銀河太平記・035
「ホログラムでも、アルルカンのパルスは強烈だからね」
わざわざナース服でミナホが慰めてくれる。
アルルカンのホログラムがわたしの体を通過してから熱っぽくて、ちょっと体のバランスが崩れてキャビンで横になっているのよ。すぐにミナホが飛んできてくれて治療をしてくれているところ。
ミナホは人間だかガイノイドだかよく分からない。ダッシュのいやらしい目つきから、たぶんH系ガイノイドを魔改造したものだと思うんだけど、感じるオーラは人間の美少女。
あ、ガイノイドって言うのは女性型のアンドロイドのことなんだけど性差別に繋がるというので、扶桑語や日本語では『女性型アンドロイド』、国際的には『フィーメルアンドロイド』って言う。言うんだけども、言葉としては『女性看護師』と同じく長ったらしいので、改まった場合でなければガイノイドと言ってる。
ロボット基本法ができて、ロボットを人間と区別することは禁止されたので、自律型ロボットが現れて以来義務付けられていたロボID(ロボットの頭上に出てるIDホログラム)が無くなり、素人ではロボットと人間の区別がつかなくなった。
パルスというのは、この宇宙に存在する無機物・有機物・エネルギーが個別に持っている振動波のことで、これを難しい技術で増幅したり変換したりすることで個体識別ができたり、強烈な動力や武器になるんだよね。
「ホログラムは映像パルスだから微弱なものなんだけど、敏感なひとにはね……えと、このサプリが効きそうね」
「え、薬のカタチしてる?」
「うん、この方が、治療してもらったって実感があるでしょ、胃の中で溶けて中和パルスを出してくれる」
「そうなんだ」
「じゃ、いちおう安静にしていてね(^▽^)/」
「うん、あ、はい……ちょっと、ダッシュの目線、いやらしいんですけど」
「んなことねえーよ」
「「いやあ、あるある」」
テルがニヤニヤと、ヒコが真面目に同調する。
「あ、このナースのコスよね」
「あ、っていうか、治療の仕方も時代劇みたいで」
「『も』ってゆーことは、コスにも興味津々てゆーことなよろがぁ?」
「リトルナースって言って、二百年前の製薬会社のトレードマークらしいです」
「あ、メン〇レータム!」
「さすがはヒコさんです。でもリトルナースのモデルはナイチンゲールだとも言われています、由緒正しいんですよ」
たしかに、濃紺のワンピに純白のエプロンとナースキャップ。現代の折り紙みたいにシンプルなナース服よりも「治療します!」って雰囲気がある。
ビーービーービーー
和気あいあいになってきたキャビンに非常警報が鳴り響き、みんなビックリ、見の軽いテルなんか、三十センチほども飛び上がり半回転して頭から落ちそうになったところをヒコに受け止められている。
『今から対空戦闘訓練をやる! 総員戦闘配置! 総員戦闘配置! 乗客も協力してもらう、キャビンに備え付けのヘッドギアを装着! 指示に従ってくれ!』
「ああ、本気だあ……」
ミナホがため息をついて、ベッドの下から人数分の非常用ヘッドギアを取り出す。
「ベッドに横になって装着してください、コンソールに銃座が現れますから敵を発見次第撃ってください、適当でいいですから」
そう指示すると、ミナホのコスは白地に紺線の入ったバトルスーツに変換された。
ヘッドギアを装着すると、視界が青白くなったかと思うと、銃座が現れる。
周囲の壁が消えてなくなり、ファルコンZは船体各所に配置されたパルス機関砲の銃座だけが見えるようになる。各銃座には船長以下の乗組員の他にも、元帥、宮さま、ヨイチ准尉、すみれ先生も配置され、本当に総員戦闘配置になっている。
銃座の操作方法がインストールされたんだろう、頭の芯がホワっと熱を持つ。
コンソールに複数のドットが浮かび上がる。
敵認定!
したかと思うと、一瞬で体が動いてパルス機関砲を敵に指向させた。
※ この章の主な登場人物
- 大石 一 (おおいし いち) 扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
- 穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
- 緒方 未来(おがた みく) 扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
- 平賀 照 (ひらが てる) 扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
- 姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任
- 児玉元帥
- 森ノ宮親王
- ヨイチ 児玉元帥の副官
- マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス バルス ミナホ ポチ)
- アルルカン 太陽系一の賞金首
※ 事項
- 扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
- カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