大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・194『平日やけどもペコちゃんに逢って』

2021-03-04 13:59:52 | ノベル

・194

『平日やけどもペコちゃんに逢って』さくら      

 

 

 今日は平日やけども休み。

 

 なんでか言うと卒業式やさかい。

 在校生のうちらは、コロナの事とかあって式には出ません。

 三年生には知り合いもいてへんしね。

 せやさかいに、留美ちゃんと二人で買い物に出てる。

 留美ちゃんの新生活も、ようやく落ち着いて来て、ホームセンターに細々とした日用品を買いに出たというワケ。ホームセンターのある通りは食べ物屋さんやらスイーツのお店がひしめいてんねんけど、シカとする。目的を果たす前に立ち寄ったら、育ち盛りのわたしらとしては道を踏み外しそうになるよって、買い物が終わったら一軒だけ寄ろうということになってる。

「あ、ペコちゃん」

 赤信号で自転車を止めたら留美ちゃんが呟いた。

「え、あ、ほんま……」

 別に留美ちゃんが不二家の誘惑に負けたわけやない。

 我が担任のペコちゃんこと月島さやか先生が黒の式服のまま自転車に乗って交差点を曲がっていく。

「お仕事なんだろうねえ」

 留美ちゃんはええ子やさかい、式服を着替える間もなく仕事に出てるペコちゃんに同情的。

 やっぱり、お母さんの働いてる姿を見て育ってきたさかい「キャー先生!」とか手を振ったりはせえへん。

 ちなみに『ペコちゃん』いうあだ名は昔から。

 うちに家庭訪問しに来た時に、子どものころから『ペコちゃん』て言われてきた言うてはった。

 先生になってまで『ペコちゃん』はないやろと、人には言わんように言われて、うちは守ってきたけど。

 なんせ、笑顔になったらペコちゃんソックリ。

 いつのまにかみんな言うようになって、本人も諦めてはる。

 買い物は、事前にメモをとってたし、売り場もネットで確認してたのですぐに終わったんやけど、レジが一杯。

 けっきょく三十分ほどかかってホームセンターを出ると、待ち合わせてたみたいにペコちゃんが信号の向こうで手ぇ振ってる。

「やあ、奇遇ねえ!」

「「あ、ども」」

 このやり取りだけで、ペコちゃんがハンバーガーを奢ってくれることになる。

 ラッキー!

 アクリル板で囲まれたシートに三人で収まる。

「家庭訪問やったんですか?」

 ぶしつけやと思たけど、突っ込んでみる。

 濁されたら、あっさり引き下がるつもり。

 家庭訪問いうのは個人情報が絡んでるやろし、うちらが聞いたらあかん内容やったりするからね。

 せやけど、そんなに秘密の必要が無かったら、ペコちゃんは言う。

 程よい情報の共有というのは、人間関係を円滑にしてくれるもんです。

「うん、瀬田くんちに行ってた」

「「あ、ああ」」

 それだけで納得。

 瀬田いうのんは一年から同じクラスの男子。元サッカー部で、田中いうのんとペアで掃除をサボったりつるんどった。

 最初は田中の方が頼りない感じで、瀬田が振り回してるように見えてたんやけど、コロナ休校のころになにかあったみたいで、瀬田は休みがちになっとおる。

「二人とも、瀬田君とは同級生だったんだよね……」

 そうやねんけども、ペコちゃんはうちらに情報を求めてるわけやない。うちも留美ちゃんもちゃんとやってるのに、男子の瀬田が不登校になってるのんがもどかしいんや。

「榊原さん、新しい生活には慣れた?」

 留美ちゃんの事を心配してるんや。いきなり聞いたらあからさまやから、瀬田のことを枕にしたんやろなあ。

「はい、もう、家族同然にしていただいて、こないだはみんなで家族写真まで撮ってもらったんです(^▽^)/」

「そう、それは良かった。二人ともいい子だから、なんか後回しっぽくなって、ごめんなさいね」

「いえいえ、いよいよの時は月島先生にも頼りますから、よろしくお願いします」

「うん、四月からも受け持てるといいわね」

「うちらも先生のクラスになりたいです。ねえ」

「ハハ、まあ、それは開けてビックリ玉手箱ってことね」

 それから、学校のアレコレで盛り上がってお店を出て、ペコちゃんが切り出した。

「榊原さん、ちょっといい」

 留美ちゃんに折り入ってという感じなんで、うちは先に帰ろかと思った。

「さくらちゃんもいっしょに、家族なんだから」

「う、うん」

「そう……じゃあ……」

 じゃあと言いながら、ペコちゃんは確かめるように、うちと留美ちゃんの顔を見てから切り出した。

「実は、留美ちゃんのお父さんがいらして……」

「「え!?」」

 息が停まるかと思た……。

 

