

 そういうと、梅の木は、満開の花をつけたまま身をかがめて、梅の香りに包まれたようになって、こう続けた。

―― 今日は、このつづら折れは登らない方がいいわよ ――

 あ、なにか居るんだ。

 そう思ったけど、口に出すと、すぐにそいつが出てきそうな気がして、梅の木に返事もしないで路地を通って、いつもの坂道に戻って帰ったよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅

 

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らいと古典・わたしの徒然草・37『第三十七段 今更、かくやは』

2021-03-01 06:29:28 | 自己紹介

わたしの徒然草・17

第三十七段 今更、かくやは』    

 


 朝夕、隔てなく馴れたる人の、ともある時、我に心おき、ひきつくろへるさまに見ゆるこそ、「今更、かくやは」など言ふ人もありぬべけれど、なほ、げにげにしく、よき人かなと覚ゆる。疎き人の、うちとけたる事など言ひたる、また、よしと思ひつきぬべし。

 普段慣れ親しんだ人が、急に気遣いして、よそ行きの言葉や態度で接してくることに、こう言う人がいる。
「いまさら、どうしたんだよ。なんか居心地が悪いよ」
 しかし、オレは思うんだよなあ。そういう時って、つくづく、その人がユカシイってのか、いい人に思えちゃう。
 で、もって、普段よそよしくしてる人が、急にうち解けたってか、馴れ馴れしくしてくるのもいいもんだよなあ(^o^) 一見、兼好のオッチャンの対人感覚が分からなくなる段であります。

 親しいというか、オトモダチと思っていた人間が急に改まったりすると、普通はこう思いますよね。
「こいつ、なにか後ろめたいことでもやりやがった……?」
 あまり親しくないやつが、急に馴れ馴れしくしてくると、こう思います。
「なんだよ、適当に話し合わせてただけなのに、なんかオトモダチだって誤解するようなこと言っちゃったっけ……?」

 これを「いいもんだよなあ(^o^)」と、思うわけですから、分からなくなります。

 実は、これは若い女の子への、感想だというのが真相らしいのです。

 生涯シングルでしたので、兼好という人は、達観した世捨て人のように思っている人が多いように感じます。
 しかし、現実の兼好は、女の子とも適当によろしくやっていたようです。

 前段や、その前を読んでいると、さも人ごとのように書きながら、女の子にメロメロになって、夜中に、その子の家の周りをうろついたり、しばらくご無沙汰の彼女が「お見限りじゃないのよさ」と、露骨に言ってくるんじゃなくて「アシスタントでいい子いないかしら」と、間接的に水を向けてくれる女の子っていいよなあ。などと軽いところもあります。
 女の子、多分その道のプロ。今風に言えば、東京じゃ銀座のオネエサン。大阪で言えばミナミや、北新地のその道のプロ。そのプロの男心のつかまえ方の上手さについて書いているような様子です。
「ケーさん、いえ先生。今日は、ゆっくりしていってくださいな。なんだか、わたし先生と、ゆっくり話したい心境なんです……ご迷惑じゃなかったら……」
「先生……兼チャンでいいよね。なんか兼ちゃんテキトーにしか話してくんなかったから、あたしもね、そんな風じゃったじゃん。今夜はアプローチしていいかなあ。ケンちゃんの目も、なんだか、そんな感じだしい」
 てな駆け引きを喜んでいるような中年のオッサンであります。

 わたしにも、女性から急に態度や物言いをガラッと変えられたことがありました。

 三十年ほど前、組合が二つに割れたことがありました。分会でわたしは、こう主張しました。

「あくまでもN教組に残るべきやと思います。もしZ教に加盟するなら組合の規定に従って、組合員全員による投票が必要なんとちゃいますやろか」
 これに対して、女性組合員のオバサンにこうやられました。
「我々は、上部組合組織に加盟するんじゃないんですよ。自分たちで新しい組合を創るんです。だから、再加盟に関わる全員投票には馴染みまセン!」
「そやかて、昨日までは全員投票必要や、言うてはったやないですか!」
「わたし達は学習したんです。その結果、こういう結論に達したんでス!」
「こ、これがM集中制いうやつでっか!?」
「違います。あくまでも、我々の自主的判断デス!」

 日の丸、君が代でもめたときもこうです。
「日の丸も君が代も、軍国主義の産物とちゃいまんねんで。そのずっと前、明治のころにできたもんで、わたしらは終戦で、やっとそれを取り戻したんやないですか。思い出してください。子どもの頃、正月になったらみんな日の丸揚げてたやないですか」
「そのころは、まだ私たち日本人は気づいていなかったんです。あの旗には、どれだけ血塗られた歴史がこめられているか! どれほどアジアの国々にご迷惑と恐怖を与えたかを」
「アジア、アジアて言わはりますけど、どこのアジアでっか。知ってはりますか。パラオとかバングラディシュの国旗は日の丸がモデルになってまんねんで」
 で、これに対し綺麗な標準語で、こう返ってきました。
「帝国主義者!」
「反動分子!」
「裏切り者!」

 東京の人には分かりにくいでしょうが、大阪の人間、それも五十代以上の人が、「今更、かくやは」と、標準語を使うときは、往々にして「自分」がありません。若い人が使うときは、改まってキチンと話さなければならない面接の場合だったり、ちょっと気取ってみたいときなどで、カワユゲがあり、「よき人かな」と感じます。

