大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・195『留美ちゃんのお父さん』

2021-03-11 09:22:41 | ノベル

・195

『留美ちゃんのお父さん』さくら     

 

 

 あの人とちゃうか?

 

 一言言うと、テイ兄ちゃんはアクセルを踏み込もうとした。

「待ってください」

 小さく言うと留美ちゃんはダッシュボードに両手をついた。

 ダッシュボード押さえても車は停まらへんねんけど――ちょっと待って!――いう気持ちは十分に伝わる。

「あかんか?」

「あ、いえ……じゃ、あの交差点まで……追い越さないようにしてください」

「ええんか、それで?」

「はい」

 テイ兄ちゃんは二呼吸ほどおいて、ゆっくりとアクセルを踏んだ。

 

 バス停のある大通りに出たとこで「もういいです」と留美ちゃんが俯いてしもたんで、追跡は、そこでお仕舞になった。

 ペコちゃん(月島先生)が、今日もう一回、留美ちゃんのお父さんが学校に来る言うてたから。

「これで、ええんか?」

 エロ坊主でも、やっぱり大人や、ダッシュボードに両手を置いて俯きながら必死に耐えてる留美ちゃんに、声かける勇気は、うちには湧いてこーへん。

「はい」

 バス停の前を通る時にチラ見した。

 スーツ姿のお父さんは中堅会社の課長さんという感じ。

 立ち姿に力みも油断もない、ちょうどええ感じでバスの案内板見てはって、ちょっと遅い昼食をとって会社に帰るとこいう感じ。

 うちは、観察力なんてあれへんねんけど、お父さんの足元を見る。

 お母さんが、人を見るのは足元がええと言うてた。

 人は着るものに気ぃつけるけど、足もとにまで気ぃまわる人は少ないから、そこに個性が出てくる言うてた。

 靴は、スーツによう合ってる黒に近いダークブラウン、ズボンの丈はくるぶしの下で程よい長さ。踵は程よく五ミリくらい減ってる感じかな……営業とかの歩く仕事やないような気がするけど、この日の為に慣れへんスーツを着たいう感じでもない。

 えーーと……

 思てるうちに通り過ぎてしまう。

 前がつかえてたいうこともあるねんけど、それでも時間にして一秒ちょっと、よう観察したほうやと思う。

 で、ようはサラリーマン風やいうこと以外なんにも分からへんねんけどね(^_^;)。

 ペコちゃんの話によると、いっしょに住むわけにはいかへんけども、経済的な面倒はみるので学校の方もよろしくということらしい。連絡先とかは、早手回しに、うちの如来寺になってたそうでビックリ。

 留美ちゃんの話しによると、留美ちゃんが小さいころに離婚しはったそうで、離婚後、留美ちゃんは一回も会ったことが無いらしい。

 このまんま気晴らしにドライブでもできたらええねんけど、テイ兄ちゃんにも檀家周りがあるし、まん悪いいことに、家は詩(ことは)ちゃん一人だけ。詩ちゃんも夕方からはバイトやさかい、早よ帰らなあかん。

「また、今度気晴らしにでもいこな」

 同じ思いのテイ兄ちゃんは、ゆっくりとハンドルを切った。

 

「さっき、留美ちゃんのお父さんが来てた」

 お寺に帰ると、詩ちゃんがビックリすることを言う。

「「え?」」

 あたしらが中学校に向かって五分くらいで来るまで来はったそうで、詩ちゃん一人しか居てへんことを聞くと、恐縮しはって、車は山門の前に停めて、境内の立ち話だけで済ませはったらしい。

「書類と通帳預かったの、必要な費用は毎月入れるって、もう先月分と今月分が入ってるの。お母さんのことについては、近々連絡するから心配しないようにって、用件だけ済ますと、恐縮されて、お構いする間もなかったわ」

「せやかて、さっきまで……」

 テイ兄ちゃんが説明すると、詩ちゃんもビックリしたけど、うちもビックリ。

 ついさっきまで、お父さんの後付けてたんやさかい。

 どんな風やったと聞くと、うちらが見てた姿と同じやった……。

 なんとも不思議な話やねんけど、憔悴した留美ちゃんを見ると、その話はあとにしよという感じ。

 だいいち、留美ちゃんは憔悴した顔はしてたけど、うちらと違って、不思議に思ってる感じはせえへんかったしね……。

 

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らいと古典『わたしの徒然草・43 いかなる人なりけん』

2021-03-11 06:13:41 | 自己紹介

わたしの然草・43
『第四十三段 いかなる人なりけん』   

 