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誤訳怪訳日本の神話・28『スセリヒメ』

2021-03-04 09:53:57 | 評論

訳日本の神話・28
『スセリヒメ』    

 

 

 オホヤビコが示した根の国堅州国(ねのくにかたすくに)というのがよく分かりません。

 黄泉の国のまだ向こうという設定なっているので出雲のどこかなのでしょうが、取りあえずはスサノオがクシナダヒメと所帯を持ったところなのでしょう。

 オオナムチがたどり着いたところは、スサノオの宮殿です。

「すみませ~ん、木の国のオホヤビコの紹介でやってきましたオオナムチと言います、だれか居ませんかあ?」

 門の外から声をかけますと、なんとも可愛くて魅力的な女の子が出てきます。

 スセリヒメであります。

 スセリビメと書くことが多いのですが、ヒメを濁って発音するのは趣味に合いませんのでヒメとします。

 

 脱線しますが、古代において『女』には二通りの発音がありました。

 オミナとオウナであります。

 オミナは若い女性を指します。オウナは年配の女性を指します。

 オミナとは、なんとも優しい発音ですね。花の名前に『女郎花』がありますが読み方は『おみなえし』であります。ちかごろ自生のものは減ってきたようですが、昔はスミレのように日本の山谷にはふつうに繁茂していた可憐な草花だそうです。仲間に『男郎花(おとこえし)』というのがあることを発見して一人で喜んでいました(*^▽^*)。下の歌詞をご覧ください。

 

 ましろき富士の けだかさを こころのつよい盾として 

 御国に尽くす女等は 輝く御代の山桜

 地に咲き 匂う 山桜

 

 昭和11年に作られた『愛国の花』の一番の歌詞です。

 二行目の『女等』はオミナラと読みます。

 意味的には女達と、女を複数形で言っただけなのですが、オンナラと発音したらぶち壊しですね。

 オミナラと発音すると、なにか憧れとか尊敬、親しみを感じてしまうのですが、変でしょうか?

 ちなみに『愛国の花』は戦後七十五年を超える今日でも東南アジア各国で愛唱されていると言います。インドネシアの建国50周年記念の国民行事で、現地の方々が合唱されているのをYouTubeの動画で観た時には、ちょっと恥ずかしいほど感動しました。

 つまり、そういう趣味というか感覚で『姫』はヒメと発音しておきます。

 

 スセリヒメはスサノオとクシナダヒメの娘です……オオナムチはスサノオから数えること五代目あるいは六代目と言われる子孫です。

 人間的な常識で判断すると、令和の若者が明治時代のご先祖に連なる女性と恋仲になったということで、ちょっとSFで、初めて読んだ時には混乱したものです。

 好きになったのはスセリヒメの方からです。

「ぜったい、あんたと結婚する(#゚Д゚#)!」

 スセリヒメは父のスサノオに懇願します。

 娘に『好きな人が出来たの(^#▽#^)』と言われて素直に喜ぶ父親はいないと思います。

「な、なんだと!? す、好きな男ができただとおおおおおおおおおヽ(#`Д´#)ノ」

 スサノオは、オズオズ現れたオオナムチに、こう言います。

「てめえみたいな奴は、名前を変えてやる! たった今から『アシハラノシコオ』と呼んでやる!」

 つまり、日本一の醜男(ぶおとこ)という意味ですね。

 オオナムチは、記紀神話では何度も名前が変わって、大国主に定まるまでは時間がかかります。

『ノラガミ アラゴト』に大国主が出てきますが、この何度も名前が変わることが大国主のキャラ設定に大きく影響しています。『ノラガミ』の夜ト(やと)とヒロインのひよりは沢山観たアニメの中でも好きなキャラです。

 次回はスサノオとオオナムチのそれからを見ていきたいと思います。

 

 

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真凡プレジデント・11《自主・独立・敬愛の今を問う》

2021-03-04 07:14:41 | 小説3

プレジデント・11

《自主・独立・敬愛の今を問う》      

 

 

 生徒手帳には学校の三本柱として、自主・独立・敬愛、三つの徳目が記されている。

 立会演説の草稿が書けないわたしは、生徒手帳の〔生徒心得〕から始めることにした。

 

 学校の本館正面には、ぶっとい三本の柱が貫いているんだけど、それが、この三つの徳目を表しているらしい。

 ナルホドと思う反面、徳目を考えた初代の校長だか誰かだかが、今のわたしみたく悩んだ末に考えたというかこじつけたことなんだろうと思う。

 だって、自主・独立という割には、校則はスカート丈からリボンの結び方まで事細かに規定している。そして、規定している割には守られていない。

 授業の始まりには「起立・礼・着席」を委員長が発声すると書かれているが、ほとんど実行はされていない。

 アルバイトは学校に願い出て許可を得る……守っている生徒はいない。

 みだりに繁華街に立ち入ることや深夜徘徊は禁止されていて、やむを得ない場合は保護者の同伴を義務付けるとか、もう笑ってしまう。他にもいろいろあるけど、廊下は右側を静かに歩けとかね。もうやってられません。

 七十年前の開校以来一度も見直されたことがないまま、毎年生徒手帳に書かれてしまっているんだ。

 

 一瞬、途方に暮れたけど、思い直した。

 

 そうだ、このまま立会演説でぶつけてみよう!

