オルハン・パムク、『新しい人生』

 “ある日、一冊の本を読んで、ぼくの全人生が変わってしまった。”
 抗いがたい「本の力」をめぐる物語、『新しい人生』の感想を少しばかり。

 本について、本を読むことについて。それを読んだ誰かに働きかける、物語の大きな力について。そして人生や愛について。それらへの問いの答えを得んが為、精一杯伸ばした指先からこぼれ落ちるものについて。うねるような緩急で物語が意外な展開へと進むにつれ、そんな幾つかの問いかけが一つに繋がって大きな輪のように広がっていくのを、言葉もなく息を呑んでここから見ていた。
 “ある日、一冊の本を読んで、ぼくの全人生が変わってしまった。”と、こんなにも印象的な一文で物語は始まる。実はこの冒頭を読んだ時、私もとても高揚したのだった。本当はまだ何一つ見えてもいないのに、さあーっと明るく視界が晴れ渡って何処までも見晴らせそうな、そんな高揚感。語り手の若者“ぼく”の、興奮を抑えかねてやや多幸症気味に語るその一冊の本へののめり込みぶりに、引き摺り込まれていたのかも知れない。そんなに凄い本とは、いったい全体どんな本なのだろう?と思い、早くその謎を明かして欲しくてわくわくしたのでは、あった。が。
 一冊の本に導かれて“ぼく”は、美しい女子学生ジャーナンと彼女の恋人メフメットと知りあう。「あの世界はある!」と、彼らに向かって“ぼく”は言う。
 物語の世界が、本で読んだ向こう側の世界が、必ずやどこかに存在するはず…と、彼らにあれほどまでに信じ込ませることの出来た「本の力」とは、どれほどのものだったのだろうか。それまでの短い人生において、何物を持ってしても埋めることの出来なかった干乾びた心の隙間を、ぴたりと優しく覆って満たしてくれるような何かを、彼らはその本の中に見出してしまったのだろうか。人生を狂わされるほどに?

 冒頭を読んで私がふっと期待したのとは全然違う方向へと物語が転がっていってしまうことにこそ、圧倒された。甘くない、むしろとても苦い。もっと底知れない深さともっとやり切れない哀しみの中で、人生そのものが描かれていたから。運命的な恋の出会いが幸せをもたらすとは限らないこと、強い心で願えばどんな望みも必ず叶うなんて嘘だということ、“新しい人生”という言葉の苦さとそして、いつかきっと気がつく愛のこと。

 “西”から来る大きな波に呑みこまれ、めまぐるしく変わっていってしまう近代トルコの葛藤。西洋化に抵抗する秘密組織の存在が、一冊の本の力がもたらした物語に絡んでくるところも面白かった。
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9月30日(木)のつぶやき

08:41 from web
おはようございます。ホンの少しの晴れ間が見えます。風は秋色、です(ら~らら~♪)。
09:20 from 読書メーター
【新しい人生】を読んだ本に追加 http://book.akahoshitakuya.com/b/4894347490 #bookmeter
12:19 from web
大根おろしをご飯にのせて食べると美味しいの…? 今までちらとも考えたことがなかったのに、急に試してみたくなった。大根おろし、ゆるやかにはまっているかも。のどにもいいし。のど弱いんですほんと。
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