大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・196『留美ちゃんと朝のナマンダブ』

2021-03-17 09:00:26 | ノベル

・196

『留美ちゃんと朝のナマンダブ』さくら     

 

 

 うちの親もたいがいやけど、留美ちゃんとこもけったいや。

 

 うちは、お父さんが七年以上も行方不明で一昨年失踪宣告になって、法律上は死亡になって、お母さんの実家に母子ともども戻ってきた。ケジメにお父さんのお葬式を出したあとに、今度はお母さんが失踪。

 留美ちゃんは看護師やってるお母さんがコロナに院内感染、日ごろの無理が祟ったのか重症化して、娘の留美ちゃんでも面会でけへん事態に。それで、うちに引き取っていっしょに住むことにしたんやけど、今度は、留美ちゃんが小さいころに離婚したお父さんが学校と、うちの家に現れて、経済的には困らんようにいろいろ手を打って行った。

 せやけど、このお父さんがけったい。

 うちらが後をつけて行ってた同じ時間に、うちのお寺にも現れて、留美ちゃん名義の通帳を預けて行った。

 うちの親のこと同様に、留美ちゃんのお父さんのことも深追いせん方がええという感じ。

 うちのお寺、如来寺は、うちと留美ちゃんを引き受けてくれるだけの、いろんな意味での大きさがある。

 

 ナマンダブ ナマンダブ ナマンダブ

 

 登校前には本堂の阿弥陀さんに手を合わせる。

 ナマンダブのお念仏は三回だけ。特に決まりがあるわけやないねんけど、一回じゃそっけない、二回でも頼りない。四回は多すぎる感じで、三回に落ち着いてる。

 こないだまでは詩(ことは)ちゃんと一緒やったけど、大学生になった詩ちゃんとは時間が合わへんので別々。

 その代わりというわけでも無いねんけど、留美ちゃんがいっしょに手を合わせてくれる。

「なんか、留美ちゃんまで習慣になってしもたねえ」

「うん、最初は真似して手を合わせるだけだったけどね」

 ナマンダブのお念仏は簡単やけども、慣れてへんと口に出すのは抵抗があるかもしれへん。なんか、お念仏唱えると、ほんまもんの門徒(信者)になるみたいで抵抗がある。

「単なる挨拶だったんだよね」

「うん、ナマンダブは『南無阿弥陀仏』で、南無は「もしもし」の呼びかけ」

「サンスクリット語の『ナーム』なんだよね」

 留美ちゃんは賢いからサンスクリット語いうとこに値打ちを感じてるみたい。

「うん、呼びかけにもなるし、気分次第で『おはよう』『ただいま』『ありがとう』『ごめんなさい』『おやすみ』、なんでもありの万能語」

「フフ」

 小さく笑っただけやけど、留美ちゃんの気持ちが落ち着いてることの現れやさかい、うちも嬉しい。

 で、登校前になにをグズグズしてんのかというと、今日は登校時間が二時間遅い。

 電気設備の故障の修理で始業が十時半になったから。

 安泰中学がいかにボロかということやねんけど、堺市で、うちの学校だけがゆっくりやいうのんは、得した気ぃになる。

「阿弥陀さんだけじゃないんだよね」

「ちょっと、見てみる?」

「え、いいの?」

 お寺の本堂いうのは、内陣と外陣(げじん)で出来てる。

 外陣は檀家さんやらが手を合わさはるとこ。内陣はご本尊の阿弥陀さんらの須弥壇があるとこで、外陣よりも一段高くなってる。時代劇で言うたら、お殿様がお小姓とか侍らせて座ってはるとこ。

「お小姓みたいなものなの?」

 留美ちゃんはご本尊の両脇に興味が湧く。

「ええとね、こっちが聖徳太子」

「え、聖徳太子? なんで?」

「え……なんでやろ?」

 見慣れてるから不思議にも思えへんかったんやけど、なんで、お寺に聖徳太子?

「アハハ、また気いとくわ(*´ω`*)」

「こっちは?」

「あ、ここの歴代住職」

「立派なお坊様だったのねえ」

「いや、それほどでも……」

 一種の系図みたいなもんやねんけど、初代から数えて十二人の坊主の名前が肖像付きで掛け軸になってる。見かけは大名の家系図(社会の資料集とかに載ってるやつ)みたいやけど、お寺では普通にある。

 

 お早うございます!

