やくもあやかし物語・66
たまに道を変える。
道って通学路のこと。
通学路と言っても帰り道。
行きは二丁目の坂道。遅刻するのやだし、そんな余裕ないし、ここに来た時ほど坂道も怖くなくなったし。
変えるのは、学校から下校の途中――ここから坂道――という分岐点。
目の前に崖が立ちふさがっていて、右に崖に沿った坂道が伸びている。この坂道をどん詰まりまで上って180度折れ曲がって残り半分の坂道登って、むかしペコリお化けが出たお屋敷が見えたところで右に折れて我が家への道になる。
それをね、分岐点のところで左に曲がるんだ。
やっと人一人が通れるくらいの小道と言うか路地になっていてね、そこを抜けると、相変わらずの崖なんだけども、つづら折れの階段があって、そこを上がるとペコリ屋敷(ペコリお化けが出たお屋敷)の北側に出る。
ほら、むかし、四毛猫が出たところね。
今日は、月が改まって三月一日。二月と三月って違うでしょ。
二月二十八日っていうと、まだまだというか、きっぱりと冬ですよ。
それが、たった一日たっただけなんだけど、三月一日になると、たった一日なんだけど『春』って感じでしょ(#^.^#)!?
それに、路地の向こうに満開の梅の花が見えたのよ。
路地の向こうだから、梅の木の全貌が見えるわけじゃないんだけどね。
ほんの一部が見えるのは、なんとも想像力をかき立てるんですよ。
全貌を見たら、どんなに素敵だろう!
それで、ノコノコと左に折れて路地の向こうへ踏み込んでみる。
あ…………あははは
我ながら、空気が抜けるような笑い漏れ出てしまった。
梅の木は、路地のあっち側から見えているとこだけが花々しくって、こっち側に来て見えた分は、枝も花も貧相で、なんとも見栄を張った梅なのですよ。
その、見栄を張った部分だけ立派なものだから、スカイプとかやるために、下はパジャマのままで、上だけネクタイとスーツみたいにおかしい。
やっぱり、梅でも、人から見られるところはきれいにしたいと思うんだろうか。
アハ アハハハ(n*´ω`*n)……
照れたような笑い声がした。
だれかが悪戯でスピーカーとか仕込んでいなかったら、梅の木の笑い声だ。
妖かなあ……思わず胸に下げた勾玉の上に手を置いてしまう。
―― あ、妖じゃないから(^_^;)ね ――
梅の木が喋った。
「あ、ごめん。ここのところ続いてるから、ついね」
―― 大きな声じゃ言えないけど ――
そういうと、梅の木は、満開の花をつけたまま身をかがめて、梅の香りに包まれたようになって、こう続けた。
―― 今日は、このつづら折れは登らない方がいいわよ ――
あ、なにか居るんだ。
そう思ったけど、口に出すと、すぐにそいつが出てきそうな気がして、梅の木に返事もしないで路地を通って、いつもの坂道に戻って帰ったよ。
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