大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・70『そいつ!』

2021-03-26 09:07:32 | ライトノベルセレクト

やく物語・70

そいつ!』    

 

 

 染井さんが満面の笑みになった。

 

 えと……人間じゃないよ。

 通用門(校舎の建て替えで通用門に格下げになった昔の正門)の脇に立ってる古い桜の木。ときどき、女生徒の姿になって学校やその周辺を歩いていたりするんだけどね。

「立派に咲いたわねえ……」

 そんなに大きな桜じゃないんだけど、他の桜よりも少し花の色が濃く、咲いてる花の密度も高い。

「待ってても出てこないわよ」

 出てこないわと言いながら出てきたのは愛ちゃん。

 通用門脇にある銅像。

 憶えてるかなあ……昔の校長先生が臨海学習の遠泳で、おぼれた生徒を助けようとして亡くなったの。

 その校長先生の銅像を建てようとしたら、先生の奥さんが「目立つことは苦手な人でしたから」と言って、『愛の像』ってタイトルで女生徒の像になった。その『愛の像』も時々実体化して現れる。それが愛ちゃん。

「たまには二人で散歩しようよって誘ったんだけどね、『今年は咲くことに専念したいの』って言って、化ける力まで総動員して咲いてるの。だから出てこないわよ」

「そうなんだ……ちょっと残念」

「アハハ、染井さんは桜の木なんだからさ、こうやって見ているのが本来の付き合い方だよ」

「それもそうね」

 ユサユサユサ

 染井さんが風に揺れた。揺れたんだけど、まだ満開になったばかりで花弁は散ったりはしない。

「頑張ってるんだね」

 振り返ると愛ちゃんの姿もない。居ないのに視線を感じる。

「あれ?」

 視線を追ってみると、それは正門(いまの)の方からやってくる。

「杉野君?」

 図書部の委員仲間の杉野君だ。

 杉野君が近寄って来る。

 ちょっと変だ……。

 なんて言うのか……杉野君は、わたしのことを意識しているみたいで、ここのところ口をきいていない。

 その杉野君が、向こうから近づいてくる。

 表情が分かるところまで近づいてくると、杉野君は口も動かさずに言葉を発した。

『よう……いい調子だな』

「え……」

 一言言って、わたしを戸惑わせると、杉野君は、そのまま魔王のような足どりで戻っていってしまった。

「杉野君……?」

 おかしいよ。

 そう思うと、わたしは遠ざかる杉野君の背中を追いかけた。

 角を曲がったらお地蔵さんの通りというところで追いつく。

 声をかけようと思って息を吸い込んだら、杉野君が振り返った。

「いい気になんなよ、こいつの気持ちにも応えずに」

 蛇みたいな目をして…………え……こいつは杉野君じゃない?

「やっと気づいたか……邪魔すんじゃねえぞ」

 そう言うと、杉野君の姿が二重になった。

 一つは杉野君だけど……もう一つは、合格発表の日の自習時間に見かけた半透明の男子生徒だ!

 こいつは質の悪い妖で、勾玉の力でやっつけたはず!?

「バーカ、やっと気づいたか」

 こいつ、杉野君に憑りついたんだ!

 わたしは、一歩引きさがると同時に胸の勾玉を強く握った!

「バーカバーカ、そんなもんが俺に効くかよっ!」

 そう言うと、そいつの姿はわたしの前から掻き消えた。

 退治されたわけでも消滅したわけでもない、だって、空の彼方から、そいつの怪人十面相みたいな高笑いが響き続けたから。

 アハハハハハハハ

 なんとかしなくっちゃ!