 

 急に声が掛かって、留美ちゃんともどもビックリする。

「あ、銀之介!」

「本堂のほうだって、聞いたもんですから」

「あがって、あがって、荷物はこっちのほうやから」

「はい」

 唯一の一年生部員夏目銀之助。

 ここのとこ部活どころやなかったんで、みなさんにはご無沙汰やった子ぉです。

 学校の部室も充実させならあかんので、急きょ荷物の一部を学校に持っていくことになったんです。

 本格的な春を目前に、わたしらの周囲は少しずつ変化し始めてるみたいです。

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らいと古典『わたしの徒然草48 光親、おまえも食ってみろよ』

2021-03-17 06:27:03 | 自己紹介

わたしの然草・48
『光親、おまえも食ってみろよ』    



徒然草 第四十八段

 光親卿、院の最勝請奉行してさぶらひけるを、御前へ召されて、供御を出だされて食はせられけり。さて、食ひ散らしたる衝重を御簾の中へさし入れて、罷り出でにけり。女房、「あな汚な。誰にとれとてか」など申し合はれければ、「有職の振舞、やんごとなき事なり」と、返々感ぜさ給ひけるとぞ。

 ある日、天下太平を祈るパーティーに藤原光親が、お招きにあずかりました。
 で、光親は、後鳥羽上皇から、食べかけの料理を勧められました。
「これ、美味いからよ、光親、おまえも食ってみろよ」
「それは、それは……」
 と、光親はテキトーに食べて、トレーごと御簾(スダレ)の内に食べ散らかしたものを差し入れた。
 で、コンパニオンのオネエチャンである女房たちが、呆れかえった。
「わ、キッタネー。ここは大学の学食とちゃうねんよ。なんちゅうオッサンや、あたしらに片づけろってか!」
 そこへ、ホストである後鳥羽上皇がお出ましになり、こうおっしゃった。
「さすが有職(宮中のしきたり、マナー)に詳しい光親。粋なことするやないか」
 と、感心なさったとか。

 これはすごく変です。上皇サマからのクダサレモノを食い散らかして、トレーごと御簾の内、つまり、上皇さまの席近くにポイとウッチャラカシて消えてしまった。テーブルマナーを知らない、わたしのような田夫野人のオッサンのようで、光親は変である。それを「粋なことを」と、感心する上皇さまも変。

 変だから、兼好のオッチャンは書いたのでしょうが、どこを、どの程度変と思って書いたのか分かりませんが、後鳥羽院と光親の阿吽の呼吸的な君臣の親さを面白く感じたのだろうと思います。

 その後の光親と上皇は、以下のようになります。
 承久の変(承久三年)の時、後鳥羽上皇が北条氏の討伐の企てに際し、クールな藤原光親はまだまだ時期尚早と上奏しましたがヤンチャクレな上皇には聞き入れられません。その後、光親は義時追討の案文を上皇に書き。このことは、上皇の謀議共々鎌倉にもれ、謀議に参加した光親卿は捕われの身となり、鎌倉護送の途中で篭坂峠において打ち首になってしまいました。

 承久の変は、名前ほどには上級ではありません。武士の力は、たとえ将軍たる源氏の血筋が途絶えようと、揺るがぬものでありました。あっさり、鎌倉に動員された十九万の軍勢に破れてしまいます。そのあたりの機微を知っていれば、このTSUREDURE48は、兼好のオッチャンの時代と、人を見る目のシタタカサとタシカサを感じさせてくれる段であります。

 これに似たエピソードが百年前にありました。

 阿波と淡路を領国としていた蜂須賀家は、その遠祖を蜂須賀小六という地侍……もっとアケスケにいうと、夜盗の頭目であります。それが、豊臣、徳川の時代を泳ぎ切り、無事に明治の御代に華族に列せられます。
 当時は、テレビはおろかラジオも無い時代。人々の娯楽は歌舞伎や講談、浪曲であります。
 そのポピュラーな演目が『太閤記』です。『太閤記』では、矢作川の橋の上で寝ていた藤吉郎(後の秀吉)と、夜盗の頭目、蜂須賀小六との出会いは、前半のヤマであります。
 今で言えば、総理大臣の名前は知らなくても、AKB48は知っている! と、いうぐらいにポピュラーな話であります。
 蜂須賀家は、これを気にして、偉い大学の先生に頼みました。
「先生、なんとか我が祖である蜂須賀小六が……ではなかったと、証明してください」
 と、頼んだ。
「まかせてください」
 先生は胸を叩いて資料、史料にあたった……結果。
「やはり蜂須賀小六は……で、あられたようで……」
 で、蜂須賀さんは、ガックリきていました。