 いまの生徒会を守りながら、守るというのは規定の行事はきちんとこなしながら調べてみるということ。

 調べるとは、近隣の高校を訪ねて調査することだ。アポを取って、自分の足で出向いて、見て聞いて話を聞いて。そして自分の肌で感じてみること。

 これなら、わたしの狙いであるコミニケ-ションスキルの獲得や自己表現……つまり、もっとうまくやっていける人間にもなれるだろうし、生徒会のためにもなる。うん、何を提案するってものでもないんだけど、アグレッシブな印象が、我ながらいいと思う。

 『自主・独立・敬愛の今を問う』

 うん、なかなかエキセントリックな表題も付いた。

 

 一気呵成に原稿用紙三枚にまとめ上げると藤田先生に提出しに行った。

 

「ごくろうさま、藤田先生にはわたしから渡しておくわ。ザッと見たけど問題ないと思う」

 またも藤田先生は不在で、中谷先生に渡して暫定的了解を得た。

 さあ、明日からは二年になって初めての中間考査だ。

「あ、早かったじゃん!」

 校門のところで待っているなつきが嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている。

「もう、先に帰って勉強してろって言ったでしょ!」

「やっぱ、いっしょにやらなきゃ調子でないじゃん」

 ペロって舌を出す。

 こういうところは、中学では悪だった片鱗も無くって可愛いんだけど。こいつは分かっててやっている節がある。

「じゃ、いくぞ!」

「あ、ちょ、待って」

「もー、なによ!?」

「北白川さんがね……あ、来た来た!」

 食堂の方からジュースのパックを持った北白川さんが美しく駆けてくる。

「ちょうどよかった、冷たいの飲みながら帰ろ、はい、田中さん!」

「え、わたしにも?」

「橘さんがニコニコ立ってたから声かけて、そしたら田中さん待ってるって、そいでいっしょにね、ウフ」

 アニメキャラのように肩をすくめる。なにをやっても絵になる人だ。

「そいじゃ、ありがたく」

 ジュースをもらって歩き出す。文具屋のガラス戸に三人の姿が映る。

 ガラス戸に映るボンヤリとした姿でも北白川さんは美しく、なつきはキャピキャピ可愛い。

 わたしは……考えないことにして、ちょっと肌寒い五月の空の下を駅に向かった。

 

 こないだの事が気にかかる。

 柳沢琢磨が教室にやってきて、北白川さんの席を聞いたかと思うと、手紙を預けていったでしょ。

 そこへ北白川さんが戻ってきて、目を三角にしたかと思うと柳沢をひっ捕まえて行ってしまって、預かった手紙が見当たらず、ひとり焦っていた。

 みんなの噂話と手紙の事でアセアセになっていたら、北白川さんが戻ってきて、わたしが生徒会長に立候補してることをクラス中にお披露目してしまった。

 むろん「がんばってね!」という応援なんだけど、それも柳沢と関係がありそうで、ますます興味が湧いてくる。

 それにね、今まで、こんな風に北白川さんと喋ったことも無かったし、この接近ぶりが気になってるんだけど、そんなこと正面から聞くわけのもいかないし。

 飲み終わった紙パックを持て余すころには駅に着いてしまった。

「エイ!」

 北白川さんが紙パックを投げると、きれいに改札前のゴミ箱に収まる。

 なつきは無邪気にマネして失敗。

 わたしは、それを拾って自分のといっしょにゴミ箱に捨てる。

 ほんとは、わたしも投げてみようかって衝動が湧いたんだけどね。北白川さんのアクションて、そういう人を踏み込ませるような「カムウィズミー」的なオーラがある。

「あ、ごめん。調子に乗って、ちょっと行儀悪かったわね」

 拳で頭をコツンとして『テヘペロ』の北白川さん。

 くそ、なにをしても主役の貫録。

 思うと、顔が赤くなるのを自覚して「ううん、そんなこと(〃´∪`〃)」と壁を塗るようにして手を振る。

 なつきが「アハハハ」と笑って、わたしも北白川さんも笑ってしまう。

 横を通ったオバサンの二人連れが、好ましい女子高生だわ的に暖かく視線を向けていった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    急に現れた対立候補
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

  

 

 

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