多和田葉子さん、『溶ける街 透ける路』

 『溶ける街 透ける路』、多和田葉子を読みました。

 多和田さんはベルリン在住となっていますが、私のイメージではいつも旅人です。あらゆる時間のどこを切り取っても旅の途中のようで、空を渡る鳥を見上げるのにも似た気持ちで、素敵だなぁ…と思います。

 日経新聞に連載されていたと言うことで、一つ一つのエッセイは凝縮されたように短く、街の印象やエピソードの数々が端整な文章で綴られています。そして各々の街の名がタイトルになっているのですが、その数の多いことと言ったら。聞いたことのない街の名もあります。大半の街は観光地でもなく、小さな本屋さんが始めたブックフェアに招かれたり、馴染みの書店での朗読会に参加したりしながら、幾つもの街を通り過ぎていく。 
 例えば朗読会で訪れたデュッセルドルフでは、帰る前に思わずラーメンに箸を伸ばす。そんな最後の一文に、ふわんと笑ってしまいました。

 言語へのこだわりは、やはり隅々に感じます。うわっ…と反応してしまう箇所が幾つもあったのですが、今回は付箋を付ける手間を惜しんで、するする読み進んでしまいました。後になってからもう一度その箇所に戻ろうとしても、砂浜で落し物のピアスを探すような按配ですね。いつか再読する暁に。
 (2007.7.27)

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