 そんなある日、蜂須賀さんは明治天皇のお呼び出しをうけ、歓談していました。

 明治天皇が、所用があって、しばし、その場を外されました。蜂須賀さんは何気なく、テーブルの上の菊の御紋入りのタバコを一握りポケットに突っこみます。まあ、家人へのお土産と思われたのでしょう。当時は「恩賜のタバコ」と、大変ありがたがられたものです。
 所用を終えた明治天皇が、お席に戻られると、タバコがゴソっと減っている。
「ワハハ、蜂須賀、血は争えんのう」
 陛下は、たいそう面白がられ、蜂須賀さんも、恥ずかしいやら面白いやらで、笑っちゃった……。
 これは、司馬遼太郎さんのエッセーに出ているエピソードです、明治という時代の明るさと大らかさを現していますね。
 ちなみに、タバコに刷られていた菊紋を考案したのは、わたしの記憶違いでなければ、後鳥羽上皇です。
後鳥羽上皇の想いは、奇しくも数百年の時を経て、蒸留酒のようなウィットになりました。

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真凡プレジデント・24《大学芋とアナウンス》

2021-03-17 05:52:41 | 小説3

レジデント・24

大学芋とアナウンス》 

 

 

 待ってるだけじゃつまんないからさ~

 

 姉貴が即興体育会系バラエティーを公園で始めたのは、そういうことらしいが、別に咎めているわけじゃない。

「学校の体育祭に欠けているのは、そういうことだと思うのよ」

「学校って、真凡の?」

「そう、大学芋食べる前に聞いてくれる」

「え、あ、うん、きくきく」

 押しのけた大学芋を目で追いながら、それでも熱は籠ってる。可愛い妹への愛情ではなく五百円で三百グラムの大学芋への愛着からだけど、まあ、いい。

「もちろん体育祭でもアナウンスはあるんだけどね、なんちゅうか、無機的にお品書きみたいなプログラム読み上げたり、召集を掛けたりだけで、熱がこもってないのよね。肝心の競技になったら沈黙するし、さっきのお姉ちゃんみたいにやれば、みんな集中するし盛り上がると思うのよ」

「それはそうだろうね、でもさ、そういう楽しい話は食べながらだったら、もっと充実すると思うんだけど……」

「だからさ」

「ちょ……」

「だーかーらー」

 クッションでオアズケバリアーを展開して、核心部分を言う。

「なんで、オアズケなのよ~(´;ω;`)ウゥゥ」

「お姉ちゃん、体育祭のアナウンスやってよ。お姉ちゃんも、うちの卒業生で気心も知れてるしい、みんなも喜ぶしい」

「そりゃダメだ」

「どうしてよう、放送局も辞めたことだし、こだわることないでしょ!」

「やっぱ、プロのアナウンサーがベシャリやったら異質すぎるって」

「そう?」

「そうだよ、焼き芋の中に大学芋が混じってるよりも異質。2Dのアニメに、そこだけが3Dみたいな。実写の中に、そこだけがアニメみたいな。肉まん食べたら、真ん中がアンコだったみたいな。餃子を食べたら中身がチョコレートだったみたいな。ワサビの代わりにウグイス餡を仕込んだみたいな」

「例えが、食べ物ばっかみたいになってるし」

「いや、だーかーらー、早く食べさせなさいよー!」

「だったらさ、学校に通って放送部のコーチとかやってよ」

「えーーだーるーいーよ、そんなのおおお」

「だったら、お芋はオアズケよ~~~(^^♪」

 思わずメロディーが付いてしまう。わたしって、意外にSなのかも。

「そうだ、真凡がやんなよ! うん、姉妹だから声質にてるしい、ちょっち劣化版的わたしで、いいよいいよ!」

「ちょ、ちょ、迫ってこないでよ。く、来るなあああ!」

 そういういきさつで、わたしはアナウンスの特訓を受けるハメになってしまった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)   ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)   真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)    モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問
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