 徒然草 第四十三段

 春の暮つかた、のどやかに艶なる空に、賤しからぬ家の、奥深く、木立もの古りて、庭に散り萎れたる花見過しがたきを、さし入りて見れば、南面の格子皆おろしてさびしげなるに、東に向きて妻戸のよきほどにあきたる、御簾の破れより見れば、かたち清げなる男の、年廿(二十)ばかりにて、うちとけたれど、心にくく、のどやかなるさまして、机の上に文をくりひろげて見ゐたり。
 いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし。

 兼好は、時々覗き見をするようです。第三十二段にも似たようなことが書かれていました。前回は女性でしたが今回は若い男です。
 今の価値観、道徳観では、この覗き趣味は軽犯罪になるでしょう。現に著名な劇作家兼詩人が、このデンで逮捕されています。なんとかというユニットのメンバーで、その後バラエティーの司会などをやったオッサンも、逮捕されました。
 しかし、当時は平安の匂いがまだ残る鎌倉時代末期です。都のお屋敷など、広いばかりで、塀も破れて垣根も隙間だらけ。そういうところに分け入って覗いても今ほどには、とがめ立てされることはなかったようですね。そうでないと源氏物語の光源氏などは捕まってばかり。だいたい恋愛そのものが成り立たなくなります。

 しかし、この四十三段は若い男……なのです。

 賤しからぬ家、庭なんか、花が散り敷かれ、格子や妻戸も程よく開けてあったり閉めてあったり。御簾(スダレみたいなの)の破れ目から、なかなかイケメンの二十歳ぐらいのニイチャンがリラックスして、読むともなく本を広げちゃってる。ヤバイよ、カッコヨスギだよ! ということになるようです。
 悪くとれば、兼好にはオネエ趣味があったのか……などと思い、三十二段の女性への思い入れと矛盾……いや、両道の達人であったのか!?

 I wish I were……という表現が、英語にあります。
 I wish I were a bird(わたしは鳥になりたい)つまり、なれもしないものになりたい気持ちを表現する時の言い回しです。
 兼好は、これを表現したのではないでしょうか。            
「 いかなる人なりけん、尋ね聞かまほし」
 どんな素性のニイチャンか聞いてみたい。だれか知らないかい? と結んで、実は、ふと、街中で見つけたお屋敷を見て、兼好は妄想しました。
――こんな、お屋敷なら、こんなニイチャン(自分の憧れ)が住んでいたらいいなあ。

 兼好のオッサンにも、当然青春時代があったわけでして、二十代のころは、後二条天皇の母基子を出した堀川家の家司(執事)になり従五位の下になりますが、殿上人としては最下位。まして、平安時代ではなく、傾き始めたとはいえ鎌倉時代。今で言えば、伝統会社ではあるが、時代に乗り遅れた会社の庶務課長のようなものです。ウツウツとするものはあったでしょう。
「おれは、格式ばかり高くて、しみったれた会社の庶務課長で終わる男なのか……」
 有職故実(朝廷のしきたり)に明るく、和歌を始め文学的才能にも恵まれていた兼好。人付き合いもいいほうで、いろいろ才能のある何でも屋でありました。
 表面的には、出家遁世するまでは機嫌よく仕事にも励んでいたでしょうね。
「え、吉田兼好(かねよし)さんが、辞めた!?」
 当時、近親の人たちからは、そう思われ、驚かれたことと思います。
「や、なんとなくね、そんな気になっちゃって。やだなあ、皆さん、そんな大騒ぎしちゃって。アハ、アハハハ」
なんて具合に煙に巻きながら、内心はドロドロであったのではないでしょうか。
――なんで、おれは、こんなに調子いいんだろう。もっとさ、正直にサ、タソガレちゃってもいいんじゃねえのか……この偽善者のヨシダカネヨシ!

 それが、ふと街中で見かけた趣味の良い、他人様の家を見ただけで、妄想が膨らんじゃったんじゃないでしょうか。

 わたし自身、ちょっといい若い人の本を読んだり。若い役者のお芝居を観たりすると、こう反応する。
「なかなかの出来やん。どんな人?」
 と、西田敏行のような気の良さで聞いてしまう。
 ただ、わたしは兼好のオッチャンほどには自己韜晦(才能などをひけらかさないで飄々としていること。しかし、わたしは、才能に乏しい、もしくは無きに等しいので、この言葉は、わたしには当たらないかも)できないので、後輩、同輩の皆さんにこう言われる。
「あんたは、顔は笑うてても、目えは笑うてへんもんなあ」

 で、小人閑居して不善を為す……の格言通りの駄文を書いております(^_^;)。

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真凡プレジデント・18《名札と座布団と下の名前と》

2021-03-11 05:55:33 | 小説3

プレジデント・18

《名札と座布団と下の名前と》 

 

