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オノマトペの増殖は表現を豊かにするのだろうか?

2013-06-12 02:12:39 | 社会評論
              
 
 6月11日午後7時半のNHKの「クローズアップ現代」は、「増殖するオノマトペの魅力に迫る」であった。オノマトペとは、「どんどん」とか「すいすい」とか「ぽっかり」とかいった擬音語、あるいは擬声語、擬態語のことである。
 番組冒頭の紹介では、いつを起点にしたのかは聞き漏らしたが、日本語でのオノマトペの使用は4倍に増えていて、それが表現を豊かにしているという趣旨だった。

 結論っぽいことを先に述べてしまうと、日本語においてのオノマトペがその表現を豊かにしていることには異論はないが、最近のその使用の増加がいっそう日本語を豊かにしているかどうかは全く別の問題で、むしろそうではないのではないかと思われる。

 オノマトペを駆使する度合いが一番多いのは幼児語においてである。成人が使うオノマトペが、どちらかというと形容詞や形容動詞的なのに対し、幼児のそれは名詞を始めあらゆる語彙に用いられる。
 犬は「ワンワン」であり、猫は「ニャンニャン」である。これらはまさに擬音語を足がかりとした言語表現への入門といえる。ようするに、語彙(ボキャブラリー)の少なさを補う言語表現といえる。

 番組の中では、オノマトペを「非常に有効に使った」人として長嶋茂雄氏が紹介されていて、彼の指導は「ダッと来たらバッとかまえてバーンと打つ」(このへんの表現は正確ではない)がわかり易かったといわれていたが、これって、まさにボキャブラリーの不足をオノマトペで補っているだけではないかと思ってしまう。好意的に解釈しても、彼特有の「動物的勘」のようなものがあって、それはオノマトペでしか表現できないということであり、言語化からの退行であることは否めないと思う。

 実は、キャスターの国谷裕子さんも、こうした現象は言語表現の退行現象ではということをチラッといっていたが、番組はそちらの方へは行かず、サラッと流された感があった。

 私は、最近のオノマトペの使用頻度の増加は、言語表現の豊かさの増進より、むしろその退行であると思う。それは、オノマトペは先に述べた幼児語にみられるように言語表現においては相対的にプリミティヴ(原始的)なものだと思うからである。いってみれば、ボキャブラリー(語彙)が少なく、リテラシー(読解力)が低下した結果ではないかと思うのだ。

 ネット上の書き込みなどではオノマトペは確かに増殖しており、2chなどでは時としてそれだけのやり取りすらある。これをもって、日本語の表現が豊かになったとはとてもいえないのである。

 言語のもっとも大きな功績は、そしてまたそれが動物相互のコミュニケーションとの違いであるのだが、「不在の現前」にあるといえる。平たくいえばそれは、今ここにないものがあたかもあるかのようにイメージさせる力である。「ライオン」という言葉は、今ここにそれがいなくとも私たちにそれを想起させる。

 オノマトペももちろんそうした力をもっているが、それはより直裁的であり、したがってそのイメージは漠然としていて細分化されていない。ようするにオノマトペは、先にみた「不在の現前」のやや手前にあるのかもしれない。
 例えば、この記載に、「ドキドキ」というコメントが付いたとする。もちろんその漠然とした意味は分からないではない。しかし、それが意味するところを表す日本語は実に多様でそれぞれの意味内容をもっている。
 それらは例えば、不安、恐怖、驚き、高揚、期待感、そして肉体上の動悸などである。これらの多岐にわたる意味内容を漠然と「ドキドキ」で表現してしまうことは、やはり、ボキャブラリー(語彙)の不足でしかないのではないだろうか。

 単に状況を伝達するのみならばいささか大雑把でも「ドキドキ」でいいのかもしれない。しかし、それがこと表現の世界で、単にある情報にとどまらない私の世界を表現しようとする時、私たちはその「ドキドキ」の内容をより適切な語彙の選択によって表さねばならない。
 オノマトペはたしかに表現の世界を豊かにするが、反面、オノマトペのみで済ます表現は漠然としていて貧しい。

 ただし、オノマトペが言語と非言語をつなぐ輪として重要な地位を占めていること、そして、新しいオノマトペが新しい言葉を生み出す可能性をもつことを否定するものではない。

NHKも番宣に必死で、この番組でも、朝ドラに頻出する東北地方(久慈市?)の方言、「じぇ、じぇ、じぇ!」をオノマトペの一例として取り上げているが、たしかにそうした一面はあるとしても、素直に捉えるなら、「エエ~ッ!」という意味内容と同じく、感嘆詞ではないかと思う。
 

コメント (6)
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