 ちょうど角を曲がったらお地蔵さん。わたしに勾玉を託したお地蔵さんの祠だ。

「お地蔵様、どうしたらいいんだろ!?」

「…………」

「なんとか言ってください!」

「……ごめん、あいつの力は、わたしを超えている。手出しはしないことだ、勾玉はあいつには無力だけど、やくもを守ることはできる、とにかく近づかないことだ、近づいてはいけない……」

「お地蔵様……」

 

 家に帰って風呂掃除をするために着替えてビックリした。

 勾玉に細かなヒビがいっぱい走って、胸のそこが、日焼けをしたように赤くなっていた……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 

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らいと古典・わたしの徒然草・54『あまりに興あらんとする事は』

2021-03-26 06:04:23 | 自己紹介

わたしの然草・54
あまりに興あらんとする事は』   

 



徒然草 第五十四段 御室にいみじき児

 御室にいみじき児のありけるを、いかで誘ひ出して遊ばんと企む法師どもありて、能あるあそび法師どもなどかたらひて、風流の破子やうの物、ねんごろにいとなみ出でて、箱風情の物にしたため入れて、双の岡の便よき所に埋み置きて、紅葉散らしかけなど、思ひ寄らぬさまにして、御所へ参りて、児をそそのかし出でにけり。
 うれしと思ひて、ここ・かしこ遊び廻りて、ありつる苔のむしろに並み居て、「いたうこそ困じにたれ」「あはれ、紅葉を焼かん人もがな」「験あらん僧達、祈り試みられよ」など言ひしろひて、埋みつる木の下に向きて、数珠おし摩り、印ことことしく結び出でなどして、いらなくふるまひて、木の葉をかきのけたれど、つやつや物も見えず。所の違ひたるにやとて、掘らぬ所もなく山をあされども、なかりけり。埋みけるを人の見置きて、御所へ参りたる間に盗めるなりけり。法師ども、言の葉なくて、聞きにくいいさかひ、腹立ちて帰りにけり。あまりに興あらんとする事は、必ずあいなきものなり。


 ちょっと訳します。

 御室(みむろ)とは、法皇さま(天皇さまが引退して坊主になったの)のいる寺。ここでは例の仁和寺を指すらしい。そこにメッチャ可愛い稚児(坊主見習いの少年。ま、十歳ぐらいか)がいるので、仁和寺の坊主たちが、この子を誘い出して、双岡(ならびがおか=仁和寺の近所、京都大学のあたり)でピクニックをやろうと計画。で、あらかじめ稚児が喜びそうなプレゼントを適当な場所に隠しておき、稚児を連れ出した。
 そうして、自分たちの法力で、あらら摩訶不思議。地中からプレゼントが出現! そう企んだ。
 そして、いざ、印を結んだり、経を唱えたり、もったいつけて、その場所を掘り返した。
 ところが……出てこない。で、いい歳こいた坊主ドモが「場所間違えたんとちゃうんか!?」などと、ネタバレバレバレに言い騒いだ。どうやら埋めるところを見ていて盗んだやつがいるらしい。
「なんや、このオッチャンら」と、稚児はドッチラケ。
 あまりに凝りすぎると、ろくな事にはならないぞ……というお話。

 わたしは、むかし見合い魔でありました。

 二十代から、三十代前半にかけて手ひどい失恋を三回やりました。そこで、アトクサレが無く、精神的なダメージがない見合いに賭けてみたというわけです。友人知人に声を掛け、その手の会社にも登録をして、見合いを重ねました。だいたい月に三回ぐらいのペースで、延べ五十六回の見合いをし、職場の同僚からは「大橋の見合いは趣味や」と言われました(^_^;)。

 見合いは一種の面接で、最初の三十秒、三分、三十分が勝負。

 三十秒で、相手に好印象を与えなければ、あとの挽回は極めて難しい。
 三分で、相手は「話を聞いた方がいいのか、こちらがリードして話題を提供しなければいけないのか、見極めなければならない。リードするといっても、最終的には相手にお話してもらえるようにする。人というモノは、共感してもらいたいものなのである。それも百パーセントではいけない。二割方の質問や、疑問は呈しておいたほうがいい。三十分もしたら(状況しだいで一時間)場所を変える。外に出た方がいい。お日さまに当たればセロトニンがお日さまからいただけ、人間はポジティブになれる。