 

 presidentの名札が輝かしい。

 

 福島さんが座布団を作ってきてくれて、それに触発された北白川さんが卓上の名札を作ってくれた。

 生徒会室は教室の半分の広さで、ゼミテーブルと四人掛けの応接セットがある。他にも、椅子やらロッカーがそれなりにあるんだけど、ことごとくがどこかのお下がりで統一感が無く、パッと見は物置と大差がない。

 そこに座布団と名札の統一感が際立って清々しい。

「やっぱ、英語っていいよねえ」

 なつきがしみじみと言う。

 

 president 田中真凡  vice president 福島みずき  secretary 北白川綾乃  accountant 橘なつき

 

 白地のプレートに黒字で書かれただけのシンプルなものだけど、中古のゼミテーブルでも特別に見えてくるから不思議だ。

「アハ、回転させたら日本語だ(⌒∇⌒)」

 

 会長 mahiro tanaka  副会長 mizuki fukushima  書記 ayano kitashirakawa  会計 natsuki tachibana

 

「日本語と英語が逆になっててカッコいい」

「真ん中で回転するようになってるから、英語・日本語いずれのオンリーにもなるの」

「北白川さんも福島さんも凄いね!」

 わたしは、素直に感動する。

「おザブも同じドーナツ型だ!」

 これには驚いた。尾てい骨の事は内緒にしてあるし、座布団はドーナツ型であることが分からないように普通のカバーが付けてある。

「共通理解があった方がいいと思って、二人には話しておいたの」

 ムム、なかなか鋭い北白川さんだ。

「びっくりした、てっきり真凡は痔になったのかと……はっきり聞けないしね」

「何年友だちやってんの、わたしが……になんかなるわけないじゃん!」

「あ、いや、だから北白川さんに言われて……」

「あの、苗字で呼ぶのはよさない?」

「「「え?」」」

「他人行儀だし、北白川っていうのは微妙に長いでしょ」

「あ、そうかも」

「じゃ?」

「公でないときは、下の名前……で、どうだろ」

「それいい! わたしがなつき、真凡はまひろ、福島さんはみずき、北白川さんがあやの、決定だね!」

 

「おお、きれいになったなあ!」

 

 入って来るなり感嘆の声を上げたのは藤田先生だ。

「名札と座布団を、北……綾乃とみずきが作ってくれたんです、ツボを押さえた統一感が成功していると思います」

「そうだな、目の付け所がいい。顧問としても考えなくっちゃなあ……あ、新執行部発足のささやかな差し入れだ、みんなで食べてくれ!」

 先生がドンと置いたのは六つは入っているだろうと思われるケーキの箱だ!

「すごい、銀座タチバナのショートケーキじゃないっすか!?」

 たちばなにはピンからキリまであって、ピンが銀座タチバナで、キリがお好み焼きたちばなだというのは、昔からのなつきのギャグだ。

「これは、わたしたちのこと以外でもいいことあったんですね?」

「するどいなあ、北白川は(^_^;)、実は、柳沢が無罪放免になってなあ!」

「「「「え、そうなんですか!」」」」

「鉄道のえらいさん達が、柳沢の行動が無ければ、死傷者が三桁は出る大事故になったって結論付けたんだ。選挙は残念だったが、これで学校も柳沢も名誉回復だ」

「よかったですね、先生!」

「先生も掛けてください、いま、お茶淹れますから」

 わたしが言い出す前に綾乃とみずきは動き出して、なつきが「え、え?」とオロオロ、とりあえずはチームワークのいい執行部ではあるようだ。

「お茶は要らないみたい」

 湯沸かしを下げた綾乃が帰って来た。

 

「やあ、諸君。安くてかさ高いだけの差し入れだけど、ま、乾杯しようぜ!」

 中谷先生がジュースやらお茶のペットボトルを持って現れた。 

「田中、ちょっと」

 田中先生がひそやかに廊下を指した。

「はい?」

 ソロリとドアを閉めると、こそっと紙袋を手渡し。

「辛いんだろ、これ、使ってくれ」

「なんでしょ?」

 

 紙袋を覗いてみると、テレビコマーシャルでも有名な痔の薬が入っておりました(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡    ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  田中 美樹    真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨    対立候補だった ちょっとサイコパス
  •  北白川 綾乃   モテカワ美少女の同級生 書記
  •  橘 なつき    入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 会計
  •  橘 健二      なつきの弟
  •  福島 みずき   生徒会副会長
  •  藤田先生     定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生     若い生徒会顧問

 

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