 逆に、普段は丁寧語で喋っている子が、急にくだけた言葉になることもあります。

 学校で、十万円盗られた女の子がいました。
 なぜ、そんな大金を持ってきていたかというと、その子は父子家庭の長女で、家事一般その子が仕切っていました。
 その日は、家賃や公共料金の払い込みがあり、その子は放課後振り込もうと思って持ってきたのです。
学校は警察ではありませんので、取り調べにも限界がありました。体育の時間に起こったことなので、判明した直後に全員を会議室に集め、事情を説明したあと、無記名で各自に知っている限りのことを書かせ、五人の教師でそれを読みました。その間、生徒達の様子も観察しましたが、何も手がかりは出てきませんでした。
「ごめん、やれるだけのことはやったんやけど……分かれへん」
 そう伝えると、その子は涙を浮かべ、こう吐き出しました。
「センセ……うち、悔しい! 悲しい!」
 疎き人が、うち解けた瞬間でした。でも、とても悲しい、残念なシュチュエーションでの「うち解け」でありました。

 その子は、悔しさ、悲しさの持って行き場がありませんでした。
思わず、わたしに抱きつこうとしました。まさに「うち解け」た刹那でありました。そのままハグしてやればよかったのですが、その前の月、体育の先生が、ささいな事でセクハラを取られたことが頭をよぎり。一瞬の逡巡(ためらい)が出てしまいました。
 その子は、わたしのためらいを感じて自制しました。ほんの刹那のやりとりでした。ほんの0・二秒ぐらいの時間でした。
 わたしは、教師という立場の怯えがありました。それが逡巡になってしまいました。
 その子は、そういうわたしの立場としての怯えも瞬時に理解し、一人で耐えていました。
 その子は、限りなくうち解け、よき人でありました。

 よき人になり損ねた、なんとも身の置き所のない思い出でありました。

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真凡プレジデント・8《北白川綾乃》

2021-03-01 05:50:39 | 小説3

プレジデント・8

《北白川綾乃》       

 

 

 文章を書くのは難しい……たとえ立候補辞退届であっても。

 

 さっきから二回も書いては消している。

 清書する前にスマホで文案を練っている真っ最中。

 お姉ちゃんには悪いけど、柳沢琢磨とじゃ勝負にならない。わたしは立候補を取り下げることにしたのだ。

 四時間目が自習だったので、自習課題をやっつけてからずっと考えているので、そのまま昼休みに突入してしまった。

 自習時間の席は自由なので、食堂にダッシュできる廊下側の一番後ろの席にいるんだけど、これじゃ意味がない。

 なつきが「じゃ、パンとか買ってくるね!」と言ったのに任せている。

 

 すると……視線を感じた。

 

 顔を上げると……至近距離に柳沢琢磨が立っているではないか!

「ちょっといいかな」

 わたしのことを偵察に来たんじゃないかと、心臓が飛び出しそうになる……が、そうではなかった。

「北白川さんの席はどこかな?」

「え、あ、はい……」

 北白川さんは一人しかいない。北白川綾乃……クラス一番のモテカワ美少女。美少女なのにフランクな子で友達も多い。

 わたしにも気さくに声をかけてくれるけど、自他ともに認める陰薄少女のわたしは委縮してしまって、まともに目を見て話したこともない。サイコパスとの噂もあるくらいの秀才と校内有数のモテカワ美少女! 二人は、そういう関係だったのか!?

 一瞬で妄想が広がって――そこの席です――が言えるのに数秒かかった。

「えと、真ん中の後ろ……です」

「ありがとう、悪いね」

 そう言うと、わたしの後ろを周って北白川さんの席に向かう柳沢。

 横目で観察していると、懐から封筒を取り出して机の中に入れようとしている。

「あの、お手紙でしたら預かりましょうか?」

「あ、そうだね……じゃ、お願いできるかな」

 思いもかけず声をかけてしまった。

 大事な手紙なんだろうという気持ちと、声をかけてみたいという衝動からだ。

 意外に繊細そうな手から封筒が手渡されようとして声が掛かった。

 

「なにしに来てるのよ!」

 

 入口の所で、北白川さんが柳眉を逆立てて立っていた。

 こんな北白川さんを見たのは初めてだ、いままでいろんな人がキレるのを見てきたけど、普段の温厚さとのギャップもあって、わたし自身身の縮む思いがした。

「ちょっと、こっち来て!」

 180はあろうかという柳沢琢磨が150そこそこの北白川さんに引かれて行くのは、なんだかシュールでさえある。

「なんだなんだ」「なになに」という声が上がるが、二人の後を付けて確認しようという者は居ない。

 むろんわたしも二人が去ったドアの向こうを窺うだけだ。廊下に出た者たちの反応で、どうやら屋上に通じる階段に向かった様子。

「あ、あれ?」

 たった今まで手にしていた封筒が無い。

 大事な手紙なんだろう、わたしは、自分の席の周りをアタフタと捜す。

「や、やばいなあ」

 でも、みんなの目があるし、スマホを見てるふりして視野の端っこで教室のあちこちに気を配る。

 主に女子たちがヒソヒソと二人の、主に北白川さんの噂をしている。

 美人…… 実はね…… やっぱり…… ……だと思った それでもね…… とにかく…… あの時……

 会話の断片が耳に入って来る。こういう噂話は苦手だ、それより手紙を、人から預かったものを無くすのは気持ちが悪い……でも、みんなの噂話が……

 ひとりアタフタしてしまう。

 すると目の前にきれいな脚が立ちはだかった……顔を上げると手に封筒を持った北白川さん。

 なんだ、北白川さんが持って行ったんだ。

 ホッと安心すると、北白川さんがガバっと跪いてきた。

「田中さん、あなた生徒会長に立候補してるんでしょ!? 絶対当選してね! 応援してる、あんな琢磨なんかに絶対負けないでね!」

 周囲がざわめいた。

 半分は、いつにない北白川さんの様子に。もう半分は、わたしが立候補していることに。生徒会選挙のポスターなんて、たいていの子は見てないもんね。

 これは、立候補を取り下げるどころの話ではなくなってきた!

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問
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