森下は昨夜帰ってきた。
深夜、舞と隼人と話しているのを夢見ごこちで聞いていた。
俺はスラム街のベッドで沈没。
ここ数日間の身体の疲れ、やるせない倦怠。
2日前、久しぶりの早い時間・・・日付が代わらない時刻に家に帰った。
家では愁嘆場。
炬燵から腰が痛くて起き上がれないれいを、奥さんが必死になだめながら布団に運ぼうとしている。
背中が痛いんだろう・・・れいが泣いている。
唐突に控え室を垣間見てしまった居心地の悪さ。
良くも悪くもこれがウチの今年の大学受験・・・。
午前5時、・・・あと4時間で試合開始。
今年はどんな詩繰が渦巻くことになるやら・・・。
午前7時40分、れいを三重大学まで送る。
土曜日ということもあり道は空いている。
午前8時前には三重大学構内へ。
塾頭と塾生・・・父親と娘・・・出てきた言葉は何の変哲もないふつうの言葉。
「頑張っておいで」
午前11時、今度はめいを三重大学まで送る。
さすがに車も多く、込み合うなかを11時半三重大学へ。
一瞬考えあぐねたが、結局は同じ・・・「頑張っておいで」
家に戻りテレビを見ると横浜国際女子駅伝。
第一区を娘たちと同じく18歳、須磨学園高校3年の小林祐梨子が疾走。
アナウンサーが絶叫している。
「小林祐梨子、高校最後の締めくくり。しかし、それは同時に世界へと続く始まりでもあります!」
午後2時に三重大学構内でれいをピックアップ。
「帰りにおばあちゃんが入院している病院に寄っもらっていいですか」
車の中で二人、こんな時にも父親に対して敬語を使うようになっちまった。
たぶん、俺が悪いんだろう。
「これで明日からは数学だけや」と、れいがつぶやく。
「なんで」
「だって後期は数学だけですよ」
「後期・・・後期はどこ受けるの」
「どこって、三重大学・・・」
「ああ、そやったん」
ずっと娘のほうを見ていなかった事実に気づかされる。
祖母を気遣い、試験が終わるとすぐに病院に駆けつける娘・・・。
ありがいたい娘だ、俺の子供というのが不思議な気がする。
病室でも違和感なくオフクロの話に合わせて話している。
時間が経つのを遅々として佇んでいる俺とは違う。
受験の神様にではなく、本家本元の神様に感謝しておこう。
中3ではついに真梨子が風邪でダウン。
「まあ、それくらいのハンディがあったほうがいいか」と俺。
「そうそう」と微笑むのはさつき。
中3は平成15年度の三重県公立入試問題。
愛(東京大学分課Ⅲ類1年)が218点だった試験。
あの時の津高合格者で218点以上叩いた生徒はかなりいるはず。
しかし津高から東京大学に合格した生徒は3人。
中学3年間の往路に対して、高校3年間という復路の重要性・・・。
ユタカ(7期生)と太郎(10期生)が姿を見せる。
今日は県文化センターで星野監督の講演会があったとか。
そういやユタカ、ブログで近々星野監督に会うって書いてたな。
「どやった、星野監督の感想?」
「怖かった・・・ごっついわ」
「時事的には中村入団について何か言ってたか」
「言うてた言うてた、ここだけの話やけど球団の上層部は何を考えてるんやってさ」
「なるほどね、・・・ところで橋本ドクターから掲示板に書き込みあるんやけどな。3000万の融資の話や。30万程度の広告代で四苦八苦している俺には世界が違う話や。あんたら銀行マンで何とかしといてや」