「どこに行きましょうか?」

 これは、最低。主体性がないこと丸出し。

 男たるモノ、自然にエスコートできなければなりません。

 わたしは、たいてい事前に見合いの場所と、その周辺を下見しておきました。むろん雨になった時のことも想定しておきます。途中立ち寄るかもしれないレストランや喫茶店もチェック。
 これは、教師が校外学習の準備をするときの下見と同じなのです。校外学習では、タバコの自販機、トイレの有無、生徒のニーズに合ったアミューズメントやショッピングの場所。遊園地などだったら、同日に予約を入れている他の学校まで調べます。学校によってはケンカが起こる恐れがあるためですね。
 担任を持った時には、生徒にこう提案しました。
「将来、困らないために、デートコースを遠足の場所にしよう」
 で、初めてのデートから、恋人として互いが認めあえたレベルまで三段階に分け、実益を兼ねて見合いやデートコースの研究にいそしんでいました。

 で、最初はよかった。
「大橋さんは、迷わないからいいですね。お見合いして、『どこ行こうか?』なんて、主体性の無いオトコなんて最低」
 で、三十回目ぐらいからは裏目に出ることがしばしばになってきました。
「大橋さん、慣れてますねえ……」
 で、当然、見合いしまくりのオッサンということがバレてしまう。

 あまりに興あらんとする事は、必ずあいなきものなり……であります。

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真凡プレジデント・33《若い男が待っていた》

2021-03-26 05:43:37 | 小説3

レジデント・33

《若い男が待っていた》  

 

 

 校門を出ると若い男が待っていた。

 

「話があるんだ」

 そいつは、一言言うと、とっとと前を歩き出した。

 これを目撃した下校途中の生徒たちが注目……することは無かった。

 声を掛けられたのが、人柄はいいが、どうにも色恋沙汰には縁のなさそうな生徒会長のわたし(田中真凡)であることと、男がいささか若すぎるからだ。

 

「なによ、健二」

 

 やっと声をかけたのは中町公園の前だ。

 公園に入るのかと思ったら、健二は自販機で缶コーヒーを二つ買った。

「話を聞いてもらうんだから、これでも飲みながら……」

 小学生に気を遣われては収まりが悪いのだけど、その思い詰めた表情から、おそらくは姉のなつきのことだろうと見当が付くので、あえて何も言わなかったのだ。

 ただ、健二の不器用な気遣いから、容易なことではないと、つい、つっけんどんな「なによ、健二」になってしまう。

「小学生が高校生に気を……」

 言いかけて停まってしまった。

 健二が差し出した数枚のA4用紙には「怠学届」「退学届け」「辞表」などの意味は一発で分かるが、全部間違った言葉が書かれていたからだ。

「姉ちゃんバカだから、書き損じばかりして寝ちまったから持ってきたんだ、相談するのは真凡ねえちゃんしか思いつかなかったから」

「バカが早まって……」

「まだお母さんには言ってないんだ。お母さん何も知らないし、心配かけるの嫌なのは、俺も姉ちゃんもいっしょだから」

 健気な奴だと思った。なつき同様スカタンなところはあるが、心配するポイントは外していない。

 

「分かった、すぐに会いに行く!」

 

 勝算も見通しも何もないけど、とりあえずなつきを一人にしてはいけないと思った。

 そう言ってやると、やっぱり小学生、目から大粒の涙がこぼれ、それをグシグシ拭きながら付いてくる。わたしを待ち伏せて助けを乞うところまでがやっとだったのだろう。

 公園を出たところで一台の自転車が追い越したと思ったら、急停車して二人の前に立ちふさがった。

 

「あ……柳沢!?…………さん」

「坊主、おまえ付けられてる。付けてるやつを撒くから後ろに乗れ、真凡、電話するから、聞いたら指示に従ってくれ」

 そう言うと顎をしゃくって健二を後ろに載せると横っちょの路地に入ってしまう。

 さて、どこで電話を待とうかと考えて……なんで柳沢が? ちょっと遅れて腹が立ってきた。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 

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